弦巻評判記 暴れん坊当主(笑)   作:初見さん

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Afterglowと鶴田愛

 今日は愛の待ちに待った会談である。会談とは人同士の話し合いにして意見交換の場。今日も今日とて、いつもの会談に参加する弦巻財閥次期当主の弦巻愛。そしてすぐに会談が始まった。

 

「やっぱりここでクラッカーとか欲しいよね」

「ゴミ拾うの大変だから火事にならない程度で炎上げた方がいいのでは?」

「あ……確かに愛の言う通りかも」

「ねぇ鶴田さん〜」

「どうしたモカさん?」

「モカちゃんは〜パンを客席に投げたいんですよ〜」

「ファンサで最後に配布しろよ、投げる必要無いだろ」

 

 会談ならぬただのバンド演出決めである。現在弦巻愛はAfterglow(アフターグロウ)というバンドメンバーの少女達と次回のバンド演出を決めていた。何故部外者の愛が話をしているか、それはAfterglow結成して少し前まで遡る。

 簡潔にいうと、愛が通っている羽沢珈琲店の娘である羽沢つぐみには幼馴染が4人いて、そのメンバーでバンドをしているのだ。そこでたまたまお客様として来ていた愛に案を求めると真っ当な回答が返って来た。試しに彼の意見を取り入れるとライブが成功したのもあったので彼もたまに徴収して貰って意見交換をする。

 年は愛の方が一つ上だが、元々中学時代からキーボード担当のつぐみと交流もあり、Afterglowのメンバー全員が彼の存在を知っていたので、幼馴染の1人としてカウントされている。

 因みにギター担当の白っぽい髪色の短髪ダウナー少女、青葉(あおば)モカはのんびりとした口調で愛の事を鶴田さんと呼ぶが、これは愛が名乗った偽名である。

 こんな所に弦巻財閥がいられては気まずいだろうと考えた愛はつぐみと口実を合わせて、残りの4人には鶴田愛として(もっと良い苗字にしたかったが、愛が名乗るまえにつぐみが咄嗟につる……と言ってしまったのでカットインを入れて誤魔化し、鶴田にした)認識して貰っている。

 

「そういえば愛さんっていつもどこでアタシ達の演奏聞いてくれているんですか?」

「席の端っこ」

「端っこ!?」

 

 メンバーの1人である宇田川巴(うだがわともえ)は長い赤髪を少し手で払いながら愛に聞くと、質問に答えた愛に対してツッコミを入れたのは大いなる普通さんこと羽沢つぐみである。愛が弦巻家の人間である事を知っているのはこの中ではつぐみだけだった。だからこそつぐみは1人で思う、財閥のご子息が一般庶民のバンドを席の端っこで見るなと。

 

「なんでつぐは驚いてるの?」

 

 桃色の髪と身体についた二つの果物(エロティック)を揺らしながらAfterglowのベース、上原(うえはら)ひまりはつぐみに問うたが、つぐみは慌ててなんでも無いと訂正する。

 

「か、仮にも私達の友達が端っこの席って言うのもおかしいでしょ?」

「それは……確かにつぐみの言う通りかも、愛さん、今度最前席のチケット用意しておく」

「別にそんなものなくても俺はお前さん達の演奏くらい見るぞ?」

 

 (らん)の言葉に愛は一つ反論した。蘭は自慢の前髪にかかった赤いメッシュの部分を少し弄りながら答える。自分達が気にするのだと。口調は少し乱暴だが、昔馴染みの友達を蔑ろにする気はない。美竹蘭(みたけらん)という女はなんやかんやで友達思いなのである。

 

「まぁ、そこまで言うなら頂こう。ありがとう蘭さん」

「べ、別に、当たり前でしょ……友達だし」

 

 蘭の言葉に照れていると茶化したモカを彼女は怒る。それを見て巴やつぐみを含めた4人が笑い続ける。中学時代からバンドの話ではなくてもそんな会話がいつも通りだったのだ。

 

「あ……やば」

「どうしたのひまりちゃん」

 

 ひまりが少し青ざめた顔で座っていたので、つぐみは疑問に思うが、どうやら財布を忘れて来たので、今飲んでいる自分の分が払えなくなっているらしい。慌てるひまりだが、愛は落ち着いて話しかけた。

 

「俺が出すよ、ついでだからみんなの分も奢ろう」

「わぁ、鶴田さん太っ腹〜」

「こ、こらモカ! お、お気遣いなくて良いですよ!」

 

 完全に奢られる気のモカを嗜める巴だが、愛は笑いながら遠慮はいらないと話を続けた。

 

「昔にはなるが、俺が用事で少しバンド活動に参加出来ない事があっただろ?」

 

 愛の言う用事とは次期当主を決める試験やら話し合いやらで出られなかった時である。その時は検定試験という名目でAfterglowのバンド練習などに参加しなかった。その借りを返す代わりに今日の分を出すと彼は言った。

 彼の言葉に巴と蘭は顔を少し歪ませたが、払えないひまりが愛の身体に抱きつき、押し当てながら全力で泣きついた。流石の愛も男と女の体格を肌で感じて照れたが、冷静になるふりをして淡々と話した。

 

 ──愛さんの変態

 

 つぐみの小声に対して声を出しかけた。少し化けの皮が剥がれそうになった愛だが、一つ咳を払ってひまりに安心しろと話した。

 

「それじゃあ……ご馳走様です?」

「おう、構わない」

「ありがとうございます愛さん!」

「まぁ、一応一個上だしな」

 

 そうして今日の飲食分を払おうとした愛なのだが……

 

「つ、つぐみさん……」

「どうしたんですか?」

「カード使えるよな?」

「大丈夫ですけど……」

「万札しかないからカード切るわ、お釣り不足してる話聞いたし」

 

 愛の客としての心情なのか、友達としてなのかつぐみとしてはありがたい事をしてくれたと同時に、気を使い過ぎだと思った。

 後、今日は仕方ないが、サラッとブラックカードを出さないで欲しいという事もあり、現金も正体を隠すために持っておけと店員なのに客にアドバイスしたのはつぐみの優しさである。

 

「また明日来るわつぐみさん」

「お願いですから私の心労も察して下さい」

 

 愛の言葉に嬉しさを覚えながらも胃を抑えるつぐみ。彼女の恋が実るのが先か、胃に穴が開くのが先か、勝手に試合を開始させる彼女である。

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