見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第12話: 世界「やれ」 主人公「はい……」

 

 

 ──改めて、説明しよう。

 

 

 『ダンジョン』というモノを簡潔に説明するなら、『世界が負った傷口』である。当然、『世界』とて、すぐに傷を塞ごうとする。

 

 しかし、それができない状態にあった。

 

 何故ならば、その最深部に傷口の修復を妨げる『核』が設置されてしまうからで、これを破壊しない限り傷口は塞がらない。

 

 モンスターは、その傷口にばら撒かれたガーディアン。傷口が塞がるのを防ぐ役目を持っており、『核』を守る存在。

 

 そして、人間(だけではないけど)は、傷の修復を妨げる『核』を破壊する役目を与えられた存在である。

 

 つまり、役目を果たそうとしない者など、『世界』にとって害悪でしかなく、リソースを無駄に食いつぶすだけの存在でしかないわけだ。

 

 でも、役目を果たそうとしているならば、『世界』はより多くのリソースを割り振るようになる。

 

 その代表例なのが、『コイン』である。

 

 より勤めを果たした者に対して、相応の褒美を与える。

 

 『世界』は理不尽で無慈悲ではあるが、そのやり方は非情なまでに結果が全てであり、人の屁理屈など欠片も通じない存在である。

 

 そんな存在だからこそ、『リソースの無駄遣いである』と判断されてしまえば、どれだけ長く貢献したところで結果は同じ。

 

 人間だって、同じだ。

 

 何十年と健康を支えてきた臓器でも、いざ役に立たないとなれば移植を考えるし、自らを支えてくれた臓器に殉じる者などいない。

 

 実際に居たとするならば、そいつはよほどの例外を除いて狂人の類だろう。

 

 極々少数、切り取られた臓器に名残惜しさを覚える者がいたとしても、戻って来てほしいなどとは考えない。

 

 

 それは、『世界』とて同じ事。

 

 

 ましてや、『世界』にとって、己の内に生きている者たちは臓器ですらない。なんか、気付いたら発生して増殖している細胞の一つでしかない。

 

『世界』にとって、己の内にある存在なんぞ、その程度の感覚なのだ。多少なり愛着がある個体が居るにしても、同じだろう。

 

 なので、とりあえずは周辺のモンスターを根こそぎ叩き殺した彼女が、まず思ったのは、だ。

 

 ──『世界』が、侵食して来た他の宇宙に食われて負けかけているのでは……という可能性であった。

 

 何故ならば、モンスターが外に出ているからだ。

 

 つまり、傷口が長く放置され、いよいよ出血が起こっているのに、対処されずそのままが続いている……というわけだ。

 

 全体から見れば微々たるモノでも、さすがに何時までも『世界』は放置しない。

 

 人間に例えるなら、ちょっとした擦り傷ぐらいは放置するにしても、いつまでも血が滲み続けていたら、さすがに手当てをしようとする……といった感じだ。

 

 速やかに対処せよと命令を下すだろうし、それを無視した結果がどうなるかはもう、誰もが身に染みて理解しているから、すぐにでも動き出すはずだ。

 

 でも、そうなっていない。

 

 これもまあ人間に例えるなら、何時までも血が出続けているのに手当てをせず放置し続けた結果、ついに滴り落ちるまでになってもまだ……といった感じだが、しかし、だ。

 

 『世界』が負けかけているという可能性は極めて低いだろう……と、すぐに彼女はその推測を否定した。

 

 

 ──何故ならば、もしも本当に『世界』が敗北しかけているなら、宇宙はこんなに平穏ではないからだ。

 

 

 質量が無いのに重力が変動したり、水が燃えたり(比喩ではなく)、太陽光を浴びたところが絶対零度になったり……あらゆる法則が、法則ではなくなってしまう。

 

 人体に例えるなら、バイタルが異常な動きを示している状態だ。

 

 人間だって、生命維持に関わるような異常が起こった時の変化は様々だ。

 

 体温が上がる場合もあれば、下がる場合もある。

 

 血圧が跳ね上がる時もあれば、下がり過ぎる時もある。

 

 心臓の動きだって、規則正しくはなくなる。

 

 全身に激痛が走る場合もあれば、逆に感覚が失われてゆく場合もあるだろう。

 

『世界』だって、同じ事である。

 

 死に瀕しようとしているのだから、これまでどおりになっているわけがない。むしろ、何も起きていない方がはるかに不気味な気持ちにさせられた。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………とりあえずは、だ。

 

 

