見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第10話: 新しい営み、されど、繰り返された営み

 

 

 ──世界が変わってから、20年の月日が流れた。

 

 

 20年という月日を掛けてコインを貯め続けた私は、ついに『家』を購入した。

 

 その名を、『天空城』。

 

 名前のとおり、空に浮いている城……という体を取った自宅である。その広さは、東京ドームなんて比べ物にならないぐらいに……つまり、巨大である。

 

 燃料の必要はなく、半永久的に一定の高さに留まり続ける事が可能なだけでなく、宇宙にも出ることができる城である。

 

 ただ、城なのはあくまで外観だけで、私が寝泊まりしているプライベートスペースはめっちゃ近代的というか、快適な暮らしを堪能できる作りになっている。

 

 たとえば、寝台はめたくそに快適な睡眠を手助けしてくれる作りになっていて、そりゃあもう、人を駄目にするような感じになっていて。

 

 城の周囲には任意のバリアが張られており、365日24時間常に外敵から守られ、空気は常に澄みきっていて、前世界の頃には当たり前だった排気ガスなどで汚れた空気とは無縁である。

 

 外に出なくとも、自室にて360度全ての方向を確認可能、上下も可能で、最大望遠にすれば地球の反対側までもが確認できるという、とんでもねえ機能を備えた城だ。

 

 もちろん、防衛&攻撃機能もバッチリである。

 

 先ほどのバリアもそうだが、他にも光学迷彩によるカモフラージュ、特殊なエネルギー波を放出することで、近付いてくる者の感覚を狂わせて永遠にたどり着けないようにしている。

 

 中に入られても、当然ながら主である私を守るための様々なトラップが設置されており、単純に私が普段使いしている自室に行くだけでも、許可なくば無限に迷い続けてしまうような罠も設置されてる。

 

 そして、搭載している迎撃用の武器も、とんでもない。

 

 言うなれば、重力武器、というやつだ。着弾地点を中心に局所的な重力変動を引き起こし、あらゆる物体を地上に叩き落とす、最強のハエ落としである。

 

 これがまあ、非常に強力で……おかげで、天空城に移り住んでからは、それまであった『助けてください、天使様!』という名の突撃が無くなったのはとても……ん? 

 

 

 まだ、そんな人が居たのかって? 

 

 それがまあ、居たのだ。

 

 

 純粋な人間の数が減り、排除される者が減り始めたあたりで減ってはきていたが、それでも自宅に突撃してくる者は後を絶たなかった。

 

 私に縋ってもなんの意味もないし、見た目だけで私は天使などではないと、幾度となく話したというのに……まあ、仕方がないのだろう。

 

 私の都合など関係なく、彼ら彼女らからすれば、本当に最後の命綱……天より下ろされた蜘蛛の糸に見えていたのだろうから。

 

 だが、さすがに何時までも……それこそ、移動できるタイプの『家』を購入したとて、押し掛けてくる者が本当に無くなるとは、私自身思っていなかった。

 

 だからこそ、私は他の者たちよりも時間を掛けてコインを集め、購入する『家』を厳選し……その結果、私は空に自宅を移したのであった。

 

 実際、天空城を購入してしばらくは、地上より『天使様!』と突撃しようとしてくる者が多かった。

 

 天空城をカスタマイズして、迎撃機能を追加してようやく彼ら彼女らが諦めるまで、おおよそ1年の月日を必要としたぐらいと言えば、私の苦労もいくらか想像できるだろうか。

 

 

 そうして、20年……世界が変わってから、たった20年。されど、20年の月日が流れた。

 

 

 人類の歴史から考えると瞬きのように短い時間だが、この20年の間に……生活の変化は人々が想像していたよりも早く、圧倒的なまでに加速し、進み続け。

 

 その変化はもはや、いかに現実逃避を重ねた者でも、どうにもならない不可逆的な現実なのだと理解できるほどになっていた。

 

 あらゆる事柄、あらゆる仕事は全て『ストア』にて道具を揃えることから始まり、ダンジョン攻略以外の仕事は全て、趣味でしかなくなっていた。

 

 具体的には、もはや世界から『通貨』と呼ばれるモノが完全に玩具と同じ扱い、あるいは骨董品の一種でしかなくなく……世界から、一次産業という言葉が消えた。

 

 それも、致し方ない。

 

 元々、高騰し続ける飼料原料燃料への補助が不完全で、通貨の価値が右肩下がりなうえに、『ストア』の利用者が増える事はあっても減る事がなかったのだ。

 

