修羅に生きる   作:てんぞー

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冒険者 Ⅲ

 カリキュレイト、とふざけて呼ぶ技がある。その中身は相手の無意識の中に入り込み、そして相手の行動へ割り込む事だ。先の先と呼べる技術、それを極める事で相手の行動そのものに割り込める。相手の動きが停止している様に、対応することができる様になる。一種の先読みとも言える技術になる。そこに更に、縮地という歩法を追加する。ゲームのステータスの強化によって発生する加速ではなく、筋力、呼吸、そして技術による瞬間的な加速移動。普段は縮地と先の先、その両方を合わせてカリキュレイト、と呼んでいるが、

 

 それを極めれば、相手に一切気づかれずに一方的に殺せるという極悪極まりない奥義となる。

 

「幻想舞踏―――」

 

 相手の姿を視認し、その体構造を把握する。そしてその構造上脆い部分―――弱点となる部分を目利きのみで見抜き、そしてその上で≪暗殺≫スキルと≪解体術≫スキルのパッシブ効果が発動する。どこをどう攻撃すればクリティカル攻撃になるのかを直感的に理解した所で、正面の≪ミノタウロス≫二体の横をすり抜ける様に動きつつ、デスサイスの刃を弱点部位である首にひっかけ、滑らせる。

 

 気付かれる事無く、音を立てる事無く、そして反応する事もなく滑った刃が首を斬り落とし、クリティカルヒットからデスサイス系武器固有の追加効果―――即死効果が発生する。それを利用し、橋の上を音もなく通過しつつデスサイスを何度も何度も通り過ぎる≪ミノタウロス≫の首にひっかけて滑らせ、全てクリティカルヒットから派生する即死効果で完全に殺す。そのままするするとすり抜ける様にひたすら意識外を武器を滑らせながら歩き、橋の奥へと歩いて行き、そして動きを止める。

 

「―――お前はもう死んでいる……なんてな。このネタも今の世代には通じないんだっけなぁ、悲しいわ」

 

 橋の反対側へと到着するのが終わる。フードを下ろし、髪を解放しながら頭をふり、背後へと振り返る。

 

 そこに存在しているのは首、或は体を両断されて橋の上に大量に散らばっている≪ミノタロス≫だった存在のパーツだ。アインクラッドでのエネミーは原則、殺せば消えていた。が、アインクラッドを制御するシステムのカーディナルはそれで気に示さなかったのか、一定の時間であれば殺したエネミーは殺された姿そのままで、死体が残る様にしてしまった。その為、死屍累々とした光景が大規模な狩場では時折、発生するのが目撃できる。

 

 今の様に。

 

「ま、所詮はこの程度だろ。欠伸がでるわ」

 

 武器を一回転させてから橋に突き刺し、固定しつつ片手で出現するリザルトウィンドウを処理する。エネミーのリポップまでには特殊なエリアでもなければ、数分はかかる為、シノンやユウキも殲滅の終わったこの橋を安全に渡れるはずだと思い、視線を遺跡の方へと向けなおす。大理石でできた様な石のアーチが此方を迎えてくれており、その向こう側には遺跡の入り口が存在する。しかし、それとは別に横から回り込む、外のルートも存在する様に見える。シノンの話では外を回るルートを今回は使用するらしい。

 

「―――流石≪通り魔(ファントム・キラー)≫って呼ばれているだけあるわね。全く気付かれずにああやって見事に通り抜けられるのって貴方ぐらいよね、スキルもなしで」

 

「やめて、そっちの言われ方すると二十四のお兄さん、ちょっと肌がぞわぞわしちゃうの―――まぁ、Poh辺りならまた別の方法でスニークキルしそうなんだけどなぁ……それに俺、ぶっちゃけスニーキングそこまで得意って訳じゃねぇし」

 

「師匠、ぶっちゃけ普通に戦った方が強いもんね」

 

 シノンとユウキが追いついてくる。そしてユウキの放った言葉はぶっちゃけると正しい。効率が良いから気配を殺して一撃必殺する暗殺者スタイルで戦っているが、本音を言えばそんな事をするよりは、乱戦に待ちこんでからの大暴れの方が遥かに得意だったりする。ただ死亡率や損耗率、そういう事を考え始めると正面から暴れるよりも気づかれずに狩り殺したほうが圧倒的にコストパフォーマンス的に優秀なのは否定できないのだ。なので、今まではこのスタイルで戦い通して来たのだが、

 

「そろそろ戦闘スタイルを変えて本来の実力を……! は、やめておくか」

 

「いや、本気出せるなら出しておきなさいよ」

 

