見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第6話: 盛者必衰とは、よく言ったもの

 

 

 世界が変わって人々の生き方も大きく変更を余儀なくされたが、全員が全員、いきなりそうなるわけではない。

 

 事前にチュートリアルを行って準備を済ませていた者たちは、それこそ『ストア』で生活物資を余裕に用意できるのが大半だ。

 

 しかし、最初のソレをやらなかった者たちのほとんどが、そうではない。

 

 そういう者たちにとって、それまで通りにインフラが生き残り、仕事があって、食料が買えて、蛇口を捻れば水が……つまり、だ。

 

 世界が変わる前の社会が存続していないと、一ヶ月とて生きていられるか……まだ、それぐらいの段階であった。

 

 なので、『世界』は、現段階ではあくまでも日常の延長線上に『ダンジョン』を、という認識があったのかもしれない。

 

 本音を言わせてもらえば、さっさとやる事やれ……といった感じなのだろうが、あまり強制すると、そのまま死んでしまうかもしれない。

 

 なにせ、水分を2,3日取らなかっただけでも死んでしまうのが人間だ。世界全体からすれば、人間なんぞ雑魚の中のくそ雑魚である。

 

 しかし、それでも『世界』にとっては手駒であることには変わりない。

 

 世界全体からすれば砂漠の一粒に過ぎないような集まりだが、上手くやれば半自動的に自分たちで考えて働いてくれる……それが、人間だとも思っている。

 

 だから──人間社会にとって、欠けたら社会維持に関わる仕事に従事する者に対しては、『世界』からの評価は甘かった。

 

 それを理由に使命を果たしませんとかやれば、さすがにカルマ値が下げられるので、あくまでもその程度だが……まあ、うん。

 

 

 客観的に考えたら、当然の話だろう。

 

 

 しかし、言い換えたら、無くなっても影響が薄いorむしろ無くなった方が良いと判断された職業もあって

 

 悲しいかな、それを決めるのは『世界』であり、人の言い分なんぞ欠片も通じなかった。

 

 

 ……例えば代表的なのは、『活動家』だ。『世界』が変わってから『活動家』と呼ばれる人たちは絶滅危惧種になった。

 

 

 冷静に考えて、人類社会においての是非はともかく、『世界』においては活動家と呼ばれる者たちなんぞ、1秒とて存在させるだけ無駄である。

 

 それを本能的に察知した者たちは、すぐさま団体から離れた。

 

 団体から粛清されるかもしれないが、のほほんとそこに居たら、待っているのは100%確実な『死』だからだ。

 

 割合としては、若い人ほど離れるのが速かった。中には世界が変わって翌日に団体本部に辞める旨を伝えて逃亡した者すらいた。

 

 

 そこまでは、良い。

 

 

 その者たちに手を出そうとする時点で『世界』は許さないから……逆に、問題になったのは団体に残った……いや、残るしかなかった者たちである。

 

 何故なら、彼ら彼女らはもう筋金入りの活動家であり、それで飯を食っている者たちばかりであった。

 

 必要に応じて住む場所を変え、時には暴力や脅しを臭わせ、数の力のために結託し、政治家の手足となって動くことで生きてきた。

 

 つまり、他の働き方、生き方を知らないのだ。

 

 だから、その国家ですら手も足も出ない存在を前にしても、彼ら彼女らは考えを変えることができなかった。

 

 これまで何十年とそれで生きてきたし、食えてきたから、いつものように彼ら彼女らは動いて……そのまま、灰になった。

 

 ギリギリ免れたのは、ギリギリ社会の一員として働いていた者たちだけ。本当に、幸運にもギリギリ逃れられた……という話であった。

 

 しかし、それはまったくの白だった、というわけでもない。

 

 本業は一発アウトだけど、副業はギリセーフだから、その分だけ譲歩してギリギリ命が助かったよ……といった感じで。

 

 結論から述べるなら、世界が変わってからの彼ら彼女らの生活は滅茶苦茶困窮した。

 

 なにせ、それまであった団体からの収入が0になったのだ。そして、それが元に戻ることは永久に来ない。

 

