「湊友希那! 今日こそ私のバンドに入ってもらうわよ!」
「興味ないわ。私はRoseliaで頂点を目指すの」
「shut up! 今日という今日こそ……」
「公共の道で大声で口喧嘩するなよ迷惑だろう」
3年生に進級して、弦巻家の正式当主に決まった弦巻愛こと鶴田愛が散歩途中で見かけたのは過去に散々弄り倒して酷い目に遭った少女と見たことの無い猫耳の少女である。猫耳のというか、猫耳型ヘッドホンをつけたかなり小さく生意気そうな少女。
「誰よアンタ、邪魔しないでくれる?」
「仮にライブハウスとかお前さんの部屋の中とかで争うなら邪魔も出来んが、ここは公共の道路だ。少し大声で話すくらいならともかく、口喧嘩は見逃せん」
他の人も迷惑そうに見ていると、愛は伝えたが、すぐに少女は彼の胸倉を掴んだ。友希那は少し眉を動かして止めようとするが、愛は片手で制する。
「急になんだ、まさか殴るなんて事はしないだろうな?」
「アンタの顔、覚えたわ。冴えない顔してる割にはできる目を持ってるわね」
「俺に出来るのはお前達の口喧嘩を止める事だ」
「そうじゃない、音楽を知っている目をしてる」
弦巻家とはバレてはいないが、愛が多くの楽器を演奏した経験やら幼馴染達とバンドのサポートに入っていたのもある事で身につけた音楽センスを彼女に見破られていた。それでも、愛はそんなことよりも冷静にこの場を納めるのが先決だと考えた。
「そろそろ離せ、本気で口喧嘩するなら個室でやれ。ここではやるな」
「ふん! いつかアンタもぶっ壊してやるわ」
「やめておけそれはただの殺人だ」
少女の滅茶苦茶な言葉に、愛は正論で返す。一生分かり合えないと確信した少女は手を離し、そのまま走ってどこかに行った。友希那から無事かどうかを尋ねられたが、愛は少し笑って問題無いと返した。
「中々癖のある奴だったな」
「弦巻家の当主に手を出すなんて猫神様が許しはしないわ」
「猫神様とか当主とかどうでもいいが、アイツ相当音楽に強いな」
「分かるの?」
「何となくな、きっとアイツのバンドは人気になるぞ」
愛は断言したのだが、友希那はそれを聞いて彼も音楽に関してかなり知っているだろうとツッコミを入れた。
☆
「って事があったんだけど、誰か知らないか?」
「アタシは知らないな」
「全く分かりませんけど愛さんがまた女の子を助けようとしている事は分かりました」
「そんな予定はないぞつぐみさん」
「というか胸ぐら掴まれて平然としてる愛さんもヤバイけど」
羽沢珈琲店で猫耳の少女について知っているかを幼馴染に聞いて見たのだが、誰も知らなかった。そこまで音楽に詳しそうならガールズバンドで知っていてもおかしくないのだが、Afterglowでも知らないのなら愛も手に負えない。
「そんなに凄かったの? その女」
「さぁ? 正直音楽聴いてないから全く分からないが、多分凄そうだったぞ」
「ならそれって全部愛さんの予想じゃん……」
「ひーちゃんの言う通りですなぁ。でも〜愛さんの演奏に対するアドバイスは的確だから〜そんな愛さんが感覚でもそう思ったのなら可能性はありそうだよ〜」
モカの言葉にみんなは確かにと頷いたが、愛は昔少し触ってただけだと言った。結局正体も分からないまま、彼はこの話を中断して珈琲を飲むのだった。