弦巻評判記 暴れん坊当主(笑)   作:初見さん

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コーヒーもいいが、お茶は落ち着く

「全く……来るなら来るって言ってくれよ、久しぶりにメッセージが来たと思ったらお茶飲むわって……それだけでだいぶ焦ったんだからな」

「すまんな、久しぶりにここの盆栽を観てみたくなって」

 

 縁側でお茶を啜りながら文句を言う有咲に平謝りする愛。久しぶりに彼はポピパの有咲と、彼女の家の盆栽を見るためにお邪魔していた。

 

「来てほしくないなら別に断っても構わなかったぞ」

「次期当主にそんな事言えるわけないだろ。それに……私もお前に会いたかったしな」

 

 照れながらそう言った有咲の言葉に笑みを返しながらお礼を言う愛。すると、少し遠くから少女の声が聞こえた。

 

「おーい、有咲……って愛さん!?」

「おう、沙綾さん昨日ぶりだな」

 

 有咲の家に来たのはPoppin'partyのドラムである山吹沙綾(やまぶきさあや)であった。彼女は愛の事情を知っている1人である。特に愛がバラしたわけではなく、ポピパリーダーの香澄と有咲が愛について会話をしていたのを偶々聞いてしまったのが、事の始まり。

 

「2人は知り合いなのか?」

「モカさんにパンをねだられる時はよく沙綾さんのお店に行ってるからな」

「昨日もありがとうね、買ってくれて」

「構わない。たまにひまりさん達にも歳上として奢ってるから」

「次期当主に奢らせるAfterglowの肝っ玉座りすぎだろ……」

 

 呆然とする有咲に対して、愛は向こうは後3人くらい正体を知らない予定だと話すと中学時代からの関係なのにバレていない事に驚いたポピパ組である。

 

「香澄からこころのお兄さんって聞いた時には驚きましたけど、優しい人で良かったです」

「だよな、金持ちってもっと我儘でプライド高いイメージしかなかった」

「俺はよくシマエナガに躾けられてな、当主という自覚は持つべきだが、驕りは捨てろとしっかり学んだ」

「というかあれ……なんで沙綾がここに?」

「ええ!? 愛さんが……弦巻さんだったんですか!?」

 

 3人で会話をしていたつもりだったが、また遠くから少女の声が増えた。見ると、黒い髪色で手元には沙綾のお店である山吹ベーカリーで買ったチョココロネを手にしている牛込(うしごめ)りみの姿があった。

 

「りみりん!? いや、えっと……これは……」

「す、すまん愛! 今日ポピパの練習あったの忘れてた!!」

「ハハッ、バレてしまっては仕方ないな」

 

 どうして今沙綾がここにいたのか全てを思い出して理解した彼女。青ざめた顔をして本気で申し訳なさそうに謝る有咲対して笑ってそういうと、愛は流れるように自分の学生証を見せて、りみに自己紹介をする。彼女はかなり驚きながら、自分の買ったチョココロネを慌てて差し出した。

 

「こ、これ! つまらない物ですが!!」

「いや、お前さんが食べたくて買ったんだろ? 自分で食べたら良いよ」

「う、うう……まさか弦巻家の人間が有咲ちゃんの家どころかたまに私達のお話に付き合ってくれるなんて……ほんまに堪忍や」

「気にする必要はないだろ、そもそもみんなが話しているのは鶴田愛だ、弦巻愛は今頃家の中で専属のSPに怒られているだろうさ」

 

 そんな冗談を返しながら、有咲に対して今日が練習なら自分は帰った方がいいかと聞いたが、彼女は全力で首を振った。全くもって騙すつもりはなかったが、ここに呼んでしまったのも事実なので、せっかくだから蔵での練習を見て欲しいとお願いした。

 

「お前がよければだけど……」

「寧ろポピパの演奏は聞いた事があまりないからな。喜んで聞かせてくれないか?」

「それじゃあ、演奏しようか。ね、香澄」

「うん! 愛先輩! 私達のキラキラドキドキ、感じて下さい!」

「ちょっと待て……お前らいつからいた?」

「愛さんが有咲と盆栽を眺めてお茶を飲んでた時からかな。っていうか本名は弦巻さんなんだ」

「私は今来たよ!」

「香澄はともかくおたえは最初じゃねぇか!?」

「アハハッ! これは俺達の不覚だったな有咲さん。花園(はなぞの)たえさんだっけか? この事は内密にしてくれないか?」

「別にいいですよ、私うさぎの方が好きなので」

 

 うさぎは関係ないだろとツッコミを入れた有咲に対して笑いながらそれくらいの態度でいてくれた方がありがたいと言う愛。結局、弦巻愛というのが鶴田愛である事をポピパの全員に知られてしまった愛であった。

 

 ☆

 

「愛さん、私が今何を言いたいかお分かりですか?」

「何でそんなに怒ってるんだ、つぐみさん」

 

 つぐみは愛の言葉を聞くとそこそこの声量で叫んだ。お前が馬鹿みたいに外に出歩くから正体がバレるんだぞと。そこまで酷い言葉ではないが、丁寧さを抜くとそんな意味である。因みにそれを聞いていた隣の席の蘭は愛と同じコーヒーを飲みながら頭を抱えて呆れていた。

 

「い、いやぁ、まさかこうも簡単にバレるといっそ気持ちが良くてな」

「マゾヒストですか貴方は!! だったらもう演説でもやって自らのお名前を知らしめればいいじゃないですか!」

 

 つぐみの言葉に、それは困ると焦った愛。ただでさえお忍び(笑)で正体を隠しながら外に出ているのに、バレてしまってはみんなから避けられたり、変な目で見られて落ち着いて散歩する事が出来なくなるのだ。

 

「もう! 愛さんの馬鹿! 私がどれだけ……」

「ど、どうしたんだつぐみさん……なぁ、蘭さんこれはいったい……」

「あんたが悪いね。つぐみは愛さんのために必死で正体隠してるのに簡単にバラすような真似したらそりゃ怒るでしょ。まぁ、あたしも少しイラついてるのは事実だけど」

 

 蘭の言葉に対して返す言葉は無かった。確かに自分から正体を隠すと言っておいて隠す気がなければ協力してくれてる彼女達に申し訳ない。愛は自分の行動を反省しながら、つぐみと蘭に言った。

 

 ──これからは羽沢珈琲店に永久就職するからそれ以外基本外にはしばらく出ない事にする。

 

 この愛の言葉のせいで、結局つぐみが顔を真っ赤にしながら愛をボッコボコという音を立てて背中を叩き込んだのは言うまでもない。蘭も顔を真っ赤にしながら、つぐみを泣かせたら殺す、いや、やっぱり今泣かせてるから殺すと次期当主に対して殺人宣言したのは愛も正直困った。

 背中の痛みと蘭の殺意(仮)に耐えながら、自分の正体に対して今後は改めて気をつけようと決意する愛なのだった。

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