見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第15話: なお、 ” ” ←側の『世界』は敗北し、『ストア』もありません

 

 

 

 

 創作などで使われる『人間が全ての元凶』という設定では、よく他の生物などが人間という種族に対して説教したり罵倒したりするといった場面がでたりするが、それはまあ典型的というか、人間=悪という認識を抱いているだけの話である。

 

 

 人間が全ての元凶? 

 

 そんなわけがない。

 

 

 他の生物が元凶にならないのは、単純にそれを成せるだけの『力』と『キッカケ』が無いだけである。

 

 その力があったならば、一切の良心の呵責なく実行する。

 

 熊が、『ここの作物を取ったら人間が困る』、『この鮭を殺したら卵が……』なんて考えるだろうか……当然、考えない。

 

 植物だって、同じ事だ。

 

 土壌や環境によって、元々あった植生を絶滅させた新しい植物が一面に広がっていた……なんてのは、よくある事なのだ。

 

 はたして、植物たちが他の植物を……当然、考えない。

 

 そこに原罪だとかなんだとかを持ち込むのは、人間だけが行えることであり、そこに罪を覚えるのもまた、人間だけなのだ。

 

 言い換えれば、むしろ、人間は地球上でもっとも他の生物を考えて動ける生き物なのである。

 

 

「──はあ、そうですか。では、せめて痛くないように仕留めましょう」

 

 

 そして、それを自覚出来ない時点で、その言葉が彼女に届くことはけしてないのである。

 

 なにせ……彼女の視点から見たら、『それだと、適応したおまえたち以外は絶滅しろってことじゃん?』にしかならないから。

 

 そう、全体を考えれば、彼女のやろうとしていることは間違いなく『善』であり、汚染された海に適応した者たちは『悪』になる。

 

 極論を言えば、物事の善と悪なんてのは『力』がある方が決めるわけで。

 

『世界』に文句を言うのが怖いから、元人間だった己に対してやつ当たりをされても、『うんうん、人間が悪いよね……じゃあ、殺るね?』でしかないわけだ。

 

 

「しゃらくせー!! 死ねぃ!!」

 

 

 しかし、殺される側からしたら堪ったものではないわけで。

 

 タツノオトシゴみたいな姿をしたそいつは、ブーっと口から黒い塊を発射した。

 

 それは、汚染物質を体内で凝縮した毒液である。

 

 特殊な粘液にてコーティングされたそれは石のように固く、着弾した瞬間に細かく破裂し、周囲を毒液で満たすというもの。

 

 この液体の毒性はすさまじく、クジラのような巨体な生き物でさえ、1滴分を摂取するだけで、致死レベルの細胞溶解からの出血・神経痛・ならびに細胞を死滅させる。

 

 当然、大きさにして1m半ばぐらいしかない彼女ならば、1滴どころか、霧状のそれが肌に触れただけでも致命的な死を与える……それほどの毒性であった。

 

 

 ──が、しかし。

 

 

 結局のところ、どれだけの殺傷性があったとしても、当たらなければ死には至らない。

 

 どれだけ貫通力のある弾丸だろうと当たらなければダメージにはならないし、爆弾だって、まったく別の場所を爆発したのであれば意味はない。

 

 それは、毒液とて同じで……残念ながら、彼女が常時張り続けている『不可視のバリア』にて、それらは全て防がれていた。

 

 このバリアは、『ストア』にて購入した超SF的なアレであり、特殊なバリアフィールドを形成することによって、装着した者を守る。

 

 しかも、このバリアは単純に盾としての役割だけでなく、自動的にバリア外の物質を変換して、バリア内を快適に保つ機能もある。

 

 つまり、このバリアを張りさえすれば、宇宙空間だろうが、水深何千mの深海だろうが、活火山のマグマ内だろうが、なんならブラックホールの中ですら、生存が可能なのである。

 

 しかも、内部にて彼女が汗を掻いたり熱を発しても、それを自動的に外へと通す優れ物。

 

 その証拠に、異臭と独特のぬめり(共に、汚染物質が原因)がある赤茶色の海水の中で、彼女は髪の毛一本、指先一つ濡れていない。

 

 外から見れば、まるで透明のカプセルの中に彼女が居る、といった感じだろうか。

 

