花咲川図書館は他の学校よりは平均的に見て大きい場所である。他の図書館がどうかは愛も知らないが、本は1万冊以上はある限り大きな図書館側である事に変わりはない。
同級生の花音からここの図書館には多くの本があると前から聞かされていた愛。Afterglowのバンド練習を見学したりなど予定があって全く行っていなかったのだが、今日はラッキーな事にフリーだった。
なので放課後図書館に行き、本を漁る事にした。愛は小説などの活字が大好きなのはあまり知られてはいない。強いて言えば幼馴染のAfterglowと彼のSPである嶋長エナくらいである。正直、彼が弦巻愛であるという正体を知る人よりは少ないので、バレるものが本来逆だったかもしれねぇが。
そんな愛は図書館で小説を読み漁りながら、最後に2冊くらい借りて行こうと思ったので、適当に本棚の本を見る。いい本が。あった。
タイトルは特に、目立ったものではないが、何となく気になった。だからこそ、愛はその本を取ろうとしたのだが、瞬間、手と手が重なった。
「あ?」
「え?」
愛が横を見ると、長い黒髪で顔が隠れてはいたが、見た事のあるような、ないような、そんな美少女。ふと、我に帰った愛は謝りながらも手を離した。
「これ、読みたいなら呼んでいいぞ」
「いいんですか……?」
「ああ、気になっただけだし、俺は別の本を読む」
そう言った去ろうとしたが、黒髪の少女は彼を呼び止めた。どうしたのか、何が悪い事でもしたのかと振り返った愛だが、少女は怒っている様な雰囲気ではなかった。
「あこちゃんの……お兄さんですよね?」
「俺はあこちゃんの兄では無いけど……あこちゃんのこと知ってるのか?」
「バンドで……一緒に演奏してるので」
あことは前から巴経由で交流のある宇田川あこである。愛はあことバンドの2つの関連性から彼女がRoseliaの人間だとすぐに分かった。そして、その中で黒髪の少女は1人しかいなかった。
「白金……燐子さんか?」
「はい……鶴田さん、で合ってますか?」
その言葉に愛は少し笑いを堪えて頷いた。偽名を使っているので、合っている訳ではないが、愛としてはそれで貫きたいのもあったからそのまま訂正しなかった。
「まさか同じ学校とはな」
「氷川さんとは……よく話すのですが……鶴田さんとは会いませんよね」
「まぁ、割とデカいしな」
ふと、燐子の中で時が止まった。慌てて自身の身体の上にあるそれを本で隠す動作を見て愛は疑問に思った。
「どうした? 急に本を胸元に持っていって両手で握りしめるなんて」
「え、えっと……デカいというのは……?」
「いや、この学校かなり大きいし広いだろ。花音さんやはぐみさんとも同じ学校だが会わなくてな」
愛が言った言葉にすぐ誤解を気づく燐子。すぐに顔を赤くして彼の言葉に同意した。
「つ、鶴田さんは……本お好きなんですか?」
「ああ、結構読むぞ。文字だけで想像するのは好きでな」
「わ、わたしも色々な情景が頭に浮かび上がってシーンとかがハッキリと分かる物も好きです。でも、たまにあやふやな言葉でどのシーンか分からない文字の書き方も、色々想像出来るので……とにかく、本は好きなんです」
愛の返事1つだけで急に円滑になった燐子だが、それを彼は微笑ましく見ていた。途中自分だけペラペラと話して申し訳ないと言ったが、愛は問題無いと返した後、彼女を席まで案内して2人で本を読む事にした。
「あこちゃん、愛さんのこと気に入ってるらしくて……」
「悪い気はしないな。幼馴染の妹だから仲良くしたいと思ってるし」
「そういえば……Afterglowの方とお知り合いなんですか?」
「幼馴染みたいな感じだ。俺はみんなより知り合う日が遅かったがな」
あことは幼馴染なのかと愛が聞くと、燐子はゲームで知り合った仲だという。元々ピアノを弾いていたが、ゲームも好きなので、引き篭もっていると言っていたが愛も別の意味で家に篭らないと行けない時があったので、少しばかり同情した。
「ゲームか……何をしてるんだ?」
「NFOっていう……ネットゲームを……」
「あ、懐かしいな。それ俺もやって……」
「本当ですか!?」
愛がゲームをした事があると彼女に言うと、燐子は身を乗り出して机越しの愛を見つめながら声を出した。その瞬間、彼女は愛にどんな装備か、レベルはどれくらいかをペラペラ質問してくる。愛は落ち着いて一言一言答えた。
やがて満足したのか、今度一緒にやってくれと頼んできた。
「良いけど、あまりやってないぞ。一時期ハマって65くらいまでレベル上げたけど」
「充分です。今度、あこちゃんとやりましょう。いえ、Roseliaのみんなで!」
「圧が強いな」
大人しい少女にも隠れた一面があるのかと、愛はつぐみ達の言っている乙女はミステリアスという言葉を思い出しながら、彼女のギャップ萌の部分を味わったのだった。
☆
「と言う訳であこちゃん。愛さんとゲームしよう」
「分かった! けど、愛さんのプレイヤー側の名前って何?」
「えっと……【トクダ】さんだよ。なんでも、昔見てた時代劇の殿様が庶民に紛れた時名乗ってたらしくて……」
「あの人はいったい何個偽名を持てば気が済むのかしら……」
「友希那? どうかした?」
なんでも無いとリサの問いに答えた友希那は、自分のバンドメンバーが愛の話をしているのを見ながら正体の隠し方でも学ぼうかとイタズラ気味に微笑んでいた。それを不思議そうな目で見ていた紗夜とリサを気にする人はいなかったと言う。