この世界は駄犬が 作:お試し
株の売買は会社間では当たり前のように行っている。大手企業同士でもそうだが、新しい分野に必要な技術面を補う方法として、その会社の買収という手段が定石だからである。大手同士だと互いに株を持ち合い、安定相場を維持する行為も定石である。国から禁止されている行為もあるが、完全規制されない抜け道は残されている。そこらは国も絡むため互いに暗黙なのは今更である。
「あばばば!?しゃ、社長!どうして三蕎麦の株を売却されたのですかぁぁ!?」
「いきなりどうしましたか。経理主任?」
現在、三蕎麦商事の株価は下落…どころか暴落中である。3000円台を数刻前まで維持していたが、今では1700~2000円台を乱高下という異常事態であった。この状態にオクトパスから見放された、売却された事実が広がれば更に下落が予想される。三蕎麦商事は社長含めて事態収拾からの会見準備もしているレベルだった。オクトパスへの連絡も鳴り続いているが…社長は美空儀職員が来たことで完全に見放した。
私なりに笑顔で対応したのが効いたのか、顔をアニメのように青くして冷静に発言を始めた。
「…申し訳ありません。驚きのあまり」
「いえ、そういえば前職が三蕎麦でしたね。ええ、前職が経営危機に陥っていれば驚きもするでしょう?」
「ハ、ハハ…はい…」
「ですが…良かったですね」
「え」
「今の貴方は我社の職員であって、三蕎麦の職員ではないのですから…違いますか?」
…ひゅ…
この世の終わりのような顔で出たのは言葉にもならない音だった。
「ああ、売却した理由は単純ですよ。私から見て、経営方針等から未来への投資先ではないと判断しただけです。他に理由はありません…これで回答はよろしいですか。美空儀、経理主任?」
「わァ...ぁ...」
無様に泣き出した女に内心呆れながら、このまま泣いた状態で出られるのも困るため更に釘を刺す。
「三蕎麦の方には貴方がどれだけ我社に貢献してくれたかお伝えしておきますので、ご安心ください。経理主任の役職も貴方ならすぐに慣れますよ」
「…がんばり…ます…」
裏切り者には居場所はない、残さない。貴様の居場所はここしかないと理解させる。その能力を我社に使うのが、残された道なのだと。
こういった輩が出てくるから私も強行に出るのだ、オクトパス職員なら喜んで平伏していればいい。だが私も鬼ではない、我社の職員であるならば相応の待遇で雇う、そこに区別はしていない、契約通りの給料、福祉等は充実、これだけ準備してなぜ未だ他企業への思いを捨てきれないのか理解できない。
フラフラと出ていく職員に呆れながら自分の仕事をしていく。最近はあの犯罪者集団によって作業が遅れ気味だ、案の定脱走したと…ニュースにも出ず、僅かなネット内に提示されるだけという露骨な対応にも飽き飽きしている。警察に抗議すれば謝罪はあれど、組織的犯行だ等の言い訳で流そうとしている。追及を強めれば、事件性が…と、隠蔽に走るのだから頭が痛い。社外アカウントで通知すれば強制削除だ、もはやこの国は独裁国と変わらないのではと感じる対応である。
あの駄犬共は
しかし…ここまで警察の対応やメディア規制、偽造カードの品質など考えれば否が応でも絞られてくる。前世ではなかった組織なのも合わさり、すぐさま候補には上がっていた。他企業のスパイ連中と違い、バックのリカバリー対応が違いすぎる。逆に露骨にやりすぎている為、例え前世の知識がなくとも辿り着くレベルである。
「…あれでスパイとして成り立つこの世界はどうなっているのか…いいえ、考えるのはそこではないですね」
スパイが優遇される世界。嫌でも理解できているが、同時にアニメやゲームのような非現実的行動をする、いわゆる頭の知能が低い者達がスパイ活動をしている。勿論、その教育機関も頭のネジが数十本ほど緩んでいるのは理解していた。
