見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第11話: ちょっと温くなったけど外で食べるヌードルは美味いのだ

 

 

 世界が変わってから、気付けば100年もの月日が流れていた。

 

 

 そう、気付けばそれだけの月日が流れていた。

 

 その事に彼女が気付けたのは、何気なく日記の冒頭に『世界が変わってから100年と12日目』という文字を記した時であった。

 

 最初、彼女はその事に気付けなかった。

 

 ただ、100という数字に違和感を覚え、それを12回書いていることに思い至り……そこでようやく、100年の月日の経過に気付いたのであった。

 

 

 誇張でもなんでもなく、本当に気付けなかった。

 

 

 それどころか、『もう100年も経っていたの!?』という感覚と、『そういえば、100年も経っていたわ!』という感じの、別の方向で驚きの声をあげたぐらいであった。

 

 なんで、そうなったのか……それはひとえに、地上に降りる機会が以前よりもはるかに少なくなっていたからだ。

 

 そう、数十年前から徐々に減ってきていたが、最近はもう出不精を通り越して引きこもりに入るぐらいに、地上に降りていなかった。

 

 なにせ、前回降りた日は何時かと調べてみたら、記載されていたのが6年前なのだ……己のあまりな時間間隔に、彼女はしばし言葉を失くしたぐらいであった。

 

 

 ……なんで、降りなくなったのか。

 

 

 考えてみた彼女だが、答えはすぐに出た。

 

 単純に、知り合いが居なくなったからだ。

 

 

 以前から種族によって多少なり寿命の差が生じるのではという疑念があったが、世界が変わってから50年の月日が経つ頃、それはもう明確になっていた。

 

 なんでかって、彼女自身の見た目がまったく変わっていなかったからだ。

 

 知り合いの『チーム・パワー』はみな頬に皺が出ていて、『人間』よりも緩やかではあるが、当初に比べて老いを感じさせることがあまりに多くなっていた

 

 彼らだけではない。彼ら以外の知り合いもまた同様で、中には既に亡くなっている者すらいた。

 

 そう、種族変更を行ったところで、定めからは逃れられない。ある程度の差こそ生じるが、必ず寿命が訪れる。

 

 戦えなくなった時点で『排除』される可能性を考えていたが、どうやら、寿命による死亡ならば、『世界』は見逃すようで。

 

 そのおかげか、以前に比べて、明らかに『排除』される者が激減していて……いや、違う、話が逸れた。

 

 とにかく、ただでさえ彼女はその見た目から、あまり人前に出る事を良しとはせず、天空城を購入したぐらいだ。

 

 必然的に、知り合いが亡くなれば、その関係者(家族など)との付き合いも途絶える。ましてや、子供となんて、顔すら合わせたことがない者だっている。

 

 世界が変わってから50年の時点ですら、そうだったのだ。

 

 そこから更に50年……つまり、100年もの流れたのであれば、彼女の知り合いなど一人も居なくなって当たり前であった。

 

 

「そうか、もうそんなに……」

 

 

 これもまた、種族による影響なのかは彼女自身にも分からなかったが……不思議と、冷静に時の流れを受け入れていた。

 

 悲しいし、寂しいし、辛いという感覚はある。

 

 けれども、どこか悲しくはないし、寂しくもないし、辛くもない。どうしてか、相反する感覚が彼女の中にはあった。

 

 どう、言い表せば良いのか……強いて当てはめるならば、そう、それは、生生流転(せいせいるてん)生死流転(しょうじるてん)の気持ちが近しいのかもしれない。

 

 どんな生き物であろうが、命はいずれ尽きる。それは遅いか、早いか、それだけの違いでしかない。

 

 等しく生きて、等しく死んでいく。どれだけの栄華を極めたところで、いずれは滅びる。そこに、違いは無いのだ。

 

 己はこうして生きているが、それはまだその時が訪れていないだけであり、有り方が少しばかり変わっただけでしかない。

 

 考えれば考える程、そう思うばかりで……なんとなくだが、あまりに1人で居過ぎたからなのかもしれない……そう、彼女は思った。

 

 

(でもなあ……正直、今更地上に降りてもなあ……)

 

 

 天空城という、『家』の中では破格の性能を誇るだけでなく、外敵や災害とは無縁で、内部には様々な設備があり、生活は完全にここだけで完結していた。

 

