弦巻評判記 暴れん坊当主(笑)   作:初見さん

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 念のため伝えますが、この小説に殺陣シーンは出ません。本当に弦巻愛君がのんびりと過ごす物語です。


普通にデートしようぜ

 可愛い、似合ってる、流石つぐみさんだなと、聞く人が聞くとメロメロのKOを食う三連打を叩き込んだのは私服に身を包んだ弦巻愛こと鶴田愛。

 それを食らって顔を真っ赤にしながらも弦巻家の御子息とデートという胃痛が止まらなくなる経験をしている羽沢つぐみである。

 2人はAfterglowのみんなと買い物に行く予定を立てたのだが、急な用事で来られないと言われて、2人きりになってしまったのである。

 

「みんな来れなくなりましたけど、どうしますか?」

「水族館行こうか、折角来たんだ。2人で遊ぼう」

 

 そう言って愛はつぐみの横を歩くと、彼女も少し照れながら隣を歩く事になった。

 

 ☆

 

「愛様の尾行をしているから誰かと思えば……貴方達だったのですね」

「と、とりあえずその警棒下ろして貰ってもいい……ですか?」

 

 シマエナガこと嶋長エナは愛とこころの専属SPである。こころはバンド練習のため他の黒服に任せて愛を尾行していたのだが、同じ様に尾行をしている者がいたので怪しいと思い持っていた警棒で脅す事にした。

 しかし、待っていたのはつぐみの親友達、つまりAfterglowのメンバーだった。Afterglowメンバーは何回かだが、エナに会ったことがある。愛の昔からの友人で、先輩としてよく相談に乗ってもらっていたと紹介があったので顔は知っていたのだ。

 だが、なぜ尾行をしているのか不明だったので少し聞いてみようと思ったのは、蘭である。

 

「嶋長さんは……どうしてここに?」

「え……えっと私はですね……」

 

 弦巻家の次期当主に身の危険があると困るので尾行しています。そう言えたら良かったのだが、愛の事情もあるので、ここは誤魔化す事にした。

 

「あ、愛様が羽沢様とデートをしていたので……友人として応援しに……?」

「なんだ、嶋長さんもそうだったんですね!!」

 

 エナの言葉に乗っかったひまりはこちら側の事情を伝える。曰く、どう見ても両想いなのに一向に進展しない愛とつぐみのために、わざとこの場をセッティングしたと大声で言った。危なくバレそうになったので、巴がひまりの口を少し抑えて宥める。

 

「アタシ達、結構愛さんに助けてもらってるんで、少しでも2人の仲を応援したいんです」

「大切な親友が愛さんに取られるのは……最初少し嫌だったんですけど、愛さんも中学からとは言え幼馴染みたいな人ですし、つぐも愛さんといたら幸せそうなので……やっぱり幸せになってほしいなって」

 

 エナは本気で泣きそうになった。正体を知らなくても、あの愛を大切に思ってくれる少女達の真っ直ぐな言葉に感動してしまった。だが、少し浮かない顔をしている少女がいたのでエナはその人に声をかける。

 

「美竹様、なにやら思い詰めた表情ですが、どうなさいました?」

「蘭〜どうしたの?」

「いや……そう言えば私達って愛の事あまり知らないなって」

 

 蘭の一言にみんなが確かにと悩む。エナは少しヒヤッとしているが、それを気づかずひまりが話す。元々初めて会ったのは羽沢珈琲店で親友のつぐみと仲良く話していたことから始まった。

 蘭が1人だけクラスが別だったことや、モカにオススメのパン屋を紹介する事など、バンド以外にも話を聞いてくれて頼り甲斐のある男であった。それでも彼女達は愛がどんな家庭なのかとかあまり知らない。学校も違っているので何をしているのかも検討付かないのだ。

 

「アタシ達が分かるのは愛さんがつぐの事が好きすぎることと、毎日羽沢珈琲店にいるくらいだしな」

「たまにモカちゃんのバイト先に来るよ〜、妹さんのバンドメンバーにコンビニスイーツを差し入れするって言っていっぱい買ってくれるんだよね〜」

 

 1人で食べ切るひーちゃんとは大違いと、ひまりを揶揄うモカに対して少しばかり怒るひまり。それを見て巴が笑うが、蘭は表情を変えない。

 