「いや、俺の様な戦闘力が狂ったチートキャラってのはシナリオの中盤辺りで弱体化するかイベントで殺されて戦力外になるんだよ。だからあんまり暴れすぎずに、強キャラ程度の所で評価が落ち着くのがいいんだよ。実際今の所、俺の評価ってプレイヤーとしては強いけどユニークスキルには届かないって感じだし。そこらへんで評価ステルスしたい」

 

「できてないじゃん」

 

 近づいて来たユウキの足を掴んで逆さ吊りにし、それを振り回しながら歩き始める。ユウキからの悲鳴と助けの声をガン無視し、シノンが先導し始める。予め下調べは住んでいるのか、その足取りには迷いがなく、アーチの横から移籍を迂回する様なルートへと張って行く。直ぐにユウキを振り回しながら追いかけると、

 

 そこに広がっているのは崩れそうな石の道と、色とりどりの花が咲き誇る庭園だった。直ぐ横には湖が見え、その先では巨大な影が湖の中に潜んでいるのが見える―――流石に水中戦は勘弁してほしいなぁ、とその巨大な姿を見ながら言葉を零す。場合によっては”利用”するのも選択肢としてはアリアリだったりするのだが。と、視線を湖から離すと、庭園の大地を突き破るように植物型のモンスターが出現し、

 

 ―――出現した瞬間、その根元に四本の矢が突き刺さり、爆破する。

 

「≪射撃≫と≪火薬技術≫の合わせ技、ってね」

 

 根元から吹き飛んだ食虫植物様なエネミーは一瞬だけ宙に浮かび上がると、そのまま落下を始める。そのまま放置してしまえば体力が尽きるまでの間、大地を這って襲い掛かってくるだろう。それを阻止する為にも動き出したのはユウキだった。未熟ながら半分完成、と言った所の縮地に入り、そして、

 

「―――幻想舞踏」

 

 クリティカルの発生場所を見抜き、一呼吸で四連撃を叩き込む。シノンの攻撃に追撃する様に叩き込んだ攻撃は全てちゃんとクリティカルヒットが発生し、そして一気にエネミーを屠った。その死体に近づき、シノンが≪観察≫か≪アナライズ≫のスキルを発動させる―――細かいスキル構成を調べるのはアインクラッドにおけるマナー違反だ。

 

「こっちは初めて見るモンスターね。≪アルラウネ≫、ね。死体の形が残ってるとスキルが発動できるからデータ取りが楽だわー……あ、暇なら別に手伝ってもいいのよ」

 

「だってよユウキ」

 

「僕、今戦ったから間違いなく師匠の事を言ってるんだと思うけど」

 

「え、何言ってるんだよ。俺には人間センサーって超重要な仕事があるから」

 

「だったら今の奇襲防ぎなさいよ」

 

 正論なのでぐうの音も出ない。だから動きを止め、そして庭園、少なくとも付近の気配を軽く探ってから、左手でベルトに設置してあるナイフホルダーから投げナイフを三本取り出す。それを軽く振るい、離れた三か所へとそれぞれのナイフを突き刺す。次の瞬間、地面から叫びあげながら醜い食虫植物の姿が出現する。その花弁の中には、グロテスクな人間の様な形が見えるが……あまり興味がない。

 

「ほい、索敵終了」

 

「流石特級レンジャーはやることが違うわねぇ」

 

「褒めるなよ」

 

「呆れてるのよ! というかやり方教えてよ!!」

 

「上級検定うけよーな。ここら辺の技術も割と教えてくれるから」

 

 シノンのジト目を視線を逸らす事で回避する。言葉にしなくても此方の意思を理解するぐらいにはユウキの事は鍛えている。だから視線をユウキへと向ける前にユウキが狩る為にも動き出す。この程度の雑魚であれば十体を一度に相手しても落ちることはないな、と先程の戦闘の様子から確信し、ポケットから煙草を取り出してそれを咥える。シノンが嫌そうな顔を浮かべているが、他人の事を気遣っているうちは真の喫煙者になどなれはしないのだ。

 

 ヘヴィスモーカーを舐めるべきではない。

 

「というか煙草は臭いがつくから駄目でしょ」

 

「調査するんだったらなるべくモンスタと戦うべきであるし、戦闘回数が増えればユウキに経験を積ませることができる。ウィン・ウィンなので問題なし」

 

「それもそうだったわね」

 

「えっ!?」

 

 一瞬でモンスターを処理し終わったユウキがショックを受けた様な表情を受けているが、大体ユウキの扱いは前々からこんなものだ。そしてこのシノンとのノリは二十五層の事を思い出す。あの地獄と呼ばれた二十五層は流石に生存率を上げるために、臨時パーティーを組んで活動していた。その時のメンバーが自分、ユウキ、シノン、