 天空城のように、同じ位置で浮遊し続ける足場が無ければ行けないダンジョンをほとんど独占状態にしているおかげで、余計に地上に降りる理由が無い。

 

 しかも、それらのダンジョン……こう、とてもちょうど良いのだ。

 

 何がって、現在の彼女の強さに。つまり、『ストア』にて彼女自身が自身を強化すると、それに合わせてある程度はモンスターの強さも上昇するのだ。

 

 おかげで、ルーチンワーク的な飽きが来ない。

 

 倒しても倒しても、次の日には新たなダンジョンが形成されていることもあり、私はもう暇さえあればダンジョンに突撃して、ずっこんばっこんとモンスターたちを叩き殺し、コアを破壊し続けたのであった。

 

 

 ……客観的に、あるいは、常識的に考えれば、モンスターの強さが上がるなんて話は、それはけして良い事ではないだろう。

 

 

 けれども、彼女にとって、それは良い事であった。

 

 元々、彼女は今の姿になる前から、誰かと一緒に行動するのを得意とはしていなかった。

 

 だから、彼女は己が生きていくために、とにかく貯金的な感覚で他者よりも先んじてモンスターを倒す必要があると考えていた。

 

 ナニカ起こった時、助けてくれる周りが居ないからだ。

 

 大切な人も居ないし、誰かに大切にされているわけでもない。だから、何時死んでも、それが己の天命だと思っていた。

 

 なので、彼女にとって、『ダンジョン攻略』は仕事であり、趣味であり、死ぬまでの暇潰し……そういう感覚でしかなく。

 

 傍から見れば狂人にしか見えなくとも、彼女にとっては、自動的に難易度が調整され、何時まで経っても歯ごたえを感じ……まあ、そんなわけで、だ。

 

 何をするにしても、全てが天空城(と、天空城から歩いて行けるダンジョン)で完結してしまうのだ。

 

 しかも、実は天空城には、数百km先を自由自在に見通せる、特殊な望遠鏡が設置されており……上から覗くだけなら、部屋から出る必要すらないわけで。

 

 最近はあまり見なくなっていたが、それでも、まったく使っていないわけではない。

 

 昔ならまだしも、今はもう知り合いだって大半が死んでいるし、普通に忘れられている可能性だって高い……そんな中で、性質的にボッチ気質な彼女が果たして、1人で行くかと言えば、である。

 

 

(でもまあ、このままず~っと引きこもっているのはあまりに……)

 

 

 さすがに、何時ぞやの『助けてください、天使様!』みたいな人たちはもういなくなっているだろうが……う~ん。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しばし考えた彼女は、そのままうんうんと考えて……そうして、ようやく。

 

 

「……ヨシ、行こう!!」

 

 

 地上に降りる事を決断した時にはもう、日が暮れていた。

 

 その時、彼女は改めて(うわっ、マジで時間の感覚がヤバいかも……)と思い知ったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、まあ、そんな流れで地上に降り立ったわけだが……もちろん、いきなり街中に降りたわけではない。

 

 前にそうやって降りた時は、それはもう大騒ぎになってしまった。蜂の巣を突いたというのは言い過ぎだが、それはもうワチャワチャな感じだった。

 

 『チーム・パワー』を始めとして、大勢の人達からも『あんなの来たら驚くに決まっているだろ!!』と怒られてしまってからは、降りる時は場所を選んで降りることにした。

 

 あれから数十年の月日が経っているけど、それでも、無駄に驚かせる趣味はないので、今回もちゃんと気を付ける。

 

 まあ、気を付けるとは言っても、特に複雑な事をするわけではない。

 

 肉眼では確認できないぐらいの上空にて天空城を待機させたうえで、天空城のトラクタービームにて地上に降りるのだ。

 

 やろうと思えば単身でも降りることは可能だが……コレは、アレだ、エレベーターと階段みたいなやつだ。

 

 5階ぐらいまで怪談で降りるのも良いかなって思えるけど、10階建てなら、降りようと思えば降りられるけど、エレベーター……と考える、アレと同じ。

 

 トラクタービームを使って降りる時は、降りる場所を考えなければならないが……それでも、単身で降りるよりは楽である。

 

 

 ……さて、そんなわけで、だ。

 

 

 さっそく降りるわけだが、既に降りる場所は決めてある。

 

 以前、『次からはここで降りろ!』と怒られて決めた場所であり、街からは遠いけど、誰かの迷惑にはならない……平原の一角が、降臨地点である。

 

 

(……あれ? なんか風景がけっこう変わっているような……気のせいか?)

