見た目だけで勘違いです(信じてくれない)   作:葛城

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第7話: なお、毎日のように負傷者や死人が出ている模様

 

 

 

 世界が変わってから、早くも1年の月日が流れた。

 

 

 その頃になると、日本の空気もだいぶ当初から変わっており、日常の一部に『ダンジョン』があるのが当たり前になっていた。

 

 さすがに街中での抜刀はペナルティが課せられるが、帯刀している者は普通に見受けられ、また、人類とは異なる種族の姿がみみられるのも、そう珍しい光景ではなくなっていた。

 

 そう、種族だ。

 

 当初は、彼女を始めとしたチュートリアルを経験していた者しか成し得ていなかった種族変更だが、この頃になると、チラホラとチュートリアルをスルーした者たちも種族変更を済ませるようになっていた。

 

 当然ながら、人間から別種族に変更することに抵抗感を覚えなかった者は少なくない。

 

 彼女のようにスパッと人間を辞めてしまう事を選択できたのが異常であり、大半の人々はしばらく変更直前の段階で足踏みをするのが普通だろう。

 

 けれども、足踏みするのはそう長くはなく、だいたい2,3週間ぐらいで覚悟を固めて、種族変更を行うのが平均的な流れになっていた。

 

 

 ……なんで2,3週間なのかって? 

 

 

 それは、実際に種族変更を行った人たちの話を聞いたり、『カスタマイズ』を用いても能力値が上がらなくなったり。

 

 つまり、人間という種族の限界値まで上げきった事を自覚する時間であり、種族変更の必要性を実感するまでに掛かる時間がそれぐらいだから。

 

 そう、実際に種族変更を行えば、より強く実感するのだが……『種族』という観点で見たら、『人間』というのは雑魚も雑魚、くそ雑魚である。

 

 

 そりゃあ、地球の範囲で考えたら『人間』の能力は一長一短だ。

 

 

 獣のように獲物を仕留めるための爪や牙は持ち合わせていないし、他の動物に比べたら非常に脆い。一見、とても弱い生き物に見えるだろう。

 

 しかし、人間には人間の強みがある。

 

 単純に、知能がずば抜けて高い。そして、人間というのは大なり小なり違いはあるけど、他の生物に比べて桁違いに学習能力が高いのだ。

 

 言葉を生み出し、文字を生み出し、紙を生み出し、それを書き記すことで、人類は何百年から何千年と掛けて積み重ねてきた知恵を、短期間で習得することができる。

 

 これは、この地球上においては『人間』しか持っていない圧倒的なアドバンテージであり、人類が生態系の頂点に立つことができた理由である。

 

 

 ……が、しかし、だ。

 

 

 それを、地球の外……『宇宙全体』で考えたら、どうなるだろうか。

 

 そう、人類は宇宙の事を何も知らないに等しいのだ。

 

 地球内部の事ですらまだまだ未開の人類にとって、宇宙という場所は無知に等しい。

 

 ましてや、地球以外に知的生命体が……そう、ありとあらゆる面で人間よりも上位個体が居るだなんて、夢にすら思った事はないだろう。

 

 見た目は人間と同じなのに、人間よりも知能があって、人間よりも体力があって、人間よりも力があって、人間よりも頑丈で。

 

 人間よりも理性的で、人間よりも平和的で、人間よりも協力的で、人間よりも、人間よりも、人間よりも……そんな存在が、居たのなら。

 

 もしも、そんな存在が居たのなら……果たして、『世界』は人類に対してどのような評価を……いや、止めよう、話が逸れた。

 

 

 ……話を戻して、種族の事だ。

 

 

 とにかく、どれだけ『カスタマイズ』を施したところで、人間という種族という限界に達することは出来ても、その限界は越えられない。

 

 オリンピック選手のような強靭な肉体と体力を短期間で得られても、ライオンのようなあごの力は得られないし、鳥のように空は飛べない。

 

 対して、種族変更を果たした者たちはどうだ。

 

 見た目は人間に比べて小柄なのに、筋肉隆々の男ですら持ち上げるのに苦労する重量を片手でぶん投げたり、ハンマーで叩かれてもケロッとしていたり。

 

 見た目は教科書より重い物を持った事がないのでは……と思ってしまいそうな華奢な少女なのに、何kmメートルも全力疾走しても、息一つ乱さなかったり。

 

 種族一つ変えてすぐで、それほどの違いが生じるのだ。

 

 そこからさらに『カスタマイズ』を行えば、差は広がりこそすれ縮まることはなく……1人、また1人、種族変更を行う者が増えるのも、当然の結果であった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………しかし、そうした中で、人々の間で……いや、正確に言おう。

