「は~いみんな~♡ラヴミー、ラヴユー♡ラヴズオンリーユーで~す♡みんな~?見えてる~?」
普段は画面越しに聞いている定番の挨拶を、今はこうして肉眼で見ている。…やっぱり実物の方が良いな。
ファンコミュのみなには申し訳ないと思いつつ、こうして偶然得た特等席を今日は堪能しようと、仕事机から彼女を…俺の担当、ラヴズオンリーユーを眺める。
「『見えてるよ~』『今日もありがと~』うんうん、大丈夫そうだね」
時刻は18時過ぎ。普段の彼女なら寮でする配信。だが今日は…
「『今日は背景違うね』。うんうんやっぱり気づいちゃったか。そう、今日はトレーナー君のお家から配信してるの♡」
俺の家での配信になっていた。遡ること1時間ほど前。今日はトレーニングもオフだからと、最近学園からも推奨されているリモート出社で、家からほぼ出ず一日を終えそうになっていた頃。突然の来客が来た。
『やっほ~、トレーナーくん。来ちゃった♪』
舌をぺろりと出し、お茶目に笑うラヴズ。曰く、同室のクロノジェネシスがレースの解説番組に出ることが決まり、その資料制作や下調べのために部屋の足場がなくなってしまったそうだ。泊めてくれないか、とのお願いを流石に答える訳にはいかない。そう思いここに泊まったらどうかあそこに泊まったらどうかと押し問答の末、押し切られて今こうしている。
何分人が来るなんて思ってもおらず、仕事の資料があちこちに散乱していた為配信までの時間は大慌てで掃除をしていた。その甲斐あってか、配信のコメントでは部屋綺麗などお褒めの言葉を貰っている。
足元に目をやるとどうにもならず机の下につっこんだ資料の山が。…これは…下手したら印刷し直しかもな。配信の裏側をひた隠しにしながら、笑顔でカメラに向かって言葉を紡ぐラヴズを眺める。
「トレーナーくんも、おいでおいで」
嬉しそうに手招きするラヴズ。惚れた弱み…というと言い方が悪いが、推しのお願いを断れるファンはそうそういないだろう。書類に脚を取られかけながらもラヴズの隣に座る。
「ど、どうも~」
「トレーナーくんったら、ラヴズの配信なんだから~って最初は出ようとしなかったんだよ~?も~」
「いや、実際そうだし…」
コメント欄では『そんなことないぞ~』や『トレーナー特権楽しめ~』などとワイワイ盛り上がっている。…なんか最近…ファンメンの皆がやけに俺とラヴズの距離を縮めさせてきているような気がするが…気のせいか?
一瞬不思議そうな顔をするも、ラヴズはそれを読み取り少し強引めに進行をしてきた。
「はいっ!ということで今日はサプライズ企画。トレーナーくんがお料理をしてくれまーす♡」
「ん!?」
全く聞いていなかった。初耳の話を言われて思わず声が飛び出てしまう。第一、今日の本来の予定は格ゲー配信のはず…いや、確かに俺の家にそんな設備はない。出来ないからこうしたのだろう。聡い判断ではあるが…俺にも断りが欲しかった。
「格ゲー配信待ってた人たち、ごめんね。今日急にトレーナーくんのおうち泊まることになっちゃったからさ」
手を合わせ可愛く謝るラヴズ。それに『いいよ~。むしろトレ料理見たい!』や『お泊り!?仲良し~』と反応する面々。当然だ。俺たちは『格ゲー配信』が見たいのではなく、『ラヴズ』が見たいのだから、この程度なんとも思わないだろう。あとちょっと待て男の家に泊まることになんか言ってくれ。
というか…あれ?食材あったっけ?あり合わせで作ってもいいが…。
「『筋トレの参考にさせてもらいます!』だって~。ふふっ、期待していいかな?」
そうなるだろう。トレーナーのプライドにかけても、変なご飯を作る訳にはいかない。
「ラヴズ」
「ん?どうしたの?」
神妙な空気で言葉を切り出す。『告白か?』じゃないよ何期待してるのさ。
「食材、買ってきていいかな?」
______
「ん~美味し~♡」
「そりゃよかった!」
ダッシュでスーパーに走り、何とか食材を買い揃えて急ぎでなんとか料理を作った。メニューはラヴズ用のものがあるため問題はなかったが…何分調理の腕前が問題だ。男の一人暮らしでそんなに凝った料理をすることはない。盛り付けだって適当に済ませる。だって他人に見られることなんてないから。
当然、ラヴズにもコメントにも何度もツッコまれながらも完成した。
「でも、トレーナーくん…今日は一段と張り切って作ってるよね?」
見抜かれていた。まぁ…当然も当然だ。これまで何度か彼女に手料理を振舞う機会はあったが、こうして一汁三菜出して盛り付けまで映えるようにすることはなかった。…少し雑然としてるけどお好み焼きとかの色んな栄養一気に摂取できる系で済ませていたのだ。
それもこれも、今回の配信を通してみんなに見られているという意識が成していた。
「『これまでも食べていたんだ!』、そうそう~。トレーナーくん、たまにおねだりすると作ってくれるんだ~♪いつもはお好み焼きとかで~「わーちょっとっストップ!」
これ以上赤裸々な事情を暴露されるわけにもいかず、慌ててさえぎる。
「…ふふっ、恥ずかしがり屋さん♡『どっしり構えろ~』、そうだぞ~。私のトレーナーくんなんだから♡」
「みんな!?」
おかしい…本当に最近おかしい…。トレーナーとしてラヴズを担当するときなど、皆の後押しを感じる場面は多々あるが…ここまで悪ノリに近い後押しは無かった。今日は…本当にどうしたんだ…?
そんな困惑顔を浮かべているといつの間にやらラヴズはご飯を食べきっていた。
「うん!ごちそうさまでした♪」
「お粗末様でした」
彼女の笑顔に、切り替えて笑顔で迎えるとラヴズが手招きをしてくる。意図が分からず首を傾げていると、困った顔をしながらも彼女は言った。
「お~い~で♡」
どうしたいのかわからないが、言われるがままに距離を詰める。配信という都合上、元々近めの距離だがもう肩と肩が触れ合うくらいにまで近づいた。
一体これからどうするのか、そんな疑問を表情に浮かべていると彼女の手がこちらの頬を包む。深雪のような美しさとふっくらと優しい暖かさに彼女の
「ちゅっ…」
ちゅっ…?えっ?ん?今唇が…?ん?
「固まっちゃった…。ね、可愛いでしょ?私の
ちゅ?ん?き?す?
「『お幸せに!』ふふっ…皆、ありがとね♡みんなのラヴ、いっぱい感じたよ♡それじゃ、ラヴミー、ラヴユー♡ラヴズオンリーユーでした♡」
ラヴズシナリオトレウマ濃度が濃すぎる!!!
うまぴょいしましたよね?ねぇうまぴょいしましたよねぇ?!!
絶対幸せにしろよな;;;;(公式)
追記:ラヴズのトレーナー呼び方修正しました。俺を…殺せ…
トレーナー君→×
トレーナーくん→〇