 

 

 世界が変わる前と違い、『ストア』の『家』でパッと住居を用意できるので、景色が変わるぐらいは普通だが……それにしては、範囲が妙に広いというか……??? 

 

 

 まあ、とりあえずは、だ。

 

 

 人の気配はおろか、動物が周辺に居ないのを確認してから、トラクタービームにて地上に降りる。

 

 天空城のトラクタービームは、とにかく安全性だけはピカイチなのだが……作動中はとにかく眩しく、夜に使うと近所迷惑どころではない眩しさなので、日中でしか使えない。

 

 どれぐらい眩しいかって、夜に使うと、いきなり昼間に変わったぐらいに……で、だ。

 

 地上へと降り立った私は、念のため、トラクタービームに巻き込まれた者が居ないのを調べてから……改めて、記憶を頼りに最寄りの街へと──向かおうと、思ったわけだが。

 

 

 ……これ、石碑か? 

 

 

 なんでそう思ったのかって、その『石碑?』らしき物体は、石碑と呼ぶには妙に薄汚れているうえに、風化してボロボロになっているのが遠目にも分かったからだ。

 

 はて、前の時には、そんなものなど有っただろうか? 

 

 色々と記憶を探ってみるも、見当たらず……仕方なく、いや、とりあえず……駆け寄って、確認する。

 

 

「……『新世界歴271年天使降臨の地』? え、もしかして、この石碑って私のため?」

 

 

 そんなもの設置するだなんて話、あったっけ? 

 

 降りる場所とタイミングを気を付けろと怒られたぐらいで、わざわざ石碑を用意するだなんて話は……いや、そもそも、新世界歴とはなんぞ? 

 

 意味が分からなかった私は、とりあえず、石碑を後にして……記憶を頼りに、最寄りの街へと向かったのであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………その結果。

 

 

「街が、無い!?」

 

 

 まさか、最寄りの街すら無くなっているとは、さすがの私も想定しておらず、困惑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 ──そう、街が無かった。

 

 

 いや、正確には、街が在った、そういう痕跡というか、『街の跡』はあって……具体的には廃墟というか、遺跡みたいな有様になっていた。

 

 そう、遺跡だ。

 

 辛うじて、建物らしき部分こそ残されてはいるが、それだけ。どの建物も途中から崩壊して無くなっていたり、あるいは、瓦礫に変わっていたり。

 

 例外なく、全てが自然の中に呑み込まれている。

 

 アスファルトがあった痕跡はあるが、どこもかしこもバキバキにひび割れ砕けていて、その下の地面が剥き出しになっていて、なんならアスファルトが無くなっている部分の方が多い。

 

 

(い、いったい何が……)

 

 

 一夜にして木々が超発達して、街を呑み込んだ……いや、そういうようには見えない。そう見るには、あまりに人工物の風化が激し過ぎる。

 

 しかたなく……私は、変わり果てた街の中を進む。

 

 なんとなく……いや、気のせいかもしれないが、どこか見覚えがあるかもしれない感覚を覚えながらも、いちおうは誰か居ないかを確認するため、声を出しながら進む。

 

 当たり前と言えば当たり前だが、返事はない。せいぜい、声に警戒して、動物などが逃げて行く時の物音ぐらいで。

 

 それ以外では、風の音ぐらいしかしない。君の悪さを覚えるぐらいに、静かだ。

 

 当てはないので、しばらく街中を歩き回る。

 

 傍から見たら、遺跡の中をウロチョロしている不審人物だが……しかし、浦島太郎みたいな気持ちになっている彼女としては、むしろ不審人物扱いあれても良いから、誰か事情を知っている者と遭遇したい気持ちでいっぱいだった。

 

 

 ……そんな感じで、だ。

 

 

 結局、日が暮れるまでウロチョロしつつ……人っ子一人見付けられなかったので、仕方なく、そのまま野宿をすることにした。

 

 天空城に戻ることはできるが、まだ誰も見付けていないうえに、ここがどうしてこうなったのか、その手がかりすら見付けていな──ん? 