「仮に知ってるとしてもつぐみくらいだけど……あたし達に何も言わないから分からないんだよね」

「愛様は自己紹介とかしなかったのですか?」

 

 少し演技をしながら愛について聞くエナ、そこで返ってきた言葉は……

 

 ──閑静な住宅地に住む4人家族の長男

 

 正直頭を抱えた。確かに4人家族(SP含めると数100人家族)であり、住宅地の中で家を建てたのは事実。また、弦巻家は豪邸なのでその近くに家やマンションを建てる者はいないのもあり閑静というか独壇場ではあるのだが……

 

「よくもまぁ、正体隠すだけなのにそこまで頭が回る人ですね……」

「なんで頭抑えているんですか?」

 

 ひまりの心配をよそにエナは溜息を吐くしか無かった。

 

 ☆

 

「つぐみさん、見てくれ! クラゲがいっぱいいるぞ!」

「愛さん、テンション高いですね」

「俺はクラゲが好きでな、というか海に行った時こころとスキューバダイビングして魚を見るのが楽しかったんだ」

 

 そう言いながら目を輝かせて水槽を眺める愛とそれを微笑ましく見るつぐみがいた。スキューバダイビングを簡単にしている愛の話を聞いて、改めて財閥の子供なんだなと認識したつぐみだが、今この時は胃痛はしなかった。

 むしろ、今までコーヒーやパンケーキを食べてみんなの相談に冷静な答えを返してくれるような愛とはまた違う一面を見れた事に喜びを感じていた。

 

「愛さん、水族館なのにとても大きい鮪がいますよ」

「あ、それ弦巻家が寄贈したやつ。移動してきたのか、久しぶりだなマグネットちゃん」

「え!?」

 

 マグネットちゃんと呼ばれた鮪は口を開けて泳ぎながら愛の言葉に尾ひれを少し振ったように見えたつぐみだった。

 時は少し経って、水族館を出た2人は空腹もあってどこで昼を食べるか考えていた。勿論羽沢珈琲店と言いかけた愛に対して自分の家以外と釘を刺すつぐみ。少し悩んで近くの喫茶店に入る事にした。

 

「オススメのお店なんですか?」

「俺も初めて入った」

「嘘でしょ!?」

 

 愛が喫茶店を全部コンプリートしているか、ほとんど弦巻家が提供している店かとつぐみは思ったが、どうやら野良喫茶店だったらしい。適当に注文をしてコーヒーとパンケーキを待つ愛と、軽食とドリンクを待つつぐみ。

 

「コーヒー苦手なのか?」

「ええ……まぁ。珈琲店の娘なのに変ですよね」

「別に? 弦巻家の子供と言っても昔は俺もこころも好き嫌いあったし気にしなくていいんじゃないか?」

 

 財閥でも一般人でも、どんな仕事をしてても、どこに産まれても、好き嫌いはあると愛は答える。ちなみにどんな食べ物が苦手なのか聞いてみたところ返ってきたのはどれもこれも一般庶民の手が届かない高級な食べ物ばかりだった。

 彼曰く、日本人は米と焼き魚、味噌汁にたくあんだろと豪語しており、高級食材はある程度食べたが、この組み合わせが1番落ち着いて食べられるとのこと。庶民の敵なの味方なのか分からずじまいである。

 

「いっぱい素敵な物を食べられていいですね」

「そう怒らないでくれ。別に嫌味で言ってる訳じゃないんだぞ」

「貴方にとってはそうでしょうね」

 

 言葉に詰まる愛だが、少し間を置いてつぐみも笑顔で冗談だと答える。今まで振り回されている仕返しだと笑うと、勘弁してくれと頬を掻いて伝えた愛。

 それを見ていたAfterglowとエナは会話こそ聞こえなかったが、心から微笑ましいカップルだと思った。

 

「仲良いよね、つぐと愛さん」

「うん、見ているあたし達も和むよね」

 

 ひまりと蘭がそんな会話をするがエナは少し悩んでいる。仮に、愛とつぐみが付き合ったら弦巻家はどうなってしまうのだろうか。愛は次期当主になるし、つぐみはきっと珈琲店を継ぐだろう。そうなった時、この2人には厳しい道のりが続くかもしれない。

 いつか、自分も愛やつぐみに対して心を鬼にする日が来るのかと考えると、あまり良い気分にはならない彼女であった。

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