愛は久しぶりに外で散歩していた。久しぶりと言ったら少し語弊はある。ここ最近毎日の様につぐみの店に行きすぎたので、外の世界へ飛び出したことはあまり無かったのだ。
つぐみ曰く、たまには外に出てみたらどうかと、まるで家の中にいる妻や母親の様な言葉を投げられた愛は、それもそうだなと可愛いつぐみの言う通りにしたのだった。
「公園か、昔こころと遊んだな」
ふと見つけた公園に入ると、ベンチに腰をかけた。妹だけでなく幼馴染達と遊んだ記憶を蘇らせていると、1匹野良猫が愛の近くで歩き回っていた。
「よう、公園に猫って珍しいな。どこからきたんだお前は?」
「ええ、そうね。可愛いにゃんちゃんよね」
おかしい、猫に声をかけたつもりなんだが自分の隣から少女の声が聞こえている。ふと、声のする場所を見ると、銀色の長髪を手で少し掻き分けながら、だらしない笑顔で涎を垂らしながら猫を見ている女の子がいた。
「待ちなさい、貴方その携帯を持って何するつもり?」
「何って……通報だが?」
「どうして? 私はただにゃ……猫を見ているだけよ?」
「涎垂らしてか?」
「興奮してるだけよ」
彼女の言葉に無言で携帯を耳につける愛。結果、彼女に泣き喚かれながら両肩を掴まれて全力で謝られた。
☆
「私は友希那……湊友希那よ」
「俺は世界の風来坊、鶴田愛だ」
「世界の風来……って何かしら?」
「閑静な住宅街に4人家族で住む長男だ」
「つまり一般人ね」
まぁ、多少はと誤魔化した。猫に対しての会話を愛は試しに投げてみたが、友希那という少女は舌が滑る様にペラペラと語り出した。この猫の種類や特徴……と言っても黒猫ではあるが、語り出したら止まらなかった。
「だから猫は最高なのよ」
「なるほどな、かなり詳しいと見た」
「貴方も猫が好きなの? 好きって言いなさい。好きよね?」
「怖いわ。まぁ、妹が犬だからな……たまには猫も……」
「貴方……妹にどんなプレイを申し込んでるの?」
「プレイじゃない!!」
あくまで性格だと愛は少し声を張った。妹の名前は出さなかったが、性格は破天荒で犬みたいに突っ込んできて色んな人を明るくさせる自慢の妹だとハッキリ伝えた。
「シスコンね」
「いいだろ別に」
「まぁ、悪い事ではないわ。でも、線引きはしなさいよ」
「俺には妹とは別に好きな人がいるから大丈夫だ」
「羽沢つぐみさんの事かしら?」
どうしてそれをと、友希那の言葉に驚いて返した愛。対して冷静に愛の携帯から待ち受けが見えたと伝えた友希那である。こっそり設定しているつもりだが、実は友希那以外にもAfterglow全員にバレバレである。何ならこころや美咲のハロハピ全員も分かっている事だったのは愛が知る由もない。
「へぇ、貴方羽沢さんが好きなのね」
「ま、まぁ、幼馴染だしな……だが、ちょっと事情があってまだ伝えてない」
「事情ね……まぁ私には全く関係のない事だからどうでも良いわね」
「はっきりと言ってくれて助かる。見ず知らずの不審者に恋路など語りたくもないからな」
「失礼ね」
そんな事を言う友希那に対して、何か1つイタズラを仕掛けたかった愛は、ふと、彼女に対して話を振った。
「そういえば次回のRoseliaのライブはいつだ? 決まったらチケット買うから教えてくれ」
「え……あ、貴方どうして……」
「Afterglowとつぐみさんの名前を聞けば分かる事だろう」
「な、なるほどね……1本取られたわ」
愛がした話は、Roseliaのライブ話である。彼は最初に名前を聞いた時からRoseliaの湊友希那だと知っていた。Afterglowから話も聞いてたし、あこや紗夜の事もあり少しばかりの予想ではあるが、確信はしていた。
「まぁ、ライブの話は答えたくないならいいけど、俺は聞きたいな。紗夜さんにも挨拶がてら」
「紗夜と知り合い……ああ、そういえば鶴田愛って確かあこと紗夜には会ったことあるのよね……」
「まぁな」
愛の言葉に対して、少し携帯を弄りながら、ライブの予定表を見せる友希那。対して愛も、Afterglowのライブ予定表を見せて、少しばかり話をした。
「Afterglowのマネージャーさんなの?」
「んなわけ。Afterglowとハロハピとポピパの練習を見させてもらってるだけだ」
「それだけ聞けば充分ね。それじゃあ、私はそろそろ帰るわ。にゃんちゃんもいなくなった事だし」
ふと気がつくと、先ほどまでいた猫は消えていた。代わりに自分と友希那の2人だけが公園のベンチで座っていた。それを改めて理解した愛は、自分も帰ることを告げて別れの挨拶をする。
「それじゃあ、また会いましょう鶴田さん」
「愛でいい、上の名前はあまり呼ばれるのは慣れていないからな」
「そう、それじゃあまた会いましょう……弦巻愛さん」
全く同じ言葉を言った友希那に対して一瞬気にしなかったが、すぐに沈黙が訪れた……なんで、どうしてと頭の中で考える愛だが表情に出なかったのは唯一の救いだろう。しかし、友希那は少し笑みを浮かべながら伝えた。
──弦巻さんと公園に来るなんてなかなか出来ないでしょう?
「お、お前さん……いつから……」
「私は猫を見るためなら、朝から晩まで見つめるのよ。たまたま貴方が公園に来て、弦巻こころさんと公園に行った。そんな独り言を言っただけ」
「この際俺の正体はともかくお前さんは本気で警察に連れて行った方が良さそうだな」
「出来るものならしてみなさい。私には貴方の弱みがあるのよ」
「まぁ、さいあバラしてもいいから通報するわ」
「ちょっと待ちなさい!?」
そう言って愛は自分の携帯を耳につける。片側の耳から、正体バラすぞとか、人の心は無いのかとか、つーるーまーきーさーん!! などと声を張って愛の身体を掴んで揺らす。彼は気にせず電話をするフリをしながら暫くそのまま歌姫を放置したのだった。
「わたしが……悪かったからぁ……ひどいこと……しないで頂戴……いえ、ください……」
「Roseliaの歌姫がこんなにガチ泣きしてるの初めてみた」
その後日、友希那の口から正体は明かされなかったが、愛から受けた事実無根の性的な報告を受けた紗夜とあこ、そして燐子が鬼の形相をしているリサに愛を放り込んでやろうと誤解しながら行動に移されたのは、また別の意味でやばかったらしい。
今更ですが、お気に入りと評価ありがとうございます。