 そのカプセルもといバリアの中は、とても快適である。

 

 汚染された海水からの悪臭は全て淡い花の香りに変換され、常に新鮮な空気に満たされ、彼女の位置に合わせて動く。

 

 だから、海流を操って深海に押し込もうとしても意味はなく、岩石などを投げつけてもノーダメージ……逆に、だ。

 

 

「……えいや」

 

 

 彼女の手より放たれるのは、有り体にいえば、『電気』である。

 

 ただし、出力が違う。

 

 単純な事実を語るならば、カミナリ数万発分のギガワット。

 

 

 当たり前だが、これもまた外に素通りしてしまうわけで……結果、何が起こったかと言うと──爆発である。

 

 

 それも、視界一面が真っ白になって、何が起こったのか彼女にも分からないぐらいの、大規模で。

 

 それは、色々な原因が重なった結果である。

 

 まず、膨大な電力。

 

 次に、汚染された海中内を漂う大小様々な汚染物質……物質的なゴミも同様。

 

 そして、このゴミの中には、様々な要因から内部に可燃性のガスが発生しているのもあって。

 

 その他様々な要因が重なった結果、海中にて強大な熱源……すなわち、水蒸気爆発が発生し、海の一部に空白を作るぐらいの大爆発が起こったのである。

 

 これにより、この星の海中に居た、『汚染された海に適応していた者』を含め、全てが絶滅した。

 

 比較的近い距離に居た者は、自分に何が起こったのかを理解する前に感電し、全身が瞬時に加熱され、全ての細胞が沸騰して破裂した。

 

 距離があった事で辛うじてそうならなかった者たちも、遅れてやってきた衝撃波……水蒸気爆発が生み出したソレを受けて、一切の例外なく体表も体内もゲル状になるまで押し潰され、即死した。

 

 空中とは違い、水中は衝撃波が弱まりにくい。そして、海上へ逃れる術をもっていないゆえに、誰も逃げることなどできなかった。

 

 

 ……そして、影響はそれだけに留まらなかった。

 

 

 なにせ、海の一部が空白になるぐらいの爆発である。

 

 当然ながら、発生した衝撃波はそいつらだけでなく、海底も大陸も削っては砕き、北極に自然発生した氷もまた粉々に砕いてゆく。

 

 影響は海上どころか陸地にも及ぶ。

 

 爆発で生まれた空白へ、重力を受けた海水が元の位置へ……すなわち、惑星規模の大津波と引き潮が発生するわけだ。

 

 また、爆発で巻き上がった海水の大半はそのまま海面に落ちたが、一部は細かい粒子となって大気に混ざり……結果、世界規模の異常気象を引き起こした。

 

 そうして、ようやくそれらが治まり、星に静けさが戻った頃には……なんということだろうか。

 

 そこに広がっていたのは、汚染物質が混じった海水やら何やらでぐちゃぐちゃになった、せっかく綺麗にしたはずの大地の姿であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………oh my god

 

 

 なんだかすごい事になっちゃったぞと、慌てて天空城に避難してから、しばらく。

 

 現実逃避も兼ねて、以前とは変わってしまったダンジョンへと潜り……恐る恐る戻ってきた彼女を出迎えたのが、そんな景色であった。

 

 

 これが……綺麗にした大地の姿か? 

 

 

 あんまりと言えば、あんまりな光景に、さすがの彼女も思わずその場で両手をついて落ち込む。

 

 だって、高かったのだ。『大地:浄化』の必要コイン数、本当に高かったのだ。

 

 なんとか出費分を稼ごうとダンジョンにて一生懸命頑張っていたけど、それでも、ふとした時に『……高かったよな』と思い返すぐらい、高かったのだ。

 

 それが、全部駄目になった。

 

 例えるなら、納車したばかりの新車を、その一週間後に廃車にしてしまった……おう、怖い怖い。

 

 

 ……これ、本当に安上がりだったのだろうか? 