 そして、そういう者たちは、だいたいにして団体外(あるいは、業界外)からは嫌悪されきっているものだ。

 

 

 そりゃあ、そうだろう。

 

 

 彼ら彼女らは身内以外の迷惑など一切考えないし、恥を恥と思わない。自分たちの行いで死者が出たとしても、それは自分たちの邪魔をした君たちが悪いと本気で思っている。

 

 だからこそ、彼ら彼女らは身内以外を徹底的に叩くのだが……それでも生きられたのは、彼ら彼女らは敵対した相手に対して結託して徹底的に攻撃するから。

 

 司法も警察も臭い物に蓋と言わんばかりに見なかった事にするから、彼ら彼女らはやりたい放題にやれていた。

 

 でも、その後ろ盾が無くなった以上は……彼ら彼女らに向けられる視線の冷たさは、半端ではなかった。

 

 殺しはしない。だが、助けもしない。

 

 そういった者たちによって多大な迷惑を被ったり、機会を奪われたり、レッテルを張られて様々な業界を追われてしまった者たちは、彼ら彼女らを存在しない者として扱った。

 

 泣き落としをしようが誰も気に留めない。

 

 世界が変わる前のやり方で、都合よく正論と詭弁を並べて奪い取れても、一ヶ月も繰り返す頃には、カルマ値が下がりきってそのまま火達磨になった。

 

 それゆえに、比較的動ける者はなんとか建て直すことは出来たが、高齢に差し掛かっている者たちは、内部での序列の考えを捨てきれず。

 

 何時しか……彼ら彼女らは……いや、そういった者たちだけではない。

 

 甘い蜜を啜り続けられる環境に長く居た者ほど、現実を受け入れられず、少しずつ、少しずつ状況を悪化させていき。

 

 ついには、様々な場所で浮浪者となり、清掃活動という名目でカルマ値の減少を少しでも抑えながら……各家を訪問し、乞食行為を行うようになっていた。

 

 

 

 

 

 ──ぴんぽん、と。

 

 自宅に居る時、最低でも一日1回は聞くようになった、来訪者を告げるチャイムの呼び出し。

 

 

『──天使様、助けてください。もう、何日もまともに飯を食えていないんです、どうか助けてください』

 

 

 そして、最近なんども遭遇するようになった、この手のアクシデントを前に、彼女はげんなりと機嫌を悪くした。

 

 チラリと視線を向ければ、玄関の鍵は閉まっている。玄関外へと面しているキッチンの窓も締まっているので、ガラスを割って来ない限りは入ってこられない。

 

 ──ぴんぽん、と。

 

 

『──おい、居るんだろ!? なんで助けてくれねえんだよ! なあ、天使様! 俺たち人間が困っているんだよ! 困っているんだぞ! なあ、なあ! なあ!!!』

 

 

 再び、チャイムが鳴る。なんだかドンドンと激しく扉を叩かれるが、放置すると勝手に諦めるので、そのまま放置。

 

 なので、彼女は再び無視して視線を……彼女の眼前には……程よく煮えて食べ頃になった、すき焼きがある。

 

 『ストア』とは別に、スーパーなどで買った物を使用している。1人暮らしも長くなると、これぐらいは作れるようになるのだ。

 

 なお、お値段は計2万9000円強……え、高くないかって? 

 

 残念ながら、ぼったくられているわけではない。また、極端に良い肉を使っているというわけでもない。

 

 単純に、今の彼女は人並み以上に食うようになったが、それはそれとして、この値段が今は正常なのだ。

 

 

 と、いうのも、だ。

 

 

 世界が変わってからは物価の値上がりは歯止めが利かず、止まる気配がない。

 

 何故ならば、『世界』から『使命』を受けたのは、人間だけではないからだ。

 

 さすがに身動き出来ない植物はどうにも……いや、植物たちは他の動物たちにより多くの糧となるよう邁進しているが、問題なのは動物だ。

 

 動物たちは人間よりも知能は低いが、動物は動物なりに理解しており、『ダンジョン』に入って人知れずモンスターと戦っているらしい。

 

