『どしたん?話聞こか?』ーー黒髪マッシュ勇者、世界を救って、女も泣かす。   作:すこマロ

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ナンパしてただけなんすけど?

カフェの窓際、ストローをくるくる回しながら、オレは悩んでいた。

 

「声かけるなら…今、か?」

 

日向レン、二十歳。都内の大学生。黒髪マッシュにイヤリング、アウターは流行りの白系。そこそこイケてる自覚はある。てか、モテる。ぶっちゃけ。

正面の席では、友達と来てるっぽい女子二人組。さっきから視線は感じてるし、笑い声も若干オレを意識してる感じ。ナンパのチャンスってわけ。

 

――だったのに。

 

「…あなたが、選ばれし者です」

 

スイーツを口に入れようとしたその瞬間、店内の空気がピタリと止まったように感じた。気づけば、目の前に立っていたのは…ローブ姿の女の子。いや、違う。

 

存在が違う。

 

透明感のある銀の髪。紫水晶みたいな瞳。肌は陶器みたいに白く、儚さと気高さが同居している。ローブの隙間から見える肩のラインも、胸のふくらみも、すべてが非現実的な美しさを持っていた。

 

「…うわ、めっちゃ美人やん。マジで異次元…いや、異世界か?」

 

口が勝手にニヤけてしまう。こればっかりは仕方ない。オレ、こういう清楚系に弱いんよ。

 

「あなたを、異なる世界《ソル》へ召喚いたしました。世界を救ってほしいのです」

「え、どしたん?話聞こか?」

 

脳が処理しきれていないのか、口が勝手にいつものナンパテンプレで返していた。

 

「いや、あのね? 俺、今日ナンパする予定だったんだよ。ほら、あそこのカフェの子たち、もうすぐこっち来るとこだったし…」

 

言いながら、目の前の美しすぎる女神(仮)をまじまじと見つめる。目を逸らす理由が見つからないくらい、完璧だった。顔立ち、髪の艶、白い鎖骨、ふわっと揺れる胸元の布。

少しいたずら心が沸いてしまうのも仕方ないというもの。

 

「…世界救うからさ、代わりに…分かるよね?」

 

思わせぶりな声に、片眉を上げてニヤリと笑う。軽くウインクまで添えてやった。普段ならこれで、たいがい笑ってくれる。ツッコミの一つも飛んでくる。

――けど、目の前の彼女は違った。

 

「…か、身体を…差し出せと…!?」

 

女神の顔が一瞬にして紅潮する。紫の瞳がわずかに揺れ、口元が小さく震える。その姿はまるで、心に直接火がついたようで――なんかほんとに燃えてね?あたり一面から炎が噴き出てるんですけど!?

 

いや、ちょ、ヤバいヤバい!? 

 

「や、やば…マジで勘違いされた!? オレそんな、ガチのやらしい意味で言ったわけじゃないって! いやまあちょっとくらいは下心あったけど、でも普通、冗談って分かるだろ!?」

「やはり…人間は…穢れている…ッ!」

 

うわぁ言われたぁ! 全人類まとめてディスられた気分!

 

「ちがっ、ちがうから! 今のは“ノリ”やん!? テンプレ! ネットでよくあるやつ!」

 

焦って両手を振りながら必死で弁解するけど、女神はもう聞く耳持ってなかった。目を逸らし、ローブの裾を握りしめ、わずかに震える唇で何かを呟いている。

 

「あかん…この子、ガチの清純派や…。オレ、完全にアウトなやつやん…!」

 

空気が一変する。空中に浮かぶ光の粒が一斉にざわめき始め、女神が両手を高く掲げる。まるで神聖な儀式の始まりみたいに――

 

「今すぐ、転送の儀を開始します…!」

 

「え、早くない!? 展開、急じゃない!? てか、名前とか、連絡先とか、そっちの世界のSNS的なやつとかは!? なあって!」

 

(…え、マジで何これ。俺、ただナンパしようとしてただけなんやけど?)