 

「んでキリトとアスナか」

 

「そう言えば今はキリトのやつ、どっかのギルドに入って活動中なんだったっけ?」

 

「だなっ! と、こんなもんか」

 

 地中に隠れているエネミーの反応を感知し、その位置へと向かってナイフを投擲し、その次の庭園の先にある林へと向かってナイフを投擲する。木の上へと向かって投擲されたナイフはそこでヒットスパークを見せ、サルと人間の中間の様なモンスターを落とす。それを確認する瞬間には既にユウキが踏み込んで地中から飛び出してきたモンスターに五連撃を叩き込み、次の一歩で林のサル型亜人に攻撃を始める。ここらのエネミーであればユウキ一人で十分すぎる程に対処できる為、そのまま戦闘をユウキに任せ、

 

「まぁ、キリトも地味に頑張ってたしな。つーか今のアインクラッドで頑張ってねぇ奴を探す方が割と苦労すると思うし。いる所にはいるけどさ、ニートは。まあ、キリトのやつは”なんたらの黒猫団”っつー所でのんびりやってるらしいぜ? 相手の方は二十五層で大活躍のエース様がやって来たことに最初は驚いてたらしいけど」

 

「またどうせ女の子でも引っ掛けてるんでしょ、あんの馬鹿は」

 

「俺からは何も言えねぇ」

 

 インベントリを開いて、そこから紙片を一つ取り出し、そこに書いてある文章を確認する―――”キリト争奪ヒロインレース”と書かれ、その下にクライン主催と書いてあるそれをそっと、シノンに見られないようにインベントリの中へと戻す。アスナ票を購入したが、何時になったらキリトは人生の墓場イベントへと突入してくれるのだろうか。此方としてはその時他の女子を全員連れてきて盛大に煽る準備と覚悟を完了しているというのに。

 

「アスナちゃんの方はまだ前線で戦う気満々だからヒスクリについて行って血盟騎士団に入ったんだけどな」

 

「≪神聖剣≫のヒースクリフねー……私、アイツあんまり好きじゃないのよね」

 

「そうなのか? 俺はあの兄さんの事割と気に入ってるけどな。たぶん誰よりもこのアインクラッドの事を愛しているし、この状況を一番楽しんでいると思うぜ。団長のロールにハマりすぎてて見てると偶に笑っちゃうんだよな」

 

「え?」

 

 シノンが足を止める。

 

「”血盟騎士団”のヒースクリフの話をしているのよね? あの超カタブツの。どっからどう見てもオッサンって姿じゃない」

 

「何言ってんだ、アイツはまだ二十代だぞ年齢」

 

「……え、うっそだぁ。あの老け顔で二十代? 冗談も止めなさいよ。あの顔で二十代とか言われたって信じられないわよ。というかエギルが年下って言われる様なものよそれ」

 

「ところがどっこい、俺とクラインの方が実はエギルよりも年上でした」

 

「またまた冗談を」

 

「いや、これが超真面目。俺とクラインが99年生まれ、エギルが02年生まれ。んでヒスクリが確か96年生まれ。だからヒスクリは確かに年上っちゃあ年上だけど別にオッサンって言えるほど年を食っちゃぁいねぇんだよなぁ。まだ三十手前だからギリギリお兄さんって言えるレベルだよ」

 

「うわぁ……嘘ぉ……えー……なんか久しぶりにショック受けたかも」

 

「……あの、ショック受けるのはいいけど僕、ムエンゴ?」

 

 一瞬だけ二人で揃えて視線をユウキへと向けるが、その瞬間にユウキが出現したエネミーの背後へとムーンサルトを決める様に斬りつけながら回り込み、そのまま回転する様に、踊るように刃を水平に薙ぎ払って胴を切断し、腕を斬り飛ばし、頭を切断する。無援護でいいだろうと、結論した所で再びシノンとのトークに戻る。

 

「というかエギルのやつ二十歳の時点で結婚して店持ちらしいんだよなぁー」

 

「それ、勝ち組すぎない?」

 

「あの、援護……」

 

 そのまま雑魚の掃討を完全にユウキに任せ、調査と雑談を続けながら遺跡の奥へと進んで行く。




 年齢を軽く調べるとクラインの方がエギルより年上で、茅場マンの年齢がまだ三十にもなってないんだよね。改めて二十代でSAO完成させたって考えるとアレは頭おかしいって領域に入ってるよなぁ。でも二十で結婚澄ませてお店を東京に持ってるエギルのリアル無双っぷりがヤバイ。

 迷う事無くギルティ。

 次回、ボス

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