見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第17話: 誰かと勘違いされているのが分かると、気まずいよね

 

 

 

 ──彼女は、困惑していた。

 

 

 

 診察してみたら、ただの風邪だった。

 

 いや、『風邪』というのは総称であり、医学的には『かぜ症候群』という名であるので、ただの、と名付けるのは少し違う。

 

 症候群というだけあって、あくまでも結果の症状であり、同じ症状でも、原因となるウイルスがまったく違う場合があるのが、風邪なのだ。

 

 つまり、一見すると同じ症状に見えるが、危険性が非常に強く活発なウイルスが原因もあれば、弱いウイルスが原因の場合もある。

 

 たとえば、同じ風邪という病名でも、だ。

 

 片や、37℃台の微熱だが、節々の痛みが強烈で動くのが辛く、とにかく何もできないという人。

 

 片や、39℃台の高熱だが、節々の痛みはなく、倦怠感こそあるがそういった辛さはないという人。

 

 どちらも、定められた病原菌(ウイルス含め)などが関係していなければ、よほどの理由が無い場合は『風邪』と診断される。

 

 

 実際に、だ。

 

 

 ただの風邪と彼女は思っているが、その風邪の原因となったウイルスはかなり性質が悪いモノであり、インフルエンザにも匹敵するレベルの感染力を持ったウイルスであった。

 

 文明が生きていた現代であれば、そこまで問題視されない程度のウイルスだが……残念ながら、今はウホウホやっているのが当たり前の時期。

 

 たかが『風邪』とはいえ、慢性的な栄養不足が続いている身体は、生命維持が精いっぱいである。

 

 日本でも、大正時代に入るまでは風邪でバタバタ死んでしまうのが不思議ではなかった。

 

 そんなわけだから、そりゃあもう、ウホウホしている現在、風邪が命取りになるのも致し方ない話であった。

 

 

 ……で、まあ、これも当たり前だが。

 

 

 彼女から類人猿ではと思われ、実際にウホウホやっている彼ら彼女らにとって、自分たちを助けてくれた彼女は……まさしく、表現できない存在であった。

 

 自分たちとは、姿が違う。

 

 腕の数が多い、背中に翼が生えている、髪の色も違う。あまりにも異質だが、それはけして害をもたらす違いではない。

 

 彼女は、自分たちを治した。

 

 どうやったのかは分からない。

 

 ただ、彼女の手が自分たちに向けられ、なにか甘い水を飲まされ……気付けば身体が軽く、寒気も消えていた。

 

 いったい、何が起こったのか。

 

 分からない、分からない、分からない。

 

 でも、分かる事はある。

 

 アレは、尊い存在だ。

 

 アレは、自分たちが触れて良い存在ではない。

 

 アレは、自分たちの手が届く存在ではない、高き者だ。

 

 そう、この時、この瞬間、いまだその言葉は生まれなくとも。

 

 後に人類と呼ばれる者たちの中に、『神』という概念が生まれた瞬間であった。

 

 そして、それは同時に、『神』に対する解釈の違いによって、人類の心に二度と消えない争いの火種が生まれるのだが……この時点では、その『神』として知る由もない事であった。

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………まあ、その時、『神』という概念を生み出してしまった彼女はというと。

 

 

(けっこう、いや、かなり臭かったな。鼻が曲がりそうで、ずっと表情が強張ってしまっていたよ)

 

 

 どデカいサルたちの、というか、洞窟にこもっていた悪臭があまりに酷すぎて、けっこうゲンナリしていた。

 

 

 ……一つ弁明するならば、彼ら彼女らは悪くない。むしろ、生物として考えたら、現代人は異常なレベルで綺麗好き過ぎるのだ。

 

 

 なにせ、今は失われた現代基準で考えるならば、令和の時代からたった100年前の時点で、入浴は数日に一度が普通だったんだ。

 

 ましてや、さらにさかのぼって江戸時代ともなれば、毎日風呂に入っていたのは江戸の町民ぐらいなもので、少し離れたら川の水で洗うなんてのが普通な時代であった。

 

 もっとさかのぼれば、そもそも風呂なんて言葉すら知らず、お湯で濡らしたタオル(と呼べる物も無い)でゴシゴシ身体を擦るのが一般的な入浴という時代であった。

 

 そして、もっとさかのぼれば……それこそ、身体を濡らす=体温が下がって危険という、本能的な図式ぐらいしか頭にない時代になる。

 

 どデカい猿さんたちが居る今は、まさにそんな時代。

 

 身体が痒すぎたり暑かったりで飛び込む者が居ても、基本的には地面や泥を身体に擦り付けてダニなどを……なので、体臭の酷さは、言葉では言い表せられるようなモノではなかった。

 

 

(とりあえず、一旦帰ってシャワー浴びよう)

 

 

 なので、手助けをしたは良いが、それはそれとして、精神的なダメージを負ったので、ちょっとテンションが下がっていたのであった。

 

 

 

 

 

 ──で、シャワーを浴びて再び身嗜みを整えた彼女だが……実はもう、すっかり興味を失くしていた。

 