 

 

 ──なら、城に戻ってから望遠鏡で人の居る街を探せば良くないかって? 

 

 

 それはまあ、そうなのだが……なんとなくだが、城に戻るとこう、やる気を失くして、そのまま次回に……ってなりそうな気がするから、できないのだ。

 

 例えるなら、家に帰ったら○○しようと意気込んでいても、いざ家に帰って気が付くと、『ああ、もう寝る時間だ、○○する時間がない』となってしまう、アレだ。

 

 今の姿になった影響なのか、どうにも、以前に比べて気が長くなっているというか、時間に対してルーズになっているような気がしてならない。

 

 それは日常生活においても変わらず、ボケーッとお茶を飲んでいたら日が暮れていた……なんてことも、最近では珍しくなくなっていた。

 

 だから、戻るにしても、よほどこの場所を調べ尽くしてから……と、私は決めたわけで。

 

 

「……なんだろう、キャンプってこんな気持ちなのかな、ちょっとワクワクするなぁ……」

 

 

 『ストア』にて購入したキャンプセット一式にて、火と明かりを用意し、テントを設置して、食事を取る。

 

 私は既にいくつもの『家』を所有しているが、こういう時にはテントが一番だ。ここで『家』を設置したら、雰囲気がぶち壊しである。

 

 なので、今回食べるご飯も、カップヌードル(カレー)。

 

 世界が変わってから、それまでは当たり前に購入出来た商品は全て無くなった。

 

 しかし、どういうわけか、会社が無くなって生産すらされていない商品を、『ストア』にて購入が可能となっている。

 

 いったいどういう原理なのかはさっぱり不明だが……気にしたところで答えなど分かるわけがないし、難しく考えるだけ無駄というものだ。

 

 まあ、わざわざコインを出してカップヌードルを買う者は、今となっては少数だろう。なにせ、別に安いわけではないのだから。

 

 むしろ、貴重なコインをそのために使う物は希少なぐらいで……私とて、こういう場でなかったら、気が向かない限りは選択肢の一つに挙げることすらなかっただろう。

 

 

 ……さて、そんな事をつらつらと考えている間に、お湯が沸いた。

 

 

 う~ん、作るのも久しぶりだなあ。

 

 そう思いつつ、何十年ぶりかもしれない作業に、懐かしさを覚えつつ……さて、後は3分待つだけだ……と、思った、その時だった。

 

 

「──っ?」

 

 

 気配を……人ではない。

 

 すっかり日が暮れて真っ暗になった廃墟の中。

 

 焚き火と明かりの二つでも届かない、暗がりの向こうより……ヌルリと姿を見せたのは……緑色の肌をした、小人であった。

 

 全体的なフォルムは人型。頭部が有って、両手が有って、両足が有って、二足歩行。毛髪は無く、ブラブラと……下半身に、体格にしては大きめな男性器が露わになっている。

 

 それは──なんと、モンスターであった。

 

 見間違いでも、勘違いでもない。

 

 何故ならば、私は数えきれないほどダンジョンでそいつらと戦った経験があったし、一度に何万体という数を潰し殺した事もあったから……が、そんな事よりも、だ。

 

 

「……モンスターが、なんでこっちの世界に?」

 

 

 本来ならば、ダンジョン内にしか出現しないはずのソレが出てきていることに、私は思わず目を見開き……それから、とある可能性に思い至った。

 

 それは、私が以前より……いや、当初より危惧していた、起こるかもしれないと思っていた最悪の可能性。

 

 

(まさか……でも、いや、そうとしか考えられない)

 

 

 その可能性とは、『『世界』からのランクが下がる』というもので。

 

 ハッキリ述べるなら、格付けが下がったのだ。

 

 何時からそうなったのかは分からないが、モンスターがこっちの世界(つまり、地球に)にまで出てきているということは、だ。

 

 つまり、その分だけ『世界』はリソースを割くのを止めたということで……と、なれば。

 

 

「……地上の人達、どうなっているの???」

 

 

 いったい、何が起こったのか。私が引きこもっている間に、いったい何が? 

 

 新たな謎が生まれると同時に、私は瞬時に近寄って来たモンスターたちをハンマーで叩き潰し……ひとまず、駆除をするのであった。

 

 

 

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