弦巻評判記 暴れん坊当主(笑)   作:初見さん

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次期当主を知っている乙女たちの会話

「それで愛さんは毎日私の家でコーヒーを飲んで行くんです。しかも毎日」

「それは大変ね。この前もうちの彩ちゃんを誑かした挙句、偽名を使ってナンパしたそうよ」

「ふえぇ……愛君、ダメだよ。つぐみちゃんがいるのに……」

「ちょっと待ってくれ、お前さん達。当事者の前で会話をするんじゃない」

「じゃあ一般人のフリして私の家でお茶を啜るのやめろよ。後、そのパンケーキからいい加減手を離せ。何個目だ」

「3個目」

 

 休日に、久しぶりだが贅沢をしようと、つぐみの店でコーヒーとパンケーキを大量に食べようと思ったチートデイを満喫する予定の愛を待ち受けていたのは、正体バレをしている友人と幼馴染だった。

 羽沢つぐみ、白鷺千聖、松原花音、市ヶ谷有咲の4人は、偶々羽沢珈琲店に寄ってくれたお客様(1名非番の看板娘)であったが、せっかく珍しく集まったので女子会という名目で始まったのが弦巻愛一般人撲滅計画(仮)だった。

 別に、本当に撲滅する気は無いが、そろそろ次期弦巻当主である彼には一般人のフリをして街中を歩き回る回数を減らして貰いたい。

 その話をしようとしたらその元凶がお金(羽沢珈琲店の売り上げ金)を背負ってやってきたのでもういっその事本人の前で嫌味たらしく会話してやろうと考えたのは黒鷺千聖(悪意の塊)である。

 

「俺に街を歩くなと言うのなら無駄だぞ」

「歩くなとは言わないけど限度があるじゃない。こころちゃんでさえ毎日歩いている訳では……」

「こころちゃんは美咲ちゃんとよくデートしてるよ」

「本当にどうなってんだ弦巻家は……」

 

 そういえば妹の弦巻こころでさえバンドメンバーや黒服の人達と歩き回っていることを伝える花音に頭を悩ませた千聖と有咲。それでもと、つぐみは愛しか知らない秘密を暴露する。

 

 ──愛さんはSPの人付けないじゃないですか! 

 

「え? 馬鹿なのか?」

「有咲さん、そんな目で俺を見るな」

 

 そう、何を隠そうこの弦巻愛という人間はこころと違ってSPこと黒服の人をつけない。たまに専属の嶋長エナと一緒にいる事はあるが、専属といえども愛ではなくこころについてることが圧倒的に多いのだ。

 

「こころは女の子だからな、シマエナガ達に任せている事が多い」

「いや、向こうは数百は黒服の人達いますよね? 愛さん1人とか意味が分からないんですけど……」

「別にいいだろ、この世の中そんな物騒じゃないし」

「貴方この前彩ちゃんに近づいたナンパ男を潰したって聞いたけど」

「女の子だから助けようとしたら襲われただけだ。追い払ったからいいだろ」

「結局襲われてるじゃない」

 

 千聖のツッコミに花音も心配しながらも自分を大事にしろと伝えた。その言葉を聞いた愛もたまにはシマエナガと歩くかなんて言いながら3杯目のコーヒーをつぐみの父親に注文した。

 

「って言うかパンケーキとコーヒー頼みすぎじゃねぇか?」

「今日はチートデイだ。昨日シマエナガ達と武術訓練したから疲れた」

「そういえば愛君って割となんでもできるよね」

「次期当主だから無理矢理習い事させられてるって言ってましたよね」

「昔はそうだったが、最近はシマエナガに勝ったら外に出ていい許可取ってるから楽しくやってるぞ」

 

 愛の発言に対して、有咲は思った。こいつ毎日つぐみの家に来ているって事は……と。もっと言うと愛はこころみたいに身体能力が高い訳ではないが、武術関係に関しては父親含めて洗練されたSP達を倒せるくらい強いと言う事になる。専属のエナですらも倒せるなら、彼の戦闘力は心配無いのではなんて少し恐怖した有咲である。

 

「話は変わるけど、お金持ちのエピソードとか無いのかしら?」

「というと?」

「次期当主が贅沢をしない訳ないでしょう? 私達庶民には理解出来ない買い物とかしたのかしら?」

 

 千聖の言葉に興味を持った愛以外の3人、確かに彼女の言う通りお金持ちの生活は気になるところである。愛は少し考えて、1番高い買い物の品を答えた。

 

 ──10万近くのテディベアだな。

 

「意外だね……いや、確かに10万円は私達にとって大きいけど……」

「数百万とかじゃないのね」

「買えるかそんなもん……まぁ、俺が買ったわけじゃないがこころに誕生日プレゼントで父親に買ってもらって俺からあげたものだ。まぁ、ボロボロになってると思うからゴミに捨てられたか、今もあるかどうかは分からんけどな」

 

 こころが昔寂しがりだったのもあって、誕生日に父親に頼んで買ったらしい。愛としてはその当時、こころが可愛すぎたのもあって単純にシスコンムーブをかましただけだと言ったが、みんなにとっては優しい兄でしかなかった。

 

「今度、またぬいぐるみでも買ってあげようかな」

「そういえばお金ってやっぱ親から貰ってんのか?」

「こころは知らないけど、俺はバイトしてるしな」

「え?」

 

 愛のバイト発言に対して訳がわからないと声を上げる3人と気まずそうな顔をし、苦笑いしながら頬を掻いているつぐみがいた。

 

「偶に1日バイトをしてくれているんです。繁忙期だけですけどね」

「次期当主に働かせるつぐみちゃんって何者なの?」

「私が働かせている訳じゃありませんよ!?」

「俺がつぐみさんの父親に頼んだんだ。礼儀はある方だからつぐみさんの手伝いをさせてくれと頭下げた」

「そのせいでお父さんが罪悪感と黒服さん達から恨まれる可能性があるって怖がってたのであまり来ないで欲しいです」

 

 つぐみの父親がそんな心境だったとはつゆ知らず、愛は少しばかり申し訳なく思った。結局1日バイトをし続けた愛は、羽沢珈琲店の無料券だけではなく、現金でも給料を貰っていたらしい。そのお金で、筆記用具とかを買っているそうだ。なんやかんやでつぐみの父親にも正体はバレているが。

 

「まぁ、大半はここのコーヒーとパンケーキで消えるが」

「もっと使い道ないんですか!?」

「もうなんなんだこの兄妹……」

 

 破天荒な妹と暴れん坊な兄の行動を考えながら、弦巻家の意味不明さを改めて理解したのは有咲だけではなくここにいる愛以外の全員である。

 

 ☆

 

「美咲! これ見せてあげるわ!」

「ぬいぐるみ……ってすごいボロボロだけど……熊だよね?」

「ええ! 愛が昔誕生日にくれたの! ずっと大事にしてるのよ!」

「へぇ……愛さん優しいんだね」

「たとえ首だけになっても大切にするわ!」

「それはちょっと怖いかなぁ」

 

 愛がいない間、こころの家に遊びに来てぬいぐるみを見た美咲が、このテディベアが後のミッシェル案になった事を知るのは少し後の話である。

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