今から数百年前の出来事。朝は町中が賑わい、商人が活気の良い商売をしている中、対極として夜になり、怪しげなお屋敷が1つあった。中ではいかにも偉そうな黄色い服に身を包んだ屋敷の主が集団の中で笑っていた。
「して、越後屋。これからどれだけ油の値段を上げるつもりだ?」
「ええ、これからはわたくし達の邪魔をする同業者は始末しております故、独占させて頂きます。油の値段は今から倍にしてしまいましょう。これからは同業者はいないので人手不足と説明すれば黙って買われるでしょう」
「それなら良い。して、そのお金は?」
「わたくしは少しばかり頂きますが、残りは旦那様に」
「これでわしも安泰か……お主も悪よのう」
そう言って笑い出す集団であったが、それに紛れて別の場所から高らかに笑い声が聞こえた。
「貴様らはここで地獄に落ちてもらおう。勿論その悪巧みと共にな」
「な、何者だ!!」
その言葉と共に現れた1人の女。ふと、男が彼女を見ると目を開いて驚いた。
「う、上様!?」
「
「も、最早これまで……上様とて構わん。死んでしまえばただの人!」
そう言って益故は刺客を何十人も呼び出す。上様と呼ばれた女は刀を鞘から抜いて、そのまま斬りかかるのだった。
☆
「そんな訳で刺客役の俺は上様役の千聖さんに斬られてしまったのだ」
「マジで時代劇出たのかよ」
有咲の家でお茶を啜りながらテレビを見させてもらう愛。ある時千聖から時代劇の斬られ役としてエキストラを募集していると言われたため、面白そうだからという理由で応募したのだ。
結果は無事当選して、上様役の白鷺千聖に叩き斬られたのだった。
「それにしても千聖さんは凄いな。バンドだけでなく役者としても活躍してるなら、苦労もあるが人生を謳歌しているだろうし」
「まぁ、確かにそうだよな……ってお前もそうだろ」
「俺もか?」
有咲は指摘したが、別に愛がお金持ちの子供だからという理由で指摘した訳では無い。こうして友達と呼べる人と交流したり、アルバイトに勤しみ、学校生活をしっかり送っている愛だからこそ、人生を謳歌しているのは変わっていないのでは無いかと彼女は指摘した。
「有咲さんってさ……」
「なんだよ?」
「本当に良い子だよな」
「はあ!?」
「俺より真面目だし友達想いだ。一緒にいてくれてありがとう」
心の底からの、しかも突然言われた愛の言葉に顔を赤くするしか無い有咲。愛は有咲の全てを知らないが、こうして話すだけでも、市ヶ谷有咲という女の良さが充分に分かった。
『む、無念だ……』
「あ、俺死んだ」
「結構深くいったな」
「でも、楽しかったぞ。現場の雰囲気を知れたし、エキストラでもセリフくれたし」
そんな愛を見て、人生どころか世界を謳歌しているのでは無いかと疑う有咲であったが、愛は笑いながらテレビを見ていた。
そして、エンドコールが流れて良い話だったなと2人で話していた時だった。
『刺客16 弦巻愛』
「おいちょっと待て!? 大丈夫なのか!?」
「千聖さんしかいなかったし、刺客30人くらいいたからバレんだろ」
ちゃんと黒い服を着て黒い布で口や頭を隠していたからと安心出来るか出来ないかのギリギリラインの発言だったが、翌日有咲が学校に行っても愛の周りに人の群れがなかった事を確認するとホッとして踵を返したという。
その同日の夕方に、Afterglowと談笑しながら愛の斬られているシーンを見返していた後、エンドロールに全員から突っ込まれるのは愛もわかっていた事であった。