『どしたん?話聞こか?』ーー黒髪マッシュ勇者、世界を救って、女も泣かす。   作:すこマロ

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疲労…無理…しんど…

木漏れ日の差し込む狭い山道を、日向レンはゆっくりと、しかし確実に歩き続けていた。

汗で濡れた額を手で拭いながら、ぐったりした体をなんとか動かす。

 

「もう…もう少しだ。あの街まで、たどり着ければ…」

 

息は荒く、胸は激しく上下し、筋肉が悲鳴を上げているのを感じる。

けれど、弱音は吐けなかった。

異世界に放り出されてから、初めて見えた文明の灯り――あの街こそが唯一の希望だったからだ。

 

地面に落ちている石ころや木の根を避けながら、足を前に出すが、徐々に体の重さが増していく。

まるで鉛が足に巻き付いたように感じ、心臓はバクバクと鳴り響いている。

 

「てか、俺…ほんと大丈夫かこれ?」

 

自分の声に苛立ちを覚えつつも、口から出るのはしみついた変わらずの軽口だった。

「まさか異世界で、こんなにハードな登山になるとはな…はは」

 

だが、体はそれを無視した。足元がグラリと崩れ、レンはよろめいた。

「ヤバい、マジでヤバい…」

 

必死にバランスを取ろうとしたものの、もう筋力は限界に近かった。

膝がガクンと折れ、そのまま縁の上に倒れ伏す。

 

「ふぁっ…」

 

冷たい土の感触が尻を冷やし、顔は草の匂いに包まれる。

 

「くそ…なんで…」

 

うめき声を漏らしながらも、起き上がろうとしたが、手が震えて動かない。

頭の中で、体が思うように動かないもどかしさが渦巻き、焦りと恐怖が交錯した。

 

「マジで…倒れるとか最悪」

 

意識はもうろうとし、視界がかすみ、耳の奥では鈍い響きが続く。

 

「俺、ここで死ぬのか?」

 

そんな絶望的な思考がふと頭をよぎる。

いつもなら笑い飛ばせるのに、今はそれすらできなかった。

 

呼吸は乱れ、体温は徐々に奪われていく。

手足は冷たく、まるで石のように重くなっていった。

 

ふと、ふらついた目線の先に小さな光が揺れているのに気づく。

 

「…ん?」

 

声も出ないまま、体は動かず、ただその光だけを見つめていた。

そして、その光は人の声とともに近づいてきた。

 

「おい、そこの! 大丈夫か?」

 

答えようにも言葉が出ない。体が言うことをきかない。

声は少しずつ大きくなり、レンの意識もぼんやりとその方向に向かっていった。

 

「あ、あぁ…」

 

かすれた声がようやく漏れ、薄れゆく意識の中で、誰かの気配が近づいてくるのを感じた。

 

揺れる小さな光が、木の間から彼の元へ近づいてきた。誰かが懐中灯を持って歩いているらしい。声は繰り返す。

 

「大丈夫か? 返事をしろ!」

 

レンは体が思うように動かず、かすれた声を出すのがやっとだった。

 

「っ…、うぁ…」

 

声が漏れたことで、男はすぐにレンに駆け寄ってきた。

その男はたくましい体つきをしており、重装鎧に身を包み、腰には長剣を携えている。濃い日焼けと疲れの色が顔に刻まれていたが、目は鋭く優しかった。

 

「危なかったな、ここでこのまま夜になっちまったら間違いなく命はなかったぞ」

 

男はレンの肩を手に取り、彼の体を支えた。レンの体はぐったりと力が抜け、男の肩にのしかかる。

 

「お前さん、名前は?」

 

男が問いかける。

 

「レン…」

 

レンの返事はかろうじて聞き取れるほどだった。

 

「レンか…よし、すぐにここを離れよう。山は夜になると危険だ」

 

