見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第16話: その時、歴史が動いた(ガチ)

 

 

 

 起きた時、久しぶりにぐっすり眠った感覚を覚えた。

 

 

 基本的に私は眠りが浅い方らしく、疲れている時以外はけっこうな頻度で夜中に1度起床する。

 

 それは今の身体になった時でも変わらず、言い換えれば、ぐっすり眠ったと思えた日の寝起き具合は、いつも大変よろしい感じであった。

 

 そして、それは今回も同様であった。

 

 人によっては、深く寝入った時の朝は起きるのが辛い場合もあるだろうが、私にとっては、深く眠った時ほど起きた時にすがすがしさを覚えるタイプである。

 

 気持ち良く眠れたと思える時は、その分だけ気分も良い。

 

 グッと6本の腕を広げて筋を伸ばせば、合わせて背中の翼もピクピクと震える。普段は意識しないが、こうするとちゃんと感覚が繋がっているのが分かる。

 

 

 ……で、だ。

 

 

 それから、自室の隣にある直通のシャワールームにて、しっかりと入浴を終え、身嗜みを整えた私は、それからゆっくりと食事を取る。

 

 あ、その前に、『ストア』で買った花瓶に『ストア』で購入した花を活けるのは忘れない。

 

 この身体になる前は『ながら作業』での食事が基本だったが、世界が変わってからはテレビを点けたところで、ダンジョンだとか教育番組ばかりで。

 

 テレビ放送が無くなってからは、ボケーッと外を見ながら食べるようになっていて……ここ最近では、活けた花をボケーッと眺めながら食事を取るのが流れになっていた。

 

 景色を眺めても良いのだけど、景色は別に食事中以外でも見られるわけだし……食事中ぐらいは、普段は見慣れないモノを眺めておきたいものだ。

 

 

 ただ、これには欠点がある。

 

 

 それは、食事中に何回も水を入れ替える必要があるし、花も枯れるので、何百回、何千回以上も替えなければならない。

 

 なんでかって、とにかくいっぱい食べるからで、食べ終わるまでちょっと時間が掛かってしまうからだ。

 

 まあ、その度に種類が違う花を活けるので、結果的には色々な花が見られるというメリットがあるけど……で、だ。

 

 私の朝は、基本的にクロワッサンとコーヒーから始まる。

 

 どのようなクロワッサンにするか、どの豆を使ったコーヒーにするか、そこにサラダなどを追加するか、それはその時の気分で変わるが、クロワッサンとコーヒーだけはセットである。

 

 

「……今日のクロワッサン、美味しいなあ」

 

 

 そして、目覚めが良い朝は不思議とお腹も空く。

 

 いつもなら、だいたい30000個ぐらいでちょうどよいのだが、深く寝入った時の朝は、倍では足りない到底足りないぐらいにお腹が空く。

 

 おそらく、種族としての特性なのだろう。

 

 どれぐらいの量になるのかはその時によるが、だいたい500~1000万個ぐらいでお腹いっぱいになる。

 

 そんな量が胃袋に入るわけがないだろうという疑問が出てくると思うが、これがまあ不思議な話で、お腹が破裂するなんてこともない。

 

 また、途中で食べるのに飽きることもない。お腹が空いているという感覚はあるから。

 

 黙々と、ボケーッとしたまま、ただひたすらに『ストア』で購入したクロワッサンを平らげ、合間にコーヒー等で喉を潤して、再びクロワッサン……これの繰り返しである。

 

 昔は途中でちょっと怖くなったこともあったが、腹八分目とかにすると、必ずどこかでお腹が空いてしまうので、最近では気にせず満腹まで食べるようにしている。

 

 我ながら、どんな胃袋と食欲をしているのだろうか。

 

 食べても食べても、別に体内の消化器がグルングルン動いている感じはしないし、腹が物理的に膨らむ気配すらない。

 

