弦巻評判記 暴れん坊当主(笑)   作:初見さん

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羽沢と弦巻、そしてAfterglow

 彼が現れたのはつぐみが中学の時である。雨の日に傘を差してこの珈琲店に来店してくれたお客様として接客をした。

 彼はここに来るのが初めてだったのでオススメのコーヒーとスイーツをつぐみに聞いてそれを注文した。コーヒーを一口飲みながら美味しいと連呼する彼はつぐみにとって良客である。

 

「喜んでくれてよかったです」

「ここは落ち着くな、コーヒーも美味いしパンケーキも美味い」

 

 また来るよと、そう言ってお会計の準備をする愛。現金で支払おうとした際に、彼の財布から何かが落ちた。クレジットカードである。しかも、色は黒くそのご名義人である彼の名前がローマ字で彫られていた。

 

 ──AI TURUMAKI

 

「つ……弦巻……もしかして弦巻家の……」

「い、いや、コレはえっと……と、とりあえずお釣りはいらないからまた来るな!」

「えっ!? ちょっと!?」

 

 カードを財布にしまって全力で逃げた彼を尻目にトレーに出された一万円札をどうすれば良いのか分からなくなったつぐみである。

 その翌日の事だった、彼は何事もなく現れたのはつぐみも驚いた。

 

「変装くらいして下さいよ!?」

「普通にコーヒーとパンケーキ食べに来ただけなのに変装なんてするかよ」

「というか、な、何で弦巻家の人がこんな所に……」

「美味しいからに決まってんだろ。俺はここのリピーターになりたいんだ」

「帰って、どうぞ」

「嫌だね」

 

 そう言って空いてるカウンター席に腰をかけてメニューを見つめる愛。どうなっても知らないとつぐみは溜息を吐いて彼の注文を取る。

 それから彼はほぼ毎日羽沢珈琲店に来た。別に冷やかすわけでもつぐみと話す訳でもなく本当にコーヒーとパンケーキ、書いてあるメニューを完全制覇しながらのんびりと食事をする。

 

「よく、バレませんよね」

「バレても大丈夫、ここに隠れるから」

「私が怒られます。っていうか、買収ならお断りですよ」

 

 つぐみは彼を見るとただの買収にしか見えなかった。よくある漫画などで金持ちが貧乏人の家の土地を買い占めるシーンを見ると、自分もそうなる可能性しか考えなかったからである。そんな言葉に彼はする訳ないだろと笑った。

 

「本気で買収するなら既に何人ものSP達がここに来て金を積んでいる」

 

 それは確かにそうだとつぐみは思った。彼が来て一週間ほどだが、いまだにそんな人達が訪れた記憶はない。本当に何しに来たのか改めて聞いても、ただコーヒーやパンケーキを食べに来たと一点張りであった。

 

 ☆

 

「ねぇ、つぐみ。この前からずっと店に来てる男の人は誰?」

 

 つぐみには幼馴染が4人いる。今日はその全員が集まる日であり、蘭、モカ、ひまり、巴の次期Afterglowが集合していた。そんな中、蘭はいつもつぐみの店で見かける男に対して追求した。

 

「あ、あの人は……えっと、つ、つる……」

()()だ。初めまして、鶴田愛と申します。つぐみさんのお店でコーヒーとパンケーキを食べたら美味しくてな、通わせて貰ってるんだ」

「つぐみに手を出したら怒るから」

 

 蘭の言葉に苦笑いを浮かべながら、邪魔はしないと席に戻る愛。そのままコーヒーを飲みながら、パンケーキを頬張る姿は正直変な人であった。

 愛とAfterglowが出会ってから数ヶ月が経った。いつもの様に愛はのんびりとつぐみの店でコーヒーを飲んでいると、ふと隣のカウンターに誰かが座った。

 

「どうした、ここに座るのは初めてじゃないか?」

「うるさい……黙って」

 