(めんどくさい運命、背負わされたっぽい…)

 

こうして、ナンパが趣味の黒髪マッシュ系チャラ男は、異世界の救世主として新たな人生を歩むことになった。

意識が薄れていき、眠るように倒れこむ。

 

目が覚めればどこかもわからない森?の中だった、

草木の匂いが濃い。土と草の混ざった、生っぽい匂い。

 

「…あっつ、てか湿気やば…」

 

蝉みたいな虫が鳴いてる。森の木はどれも背が高くて、太陽があんまり見えない。気温は高いし、ジメジメしてて、服が肌に貼り付く。

 

「…マジで異世界なんかなこれ。つか、スマホどこ行った?」

 

ポケットを探る。無い。手元を見る。無い。財布もスマホも全部無い。

 

「…うん、無理。これ完全に詰み」

 

あの女神、ぜんっぜん説明してくれんかったじゃん。オレがちょっと軽口叩いたからって、即召喚ぶん投げるのヤバない? 

てか、これどこなん。どっちが北なん。地図ないの?

 

「はー…まずは人探しかな…」

 

選択肢は二つ。

一、森を突っ切って人里を探す。

二、このまま何もせず餓死。

 

「うん、歩くしかないな…!」

 

チャラ男勇者・日向レン、ナンパで鍛えた行動力の見せどころである

木の根を跨ぎながら、できるだけ平坦な道を選んで進む。

 

途中、やたらでかい羽音をさせてる虫に遭遇して全力で逃げたり、キノコに触った瞬間に紫の煙吹いて慌てて水場で手洗ったりと、トラブルには事欠かない。

 

でもオレ、実はわりとタフなんよ。チャラい見た目が映えるように体はきちんと鍛えていたし。

 

「お、なんか見えてきた――」

 

木々の向こうに、ようやく開けた空間が見えた。丘の上。そこからなら遠くまで見えるかもしれない。

 

息を切らしながら登る。汗はダラダラ、靴の中は泥。髪もボサってきたけど、今はそんなこと気にしてる余裕ない。

 

丘の頂上に立った瞬間、視界がひらけた。

 

「…お、おぉ…!」

 

遠くの平原に、人の住む街らしきものが見えた。

煙突からは細い煙。畑っぽい緑のエリア。屋根が茶色い建物が密集してる。周囲には石垣らしきものも見える。街だ。文明だ。助かるかもしれない。

 

「よっしゃ…っしゃあ! サンキュー女神様!近くに町あんじゃん!

あとでお祈りでもしとくべ!」

 

叫んだ瞬間、ぐうぅぅ…と腹の音。

 

「ん…そろそろ、マジで何か食わんとまずいな」

 

水分は運良く転移前にカフェでがぶ飲みしてたから何とかなった。けど、飯がない。しかも見えてきたとはいえあの街まで徒歩でどれくらいかかるか分からん。下手したら途中で倒れるかもしれん。

 

(…てか、ああいう街って入ってすぐ歓迎されるパターンある?)

 

案外こういうの、「よそ者は信用できん!」って言われて門前払いされるんよな…。ゲームなら宿屋で自動回復するけど、現実なら不審者扱いされたら終わり。

 

「うーわ、考えると胃痛ぇ…」

 

それでも進むしかない。

チャラ男は意外としぶとい。チャラさは生存本能の裏返しってね。

 

「よし、まずは街まで無事にたどり着いて、飯にありつく。できれば可愛い子に“えっ、大丈夫ですか!?”とか言われて運命の出会い…っていう妄想を励みに頑張る!」

 

そう言って拳を握ったオレの背後で――。

 

バサリ、と木の葉が落ちた。

 

「…ッ誰?」

 

振り返ると、森の中に、誰かの視線を感じた。

 

人間じゃない。威圧感と…殺意か?