 明らかに、私自身の体積よりも大きな量を摂取しているというのに、だ。ちなみに、うん○だって、最後にしたのが何時だったのか思い出せないぐらい昔である。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………で、だ。

 

 

 お腹いっぱいになるまで食べ終えた私は、よっこらせと食後の運動……というか、ストレッチを行うのがルーチンになっている。

 

 なにせ、腕が6本もあるので、ちゃんとストレッチしないとつってしまう時があるから。

 

 回復力が高いので症状はすぐに治まるが、痛いものは痛い。

 

 なんとも不思議な話だが、外からの攻撃に対しては強固なこの肉体、肩こりとか腰痛とかは普通に起こるから、けして粗末にして良いわけでない。

 

 もう遠い昔の話だが、伊達に社会人をやっていたわけではない。肩こりもそうだが、慢性化してからでは遅いのだ……早めのケアが大事である。

 

 そうして、一通りのストレッチを終えて、最後に鏡を見てキッチリ身嗜みが整っているのを確認してから……ヨシ、と気を引き締めた私は、地上の具合を確認することにした。

 

 たしか、寝る前に『生物:生命誕生プロトコル発動』というのを『ストア』より行った記憶がある。

 

 雷が連続してピカピカ光り、雷鳴がドッカンどっかんとしていたので、慌てて避難して……という流れだった。

 

 おそらく時間が掛かる(そういえば、確認していなかったな……)し、色々と疲れを覚えたので一眠りして……で、今だ。

 

 

(そういえば、外が光っていないなあ……雷は一晩ぐらいか?)

 

 

 大して進んでいないだろうし、でも、『ストア』でのやることだから、もしかしたら小さな小魚とか生まれているかも。

 

 そんな思いで、自室に設置してある望遠鏡にて、ヨイショと地上を見下ろし……直後、言葉を失くした。

 

 

 何故ならば……そこには、居たのだ。

 

 何がって、猿が。

 

 いや、それを『猿』と呼ぶのが正しいのかは、分からない。

 

 

 とりあえず、記憶にあるぼやっとしたオランウータンよりはデカい気がする。毛むくじゃらでそれっぽいのが、なんか地上でウロウロしているのが見えた。

 

 いや、というか、ウロウロしているというか、これは『群れ』……ううん、この場合は、群れというよりは集落、か? 

 

 家というか、太い枝を蔓のような植物で縛って繋いだだけの、辛うじて雨風を防げるだけみたいな……そんなのがポツポツある場所に、11体の猿の姿が確認できる。

 

 場所は森の中……ではなく、そこから少しばかり離れたところの草原地帯。おそらく、縄張り争いで負けてしまった末に、こうなったのだろう。

 

 あと、デカい。やっぱり、デカい。

 

 やっぱり、オランウータンよりデカいのではなかろうか……と、なれば、アレか……もしかして、類人猿とか、そういうやつなのだろう? 

 

 

(さすがは『ストア』だ……たった一晩でそこまで進むのか……)

 

 

 これには、私もけっこう驚いた。

 

 あまりにも信じ難い現象だが、『ストア』のやる事だし、事実は事実のままに受け入れるのが一番である。

 

 

 ……ただ、まあ、それはそれとして、だ。

 

 

 しばしの間、何をするでもなくジーッと地上を見下ろしていた私だが……一つ、違和感に気付く。

 

 それは、どうにも彼らの様子が変だということに。

 

 今の時刻は分からないが、太陽が昇った昼間であり、活動するには申し分ない時間帯のはず……なのに、動いているのが4人だけだ。

 

 あとは、雨避けの下で横になっているだけだ。つまり、半数以上が何もしてない……これ、大丈夫なのだろうか? 