 つまり、動物を食らう……食肉するということは、それだけ『世界』の邪魔をする……という行為になってしまう。

 

 

 しかし、例外はある。

 

 

 それは家畜と呼ばれる動物たちや、それだけの知能を持たない(理解できない)、植物などの生物だ。

 

 どうやら『世界』は家畜化された動物は、食べられてより強い個体(この場合、人間)を増やす事を『使命』にしたらしい。

 

 なので、世界が変わる前と同様に、人は生きるために肉でも魚でも米でもパンでも、殺して食べることが許された……わけなのだが、全てが全て同じというわけにはいかなかった。

 

 具体的には、人類社会から『飽食』という言葉が過去のモノになった。

 

 必要な分を、必要な分だけ。

 

 余裕が一切無いというわけではないが、以前のように、何十万トンという食料を無駄にするなんてのはもう、『世界』が許さない。

 

 その無駄にした食糧で、他の動物たちはどれだけの戦力を増やせるのか。

 

 それを無駄にすることで、人間たちはどれだけの戦力を生み出すのか。

 

 それだけを無駄にしてもなお許されるような成果を出しているならば良かったが、現状はとてもとても……。

 

 ゆえに、物価の値段は微々たる上昇率だが、一度として下がってはいない。

 

 加えて、将来的には『人類社会の通貨』の価値がもっと低くなるのが確定しているのもあって、世界的に『通貨』そのものへの信頼が揺らぎ始めているのも、ある。

 

 結論から言えば、世界的に『通貨』よりも『コイン』、あるいは物資そのものの価値が……さすがに話が逸れてきたので、戻そう。

 

 

 ──ぴんぽん、と。

 

 

 無視したまま、すき焼きをモグモグと食べる彼女に対して、3度目のチャイム。直後、ドンドンドン、と玄関扉が叩かれた。

 

 

『……助けてください、もう一昨日の炊き出しから何も食べていないの、少しでいいから恵んでください』

 

 

 今度は、女性の声だ。

 

 少し枯れて滑舌が悪くなっている&声色からして高齢か……まあ、どうでもいいか。

 

 ──ぴんぽん、と。

 

 再び鳴らされるチャイムに、ノック(にしては、デカい)の音。それらを全て無視して、彼女はテレビを点ける。

 

 画面の向こうに映し出されるのは、世界が変わる前から放送されていた番組……だが、以前とはかなり違う。

 

 出演していた人が居なかったり、番組のセットが無くなっていたり……とにかく、全体的に質素な感じになっている。

 

 内容も、かなり変わっている。

 

 以前は1時間放送だったのに、今では30分。

 

 VTRとかも編集とかは少なく、学生グループが授業の合間に作ったのかと思ってしまうぐらいにお粗末なモノ。

 

 加えて、トークも『○○のところにあるダンジョンでは~』とか、『ストアで購入できる××は、△△の商品で現金で買える~』みたいな、露骨な宣伝ばかり。

 

 つまらないので、チャンネルを変えれば……なんと、映し出されたのは、男女のセックスシーン……いわゆる、AVと呼ばれる類の映像だった。

 

 比喩でも何でもなく、ガッツリ行為をしている。モザイクも掛けておらず、男女の性器が結合しているのが確認出来る。

 

 その傍には、白衣を着た人が……SEXのやり方、互いを傷付けない手順、性教育という名目で解説を行っていた。

 

 以前ならば、放送局が停波するぐらいの……しかし、これが現在のメディアの姿なのだ。

 

 世界が変わる前からテレビなどは業界全体が斜陽になっているとは言われていたが、世界が変わった事が大打撃になった。

 

 ただでさえ若年層の視聴者が激減していて、中年以降の者たちしか見ていないと揶揄されるぐらいだったのに……その、中年以降……特に、高齢者の数が激減した。

 

 ただでさえ目減りし続けていたところに、ソレだ。

 

 ある意味ではスピード勝負、水物である放送商売にとって、ネットから2,3日、下手すれば1週間も2週間も遅れて放送ともなれば、だ。

 