まだ分からない、いったい何が。

 

 「ギシャアアアアア!!」

 

異形の悲鳴とともに、木々の間から飛び出してきたのは――身の丈二メートルはあろうかという、刃物を握った人型の獣。

 

言ってしまえばモンスターだ。

全身にまだら模様の毛皮。顔は犬か熊を潰したような醜悪な形で、両手に持った包丁みたいな刃がギラリと光る。

 

「…いやいや、は!? なんで包丁!? どこで拾った!?」

 

背中に冷たい汗が走る。逃げようにも、森の中無暗に走れば町への目星が失われる、。詰んだ。

 

「待て待て落ち着こうや! お前もしかして猟師系? ちょっとお兄さんと話そ? 警察呼ばねえから!」

 

――次の瞬間、バッと風を裂く音。

 

鈍い痛みが、脇腹を貫いた。

 

「…いっ、が…!」

 

見れば、服が裂け、赤いものが滲んでる。刃がかすっただけ、それでもこの威力。

 

「うわ、うそやろ…こんなんで、死ぬのか…?」

 

足が震える。身体が冷える。血が流れるたび、意識が薄くなる――。

 

(…ああ、これが死か)

 

頭の中に、走馬灯が流れた。

 

高校時代――

オレは、オタクだった。

猫背で、口を開けばどもる。メガネで脂ぎってて、誰とも目を合わせられなかった。

それでも、二次元の女の子は優しく笑ってくれた。画面越しの世界だけが、オレを肯定してくれた。

 

だけど――そんな俺を、現実は笑った。

 

「気持ち悪い」「近寄んな」「オタクくん臭いんだよ」

 

暴力じゃない。言葉のナイフが、毎日オレを切り刻んだ。

 

変わりたかった。誰かに、好かれたかった。

――だから、大学入学を機に、全部捨てた。

 

毎日吐くほど筋トレした。服を変えた。髪を切って、整えて、黒髪マッシュにして目線を隠した。

大学デビューって、笑われてもよかった。「イケメンっぽい」と錯覚させる、それだけで、人生が少しマシに見えた。

その結果、ナンパも覚えた。会話術もそうだ。女の子に「優しい」と言われるたび、虚しくても、嬉しかった。

 

「…オレは、もう…“オタクくん”には、戻らん…!」

 

――気がつけば、口が勝手に動いていた。

 

「おいおい…あんまり痛くすんなよ、俺、肌弱いんだわ…♡」

 

血を流しながら、モンスターに向かって微笑んだ。

 

「てかさ、なんでそんな刃物持ってんの? 女にモテたいん? え、料理男子アピール? ダッサ♡」

「もしかしてそれ、ママにもらったん? ちゃんとお礼言っとけよ~」

「てかその顔で威嚇? カワイイとか勘違いしちゃった系? 無理あるって~」

 

刃が振るわれるたび、口が動く。

痛みを押して、チャラい言葉が止まらない。

 

「おいおい、おまえの攻撃、マジで風圧だけやん? まだピンピンしてんだけど、やる気ある?」

「なあ、これ終わったら合コンでも行く? ……って、そのツラじゃ門前払いかな~」

 

すると、モンスターの動きが――明らかに、鈍った。

 

「…え、煽りが効いてる…?」

 

《スキル発動:ノリノリ・トークブレイカー》

《効果:戦闘中に軽口・ナンパ発言・メスガキムーブを一定量行うことで、敵の戦闘能力を徐々に低下、ヘイトの集中、自身の身体能力・反応速度・を強化》

 

脳内に、文字が浮かぶ。

理解するより早く、オレの手が――勝手に、動いた。

 

「うおおおおおおおお!!!!!」

 

渾身の拳が、モンスターの顎にヒット。

鈍い音。確かな手応え。手の甲が少し裂けたけど、もうどうでもいい。

 

「これが…オレのスキル!?」

 

吐血しながら笑う。もう痛みすらノリの一部に思えてきた。

 

「てことで、勝負アリやな♡ お前、ナンパの練習台ありがとな♪」

 

――ガクリと崩れるモンスター。

 

その瞬間、オレの体からふわっと力が抜けて、その場にへたり込んだ。

 

「…いやこっわ。マジで死ぬかと思った…」

 

血まみれの服、震える手、けど胸の奥には――変な快感が残っていた。

 

(オレ、今…“戦ってた”んだな…)

(やべぇ、体力めっちゃ消耗した、早く町までいかねぇと…)

 

初めての異世界での。

その興奮で出たアドレナリンを切らさぬように町への歩みを再開した。




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趣味作品なので更新不定期ですが更新切れないようかんばります。
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