 

 

 そんな疑問が彼女の脳裏を過ったが……安心してほしい。

 

 間違いなく、逆である。

 

 というか、深く考えずとんでもねえ攻撃をした彼女が悪いのであって、横着せずやっていたら、多少の時間は掛かるけど、安上がりで済んだのだ。

 

 ハッキリ言うなれば、『加減しろバカ!』、である。

 

 なんとか安くなりませんかね……と、『世界』に向かってお願いしてみるも、返答は無く……仕方なく、今度はちゃんと『海』から浄化を行っていくのであった。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………それから、また時は流れた。

 

 

 その間、彼女が何をしていたのかと言うと……いちいち勿体ぶることもないので言うが、ダンジョンでの金稼ぎである。

 

 なにせ、『ストア』は金《コイン》が無ければ始まらないのだ。

 

 そのためには、兎にも角にもダンジョンに入ってモンスターをぶっ殺してコインを稼ぐのが一番手っ取り早いのだ。

 

 というか、現状ではそれぐらいしかコインを稼ぐ方法がないわけで……結果、彼女は休んでいる時などを除けば、ず~っとダンジョンにて働きっぱなしであった。

 

 まあ、傍から見れば、だ。

 

 

 

 “──に、逃げろ! 破壊の天使だ! にぇ”

 

 “木々から離れろ! やつはカミナリをはびゃ”

 

「う~ん、最近のモンスターは、接敵する前から逃げ出しちゃうから追いかけるのが面倒だな……」

 

 

 

 上空より接近する、背中に翼を生やした6腕の女。地上よりあらゆる攻撃を放っても、それら全てが女に届くことはない。

 

 女を守る、不可視のバリアのせいだ。

 

 このバリアによって、あらゆる魔法、あらゆる弓矢は届かず、ドラゴンの灼熱の吐息が直撃しても意味を成さず、逆に例外なく接近したドラゴンは瞬殺された。

 

 それは、地上を逃げ惑う者たちとて同じである。

 

 

 

 “ひぃ! ひぃ! やだ! 死にたくない! しにたく”

 

 “頼みます! 頼みます! まだ死にた”

 

「待って、隠れるな、隠れたらコインの量が減るだろ……」

 

 

 

 どれだけ息を潜めて隠れたとて、彼女は感覚的に命ある者の位置を把握することができる。そして、『天使の息吹』の前ではどれだけ分厚いシェルターだろうと無意味である。

 

 地下深くで息を潜めていても、散り散りに逃げていても、死体の中に紛れて死んだふりをしていても……いや、散り散りに逃げられると、大変ではある。

 

『天使の息吹』は、基本的にそこまで広範囲かつ一度に大多数を想定した攻撃ではないし……カミナリ攻撃は燃費が悪いというか、燃料代が高いし。

 

 あと、普通にうるさいし眩しいので、実はあまり好きではなかったりする。

 

 で、まあ、逃げ惑う者たちを追いかけていると、たまに迎え撃とうとする者も出てくる。

 

 死を覚悟して武器を手にした者たちだが、結果は変わらず、ほとんどがその武器が届く前に『天使の息吹』によって消滅した。

 

 100の命を犠牲にしてようやく届いた1の攻撃も、バリアの前では動きを遅らせることすらできず……結局、わずか数秒の時間を稼ぐために、数万の命が無駄死にした。

 

 個人的には、これはこれで楽である。

 

 

 

 

 

 “やだー! ママぁ! パパぁ! ”

 

 “お願いします! どうかお願いします、この子たちだけは……”

 

「動かないでね……その方が痛くないし、その方が私としても楽だし」

 

 

 まあ、一番楽というか嬉しいのが、こちらから接近しなければならないが、その場にうずくまっているだけのモンスターだろう。

 

 時間こそ掛かるが、実質的に弾の代金が掛からないハンマーは財布の強い味方……いくら使っても経費が掛からないのは、有り難いのである。

 

 『天使の息吹』もそうだけど、一発撃つたびにチャリンチャリンと翼を生やしたコインが飛び去って行くような感覚がして……やっぱり、汗を流してなんぼというやつだろうか。

 

 そんなわけで、だ。

 

 来る日も来る日もダンジョンに潜っては、モンスターを皆殺しにし、『核』が見つからず、仕方なく別のダンジョンへ……そんあ日々を繰り返すのが、彼女の日常になっていた。

 

 

 

 

 

