見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第14話: 逆だったかもしれねぇ……

 

 

 

 ──改めて言う事ではないかもしれないが、彼女は『種族変更』を行う前から、基本的には無頓着で協調性が薄い頑固者である。

 

 

 あくまでも『仕事上』で『メリット』があるからこそ他者と協力するが、それも天秤に掛けて『自分一人でやった方が気楽』だと判断してしまえば、その時点ですぐに切り替えられる人間である。

 

 はっきり言ってしまえば、彼女は社会性が欠けている人間(もう人間ではないけど)である。

 

 見返りがあるから我慢はするが、見返りが無ければ何もしない。

 

 自分が嫌だと思った事は見返りが無ければ絶対にしたくないし、それで周りが困る事になろうが知った事ではないと本気で思っている。

 

 誰かと仲良くなる事だって、煩わしい。

 

 明確なメリットがあるならともかく、そこまででもなければ、それ以上に踏み込むつもりはまったくない。

 

 優しくされたから優しくするだけで、誰かに対して優しくあろうと思った事なんて、まだ両親が存命だった時ぐらいだ。

 

 俺が本当に苦しんでいた時には何もしてこなかったお前たちのために、なんで俺が苦しまなければならないんだ……という過去の想いでも関係している。

 

 なので、『ストア』にて『海:浄化する(要・最優先)』という表示があったとしても、彼女はあまり深く考えず……『大地』の方を先に選んだ。

 

 

 選んだ理由に、深い意味はない。

 

 

 ただ、天空城から降り立った場所が大地の上であり、海上に降りたことがなくて、目に留まるのが地上の光景ばかりだったからだ。

 

 そりゃあ、天空城のような『家』を持っている者ならともかく、ほとんどの人は大地の上に『家』を建てているわけで。

 

 上から見下ろす海上は、キラキラ太陽の日差しが反射して綺麗に見えたせいであり……言うなれば、先にやるか後にやるか、その程度の認識でしかなかった。

 

 

 ……『最優先』の文字は見ていなかったのかって? 

 

 

 忘れてはいけない、彼女は色々考えるのが面倒だからと『種族変更』を、それはもう雑にも程があるやり方で運否天賦に任せて選んだ人物だ。

 

 『家』を選ぶのだって、『コレが良い!』と決めたからといって、20年も貯蓄し続けて購入するほどに初志貫徹……悪い言い方をすれば、頑固者である。

 

 そんな彼女だから、心の中でコレと決めた時点で、もう他の事は目に入っていない。

 

 『大地:浄化』をタップしているその横で、『最優先』の文字がペカペカと点滅していたけど、彼女は気にも留めず『ストア』を閉じたのである。

 

 そりゃあ、事が終わった『世界』から、『おまえ、ちょっと周りに無関心過ぎ、逆に非効率(要約)』って怒られるわけだ。

 

 まあ、それでも、争いに参加せず黙々と役目をこなしてはいたので、差し引いても+の評価に落ち着いていたのかもしれないが……で、だ。

 

 

「……? モンスターの種類が変わった?」

 

 

 話は変わるが、いつものようにすっかり慣れ親しんだダンジョンへと入った彼女だが、いつもとは違う状況に思わず足を止めた。

 

 

 理由は、二つ。一つは、景色が違っていたこと。

 

 

 これまでのダンジョンは、あくまでも一本道であり、広さなど違いはあっても通路という認識が持てる空間だった。

 

 しかし、今回のソレは通路には思えない。

 

 はるか彼方に見える山脈や、見渡す限り広がっている草原に、これまでのダンジョンではほとんど感じなかった風の動き……大地や空の臭いが嗅ぎ取れた。

 

 これは、これまで起こらなかった変化である。

 

 地上っぽく思えるような時はあっても、空気というか、気配というか、外の世界とは隔絶した場所、ダンジョンであるとすぐに察せられる……そういう空間だったから。

 

 

 そして、二つ目はモンスターの姿が変わった事。

 