 テレビ業界もリアルタイムで放送することで対抗しようとしたが、組織が大きいがゆえにフットワークが負けてしまい……結果、ズルズルと建て直せない段階にまで至ってしまった。

 

 ……そして、なによりも。

 

 放送《マスコミ》各社にとっては最後の命綱とも言える……『不動産』が、『世界』によってその権利を失い、利権を失ってしまったことで本当の致命傷になってしまった。

 

 そう、視聴率が下がろうが新聞の売り上げが下がろうがマスコミが潰れなかったのは、『不動産』という絶対的な強みがあったから。

 

 その『不動産』が断たれてしまえばもう、穴の開いたバケツも同じ。

 

 天下りを入れる代わりの見返りも、『世界』という監視の目がある中で国が動けるわけもなく……現状のコレは、苦肉の策なのだろう。

 

 当然ながらとんでもなく批判が殺到したし、幻滅しきった者たちは、スタッフ・タレント・スポンサー、立場の関係なく業界から去って行った。

 

 しかし、価値は下がり続けているが、まだ『通貨』はその役目を果たしている。

 

 少なくとも、まだほとんどの人々は『通貨』と『コイン』を併用して生活しているし、なんなら『通貨』でしか生活していない者も相当数いる。

 

 少なくとも、本当に人類社会の通貨が『コイン』で統一される数十年後の先までは、まだ前の世界の通貨は使えると思っていい。

 

 ……おそらく、もう逃げられない業界関係者は、少しでも延命しようとしか思っていないのだろう。

 

 募集を掛けて、少しでも人々に見てもらい、完全に倒れてしまう前に、少しでも『コイン』を集めて……既に、そういう段階に入っているのだろう。

 

 悲しいかな、これが今の、R―18番組を放送する事でなんとか息を繋ぐだけで精一杯な……哀れな放送業界の姿であった。

 

 

「……でも、『ストア』で買えるんだよなあ」

 

 ──子供の頃は、まだ見ていたんだけどなあ。

 

 

 哀愁にも似た感覚と共に、ポツリと……これからのメディア業界の廃れっぷりを想像した彼女は、鍋にうどんを追加しながら……ふう、とため息をこぼした。

 

 そう、買えるのだ。ビギナーでは買えないが、彼女ぐらいになると、けっこう気軽に買える程度の値段で。

 

 『ストア』には、現在の人類の科学力では絶対に作れない、いわゆるアダルト系(男性用、女性用、両方ある)の商品もある。

 

 たとえば、見た目は何一つ変なところのない人間で、体温も匂いもあって会話も思考もできるし、なんなら食事も排泄もできる……なにもかもが人なのに、12時間で消えてしまうダッチワイフだ。

 

 しかもこのダッチワイフ、どうやら購入者ごとに1人ずつ割り当てられるらしく、言うなればその人だけの専用商品というわけだ。

 

 そのうえ、どうやら別種族対応もする……これがまあ、すごい。

 

 実際に彼女も、ツッコむ棒がもう無いのに興味本位で購入したが……正直、今後の人類にめちゃくちゃ影響を及ぼすのではと思った。

 

 だって、このダッチワイフ……購入者に対して、そりゃあもう最初からめたくそに好意を抱いた状態(しかも、下がらない)から始まるのだ。

 

 種族を変更してからけっこう男だった時の感覚が薄くなっているとはいえ、それでも、次も買おうかな……って思ったぐらいだ。

 

 ぶっちゃけ、股間にブツが付いている男のままだったなら『もう人間の女いらね』ってなっていただろうなあ……ってぐらいな代物だった。

 

 だからこそ、分かってしまう。

 

 本当に辛うじて死なない程度に生き長らえるだけで、それすらも時が経てば経つほどに……という話だということに。

 

 

(……子供の頃、ご飯時にはこのチャンネル……とか、あったんだけどなあ)

 

 ──仕方がない事とはいえ、ちょっと寂しいなあ。

 

 

 そう思う事を、彼女は止められなかった。

 

 

 

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