 一旦、キャンプは取り止めで──いや、キャンプの気持ちになっていただけで、キャンプが目的ではないのだけど、とにかく、中止である。

 

 あまりにも、想定外な自体だ。

 

 急いで、天空城を呼び寄せる。

 

 以前の約束で、使うタイミングや場所を考えろとなっていたが、さすがに安全だと思っていた場所にモンスターが出現しているような状況で、そんな事を言っている場合ではない。

 

 天空城より放たれたトラクタービーム……それはまるで、天より降り注ぐ光の柱。

 

 その眩しさは、思わず手で視界を遮るほどで、夜の中で使おうものなら、下手したら山向こうからも確認できてしまうぐらいで。

 

 そうして、天空城へと戻った彼女は、安堵の溜め息をこぼした。

 

 以前に比べて強くなったとはいえ、安全が確立されていない場所での野営は、あまりにも精神的な負担が大きい。

 

 さきほどのキャンプ感覚だって、まさか地上にモンスターが現れているなんて想像すらしていなかったからで……仮にそれを知っていたら、彼女は日が暮れた段階で天空城に戻っていただろう。

 

 なにせ、彼女は1人である。

 

 ダンジョン内において怪我で動けないというのは、=死である。

 

 モンスターは一切の容赦なく機械的に殺しにかかってくるから、誇張ではない。その感覚だから、負傷する可能性に対して彼女は極めて敏感であった。

 

 

「……地上に降りるのは止めよう。とりあえず、空から得られるだけの情報を得てからだ」

 

 

 そして、負傷することに敏感だということは、アクシデントに対しても非常に臆病であり、基本的に何事に対しても慎重に動くということ。

 

 そう、彼女の強みは、1人であることだ。

 

 1人だから、こうと決めてからの動きが速い。総合的に見たらチームで動く方が強いし有利なのだが、初動に関してはソロである彼女の方が圧倒的に速い。

 

 加えて、彼女は長年に渡って1人での行動が当たり前だったこともあり、決断してからの行動は実に素早かった。

 

 望遠鏡のように遠くから眺めるだけで、効率性はあまり良くないが……それでも、記憶を頼りに主要な都市(と、呼べるほどではないけど)が有った方角へと天空城を動かし。

 

 

 それから、しばらくの間……ゆっくりと、だ。

 

 

 あまり速度が出ない(飛行機に比べて)ので、時間は掛かったが……それでも、ちゃんと調べてからでないと安心できない。

 

 なにせ、事があそこだけで終わっているかどうかすら、分からないのだ。

 

 最良は、あの場所だけの異変。最悪は、地上全て……下手したら、海中も土中も……この星全域に及んでいる場合。

 

 それが分かるか分からないかだけで、地上の安全性はガラリと変わる……だから、調べる、徹底的に。

 

 言うなれば、ローラー作戦のように、あるいはリンゴの皮向きのように、北から南へとぐるぐるぐるぐる、と。

 

 何百週、何千週、何万週……時間を掛けてでも、彼女は何度も何度も地球を回り続け……そして、結論を出した。

 

 

「……どうやら、モンスターの出現は地上全域に及んでいるとみて間違いない」

 

 

 そして、同時に……分かってしまった事が一つ。

 

 

「……モンスター以外の姿はどこにもなかった」

 

 

 それは、地上に……この星にはもう、彼女を除いて知的生命体が1人として居ないという、信じ難い現実であった。

 

 そう、本当に、どこを探しても他人の気配が、生活の営み、その気配がまったく見られない。

 

 あるのは、廃墟だけ。

 

 倒壊して森に飲まれている町があれば、焼け広がって廃棄されたかのような街もあれば、遺跡のような、辛うじてソコにナニカがあった……と感じさせるような程度の場所もある。

 

 けれども、人の気配が無い。かつて、数こそ減りはしたものの、再び数が増え始めていた……あの頃の活気を感じさせる場所が、一つも無かった。

 

 これは……いったい、どういうことなのだろうか? 