 

 これまで彼女が相手にしてきたモンスターは、一目で『怪物(モンスター)』と分かる造形をしていた。

 

 もちろん、中には人間っぽい造形をしている個体も居たが、それは極々稀のこと。

 

 また、見かけでは人間っぽい造形でも、うまく言葉にはできないが、一目で『あ、こいつは生き物じゃないな』と分かる違いがあった。

 

 見た目だけで、中身は理性も知性もない、定められて作られた完全な怪物(モンスター)であるのが察せられたから、忌避感や嫌悪感などもほとんどなかった。

 

 しかし、この時に現れたモンスターは……なんと言えば良いのか。

 

 人間に近しい姿というか、人の形をしているというか……いや、そういったモンスターは過去にも居たけど、そこじゃない。

 

 こう、具体的には……知性生命体の気配を感じさせたというか……うん、というか、本当の意味で、人間に似た生命体にしか見えなかった。

 

 ……っ! ……っ! ……っ! 

 

 ……っ! ……っ! ……っ! 

 

 実際、それを証明するかのように、新種のモンスターたちは……会話と思われし鳴き声というか、コミュニケーションを取っていると思われる行動が確認できた。

 

 これもまた、これまでになかった変化である。

 

 モンスターの中には鳴き声を発する個体が居たけど、それはあくまでも威嚇やダメージを受けて思わずといった感じで、意思疎通を取っている様子は見られなかった。

 

 

 ……そのうえ、動きもまた、これまでのモンスターとは違う。

 

 

 明らかに、動きに知性的な連携が見て取れる。

 

 これまで相手にしてきたモンスターは、偶発的に連携のような形になった事はあっても、意図的にそうされたり、そうしているようには見えなかった。

 

 けれども、今回遭遇するモンスターは違う。

 

 彼女と目が合っても、即座に威嚇しながら近付いてくる……なんて事はない。

 

 互いが得意の距離を自覚しているようで、常に一方的に攻撃できる位置、あるいは、情報を探ろうとしているのが肌身に感じられた。

 

 そして、何よりも……武器などの扱い方が違った。

 

 これまでのモンスターの中には、武器(の、ような物も含めて)を扱う個体もいた。珍しいが、珍しいだけで、たまには遭遇するタイプのモンスターだった。

 

 しかし、今回現れるモンスターは……扱うのではなく、操るといった感じで……まあ、つまり、ぶっちゃけてしまうなら。

 

 

(もしかして、この人たち、こっちを侵略してきた宇宙の……)

 

 

 と、彼女は思ったわけである。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、だからといって。

 

 

「強いじゃん!! ナニコレ、本当に強いジャン!!!」

 

 

 彼女は欠片の容赦をしなかったし、無我夢中でハンマーを振り回し続けた。

 

 何故なら、これまで戦ってきたモンスターたちとは桁違いに強かったからだ。

 

 これまでだいたいの相手はハンマー一発で仕留めてこられたが、こいつらはしぶとい。耐えるだけでなく、中にはわざとふっとばされて衝撃を逃すやつもいる。

 

 そのうえ、炎や電撃を放ってきたり、手足を叩き潰しても不思議なナニカで傷を治して戦線に復帰してきたり、陣形を組んで巧みに翻弄しようとしてきたり、それはもうやり辛いことこの上ない。

 

 どうしても、一回の戦闘が長丁場になりやすいのだ。

 

 上手に脳天から叩き潰して即死させられたら楽なのだが、だいたいのやつは防御の動きが速く、大怪我を負わせられても即死まではもっていけない、

 

 回復を行えるやつを先に潰せば楽なのだが、そういうやつはだいたい後方に居るので、結局は全員潰してから最後に潰す……という流れになるしかなかった。

 

 ……まあ、そのかわり、得られるコインがこれまでとは比べ物にならないぐらいに高かったから、良かったのだけど。

 

 おかげで、『ストア』にて、以前より気になってはいたけど手が伸びなかった、新たな装備や道具を購入することができた。

 