 

 

(周辺に……う~ん、食料となるモノが何もない……これ、本当に大丈夫なのか? 水辺すら、ちょっと距離があるぞ)

 

 

 動いている4人も、その動きはけして俊敏とは言い難い。

 

 どこか、のそ……のそ……っとした覇気のない動きであり、なんとも言えない……あ、1人倒れた。

 

 けれども、動いている他の3人は助けに動こうとしない。同じく、のそ……のそ……っとなんか動き回っているだけで、それ自体にも目的を察せられ……あ、また1人。

 

 

(……もしかして、なにかしらの伝染病でも?)

 

 

 そんな嫌な予感を覚えた私は、そのまま望遠鏡を動かして周辺を探り……嫌な予感が的中したことに、思わず私は仰け反った。

 

 いったい何が見えたのかというと……それは、いくつもの群れが全滅しているという、衝撃的な光景であった。

 

 群れの人数に違いはあるが、見える光景はだいたい同じ。木々の陰だったり、作った雨避けの下で息絶えていたり、なんなら日差しに晒されたやつもいた。

 

 見た目に変化が無くとも死んでいるのが分かるやつは、マシな方だ。

 

 おそらく獣に食われたのか、バラバラになった死体が散乱しているところもあれば、放置されてハエだらけ、黒い塊になっている者もいた。

 

 

 ……決まりだ。やはり、伝染病が蔓延している可能性が高い。

 

 

 稀な話だが、常食されているモノが突然毒性を帯びるというパターンもあるけど……さすがに、ここまで広範囲に影響が及ぶとなると……っと。

 

 グルグルグルと望遠鏡を動かしていたら、まだけっこうな生き残りが確認出来る群れを見つけた。

 

 それは、どうやら洞窟を根城にした群れのようで、外に出ている者だけでも、これまで見てきたどの群れよりも多かった。

 

 だが……それでも、感染はしてしまっているようで。

 

 おそらくは見張りと思われる者たちだが、とても辛そうにしているのが望遠鏡越しにも分かる。

 

 なにせ、半数がその場に座り込んでいて、もう半数は横になったまま動けなくなっているようで……う~ん……もしかして、インフルエンザとかそういう類か? 

 

 

「……ヨシ、せっかく発見した類人猿だ……縄張り争いで死ぬならともかく、病でくたばるのは可哀想だし、助けよう」

 

 

 そう、誰に言うでもなく告げた私は、トラクタービームにて……その洞窟の傍へと降り立つために移動を開始するのであった。

 

 

 

 

 

 ────────────────

 

 

 

 

 

「こんにちは、皆さまいかがお過ごしでしょうか。平成も終わり、令和の時代になったのが、昨日の事のように感じるのは、私が歳を取ったからなのかもしれませんね」

 

「本日より始まります『―永劫の時を生き続ける天使―』では、この地球が歩んできた歴史、『天使』の話を視聴者の皆様方にも分かりますようお伝えする番組です」

 

「現在の教科書にも記載されておりますが、人類の歩みは西暦より遡り、約××万年前というのが、もっとも有力視されている節でござます」

 

「というのも、現在の人類は、○○○年前に出現した説と、約××年前に出現した説、この二つがあるからです」

 

「どちらも間違っているわけではありません」

 

「本当にそれが真実なのかどうかを知るには、それこそタイムマシンに乗って直接確認するしかありません」

 

「あくまでも、有力視されているだけ」

 

「恐竜を例えしてみましょう」

 

「恐竜として一般の方にも有名なティラノサウルスですが、少し前までは爬虫類のような体表をしているというのが通説でしたが、最新の研究ですと、それは違うのではないかという説が出てきております」

 

「爬虫類のようなツルリとした体表ではなく、鳥のように羽毛を生やしているのではないか……という説です」

 

「もちろん、思い付きで考えたのではなく、ちゃんと様々な理由があってその説があります」

 

「どうです、不思議でしょう?」

 

「他にも、皆さまも一度は教科書などで見たり聞いたり勉強したりの有名な語呂合わせ、鎌倉幕府の設立の年」

 

