Afterglowの全員に正体をバラしてからはぶっちゃけ遠慮は全く無い。今日も今日とて自分の大好きな幼馴染の珈琲店によって、コーヒーとパンケーキを楽しみたい。そんな愛はいつもの様に羽沢珈琲店のドアを開けて中に入る事にしたのだが……
「あ! つぐちゃんのSPの人だ!」
「日菜先輩!? SPじゃなくて……」
「じゃあ彼氏?」
「まだ違います!!」
「まだなんだね!」
「えっと……どちら様?」
なんか見た事ある様な髪の色をした少女が、看板娘に絡んでいた。
☆
「そうか、お前さんは紗夜さんの妹だったのか」
愛の言葉に明るく頷いたのはPastel*palletのギターであり、Roselia所属氷川紗夜の妹。
そんな時に、Afterglow達の会話で毎回出てくるのは愛の話であったため、どんな人か見に来たそうだ。
「うん、そうだよ。おねえちゃんとはどうやって知り合ったの?」
「学校が一緒でな。手荷物検査の時に知り合ったんだ」
「どんなタイミングで知り合ってるんですか……」
つぐみの言葉に対して日菜は笑う。愛はそのタイミングで会ったのだから仕方ないだろと落ち着いて話す。
「ねぇ! 君名前なんて言うの?」
「愛だ、鶴田愛」
「そうじゃなくて、君の本名だよ」
偽名を答えた愛に向かってまるでそんな冗談は良いからと言わんばかりに真剣な日菜の言葉に対して驚くしかない愛。少しばかり近くにいたつぐみを目で見るが、つぐみは全力で首を振った。
そんな事を知る由もない日菜は少し駄々をこねながら本名を教えてくれとお願いする。
「ひ、日菜さん」
「何?」
「ここでは鶴田愛って事にしてくれないか?」
「え? なんで?」
「そ、それはだな……」
「あ、愛さん、少しいいですか?」
困った愛に対して助け舟を出そうと、つぐみは愛の手を引いて厨房に連れて行った。どういうことかと愛が尋ねる前に、日菜は天才なんだとつぐみ言った。
本人曰く、セリフや楽譜も一回で覚えるし、学校のテストも勉強しないで高得点。姉である紗夜も羨ましく感じるほど天才肌だと言う。
「つまり、俺が偽名を使っているって話をしたのは誰かから聞いたのではなく……」
「日菜先輩の勘ですね恐らく……どうしますか? 仮にバラしたとしても、その、日菜先輩口軽いから……」
「詰んだなこれ」
いくら弦巻の人間でも愛は平均より上の学力と運動力を持っているだけで、頂点では無い。流石にお手上げであった。
なんの話をしているのかと日菜が顔を出してつぐみと愛を見ると、つぐみと愛は日菜に驚いて身体を抱きしめ合う。その光景を見た日菜は少しだけ申し訳無さそうに、お邪魔だったかと聞いた。
その言葉に少し違和感を感じた愛は、つぐみから離れて日菜に1つ聞いてみる事にした。
「日菜さん、つぐみさんから聞いたが、お前さんは天才らしいな」
「そうみたいだね」
「みたい? どういう事だ?」
「あたしは気にしてないから」
少し寂しそうに答えた日菜に対して、自分に境遇が似ていると思って愛。日菜の話を聞くと、自分は普通の事をしているだけなのに、勝手にみんなから異端を見る目で見られた挙句、姉からも嫌われていたとの事だった。それが本当に嫌だとも少し話す。そんな彼女に対して愛はそうかと言って、言葉を続ける。
「日菜さん。お前さんは口が硬いか?」
「結構軽いよ? それがどうしたの?」
「俺の名前は弦巻愛って言うんだ」
「え? こころちゃんの?」
「ああ、俺は兄だ」
「ちょっと……」