都会に堂々と『KJB本部』と居座っており、近くの喫茶などで色とりどりの美少女と呼べる者達がネット上に画像を含む普段の様子をアップロードしていると、学生感覚で情報が駄々洩れなのである。
アニメやゲームなら…まあ、こういう展開もあるだろう。しかし、現実で行われたら、そしてその行為に違和感を覚える人物がいれば…ただの的である。着実に、そして言い逃れができない状況をゆっくり準備されていくだけであった。
「私たち失敗しちゃったよ…どうしよぉぉぉ!」
「まだチャンスはあるわよ!絶対情報を手に入れてやるんだから!」
「あの緑女…ぶん殴る」
KJBが裏で経営する喫茶『オットスパイ』。そのテーブルでドリンクを飲みながら話す三人の娘たちがいた。
チーム『アジサイ』のメンバーである。連日で証券会社オクトパスに潜入を試みたが失敗の連続。各単独で潜入がいけなかったのか等、答えのない論の言い合いをしていた。
「あの社長やっぱり怪しいわ!何で青子の作ったカードを見破れたのよ、私だってちゃんと出会った際、新人社員ですって挨拶もしたのに『私は貴方のような方を雇った覚えはありません』って!?ムカつく!新社員の顔なんて全員覚えてる社長なんているはずないじゃない!」
「あの人、カードを作った私は天才だって言ってたなぁ…本当にカードで見破ったのかな?使われてる社員カードデータからコピーして作成したから、肉眼だとほぼ無理だと思うんだよね~」
「ちょっと!私がヘマしたっていうの!?」
「ち、違うよさっちゃん!?ただ、あの社長さんの見てる部分が違うんじゃって」
「…あの社長だけじゃない、その部下も面倒だった」
「でも、流石にPCごと持ってくのはバレちゃうよ。まっちゃん」
「あいつ笑いやがった…私を馬鹿にしやがって…!」
「一般人に危害を加えちゃ駄目だよ!?」
「あいつ違う!私たちと同じ同類の動きだった…油断したけど、動きは良かった」
「同業者がいたなら…協力を取れないかしら?」
「う~ん、でも私たちの立場だと難しいよ~、私たちは国家側だし、その同業者の人が一般出だと問題が出てくるよ」
結局どうすればいいか、という答えが出ないままグダグダとしていると…その空気を壊す同じく三人の女性たちが近づいてきた。
「うふふ、お可愛いこと」
「駄目よお姉様、彼女たちはまだ経験も浅かったんだから」
「私たちと比べるなんて、ふふふ」
出会って早々、隠そうとしない物言いに場の空気が支配される。ピりついていく空間に臆せず逆に噛みつく勢いで立ち上がる者がいた。
「なんだぁ、お前ら…」
「ちょっと、まっちゃん!?」
一触即発の空気を換えようと青子は頭を回して、目の前の者達が誰であるか思い出す。
「あ、貴方たちは確か!チーム『プリン』!」
「ッあの難攻不落とまで言われた
チームプリン…そのチームの三人は実の姉妹である。三人とも薄ピンク色の髪を後ろでまとめ、顔立ちも似ており、身体に至っても統一された黄金律。
「安心なさい、私たちが貴方たちのノルマを達成してあげる。上からも貴方たちをサポートせよとあったわ」
「後輩は大人しく私たちの活躍を参考にしてなさい」
「ふふふ、わかったかしら?おチビちゃん?」
「ガルルゥぅ!」
「まっちゃん、ステイ!?」
高飛車な三姉妹、チームプリン…実戦経験豊富な歴戦チームが、引き継ぐ形でオクトパスの情報取集に動き出した。
株の売買に関する差金決済などの禁止事項等の詳しい内容はあまり書く予定はございませんが、今後は専門用語も使う場合もありますので、わかりづらいと思ったら本編に説明を入れる予定です。
ドラマの半沢直樹とか相棒に出てくるような官僚とのコミュニケーションも今後出す予定なので、話が難しくなりすぎないぐらいを目指して書かせていただきます。(それまで作者の気力が続けば)よろしくお願いします。