 年老いていて、もはやそれ以外の生き方など考えられなかった老人世代ならともかく、まだ身体が動く若い世代が、『世界』から排除されるリスクを背負ってまで一次産業で働き続けるかと言えば、そんなわけもない。

 

 そして、老人世代も、土地を貸しているだけで実質的には何もしていない者は排除され、かといって、年齢的にも細々としか続けられず……気付けば、それは路地の水溜りのごとく、姿を消していった。

 

 そうなれば、辛うじて……本当に辛うじて資産を食いつぶしながらも生き延びていた一部の者たちは、嫌でも選択するしかなくて……その結果、前世界で使用されていた通貨は全てゴミになったのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 それに伴う形で、ついに、人類史において、『世界が変わる』ことに匹敵する、決定的な出来事が起こってしまった。

 

 それは──人類の絶滅で……いや、正確には、『種族変更』によって、純粋な人間が地上から居なくなり……結果的に、『種族:人間』が絶滅したのだ。

 

 そう、もはや地上に、『種族:人間』は1人として……まあ、そうなるのも悲しいかな、致し方ない話ではある。

 

 なんでかって、とにかく『種族:人間』は弱すぎるのだ。

 

 例えるなら初期ジョブみたいなもの。遅かれ早かれ起こる事だと思われていたが、誰しもが想定していた以上に速く、その時は訪れてしまったのである。

 

 

 ──とはいえ、その事を嘆く者は、そう多くはなかった。

 

 

 なんでかって、既に種族変更を終えた者たちは例外なく新しい日常を送ることに精一杯であり、今更ソレを嘆く者など残ってはいなかったからだ。

 

 実際、新しい種族になった者の中には夫婦となり、子を成して、家庭を築き始めている者がチラホラ現れ始めている。

 

 そう、既に、世界はそういう段階になっていた。

 

 『種族:エルフ』同士が集まってコミュニティを築き、カップルが、夫婦が、そして、エルフの赤子が誕生し、人間という種族を映像でしか知らない者が現れ始めているように。

 

 様々な種族の者たちが、同じ種族同士が集まってコミュニティを形成し、それが男女であるならば、自然と、どの種族も同じ道を辿り。

 

 そうでない者でも、『種族:サキュバス』に成った者や、サキュバスの能力を得た者との間で、緩やかに交流は続き……どちらかの種族の子供、あるいは両方の性質を少しずつ得た新しい種族が生まれたり。

 

 そしてそれは、天使と誤解される『蓮廉太郎』の数少ない友人たちである、『チーム・パワー』の人達……マッスルさんたちもまた、例外ではない。

 

 時の流れは、あらゆる事柄を過去に押し流してゆく。

 

 始めは異性に対して警戒心を隠しきれなかった彼らも、1人、また1人、少しずつ信用するようになり……そして、夫婦になり、子が生まれるのも、自然の流れなのだろう。

 

 

 ……とはいえ、だ。

 

 

 当初は、マッスルさんたちだけではない。

 

 誰も彼もが、子を作れば必然的にダンジョン攻略を行える者が減るので、『世界』から排除される危険性を考えていた。

 

 そう、可能性は、二つあった。

 

 一つは、有無を言わさず機械的に損失した分のノルマを番相手に課して、達成できなければ両方とも排除してしまう……というもの。

 

 もう一つは、脆弱である人間同士で増えるのは許容しなくとも、種族変更を行って強化された新たな種族による自然繁殖ならば、『世界』も許容するのではないか、というもの。

 

 どうなるかは、実際にその時にならねば分からない。

 

 残念ながら、『世界の声』を聞く手段を持った種族は未だ現れておらず、20年が経ってもまだ、それが許されるかどうかを手探りで調べるしかない状態だったのだ。

 

 だから、最初のうちは誰も彼もが最悪の可能性を恐れていた……が、しかし、生物としての本能は、時に恐れを上回る。

 

 一組、また一組、共に排除されるのを覚悟して……そうして、1人、また1人、何事も無く新たな子供が生まれ、その後も排除されないままでいるのを見て。

 

 

 それからの変化は、早かった。

 

 

 なんとも現金な話と言われたらそれまでだが、そうなるのも致し方ないことであった。

 

 何故ならば、世界が変わってから今に至るまで、失われてゆく光景ばかり目にしていた。

 

 人が減ることはあっても、増えることは一度もない。物質は増えても、命が増えることが一度としてなかった。

 