「いい国(1192年)作ろう鎌倉幕府」

 

「ですが、近年ではこれが誤り……という言い方は少々誤解を招きますが、直近の教科書では1185年に訂正されています」

 

「鎌倉幕府が設立したのは源頼朝が征夷大将軍になった年ではなく、認可された年である1185年が幕府設立の年ではないか……という説です」

 

「これも、根拠はあります。また、同じく歴史の教科書などで一度は目にした事がある人が多いと思われます、『士農工商』という言葉」

 

「実は、一番上の『士』、つまり武士以外の身分は有って無いようなぐらいに違いがなかったのではという説が有力視され、現在では教科書から除外されている言葉です」

 

「このように、どれだけ有力視され、常識だとされている事でも、ある時を境にひっくり返り、間違っていたとされる……それが、歴史であります」

 

「つまり、この番組で放送される内容も、あくまでも現時点で有力視されている話であり、必ずしも正解ではない……というのをご理解いただければ、幸いです」

 

「……さて、それでは始めましょう、『天使』の事について……えーっと、こちらのホワイトボードを見てください」

 

 

 

『── 天使とは? ──』

 

 

 

「はい、最初の議題になりますが、これがまあ、難題でありますよね(笑)」

 

「と、言いますのも、まず大前提として、人類は『天使』と称される存在が、実際に何者なのかを一度として確認した事がないからです」

 

「現在でも、目撃例はあるのですが……残念ながら、直接コンタクトを取れた事例は一度としてありません」

 

「世界中、あらゆる場所にて、『天使』の痕跡、成した奇跡はいくつも確認されているのですが……さて、話を戻しまして、『天使とは?』なにか」

 

「ずばり、現在もっとも有力視されているのは、その名のとおり、『神に近しい存在である』、という説です」

 

「これにも、もちろん根拠はあります」

 

「まず、『天使』の存在が確認されたのは、今より最低でも10万年以上も前とされており、記録として壁画が残されています」

 

「……はい、これです。おそらくCGが表示されていると思いますが、これが世界的にも有名な『ランシャレ洞窟の天使画』です」

 

「世界遺産として登録され、研究以外では極々限られた者にしか洞窟に入る事の許可が下りない、あの洞窟の壁画です」

 

「この壁画は現存する『天使画』の中では最古のモノと言われており、現時点でこれより古い『天使画』は見つかっておりません」

 

「それでですね、軽く解説をさせていただきますが、この『天使画』……見た人なら一度は思った事があると思いますが……下手でしょう?」

 

「いえ、この壁画は下手で当たり前なんです」

 

「何故ならば、この壁画が作られた当時の人類には、『絵』という概念がありませんでした」

 

「文字もそうです、モノを数えることだって、明確な基準がありません。せいぜい、無い、有る、少ない、多い、それぐらいでしょうか」

 

「そんな頃ですので、描かれている『人』も、棒人間のような記号的な描き方になっております。それも致し方ありません、何故ならば、そもそもナニカを描くという考え方すらなかった頃ですから」

 

「それでですね、もうコレをご覧の視聴者様には分かっていると思いますが……はい、コレです。この中央付近に描かれてる、色つきの、他とは明らかに形が違う棒人間、これが『天使』だと言われています」

 

「この壁画なんですけど、本当にすごい壁画なんですよ。なにせ、紀元前ですよ、まだ服という概念がなかった時代に、色を付けようとしたんですよ」

 

「これがね、どれほど当時の人類にとって特別視され、別格として扱われていたのかが推測できると思います」

 

「なにせ、『色』ですよ。当時、日々の食糧の確保、外敵との戦い、起きている間は常に生きるために時間を使い続けてもなお全滅が不思議ではない時代に、わざわざ『色』を足そうとしたわけです」

 

「これだけでも、本当にすごい事なんですよ」

 

「それでですね、この壁画のすごいところはですね、他にも──」

 

 

 

 …………。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

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