 とりあえず、なんかどデカい猿たちから感謝されたっぽいのは分かっていたし、喜んでいたのは分かっていたので、それは良いのだが。

 

 とにかく、あまりにも臭すぎた。コインを積まれても傍に居て欲しくないぐらい、あまりにも酷すぎた。

 

 いちおう、これまでにも彼女はモンスターとの戦いにおいて、悪臭に接する場面は多々あった。

 

 独特の異臭を放つ血飛沫を浴びたこともあるし、悪臭を放つモンスターと真正面からぶつかりあったこともあるし、痛みを覚える臭いをぶつけられたこともあった。

 

 だが、なんというか……違うのだ。

 

 言葉に表すのであれば、厚みだ。何年にも渡って積み重ねられた臭いは、言葉では言い表せられない……彼女でも我慢できない、独特の悪臭になっていた。

 

 もちろん、彼ら彼女らに悪気が無いのは分かっている。

 

 というか、おそらく感覚がマヒしていて、自分たちの臭いが……というか、それが当たり前になっているから、分からないのも致し方ない。

 

 仕方ないのだが、だからといって、彼女自身がそれを我慢しなければならない……という道理もないわけで。

 

 ……あいつらと接触する時は、あいつらが近付けないよう距離を取って空中から話し掛けよう。

 

 そう、彼女が決断するのも、仕方がないと言えば仕方がない、必然の結果であり。

 

(……ちょっと休憩してから、しばらくは上からちょっかいを掛ける程度にしておこう)

 

 まだ、地上に関心があるだけ、以前よりマシな方であった。

 

 

 

 

 

 ……で、まあ、それから彼女は何をしていたかと言うと……特に、変わった事はしていない。

 

 基本的にはダンジョン(?)に入ってはモンスターを皆殺しにして、天空城でボケーッと休憩した後、地上を眺めて何か面白い事でも起こったら様子を見に行く→最初に戻る、これの繰り返しである。

 

 すっかりルーチンワークになっているので、特に苦になるところはない。ただ、ダンジョンに入っている間は、時間の経過が分からなくなるので、そこらへんは気を付けたい。

 

 

 というか、気を付けるために、彼女は『時計』を買った。

 

 

 人類が滅びる前にあったアンティーク品の一つである。見た目は、金属製の懐中時計だ。

 

 星の浄化に合わせてとっくに失われていると思っていたが、どうやら『ストア』は時間の概念を飛び越えてモノを購入することも可能なようだ。

 

 これがまあ、けっこう彼女の中ではお気に入りである。なので、『ストア』で改造した。

 

 だって、普通の時計はすぐに壊れてしまう。普段から持ち歩いていると、戦闘中の衝撃などでボロボロになってしまう。

 

 かといって、天空城に放置してもあまりよろしくない。

 

 やはり時計というのはなんだかんだ精密機器のようで、気圧とか高度とかそこらへんが関係しているのか、すぐに動かなくなってしまうのだ。

 

 たぶん、湿気とかそういうので劣化してしまうのだろう。

 

 彼女自身は、ステータスを底上げしまくっているから気付けていないが……やはり、空の上での使用は厳しいようだ。

 

 電池の消耗も激しく、ダンジョンから戻ってくると例外なく電池切れを起こしている。

 

 いや、電池切れぐらいなら良い方で、ハズレの品だった場合、プラスチック部分が偏食していたり、酷いモノになると電池部分から粉が噴いていたりする。

 

 こればかりは、実際に購入して使ってみないと分からないのが難点だ。

 

 武器や防具なら、明らかに刀身が細かったり錆びていたり、なんなら欠けていたり汚れていたり、分かりやすい異常が見られるので分かりやすいが、機械は分かり難い場合が多い。

 

 あからさまに中古品と思わしきやつを除けば、見た目だけキレイで中身は……なんてのがザラだ。

 

 まあ、そういうのはだいたい必要コイン数が2,3割ぐらい少なかったりするので、慣れたら見分けが付くが……とにかく、どれもこれもが長持ちしないので、彼女は何時しか時計の類を置かなくなっていた。

 

 

 ……そんな時に出会ったのが、件の懐中時計である。

 

 

 『ストア』で改造したおかげで、ゼンマイ切れはしないし、自動修復されるし、所持していると時間経過と共に回復するし、なんなら様々な毒や攻撃に対しても耐性がある。

 

 それ、本当に時計かと誰もが疑うぐらいの、すごい時計になった。

 

 これのおかげで、彼女はようやく日常の時間の変化を実感するようになった。ダンジョンに出入りしていると、時間間隔が来るってしまうせいだ。

 

 これの何がすごいって、今が何時なのかが分かるってこと。

 

 なんか暗いなと思って時計を見たら夜だから、それじゃあ寝ましょうってなるし。

 

 なんか明るいなって思って時計を見たら朝だから、それじゃあ起きましょうってなるし。

 

 やはり、時間の経過が分かるのは大事だなと、彼女は思ったのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………ただし、一つだけ。

 

 

 この懐中時計には、欠点がある。

 

 それは、よくどこかで落として失くしてしまうこと。

 

 