 なんで手が伸びなかったのか……それらは、性能こそ桁違いに高いが、その分だけ料金も高すぎたからだ。

 

 以前は、そこまでしなくても十分な余裕があったし、天空城よりも値が張るので、『いざという時に……』と、躊躇していたが……てなわけで、である。

 

 あと、叩き潰したモンスターは最初こそあたりに色々と飛び散るけど、すぐに光の粒子になって消えてくれるから、洗濯などの手間が無いのは非常にありがたかった。

 

 今後の事を考えたら、彼女はとにかくコインが欲しい。

 

 今はまだ余裕があるけど、『浄化』の時みたいにべらぼうなコインを要求されたら、あっという間に貯蓄が底を尽いてしまう。

 

 だから、いちいち洗濯やら洗浄などで時間を取られてしまうのは煩わしい以外の何物でもなく……雑務を減らせて仕事に集中させてもらえるのは、有り難い話でもあった。

 

 

 ……新しく現れたモン……彼ら彼女らに忌避感や嫌悪感はなかったのかって? 

 

 

 残念ながら、それで手を止めてしまう程度ならとっくの昔に彼女は命を落としている。そして、そんな見え透いた善性など、彼女がもっとも嫌悪する事でもあった。

 

 何故ならば、いかに取り繕ったところで、この戦いは生存競争である。

 

 この場で彼女ができる善意なんてのは、極論のところ、自殺する以外何もない。あるいは、己の宇宙……すなわち、『世界』を討伐して盛大に自殺するしかないわけだ。

 

 結局は、自分の手を汚したくないから、自分の知らないところで死んでくれ、でも、『世界』さんは変わらず私の面倒を見てね……という話でしかないわけで。

 

 そういうのが嫌いな彼女からしたら、『自分が生きるために自分の手で命を奪う方がよほど誠実』という認識なわけで。

 

 それゆえに、むしろ『痛み無く葬ってあげる事こそが慈悲である』という認識になるのは自然な流れであり。

 

 結果、以前はハンマーで潰していたが、時を経るにつれて、新たに購入した武器……『天使の息吹』での一撃即死で済ませるようになっていた。

 

 

 ──『天使の息吹』とは、『ストア』にて手に入る、『特殊な反物質を利用した武器』である。

 

 

 手のひらに出現させた粒子(凝縮された特殊反物質)を、息を吹きかけることで指定した方向へ放つ武器であり、とにかくお高いと断言する武器である。

 

 どうして、高いのか……それは、この武器があまりに凶悪過ぎるからだ。

 

 なにせ『天使の息吹』を放たれたら最後、それを防ぐ手段(所有者である彼女を除いて)が非常に少ない。

 

 いかな強固な盾を持とうが、如何な分厚い装甲で覆ったとしても、この粒子を受けた場所は消滅し、そのまま相手を消滅させてしまう……という攻撃だからだ。

 

 はっきり言えば、当たればまず勝ち確定な攻撃なのだ。

 

 それこそ、『天使の息吹』のような反物質による防御、あるいは、法則そのものを操作する類の道具にてガードできなければ……というわけで。

 

 金が掛かっていそうな鎧に身を包んだ騎士も。

 

 なんか二つ名が付いてそうな剣を掲げた男も。

 

 全長が数十mはありそうな巨大なドラゴンも。

 

 賢者と名が付いてそうなひげモジャ爺さんも。

 

 彼女が、ふうっと息を吹きつけるように、『天使の息吹』を放てば……誰も彼もが例外なく、一瞬で致命傷を負って、あるいは即死した。

 

 ドラゴンのように巨体なモノはギリギリ即死を免れた(ただし、致命傷)が、それ以外の者は悲鳴一つあげることもできないまま決着した。

 

 おそらく、彼ら彼女らは自分が死ぬという自覚すらできないまま消滅したのだろう。

 

 なにせ、着弾した瞬間に消滅するのだ。

 

 痛みを認識した時にはもう頭部が消滅する直前で、ほとんどの者は表情すら変わらないまま……だから、なのかもしれないけど。

 

 

「待って、逃げないで、私のコイン……!!!」

 

 ……っ! ……っ! ……っ! 

