この世界は駄犬が   作:お試し

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鼻の利く駄犬

 

折り合いをつける。社会において互いに不利益になりえる場合に、妥協する際に使われる言い方だ。ビジネスでは互いに納得できる条件をそのまま通せるなんてまず無理である。故に妥協できるラインを決め、それを下回らないよう契約をしていくのである。

 

「担当の信夫さんが休まれて、本日代理で来させて頂きました。坂本 神子(サカモト ミコ)です、よろしくお願いいたします」

 

PCを長期で使用する場において空調管理は大事な要素である。一般企業においても業務用エアコン等の空調設備点検は法的義務とされて、定期的に実施されるべき事柄だ。PCなど年に発熱する機材を一定の時間を超えて使用する場合は室内温度を低くするなど決まりもあるが、そういった事柄もあり基本として清掃業者は必要とされている。

 

「そうですか、事前連絡はなかったようですが」

「今朝がた体調を崩したと連絡があり、急だったため連絡が遅れてしまい申し訳ありません」

 

ピンク髪を揺らしながら申し訳ない雰囲気を出しながら頭を下げる女性。その者にただ坦々と返事を返した。

 

「わかりました。体調不良なら仕方ありません、社長にはこちらからお伝えしておきます」

「ありがとうございます。では、点検に入らせて頂きます」

 

そう答え受付を過ぎていく人物に隠していた眼差しを露にする。

 

「今回の方も問題を起こすのかしら?」

 

 業者に委託する場合、事前契約による取り決めがある。フィルター掃除など、何台に対し何人と法的にも決められている為、決められた人数が来ることになる。業者としてきた際、事務などに『○○業者の者です』など伝える義務もある等、長年同じ業者なら省略する場合もあるが、確認作業は義務なのだ。

 

 受付の女性は社長室に回線を繋げ、先ほどの報告を行う。

 

「社長、今お時間よろしいでしょうか…はい、エアコンの点検の方が来られたのですが、体調不良の方が出たと代理の方が来られました…はい、髪の色はピンクで女性の方です。坂本 神子(サカモト ミコ)様と」

 

報告が済んだあと、警備室に連絡する。

 

「受付です。はい、いつもの方と思われる人物が来られています。今回は点検業者で来られているので、ピンク髪の女性の方を見かけたらお願います。名前は坂本 神子(サカモト ミコ)様です」

 

自分の役目が済んだ受付女性は軽く息を吐いた。

 

髪の色が黒以外の部外者が事前に連絡もなしに来たら報告せよ…当初その意味を理解できなかったが、何度もそういった輩が問題を起こしていたのを見て、社長の言葉の意味を理解した。髪の色が黒以外の人物は素行面に問題がある場合が高いのだと…。

 

「まあ、私の給料が上がるからいいけどね」

 

自分にとって大事なのは給料である。その問題の人物をいち早く連絡したことで社長からの受けがいい。給料にオマケが付くので、定期的に来る輩は個人的には臨時収入として歓迎していた。

 

「あとは…」

 

 清掃業者に連絡する。

 

「こちら証券会社オクトパス…こちらこそお世話になっております。本日来られた点検担当の坂本様についてお聞きしたいのですが…ピンク髪の女性の方です。あ、そのような方はいらっしゃらないですか。信夫さんの代理と聞いたのですが……いえ、そうですか。はい、わかりました大丈夫です」

 

 怪しい輩が出たら事実確認を行う。手慣れた作業になってきたこの頃。

 

「勤務変更がいつの間にか入っていた…こっわ」

 

 


 

 

 

(面倒ね)

 

 侵入を果たした女は整備をしながら人目の少ない場所に移動していく。

 

(顧客データも欲しいけど、今回は盗聴器の設置に止めておくべきね…可能なら社長室だけど)

 

 本来であれば人を誘導し、その間に資料を手に入れるが…チームアジサイの事前情報からPCはコピー対策をしているのは理解している。

 

(…やっぱり警戒されてる…何度も入られれば当然かしら)

 

 視線を感じる。自らの行動を観察しているかのように巡回している者がいた。

 

(日を改めた方が無難ね)

 

 相手が最初から警戒している最中に無暗に動けば的になるだけだ。そう割り切れば、点検作業を手早く終わらしていく。他の点検作業員とは前日に出会っておき、バイトの作業員として認識されるように手配してある。後腐れなく別れればいいだけだ。

 

「おや…貴方が代理の」

 

 だが、虎の尾を踏む事態になってしまったと悟る。偶然にも自分が作業している場に、観察眼が鋭いとされるオクトパスの社長が現れたのだ。

 

「これは、木藤院社長!初めまして信夫さんの代理で来ました、坂本と申します」

「これはご丁寧に…作業は順調ですか」

「はい、あと数ヵ所で終了予定です」

「そのようですね…」

「あの…何か…」

「いいえ、何も…では、よろしくお願いします」

 

 どこか歓心した?ような視線を感じて、表現できない不安に苛まれた。内心に思いを止めながらその場を離れていく。

 

(何か見落としがあったかしら…怪しまれてたわね…)

 

 自分の行動を思い返しても失敗はしていないはずと思いながら…淡々と残りの点検作業を終わらせた。結局、監視されている視線が止まらず盗聴器の設置すら危険だったため、何もできずに退散することになった。

 

(…アジサイのあの子たちじゃ荷が重いはずね…別なアプローチで行かなきゃ無理だわ)

 

 今回の潜入から相手側の認識を改め、こちらも本気で対処しなければならないと思い立った。これは姉妹全員で対処すべき案件であると。

 

天海江 神子(アマミエ ミコ)を本気にさせるなんて…うふふ、必ず根こそぎ貰うわよ?社長さん」

 

 天海江 神子(アマミエ ミコ)それが本当の彼女の名前であった。

 

 

 

 

 






 うそ…だろ…こんなの、ただのスパイじゃないか…





 ねえ知ってる?プリンって傷みやすいんだよ。
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