この前のつぐみや蘭が怒った事に申し訳ない気持ちでいっぱいになった愛は、今度こそ自分の事について彼女達と真剣に話し合ってヘマはしない事を約束した。
ここまで自分の事を考えてくれた2人に感謝をしながら、今日もお忍び散歩を真剣に行っていた。
「や……やめて下さい」
「いいじゃん、君可愛いからさ。俺達と遊ぼうぜ!」
爆速でお忍び散歩をやめた愛はすぐに少女の元に向かった。愛は妹のこころに似て運動神経は良い側の人間である。流石にこころの様にバク宙したり美咲の様に空を飛ぶ事は出来ないが、100メートルを平均より上のスピードで走るくらいは可能である。
「おい、何やってるんだ! やめてやれ!」
「何だお前は? 邪魔するなら痛めつけてやる!」
「何度もアニメとかで見た気がする悪い奴等め、相手くらいにはなるぞ」
そう言って、愛はしつこく少女に絡んでいた男3人に挑んだ。1人目の拳を掴みながら顎を殴り飛ばし、突っ込んできた2人目を回し蹴りを顔面に当てて沈める。
仲間をやられた最後の1人は怒り狂って愛に掴みかかろうとするが、その腕を両手で掴み取り重心移動でそのまま背負い投げをした。
せめてもの怒りを含めて投げの瞬間手を離して、背負い投げというよりは投げ飛ばしてやった事は愛と、投げられた相手しか知らなかった。
☆
「ありがとうございました!」
「怪我がなければいい。それよりもどこかに向かう途中なら送ってやるがどうする?」
もはや恒例となってしまった少女達との邂逅に対して、特に何にも思わずいつも通りの男前をかましている愛。ピンク色の髪を振り回してお願いしますと頷く少女を見ながら微笑んで送る事にした。
「今度、お礼をしたいので、お名前って聞いても良いですか?」
「断る」
「ええ!?」
「別にお礼目当てで助けたわけじゃないし、そんな事で名乗る汚い名前など無い」
愛の言葉に対して、驚く少女。愛も愛で意地悪をした訳ではなく単純な本心であった。だからこそ少女は自らを
もっと言うと、アイドルであり千聖と一緒のPastel*palletでボーカルをしているとも隠さず言った。それに対して流石に自分だけ名乗らないのは無いと考えた愛も、自己紹介をする事にした。
「鶴田愛だ……悪かったな。お前さんの好意を無碍にしたつもりは無かったが、そんな目的で近づいた訳でも無いから……その……」
「いえ、私も何も考えずにすみませんでした……そうですよね、男の人に会う時は気をつけろって千聖ちゃんによく言われてるのに……反省します」
「千聖さんの事は知っている、同じ高校だし、花音さん経由でな」
「花音ちゃんを知ってるんですか?」
「まぁ、多少はな」
お互いに謝るつもりが共通の知り合い話に花が咲いてしまった2人。結局どこかでゆっくり話すかと言った愛のせいもあり、2人でカフェに向かって話をする事になった。
そうして2人が向かった先はファストフード店である。カフェはどこに行ったのかというと……まぁ、満席だったとしておこう。と言うのも、流石に先日の件もあり、アイドルと言えども正体を隠した弦巻愛が羽沢珈琲店に連れて行ってしまったら本当につぐみに嫌われてしまうので却下。
かと言って、他の喫茶店に行こうにも愛は良いが、問題は丸山彩である。一度は活動休止まで追い込まれたバンドではあるが、軌道に乗って最近では彩のファンが多少なりとも出来ているので大っぴらに歩く事も少し危なかった。
よって、彩がバイトをしているファストフード店で少しばかりお茶を飲む事にしたのだ。彩と愛は同じ学校で年も同じであったのもあり、お互いタメ口で話していた。
「ハンバーガー美味いな」
「愛君はよく食べるの?」
「つぐみさん達と一緒にな」
「つぐみちゃん達と? どういう関係なの?」
「幼馴染みたいな感じだな、出会いはAfterglowのみんなより前だが中学時代に会った」
「へぇ、そういえば愛君は兄弟とかいるの?」
「妹が1人いる」
「どこ住み?」
「なんかチャラっぽいな、彩さんってそんなキャラなのか?」
「女子高生だからと言ってみんながみんな可愛いとかお淑やかって訳じゃないよ」
遠い目をしながら答える彩に対して女子高生は大変なんだなと答える愛。ついでだから自分の住処について軽く話す。
「俺は閑静な住宅街に住む4人家族の長男だ。父さんと母さん、俺と妹でな」
「奇遇だね、私も妹がいるんだ」
「へぇ、お前さんに似て可愛いんだろうな」
「愛君ってタラシ?」
愛の発言に顔を赤くしながら照れる彩。妹について愛に聞いてみると、女性版暴れん坊将軍だと答えた事は謎であった。
「それにしても愛君って強いんだね、男の人3人を軽く倒してたから」
「武術とかは家の都合で習っただけだ」
なんやかんやで女性であっても専属SPの嶋長エナや5人くらいの黒服(父親含めて)と格闘して武術的な能力を鍛えた愛ではあるので、1人で歩いても男10人くらいなら軽くいなせるとは口が裂けても言えなかった。
途中、いざこざはあったが、結局2人で学校やら彩のバンド話などしながら、ゆっくりと1日を過ごした愛である。
☆
「それでね、その男の子がとってもカッコよかったんだよ!」
「彩ちゃん、前から言ったわよね? 男の人には気をつけなさいって」
「とてもカッコいいサムライの人だったんですね!」
その翌日、Pastel*palletの練習後に彩はメンバーの千聖と会話していると普通に怒られた。その中にはつぐみの店でアルバイトをしている若宮イヴもいた。
「また会いたいなぁ、愛君……」
「え?」
彩の言葉から出てきた名前に千聖は聞き返した。愛と聞いた千聖は気のせいだと思いながら、念の為本名を聞いてみた。
「鶴田愛君って人だよ! 閑静な住宅街に住んでる4人家族の長男なんだって!」
「愛さんなら私もお会いしましたよ! 確かつぐみさんの恋人ですよね!」
「え!? そうなの!?」
「イヴちゃん、あの2人はまだ付き合って無いわよ……と言うかあの馬鹿当主は本当に……」
彩とイヴが愛の話をしている間に、頭を抱えながら嘆く千聖。そして、残りのパスパレメンバーであるドラム担当とギター担当2人が3人の会話に混ざって来るのは愛は100%知った事では無かった。