 座っていたのは蘭だけだった。他の幼馴染はどうしたと聞こうか迷ったが、かなり気持ちが沈んでいる蘭に対して声もかけられない。ふと、顔を出したつぐみも蘭を気まずそうな表情で見ていた。

 

「喧嘩か」

「あんたには関係ないでしょ」

「つぐみさんが悲しい顔をしていたらコーヒーもパンケーキも不味くなる」

 

 そう言いながらパンケーキを食べ続ける愛。ふと、蘭が愛に声をかける。

 

「大事な人と離れ離れになったらあんたはどうするの?」

「追いかけるだろうな」

 

 サラッと愛は答えた。どれだけ長距離でも、期間が長くても必ず会いに行くと普通の会話をする様に答えた。

 

「それが出来ない時は?」

「俺はそれが出来る」

 

 正直愛が考えている蘭の悩みは的が外れているのは分かっていた。それでも、万が一妹であるこころと離れ離れになったら父親に頼んで、いくら金を使っても追いかける気はあった。

 蘭も蘭で愛が違う話をしているのは分かっていたが、そこまで自信満々に答える愛に対して、やはり気になるところはあった。

 

「あたし、少し、いや、かなり巴達に当たっちゃって……」

「なんだそんな程度か。もっと転校する話とかかと思った」

「そんな程度って……」

「お前さんが大喧嘩したとしてもだ、絶交した訳でもないんだからみんなとは会える」

 

 酷いことを言ったとは蘭も思っていたが、絶交なんて言葉をかけられなかったのもあり、愛の言う事も一理あった。一つ溜息をつくと、蘭は愛に聞いてみる。

 

「あんたは、怒ったりとか、寂しいとかないの?」

「仮に、俺とお前さん達が大の仲良しなら、一瞬の感情でそれはあるとは思う。けど、ここに来ればすぐ会えるだろ。その時に謝れば仲直りも出来るし」

 

 なんせ毎日通っているのだからと笑う愛。正直この人に何を言っても無駄かもしれないと判断した蘭は呆れることしか出来ない。

 

「つぐみさん、今日は蘭さんのそばにいてやれ」

「え?」

「蘭さんはお前さんと会えなく可能性があるから寂しいそうだ。気の済むまで一緒にいてやれ」

「ちょっと、そんな事頼んで……」

「だったらその涙流すなよ」

 

 愛の言葉で彼女は無意識に泣いているのが分かった。手で目元を拭くと、濡れた手を袖で拭いて泣いてないと怒る。

 

「よし、俺が奢ってやる。つぐみさん、コーヒー6杯くれ」

「多すぎません!?」

「蘭さんとつぐみさん。後は……これから来る奴らにだ」

 

 そう愛が指を刺す方向を見ると、3人の幼馴染が少し照れ臭そうに、何よりも蘭に対して申し訳なさそうに立っていた。集まった5人を見ながら、愛は残りのパンケーキを口に含んで笑うのだった。

 

 ☆

 

 それからもクラス替えで離れ離れになることはあったが、幼馴染は健在だった。1つ変わった事といえば……

 

「つぐみさんコーヒーとパンケーキ」

「いつまでこんな所にいるんですか!? もう一カ月連続ですけど!?」

「愛さん来すぎじゃないですか?」

 

 愛が幼馴染の仲間として今日も今日とてつぐみの店で注文している事だった。

 

「あれ? また愛さんいるんですか?」

「鶴田さん〜そんなにお金あるならモカちゃんにパンをお恵み下さい〜」

「パンは渡せないがパンケーキならいいぞ、ほら、口開けろ」

「わーい」

「ははっ! 相変わらず愛さんはつぐ達と仲がいいな!」

「巴さんだって仲間だろう。そうだ、今度ボランティアで太鼓叩くやつ俺も巴さんと参加するか」

「本当ですか!」

「正気ですか!?」

 

 愛の言葉に、喜ぶ巴とツッコむつぐみ。みんなからすれば何故つぐみがツッコんでいるのか知りたかったのだが、つぐみは愛と何とか誤魔化す。そんな日常がAfterglowと愛の出会いだった。

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