 彼女はこう、懐中時計を首に掛けるのではなく、内ポケットなどから取り出して時間を確認するのが格好良いと思っている。

 

 だから、首に掛けたりはしない。

 

 しかし、彼女は家ポケットがあるような服などは着ない、いつも半裸状態。服なんて翼が邪魔して入らないし、邪魔くさいしね。

 

 では、どこに仕舞っておくのかというと……翼の中だ。

 

 これは灯台下暗しというやつで、まさしく彼女にしかできない隠し場所である。

 

 翼の中から、スーッと何食わぬ顔で取り出す……この格好よさに比べたら、時計の一つや二つ、落としても釣り合いが取れると彼女は思っているのであった。

 

 

 

 

 

 ──さて、そんな感じで日常を送っていた私だが、最近になって悩み事が出来た。

 

 

 それは、ウホウホしていた猿たちが……いや、違う。

 

 実はもう、猿たちは、猿ではなくなっていた。もちろん、デカいオランウータンとか、そういうわけではない。

 

 なんというか、見覚えのある人間になっていた。

 

 恰好はみすぼらしいが、なんか遠い昔の記憶で見た、時代劇というか、それよりも古いというか……ああ、アレだ。

 

 なんかこう、平安時代みたいな恰好をした者たちが居た。

 

 なんか和歌とか書いたり、牛車に乗って移動していたり、なんかそんな感じ。

 

 記憶に在るソレと違うのは、なんか角を生やした人とか、背中に黒い翼を生やして空を飛ぶやつとか、あと、なんか刀を振るうとカマイタチみたいなのが出て木々を切り倒したり、なんかすごい事をしていた。

 

 なんだろう、知らぬ間にずいぶんと地上の人達は狂暴になったみたいで、私はちょっと尻込みしてしまった。

 

 あと、なんか指を刺されてこっちを見ているような気がしたので、『ちょっかいを掛けられてはたまらん』と判断して海を渡って移動することにした。

 

 

 ていうか、実際にちょっかいを掛けてきたやつが居た。

 

 

 幸いにも天空城のバリアを破れる者はおらず、バリアの外からこちらを指差して来る者だけだったが……それでも、不快感MAXである。

 

 けれども、不快だからといって掌からサンダーを撃つわけにもいかない。

 

 何故ならば、彼らもまたこの星の戦力である。

 

 いくら現状はもう既に勝ち確定状況とはいえ、いつ何時、『世界』から招集が掛けられるか分からない以上は、身勝手な感情で攻撃するわけにはいかなかった。

 

 

『カラス天狗の領地:浄化できません(だからといって、おまえ……)』

 

 

 なので、『ストア』の力を借りようかと思ったが、残念ながら『ストア』の項目をいくらタップしても、駄目であった。

 

 どうやら、『ストア』にもできない事があるようだ……で、特に急ぐ理由も無いのでのんびり移動した先には、なんか中世ヨーロッパというか、なんちゃってファンタジーというか、そういう光景が広がっていた。

 

 

 具体的には、なんかエルフが居た。よく見ると、エルフ以外もけっこう居た。

 

 

 なんか中世ヨーロッパ人(?)みたいな恰好をした人たちの他には、耳が長い人だったり、ドワーフっぽい人が居たり、小人っぽい者も……なんだろう、

 

 人類が滅んでから初めて見るエルフに、ちょっと懐かしさを覚える。

 

 私は彼らの死に目には会えなかったが、良い一生を終えることは出来たのだろうか。

 

 そんな感じで、ちょっとほっこりした気持ちになっていると……なんだろうか、地上のエルフたちが、こっちを指差している。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なんだろうか、また強行侵入だろうか? 

 

 

 人類が滅んだ後なので違法とか合法とかは無くなったが、ここは私の『家』である。

 

 初手で攻撃してきたカラス天狗の糞バカのような論外はともかく、ちゃんとあいさつしてお伺いを立ててから、入城の許可を貰うのが、普通ではないだろうか? 

 

 そんな思いで、ボケーッと地上の様子を眺めていると……なにやら、天空城に接近する物体を感知。

 

 見やれば、それは全長が30cmほどの……いわゆる、『妖精』といった感じの姿をしており、数はおおよそ十数体で、全員が女性であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………なんだろうか??? 

 

 

 なにやら、思いつめた様子の妖精たち見て、興味を引かれた私は意識をそちらに向ける。

 

 すると、それを察知したのか、あるいは偶然か……どちらかは不明だが、代表と思われる(一番、高そうな衣服を着ていた)1人の妖精が、前に出て来ると。

 

 

『──天より見守る神よ。どうか、我らの願いを聞き届けたまえ──』

 

 

 なんか、すごい事を言い始めた。

 

 あまりのことにポカンと呆けた私だが、とりあえずは、だ。

 

 

(え、宗教とか、怖っ……誰と勘違いしとるの?)

 

 

 どうやって穏便にお引き取り願うか……そればかりを考えるのであった。

 

 

 

 






ちなみに、この時は天気が良くて気持ちいい季節だったので、天空城の位置も低いです。こういうしょうもないところで抜けているのは以前と変わりありません
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