 

 

 人々の間で、一つ。

 

 特定の年齢層の男たちの間で、一つ。

 

 

 計二つの問題というか、隔たりが生まれようとしていた。

 

 

 人々の間に生じたそれは、『種族変更』に至れぬ者へ向けられる視線……有り体に言えば、『怠け者』へと向けられる冷たい視線。

 

 そして、もう一つの方は……まあ、アレだ。

 

 半ばうやむやにはなったが、男たちは覚えていた。

 

 種族としての番である『女』から、『ダンジョン』に入れと。

 

 非常に危険であり死ぬ可能性は十二分に予測されていたのに、反対しなかった事を。

 

 口では綺麗事を言いつつも、結局は仕方がない事と男たちの背中を押した事を。

 

 死ぬ可能性があって、実際に軽く考えて突入した者が無残に殺されて……それでもなお、様々な言い訳を並べるだけで終わった事を。

 

 全員が、そうではなかった。それは、確かだ。

 

 しかし、その逆がまかり通っていたのを幾度となく目の当たりにし、自分がやったわけでもないのに男だからと責任を背負わされてきた男たちにとって、それは取り返しのつかないキッカケになってしまった。

 

 好きにしろ、俺たちも好きにする。

 

 男たちは覚えていて……そして、その影響が如実に表れ始めたのが、世界が変わってからおおよそ1年後……続々と種族変更を終えた者たちが現れ始めた時期であった。

 

 

 

 

 

 ──『家』を買いたい。

 

 

 以前から考えていた事だが、彼女は改めて『家』が欲しいという思いが強くなってきていた。

 

 理由としては、見知らぬ他人からしょっちゅう声を掛けられたり、昼夜問わず自宅に押し掛けられる頻度が増えてきているからだ。

 

 おそらく、己の見た目が原因の一端なのだろう……と、彼女は思っている。

 

 なにせ、様々な種族を見掛けるようになってきてはいるが、今の彼女のような姿(近しい姿を含め)はまだ、一度も見掛けていない。

 

 自分がどんな種族になったのかを調べたくとも、己のステータスに表示された種族名が……こう、なんだろう、見たことがない文字で表示されている

 

 宇宙の彼方にある実在する種族か、それとも遠い昔に絶滅して誰にも知られていない種族か……とにかく、地球上の言葉でないのは確実だ。

 

 ルビも無いし説明も無いから、本当に分からない。

 

 そして、多腕に背中に翼を生やしている……という姿をしているのは、現状では彼女だけで。

 

 腕が多数(観音的な?)で、背中に翼(天使的な?)……推測だけど、神聖な存在かナニカだと思う者がいるようで、彼女の迷惑など関係なしに押し掛けてくるのである。

 

 これがまあ、うっとうしい。

 

 とはいえ、目の前で死なれるのは目覚めが悪い。だから、彼女は何度か押し掛けてきた者たちに忠告したのだ。

 

 

『何時までも人間本位の、以前の常識で考えるのは止めた方が良い』、と

 

 

 そう、彼女から見て、かなりの人間がまだ勘違いしていることだが……『世界』はお願いをしているのではないのだ。

 

 『世界』からすれば、やって当たり前どころか、既に前へ進んでいるのが前提。周回遅れどころか、スタート地点にすら立てていない者を、『世界』はどう見るか。

 

 言うなれば、老廃物以下だ。

 

 人間が、自らの排便に向かって『頑張った腸内細菌たち、ありがとう!』なんて感謝など抱くだろうか……事は、そういう話でしかないのだ。

 

 だから、ほんの少しずつでもいいから頑張って『コイン』を貯めて『カスタマイズ』をした方が良い……そう、彼女は忠告をした。

 

 

 ……まあ、結果は言うまでもない。

 

 

 彼女が何もしないと分かった途端、罵詈雑言を彼女にぶつける者ばかりで、中には汚物を玄関に投げ付けて去って行き……遠ざかって行く途中で青白く燃え上がり、灰になったけど。

 

 ……まあ、『世界』からしたら、活動している細胞に寄生して邪魔をしようとした細胞……というようにしか、見えなかったのだろう。

 

 とにかく、だ。

 

 おそらく、住居の場所が一部界隈にバレているのだろう。

 

 そういう押し掛けを防ぐ意味でも、早めに自分だけの城を手に入れておきたいなあ……と、改めて思ったわけである。

 

 

「……このペースだと、どれぐらい掛かるかな?」

 

 

 自宅を出て、いつものようにノソノソと近くの『ダンジョン』へと向かう。

 

 

「──こんにちは」

「こんにちは!」

 

 

