弦巻評判記 暴れん坊当主(笑)   作:初見さん

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妹のバンド

 久しぶりに妹のバンド練習を見学しようと、こころや美咲にアポイントをとった愛は、学校が休みの日に自分の屋敷にあるバンド練習部屋に足を運んだ。

 部屋に入ると、妹である弦巻こころの明るい歌声と、少しばらつきはあるが結成よりもまとまって来た演奏隊を耳で聴いた。

 ハロー、ハッピーワールド! のメンバーは個性的だった。ボーカルのこころに加え、ミッシェルという名のクマに入り込み、DJとしてディスクを弄る奥沢美咲(おくさわみさき)の姿がある。

 

「あ! 愛君だ!」

「よう、はぐみさん。久しぶりだな」

「愛君……こんにちは」

「こんにちは、花音さん」

 

 愛が、同じ学校なのにどうしてメンバーに会わないのか不思議に思ったと話した相手の2人はハロハピのベースとドラムである。ベースを持ちながらもジャンプしながら愛に近づいてくる元気な少女、北沢(きたざわ)はぐみはまた新作コロッケを食べに来てくれと実家である精肉店の宣伝をしながらベースを少しかき鳴らした。

 同じ時間で、少しおどおどしながらも愛の襟を掴んで少し寂しかったと、男子が聞くと一発で恋に落ちそうなセリフを使い、水色の髪を手で弄りながら髪で少し顔を隠した松原花音(まつばらかのん)。どうやら愛の姿を見かけてすぐにドラムの椅子から立ち上がって彼の元に駆け寄って来た様である。

 

「相変わらず愛は人気者だね」

(かおる)様、お久しぶりですね」

「お願いだから君が私に様と敬語をつけるのはやめてほしい」

「ひまりさんがよく言ってるので良いかなと」

 

 そう話す愛に対して、仮にも弦巻の息子が知り合いといえども様付けで呼ぶ事に自身が抵抗感あると説明した瀬田(せた)薫はギターを首から外して彼と握手をする。

 紫輝く髪を自らの手で触りながら少しばかり決めたポーズをして儚い、なんて理解出来ない言葉を使って愛を少し困らせるが、嫌がってはいないと判断をして右手だけでなく左手も添えて握手をした。

 

「ひまりさんが薫さんのサインを欲しがってたので今度あげて下さい」

「だから敬語は……うん、分かったよ。あぁ、また子猫ちゃん達が私の虜になってしまうのか……儚い」

「流石薫様、人気者ですね」

「だからその名前で呼ぶのは……」

「じゃあ……かおちゃん? かほちゃん? どっちが良いですか?」

 

 どうしてそのあだ名を知っているのだと王子様系キャラを崩しながら愛の両肩を掴んで揺らす薫。風の噂で聞いたとはぐらかす愛。

 それを見ているクマの着ぐるみも、恐らく呆れながら笑っているのだろうと考える愛も笑顔だった。

 

 ☆

 

「お疲れ様、花音さん」

「ありがとう、愛君」

 

 練習の後、愛も自分なりにいくつか感想などを伝えてお開きとなった後、愛は花音に呼ばれて別室で話す事にした。こころ達は着ぐるみを脱いだ美咲と共にダラダラ過ごしているのだろう。彼は自分を呼んだ理由を花音に尋ねるが、彼女はただ会いたかっただけだとはにかんだ。

 

「別に俺じゃなくても、こころ達がいるなら寂しくないのでは?」

「え……ええっと、愛君は特別だから……」

 

 彼女は歯切れ悪く答えたが、本心としては愛の事が好きだからである。花音は一時期ドラムを辞めて売りに出そうか処分しようかと考えていた。

 その時にバンドに誘ったのは妹のこころである。結局こころに無理矢理連れてこられてドラムを叩く事になったのだが、ドラマーとして決意を漲らせたのは愛だった。

 

 ――自分のためにドラムを叩かないならせめてこころのために叩いて下さい

 

 こころの兄と聞いて勿論緊張もしたし、男もあって恐怖もあったが、彼はかなり落ち着いていた。こころとは真逆で、花音が何を言っても全て話を終えてから意見を出す。

 元々弦巻として楽器を嗜んでいたのもありドラムも経験があった。それもあってか彼女がドラムで大変だった事にも共感してくれた。

 この人は分かってくれる人であり、自分が特に怖がる必要も無かったと安堵するのはその話を終えてからである。それから幾つか月日が経ったが、彼は定期的に見学してくれた。その時によく花音に言っていることは妹の事。

 こころのためになんて言いながらお礼を言う彼に対して妹思いの男の子だと知った。

 

「愛君、ありがとう」

「何がですか?」

「ドラムを叩かせてくれて…・かな」

「それはこころの恩義では?」

「きっとこころちゃんと演奏しても最後までドラムを叩く事に抵抗はあったと思う」

 

 あの時、愛が言葉を発しなければ、いまだに迷いはあったと花音は続けた。それに対して無意識のうちに愛は声を出した。

 

 ――でも、まだ叩いてるよな

 

 その言葉にハッとした花音。確かにまだドラムを続けているそこから導き出された答えは、花音自身ドラムだけでなくハロハピで演奏するのが好きである証だった。愛には敵わないと一つ溢して彼女は愛に伝えた。

 

「愛君、本当にありがとう」

 

 花音の真っ直ぐな言葉に愛は驚いてから少し笑みを浮かべて花音の頭を撫でた。愛はゆっくり部屋の椅子から立ち上がりハッキリと

 

「俺もお礼言わせてくれ。花音さん、こころのためにバンドやってくれてありがとう」

 

 そう言って頭を下げる愛を見て、大慌てでそれを取りやめる様に言ったのは他でもない花音であった。御曹司が頭を下げるなと、花音は言うが、愛はただお礼を言って悪い事があるかと問いを投げるのみであったらしい。

 

 ☆

 

「花音さんの匂いがする」

「怖い事言わないでつぐみさん」

 

 その後、いつもの様に羽沢珈琲店でメニューを頼もうとしたら手伝いをしていたつぐみにあらぬ浮気の疑いをかけられたのは言うまでもないっちゃんね。

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