 

 ……っ! ……っ! ……っ! 

 

 

 何時しか、誰も彼もが彼女の姿を目撃した途端、恐怖に顔を歪めて逃走するようになり、余計に時間を食うようになったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………さて、そんなこんなで、しばらく。

 

 

 大地の浄化が終わるまで23年間もあるのだから、とりあえず、当分はダンジョン内にて寝泊まりかな……という感覚で。

 

 とにかく、ず~っと戦い続け……そして、数にして7つ。

 

 それだけの数のダンジョン内のモンスターを殲滅したけど、どういうわけか『核』があまりにも見つからず。

 

 仕方なく次に、その次にと向かい、どこも念入りに探し回らないとモンスターを見付けられないぐらいにまで殲滅し終えて……ふと、我に返った彼女は、様子を見るために天空城へと戻った。

 

 

「……おお、フライパンでひっくり返されていたかのような大地が、すっかり静まり返っている……ようやく、終わったのかな?」

 

 

 なんとも、不思議な光景であった。

 

『浄化』と表記されていただけあって、地表にはもはや彼女の記憶にある物は何一つない。

 

 遺跡はおろか、大陸の形すら違って見える。まるで、耕されてふかふかになった花壇の土のような、そんな連想をさせるぐらいに違っていた。

 

 

 ──次は、海をやるか。

 

 

 なんとなく、寂しさを覚えた彼女は、何気なく『ストア』を開き……そして、ようやく気付いた。

 

 

『大地:浄化する(海の汚染により、再浄化が必要です。先に海を浄化しなさい)』

 

『空:浄化する(先に、海を浄化しなさい)』

 

『海:まずは浄化をするのです(要・最優先:先に海中の異物除去推奨)』

 

『生物:(まずは海を浄化して、他を済ませてからです)』

 

 

 なんか、一部表記がまた変わっていることに。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しばしの間、沈黙を続けた彼女は……おそるおそる、『海』の項目を開き、詳細を確認した。

 

 内容を簡潔にまとめるならば、だ。

 

 どうやら、海中にはまだ生き残りが居るらしい。

 

 しかも、ただ生き残ったわけではない。

 

 海中に……それも、汚染された海中の中で生き延びただけでなく、時を経て知性を手に入れるにまで進化した生き残り、のようだ。

 

 海を浄化する場合、この生き残りという名の異物を直接排除してからの方が、コイン消費も必要時間も少なくなるようだ。

 

 なんでかって、どうやら浄化をしようとすると、その異物たちが妨害に動くらしく、その分だけ消費等が増えるようなのだ。

 

 それなら、『世界』が消してくれたら……と思ったが、そこまで手を貸すほど、この星に対して価値を見出していないのだろう……やれやれ、仕方がない。

 

 

(……やるしかないか)

 

 

 一つ、溜め息をこぼした彼女は、天空城を動かし……その生き残りたちがいるであろう場所へと向かったのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………結果、その先にて。

 

 

「──今さら、今さらなんだってんだ!? この世界を浄化する!? この海を浄化するだって!?」

 

「ふざけるな! ふざけるなよ馬鹿野郎!」

 

「俺たちは、この汚れきった環境に適応して身体を作り変えながら進化してきたんだ! もう、俺たちはこの汚れた海以外では生きられないんだ!!」

 

「おまえに何の権利があって、この海を浄化する!?」

 

「ふざけるな……今さらノコノコ姿を見せやがって……おまえらが、この海を汚したのではないのか!?」

 

「さんざん勝手に汚して……今さら、この海を綺麗になんてさせねえぞ!!!」

 

 

 一つの種族を滅ぼすことになるのだが……それでも、彼女の考えは変わらないのであった。

 

 

 

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