 途中、世界が変わってから交流を持つようになった男子学生グループと遭遇したので、挨拶をする。

 

 彼らは、比較的近くの大学に通っていた男子グループだ。その顔ぶれは、種族変更済みが半分、人間のままが半分、だ。

 

 世界が変わる前はまったく交流が無かったが、『ダンジョン』にていつも通りモンスターを蹴散らしてから休憩していた時、話し掛けてきたのが交流のキッカケだ。

 

 話し掛けてきた理由は、『戦い方を教えてほしい』、というものだった。

 

 普段の彼女ならば、顔見知りですらない相手にお願いされたところで無視一択だが……そうするには、彼らの恰好が、あんまりだった。

 

 一言でいえば、ズタボロであった。

 

 プレートで身体を守り、鈍器と思われる武器を手にしていたが、武器は汚れ、プレートは一部凹んでいて、護りきれていない部位からは血が滲んでいる者もいた。

 

 おそらくは、国から支給されたモノなのだろう。

 

 当初とは違い、今では全額無償となっているから、着の身着のままで『ダンジョン』に入る者は皆無である。

 

 だが、装備が支給されたらすぐさま玄人のように動けるわけではないし、『カスタマイズ』が不十分であるがゆえに、負傷しやすいのは変わっていない。

 

 それぐらい『世界』も大目に見てやったらと思わなくはないが、『世界』からしたら灰にしないだけ……話を戻そう。

 

 

「……全員、エルフにしたの?」

「はい! 他の種族も気になりますけど、種族変更は一回限りじゃないですし、万が一性転換してしまったら大変ですし……まずは堅実に足場を固めてからにしようかと」

「うん、それがいいよ。私みたいに、運に任せる博打みたいな選び方をしたらダメだよ」

「うっす! また今度、休みが合ったら一緒に飲みましょう!」

「ありがとう。でも、『家』を買おうと思っているから、その時はここを離れているかもしれない。その時は、伝えるから」

「『家』っすか! さすが先行組ですね、俺たちも頑張らなきゃ!」

 

 

 満面の笑みで嬉しそうにする彼ら……と、不意に真顔になった彼らの内の1人が、「でも、気を付けてくださいよ」、周囲をチラリと見やってから忠告をしてきた。

 

 

「『家』を手に入れたって話が漏れたら、女連中があの手この手で近寄ってきますよ。下手に丁重に扱うと、あっという間に入り込もうとしてきますから」

 

 

 その言葉に、彼らは誰一人として否定することなく……それどころか、神妙な顔で頷いて同意を示すと、それじゃあ、と彼らは足早に離れて行ったのであった。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 …………世界が変わる前なら、その発言に面食らう者がいるだろうが……悲しいかな、今はコレがスタンダードになりつつある。

 

 

 女性嫌悪……とは、少し違う。女性蔑視とも、少し違う。

 

 彼らのように、世界が変わってから、女性がコミュニティに入るのを拒絶する男子グループ(ソロでも同じ)が増えてきている……と、彼女は耳にしている。

 

 それも、致し方ないことだろうなあ……というのが、正直な感想だ。

 

 何故なら、彼らだけではない。

 

 男たちは、女たちから明確に切り捨てられた。

 

 そして、男たちは目にして……ガラリと、考えが切り替わってしまった。

 

 女たちにナニカが起こって俺たちが助けても、女たちはすぐにそれを当然の事だと認識する、と。

 

 そして、俺たち男にナニカが起こっても、女たちはけして助けてはくれない……という、実際に起こった現実を目にしてしまった。

 

 その結果、『世界』が変わる前に比べて、男女間の交流が激減している……大半の男たちはもう、そうなってしまった。

 

 もちろん、全員ではない。中には、『女性全体がそういうわけではない』と仲裁に入ろうとした男もいた。

 

 けれども、事はもうそんな段階を超えてしまっていた。

 

 信じる信じない、許す許さない、悪い悪くない、もう、全てが遅いのだ。

 

 そんな話はもう、手遅れ。それ以前に、そういう生き物なのだから……と、彼らは結論を出してしまった。

 

 その結果が、今しがたの彼らの発言である。

 

 そして、口には出さなくても、似たような考えを持っている男は意外に多く……あのマッスルが所属する『チーム・パワー』も、口には出さないがメンバーには絶対に女は入れないという話らしいのだから、いかにこの考えが広まっているかが察せられるというもので。

 

 

(……まあ、私がなにかしてやる義理はないし、勝手にやるだろう)

 

 

 彼女としても、静観するしかない問題でしかなく……結局、所持している『コイン』と、今後の必要経費を頭の中で考えているうちに、その事は頭の中からスポッと消えてしまったのであった。 

 

 

 

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