抵抗する力もなく、ただ男に抱えられるまま身を任せていた。

冷えた空気の中、男の息遣いと足音だけが響く。森のざわめきも、遠くの野生動物の鳴き声も、どこか遠くで起きている出来事のように感じられた。

 

「安心しろ。すぐ近くに町がある。そこで手当てを受けられる」

 

男はそう告げて、レンを必死に支えながら歩を進める。

レンの頭はぼんやりとしながらも、確かに町の灯りが見えてきた。細かく散らばる明かりが、まるで希望の星のように輝いている。

 

「やっと…町か」

 

町の灯りが、レンのぼんやりした意識に響く、

やがて、町の大きな門の前に辿り着いた。木造の重厚な門は夜の闇の中でも威厳を放っている。

門番の男は警戒の目を光らせながらも、すぐに門の番人に声をかけた。

 

「門を開けてくれ。怪我人を運んでいる」

 

扉を守るもう一人の門番が慌てて開錠し、中へと通してくれた。

二人の門番は迅速に連携を取りながら、レンを抱えて門をくぐった。石畳の道には街灯が灯り、静かだが確かな人の気配があった。

 

レンは微かに目を開け、ぼんやりと周囲を見回した。町の灯りは、彼の疲れきった心を少しだけ癒した。

男は町の中を早足で進み、やがて一軒の小さな診療所の前にたどり着いた。

 

「ここだ。すぐに手当てを受けさせる」

 

男は扉を叩き、声を張った。

 

「助けが必要だ! 怪我人を運んでいる!」

 

すぐに扉が開き、白衣を着た女性が顔をのぞかせた。彼女の顔には驚きと同時に、厳しい医療者の覚悟が浮かんでいる。

 

「何があったの?」

「山道で倒れていた。おそらくだが脱水症状と過労で動けない状態だ」

 

女性はすぐに診療所の中へレンを運び入れ、スタッフを呼び集めた。レンはまだ意識が薄れ、体が重く、声もほとんど出なかった。

診療台にそっと寝かされ、医療スタッフが水分補給の準備を始める。

レンはうとうとしながらも、かすかな意識で、門番の男の顔を見た。

 

「すまん…おっちゃん…あぁおっちゃんの名前って…」

 

かすれた声で礼述べようとすると、男はにっこりと笑った。

 

「今はいい。まだボロボロなんだ。ゆっくり休め」

 

レンの意識はまたゆっくりと沈んでいき、診療所の温かい明かりの中で深い眠りにつこうとするその瞬間。

診療所の扉がギギィッとゆっくり開く。

レンの朦朧とした視界に、黒髪ロングの女性がふわりと姿を現した。

 

そして彼の視線は一瞬で彼女の胸に釘付けになった!!!

 

(えっ、ええええええええっ!?!?!?で、で、で、で、でけぇぇぇぇぇぇええええ!!!!!)

 

驚きのあまり、かすれた声が裏返る。

体中に衝撃が走り、心臓がバクバク鳴り響く。

 

(マジかよ…これは…ナンパしなきゃ!!!)

頭の中でそう叫びながらも、極度の疲労で口からはかすれた呼吸だけが漏れる。

いやしかしどんな状況にあってもこんな反則級の胸を目の前にしたら、チャラ男の血が騒ぐのも当然だ。

 

(な、なんだよこれ…ズルすぎるだろ、ズル!!!)

 

思わず涙がこぼれ、唇が震える。

体はまだぼろぼろなのに、胸の前で手を合わせ、まるで

別人のようにテンションが爆上がり。

しかし意識は徐々に薄れていき、思考はふわふわと遠のいていった。

 

(…さすがに限界だな、ナンパするにしても体治さねぇと、ヤル気、元気、勇気がナンパ成功の秘訣だしな…)

 

そんなチャラさ満点の使命感だけが彼の最後の意識に残り、淡い光の中で意識は途切れた。

 

***

 

どれくらい時間が経ったのか分からない。

ふと、まぶたの裏がふわっと明るくなる。柔らかい光が、深く沈んだ意識を包み込んでいた。

 