 誰も彼もがその事には触れなかったが、心の奥底では……誰しもが怯えていたのだろう。

 

 そんな中で、新たに生まれた命が……何もかもがまっさらな赤子を目にした者たちの心に、どのような変化をもたらしたのか。

 

 それは、お腹を膨らました女性の姿が次々に街中で見掛けるようになったのが、全ての答えで。

 

 たった20年……そう、たった20年しか経っていないけど、人間ではなくなった新たな人類は、それまでの人類と同じく、新たな日常を、これまでと同じ営みを、繰り返すのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そんな中で、私はというと、だ。

 

 

「……『世界が変わってから20年と124日目。今日、新たにエルフの赤子が誕生したのを目撃した。とても小さく愛らしく、世界が変わる前後の騒動など何も知らない命がまた一つ、この地上に芽吹いた……』」

 

 

 天空城を自宅にした後も、相変わらず、それまでと同じ生活を繰り返していたのだが……一つだけ、趣味が生まれていた。

 

 それは、『日記を記す』、というものだ。

 

 なにせ、私は種族変更を行う前から、天涯孤独の日常を送っていた、何も持っていない人間であった。

 

 誰からも必要とされなかった人間で、その事を苦にも思わなかった。そもそも、己はそういう意味でも社会不適合な人間だとも思っていた。

 

 そして、今の姿に種族変更をした事で、そういった欲求も以前より小さくなった。

 

 男を見ても、女を見ても、どうしてか、そういう欲求を覚えたことがない。男だった時のムラッとくる感覚も、女体であるからこそのモヤモヤっとした感覚も、ない。

 

 何度か、コレはアカンのではと危機感を抱いて自分の身体を意識して慰めた事もあったが……それでも、根本的な部分は一つも変わらなかった。

 

 なんと言い表せば良いのか……もしかしたら、コレはこの身体の特性、種族としての特徴なのかもしれないと、私はそう己を納得させたのは、少し前である。

 

 この、種族としての特性というのは、けっこう早い段階から蝋色と噂されていた事である。

 

 たとえば、『(オーガ)』はその体格に見合うだけの食事を例外なく必要とし、また、痛みなどに関して非常に強い耐性があるというもの。

 

 これは、『チーム・パワー』の証言もあって、すぐに事実であることがわかった。

 

 なにせ、モンスターの攻撃を受けて骨折しても、『痛いけど、普通に我慢できる』といった様子で、冷や汗一つ流さなかったのだから、それはもう分かり易かった。

 

 他には、『エルフ』は全体的に味覚が変化し、あまり肉を好まず、野菜や果物などが主食になったというもの。

 

 三食ステーキでも良いと豪語するぐらい肉が好きだった者が、エルフに成った後は『一週間に1回……いや、二週間に1回だけでいいかな』というぐらいに食の好みが変化した者も少なくなかった。

 

 同様に、『種族:ドワーフ』を選んだものは、毎日どころか毎食に酒が無ければどうにもヤル気が出なくなったという者や。

 

『身体の何処かが常に水に触れていないとイライラしてくる』と零した、『種族:人魚』 に変更した者など。

 

 私の場合は性欲全般だが、とにかく、そういう欲求が以前に比べて自覚できるぐらいに薄くなっていて……だからこそ、私は代わりに記録を残すことにした。

 

 世界が変わる前から、自分が末代だというのは察していたが……実際に、その時から20年も月日が経てば、色々と思う事がでてくる。

 

 ましてや、知り合いの人達は次々に家庭を築いていて、たまに情報収集がてら街の方へ向かえば、そりゃあもう子供を連れた女性の多いこと、多いこと。

 

 

 ぶっちゃけてしまえば、気まずい事この上ない。

 

 

 幸いにも今の私の見た目は20年前と変わらず、雰囲気もちょっと他とは違うおかげで、不審者として排除されることはないが……でもまあ、場違い感覚が半端無いのだ。

 

 おかげで、最近はあまり地上に降りず、もっぱら上空から人々の日常を観察しては、私自身の感想と共に光景を記録として残す……というのが、ダンジョン攻略以外でのルーチンになっていた。

 

 

(……か、悲しいかな、それでも私自身は特に苦に思えないのが……私、本当に根っからの社会不適合者なんだな……)

 

 

 味方を変えたら、究極のぼっち、なのかもしれないが……それもまあ、しょうがないかと思える己を自覚してしまい、今日も私は苦笑しながら、日記を綴るのであった。

 

 

 

 

 

 




※ 悲報・主人公いまだ独り身
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