 

 『世界』が敗れたのだとしたら、今頃己も生きてはいないだろう。かといって、地上の者たちが他の星へ……いやいや、そんな無駄な事を『世界』は許容しないだろう。

 

 何故ならば、そんな無駄な事に労力を費やせるほど、人間たちは『世界』に貢献していないからだ。

 

 

 ……あくまでも、これは彼女の推測でしかないのだが、彼女はその推測は当たっているだろうと思っている。

 

 

 そう、この宇宙全域を対象にした貢献ランキングを考えたら、地球の人間なんて、下から数えた方が早い……そんな位置でしかない。

 

 例えるなら、普段の行いだ。

 

 学業の成績も良く、問題らしい問題を起こしてない子供に対しては、周りの目も優しくなるのと同じ。

 

 成績が悪く、そのうえ不真面目で、やる事をやらず、それどころか、成績優秀者のクラスへ『俺も手伝ってやるぜ!』だなんて感じで勝手に入れば、どうなるか。

 

 考えるまでもなく、他の星へ向かおうとした時点で『排除』である。

 

 それどころか、そのために行動していた者、協力した者たちもまとめて『排除』され、下手したら一気に大勢の者が巻き込まれ……だが、しかし。

 

 

(……ナニカをしようとして、大勢の人達を巻き込んだ? いや、でも、それでもせいぜい数十人ぐらい……)

 

 

 人類全員が協力するような話なら、いくらなんでも鈍い彼女でも気付く。

 

 けれども、彼女が知る限り、そのような行動の予兆すら……だが、さすがに人類(もう、純粋な人間は居ないけど)が1人も居ないとなれば、それ以外の原因が考えられない。

 

 あるいは、この星の人達全員がダンジョンに入って敗北したか……う~ん、ベターな可能性としては、否定しきれないが……とりあえずは、だ。

 

 

「……人が居ないのは分かった。次は、なにかしらの記録が残っていないか廃墟を──」

 

 

 そこまで、誰に言うでもなく今後の方針を呟いていた──その時であった。

 

 

 

『──この星唯一の者に告げる──』

 

 

 

 前回が何時頃だったのか、上手く思い出せないぐらいの昔に聞こえて来たのを最後に、それっきりだった……『世界』からの声が彼女の頭の中に響いたのは。

 

 

 

『──かつてこの星に栄えていた者たち、潰えたり──』

 

『──幾度の忠告、その都度、都合よく扱われる──』

 

『──今よりこの星の周期にて9191年前にて、致命的な同士討ち起こり──』

 

『──その結果、この星において、たった今、汝を除いて知性ある最後の命尽きたり──』

 

『──戦い決した、我の勝利なり──』

 

『──しかし、敵もまた強大であった──』

 

『──やつの残した異物、我の中に残り──』

 

『──今は傷を癒す時──』

 

『──我の中にある異物を除去すべし──』

 

『──汝に使命を与える──』

 

『──この星に、命を増やすべし──』

 

『──傷を癒すために、戦士を増やすべし──』

 

『──そのための権能を与える──』

 

『──汝の手で、戦力を増やすべし──』

 

『──この星唯一の、正しき選択をした者よ──』

 

『──戦いの時、終わりけり──』

 

 

 

 そして、これまでと同じく、声は一方的なモノで……有無を言わさず、一方的に『世界』からの気配は遠ざかり──その、直後。

 

 

 

 バチン!! っと。

 

 

 

 何処からともなく出現した、稲妻にも似た光が彼女の脳天に落ちた。天空城の中だとか、そんなのは関係なかったようで。

 

 その衝撃は言葉では言い表せられるものではない。痛みは無いが、とにかくスゴイとしか言い表しようがなく。

 

 一瞬ばかり、彼女は誇張抜きで意識が飛んで……倒れなかったのは、たまたま体幹を『ストア』にて鍛えていたおかげであった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………そうして、だ。

 

 ハッと我に返った彼女は、しばしの間、自分の身に起こった今しがたの衝撃に目を瞬かせた後。

 

 

「…………」

 

 

 無言のままに、彼女は己の『ストア』を開く。

 

 それ自体は、いつもと同じ感覚で使用できたのだが……問題は、その先というか、表示された画面の上部にあった。

 

 

『ストア(管理者権限:一部受託)』

 

 

 それは、これまでとは明らかに異なる『ストア』の表示であり……嫌な予感を覚えた彼女は、そのまま商品のラインナップを確認し──

 

 

『大地:浄化する』

 

『空:浄化する』

 

『海:浄化する(要・最優先)』

 

『生物:(他を浄化してからの方が効率的です)』

 

 

 ──等々など。

 

 明らかに、これまでのラインナップとは違う……それどころか、個人の力量では、そもそも、個人の範疇ではどうにもならない、圧倒的な規模の拡大を前にして。

 

 

「……え、無茶ぶりにも程がない???」

 

 

 本当に、久しぶりに……彼女は、心からそんな泣き言を零したのであった。

 

 

 






チュートリアル編・終わり
待った無しのシムシティ、ある意味、46億年物語
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