「…目覚めましたね、レン」

 

聞き覚えのある、鈴みたいな声。目を開けると、そこには――あの時の女神がいた。

 

「…え、また夢?それとも、死後の世界?てか…今度はちゃんと説明してくれるん?」

 

そう言うと、女神は頷いた。前に見たときよりも、少しだけ表情が柔らかくなっている気がする。

 

「…先ほどは、不躾な召喚となり、申し訳ありませんでした。あなたが予想以上に“軽口の達人”だったので、脳の処理が追いつかなくて…」

「それ、ちょっと怒ってるやつやん…」

「…ですが、あなたが“言葉”で魔物を撃退したのを見て、確信しました。やはり、あなたこそがこの世界《ソル》を救う、適性を持った存在です」

「いやいやいや!俺はナンパしてただけだって!さっきの戦闘もほぼ煽ってただけだし…てか、あのスキルとかいうやつがオレの能力なん?」

 

女神は、手のひらをくるりと回し、光の粒が舞う宙に、一枚の“ステータスウィンドウ”のようなものを出現させた。そこには見覚えのある文字列が浮かんでいる。

 

---

《スキル:ノリノリ・トークブレイカー》

 

効果:戦闘中に軽口・ナンパ発言・メスガキムーブを一定量行うことで、敵の戦闘能力を徐々に低下、ヘイトの集中、自身の身体能力・反応速度・を強化

発言の内容によっては精神攻撃属性を付与。

 

---

 

「うわ!見間違いじゃなかったのかよこのスキル!戦闘中に敵を煽るとか死に急ぎすぎでしょ!」

「ご安心を。あなたの性質――つまり、その軽薄そうな見た目と挑発的で薄っぺらな口調、そして根の真面目さから来るバランス感覚――それらが、この世界での技能という形でスキルに変換されたのです」

「全然安心できん説明なんだけど!?もっとこう救世主っぽいスキルくださいよぉ!初戦は何とかなったけど素人が敵を煽りながら勝つとかしんどいって!」

 

女神は、少しだけ口元を緩めた。

 

「あなたは、“言葉”で救う力を持つ人間です。剣も魔法も不要。ただ、“あなたのノリ”が、この世界の敵意を打ち砕く鍵となるでしょう」

「…いやまぁ、カッコよく言ってくれてるけどさ? 煽り力で敵倒すとか、どう考えても異世界に向いてないでしょ、オレ」

「…いえ、あなたのような人こそ、この世界には必要なのです。“真面目な英雄”は、綻びも多いものですから…」

 

女神の瞳が、わずかに陰を帯びた。

 

「…過去にも、“選ばれし者”は召喚されました。けれど皆、力に飲まれたり、責任に潰されたり、あるいは…策略にはまり命を落としました」

 

静かに語られるその言葉には、確かな重みがあった。

 

「だから私は、あなたを選んだのです。重さに潰れず、ふざけてでも前を向ける人。誰にも染まらず、でも誰にも敵視されない、“軽やかさ”を持った、あなたのような人を私は探していた―」

「……」

 

しばらく、言葉が出なくなる。

ふざけてナンパしてただけのオレが、何の覚悟もないまま選ばれて、それで救えって言われて。

 

「…マジで俺でいいの?」

「…あなたしか、いません」

 

言い切った女神の声に、嘘はなかった。

なら――

 

「ま、しゃーなしな。どうせ帰り方も分からんし…ナンパできそうな子もいそうだし、ちょいと救世主ごっこでもしてみるか!」

 

暗くなった雰囲気を吹き飛ばすように笑って言えば、

女神様もようやく、ふっと微笑んだ。

そして、再び光に包まれる。

 

「―目覚めなさい、私の勇者。この世界の隅々に、あなたの“口撃”を響かせて」

 

眩しい光に包まれて、意識が浮かび上がる。




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