一瞬愛を嗜めようとしたつぐみだが、愛がかなり真剣な顔をしていたので言葉を止めた。こんなに真剣な彼の表情は久しぶりに見る。いや、別にいつもおちゃらけてるわけでは無いが、いつも微笑ましく見ている目や表情では無かったのだ。
「お前さんが天才だからとみんなに恐れられる様に、俺も弦巻家として恐れられた。友達なんてAfterglow達と会うまではいなかったし、こころとしか遊べてなかった」
「だから、隠してたの?」
「まぁな、だけど俺が会ったやつはいい奴ばかりだったよ。それは運が良かっただけかもしれないし、これから先弦巻を名乗ると色眼鏡で見る奴もいるだろう」
「ただ、お前さんにも氷川日菜として見てくれる奴がいる。俺を鶴田愛としても、弦巻愛としても見てくれるつぐみさん達の様にな。それが1人でもいればいいんじゃないか?」
愛の言葉に少しだけ悩む日菜。そして一言、
──おねえちゃんがあたしを見てくれればそれでいいんだけど。
「じゃあ、俺も紗夜さんに伝えよう」
「え?」
「紗夜さんに日菜さんが寂しがってたと伝えておく。そのかわり、日菜さんは俺の本名を黙っててくれ」
「いつか俺が本当の名前を公の場で言えた時、紗夜さんも日菜さんも俺の家に呼んでこころ達とパーティをしたい」
「全然意味わかんないよ……あたしと愛君が色んな人から変な目で見られてるのは分かるけど、どうしてこころちゃん達とパーティの話になるのさ?」
「天才だろうが名家の生まれだろうが、一人ぼっちは寂しいからな」
ぶっちゃけ台無しにはなるが、愛の目的は日菜に自分の正体をバラしてほしく無いので話をしただけにすぎないが、そんなことはすでに考えてなかった。
勝手に日菜に同情して、勝手に同じだと決めつけて、だから仲良くなろうなんて、側から聞いたら意味も分からなければただの愛の自分勝手である。
それでも、どうしてか、日菜には響いたのだ。彼女は愛の言葉に対して、少し笑みを返して楽しみにしてると言った。
「なんだか君変わってるね」
「こころが異次元だからな。その兄も変わりもんさ」
「ねぇ、愛君。君はさ、もしもあたしとおねえちゃんが喧嘩して仲直りしたいって頼んだら協力してくれる?」
「いいぞ」
「今日会ったばっかりなのに?」
「日数なんて関係ない。こうして長話すれば、みんな仲間だ。日菜さんは俺に対して別に何も思ってないしな」
正直自分の事を色眼鏡で見ない人なら誰でも相談大歓迎という愛に対してつぐみは呆れながら、日菜は目を点にしてから笑ってくれたのだった。
☆
「おはようございます、愛さん」
「おはよう紗夜さん……日菜さんから聞いたか?」
「何の事ですか?」
翌日花咲川で紗夜と会った愛は日菜が姉くらいにはバラしてるだろうなと考えて聞いてみた。しかし紗夜は何も知らなさそうである。
「いや、昨日日菜さんに会ったからさ」
「あぁ……日菜からは愛さんと羽沢さんのお店でコーヒーとパンケーキをご馳走になったと言ってましたよ。姉としてお礼を言わせて下さい」
そう言った紗夜に対して愛は笑って返した。それと同時に、日菜は別に変わり者ではないのだと改めて理解した。
「なぁ、紗夜さん」
「何ですか?」
「日菜さんってさ、頭が良くて器用なだけで、結局ただの可愛い女の子だよな」
「はい?」
「大事にしろよ、可愛い妹なんだから」
そう言って去って行った愛を見ながら、彼の言葉に流石の努力の天才である紗夜ですら疑問と戸惑いを隠せなかったらしい。
後日、どこから伝わったのか愛が日菜に可愛いと告白したなんて湾曲してつぐみに届いたせいで、彼視点からではあるが何故か怒られる羽目になったのは割と近くの話であった。