 ──そうして、ようやく全ての『浄化』を終えた頃。

 

 

 赤茶色で淀んだ空気もなければ。

 

 異臭とぬめりが酷い汚染物質だらけの海水もなく。

 

 大地に浸みこんでいたそれらも全て除去された。

 

 この星を、上空より見下ろした彼女は。

 

 

「……なんにもないじゃん!」

 

 

 思わず、彼女はそう叫んだのであった。

 

 そう、彼女が叫んでしまうのも、致し方ない光景である。

 

 何故ならば、本当に虚無の光景だからだ。

 

 大陸に広がっているのは、岩石やらボロボロに乾燥した地表だけ……なんでそうなっているのか、それは微生物などが全て死滅しているからである。

 

 というのも、一般的に『土』と呼ばれているモノは、岩石が風化して出来た……という単純な代物ではない。

 

 何百万、何千万、何億という月日の中で、粘土や動植物の死骸や落ち葉などが分解され、その過程で生まれた物質や微生物のサイクル……その果てが、『土』なのである。

 

 『海水』もまた、同じである。

 

 一般的には真水と違って塩分が入っている……という程度の認識だが、実体は少し違う。

 

 単純に塩分濃度が高いだけではない。

 

 長い年月を掛けて溶け込んだカルシウムや鉄やマグネシウムやカリウム、酸素や二酸化炭素などのガスなど、多くの成分が絶妙なバランスで混ざり合っている、天然の水溶液である。

 

 『大気』の成分だって、とても絶妙なバランスであり……つまりは、当たり前のように存在しているそれらは、途方もない年月を掛けて蓄積されて構成された環境なのだ。

 

 しかし、彼女の眼前に広がっている光景は、彼女が知るかつての光景ではない。

 

 地表には緑はなく、乾燥した大地が広がっているだけで、ともすれば砂漠だったり荒野だったりで、お世辞にも植物が広がって行く環境には見えない。

 

 海もまた同様で。

 

 見たままを語るならば、それはもう『海水』ではなく、『淡水』である。実際、指で掬って舐めてみたら、なんの味もしなかった。

 

 どうやら、汚染物質と一緒に除去されてしまったようで、海水だった頃では見えなかった、かなり深い場所まで目視で確認することができた。

 

 そして、大気もまた、汚染物質と同じく色々とまとめて除去されてしまったのか……なんだろう、とても乾燥しているようであった。

 

 

「……えっと?」

 

 

 とりあえず、困った時は『ストア』である。

 

 一旦、天空城へと戻る。とりあえず、なにかが起こっても天空城ならば宇宙にだって逃げ──というか、上空高く雲の上まで退避させる。

 

 

『大地:浄化の必要はありません(生物だぞ)』

 

『空:浄化の必要はありません(生物だからな)』

 

『海:浄化の必要はありません(生物を押せ)』

 

『生物:生命誕生プロトコル発動(ここだぞ)』

 

 

 不思議なことに、とても『生物』の項目が淡く点滅していた。

 

 他にも変化が無いのかとスクロールしても、どういうわけか勝手に画面を戻され、『生物』の項目へと移動される。

 

 

(……これを選べってことなのだろうか?)

 

 

 それはそれとして、気になるので何度も何度もスクロールをするが、そのたび戻され……終いには『生物:生命誕生プロトコル発動(はよ押せ)』という文字に変わったので。

 

 とりあえず、押してみるか。

 

 幸いにも、コインは足りている。

 

 いや、それでも、こういう場面でなければしばらく悩んでしまうぐらいで……しかし、結局のところ逆らえるわけがないので、彼女はポチッと押したのであった。

 

 

 ──瞬間、カッと眼下の雲海が光った。

 

 

 それは、まさしく雷の連打であった。

 

『大地』や『海』や『大気』を浄化した時もそうだったが、やはり、規模は惑星全体に及ぶわけで。

 

 

「……さすがに働きすぎ、ちょっと休憩しよう」

 

 

 天空城の資質は防音ばっちりなおかげで、特に騒がしいことはなく……すやーっと、ベッドにて寝息を立てたのであった。

 

 

 

 

 






※ “ ”の中身に関して、彼女は何も知りません。なんか騒いでいるな、その程度です。
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