金と権力マシマシ悪役令嬢になったから夜の街で神客になりたかっただけなのに   作:寄野遊日

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第一章
プロローグ


 

 キャバクラ──それは夜の蝶たちが舞う夢の舞台。

 

 キャバクラ──それは誰もが社長になれる場所。

 

 キャバクラ──それは荒んだ心を癒すオアシス。

 

 キャバクラ──それは一夜の幻。

 

 キャバクラ──それは人の夢。

 

「おーほっほっほ! じゃんじゃん持ってきてくださいましー! 今晩も飲み明かしてしまいますわよー!」

 

「「「きゃー! ルリナ様素敵ー♡♡♡」」」

 

「みんなもどんどんグラスを空けてくださいな! さあさあミケちゃんも! 今夜はあなたの初出勤祝いですわよー!」

 

「は、はい……っ、ありがとうございます! ルリナ様!」

 

 いやー、こなれた熟練のお姉様にノせられるのも良いですが、初心な新入りさんからしか取れない栄養もありますわよね!! 

 

 キャバクラは計算された可愛さだけじゃなく、こういう不慣れなりのひたむきさから生まれる可愛さもありますわ! 

 研修で教わったワインの注ぎ方を必死に思い出しながら、必死にそれを守って接客しようとするミケちゃん……推せますわー! 

 

 ろくでなしの親父がこさえた借金を返すために夜の舞台に姿を現した、新しい蝶……(わたくし)が守護らねばなりませんわ……。

 

「あ、そうそう。酔い潰れる前に渡しておかないといけませんわね。はい、ミケちゃん♡ ほんの気持ちですけれど、私からの入店祝いですわよ!」

 

「えっ!? そ、そんな、まだオラは何も……」

 

「いやーん! 思わず方言が出ちゃうその初心さ! 推せますわー! お酒が進みますわー!」

 

 あーん♡ まだ全然飲んでないのに顔を赤くして恥じらって、なんてかわいらしい! 

 

「ミケ、お客様の厚意を無碍にしちゃダメよ。ありがたくいただいておきなさい」

 

「シ、シエルさん……」

 

「ルリナさんからのプレゼントは新人の通過儀礼みたいなものなの。ほら、開けてみて」

 

「マリーさん……は、はい……」

 

 うーん、最初はミケちゃんよりもわたわたして恐縮していたマリーちゃんもすっかり立派な夜の蝶ですわね。

 推してきたひとりの客として感慨深いものがありますわ……。

 そしてシエルお姉様は相も変わらずクールで素敵ですわー! 

 

「これ……香水……えっ!? こ、これってミザリア商会の……!?」

 

「わっ、先週出たばかりの新作! ミケちゃんうらやましー!」

 

「おーほっほっほ! 勿論みんなの分、ダースでプレゼントして差し上げますわ! けれど今晩はミケちゃんだけにその香りを贈らせてくださいな!」

 

 初対面の女性を自分が選んだ香りで染め上げるなんて、男だった頃には勘違い野郎でキモすぎて出来ませんでしたが今は同じ女性ですから全然やれちゃいますわよー! 

 女でもキモイって? うっせぇですわよ私の気持ちの問題ですわ!! 

 

「ルリナ様……はいっ、ありがとうございます!」

 

 それにミケちゃんにキモがられてないからセーフですわ! 

 熟練のキャバ嬢ならどんなものでも笑顔で受け取ってくれますが、ミケちゃんにはまだそのスキルはありませんもの! これは本当に嬉しく思ってくれてる奴ですわー! 

 

「ほらミケちゃん、ルリナさんに香りを確かめてもらって。アルコールで鈍感になってるから、ちゃんと届くようにもっと近づいてね」

 

「は、はい……ルリナ様、どう、でしょうか……?」

 

 恥ずかし気に、おずおずと私に身を寄せるミケちゃん……きゃわわですわ!! 

 これは酒がまた進みますわよー!! 

 

 ──と、気分良く酔いを回し始めていたのに、無粋なお客様がいらっしゃったようですわね。

 

 あーあ、せっかくみんなで楽しく飲んでいましたのに、女の子たちみんな萎縮しちゃってるじゃありませんか。

 

「……こうして直接見るのは初めてだが、聞きしに勝る放蕩ぶりだね、ルリナ」

 

「店の案内を待たずにずかずかと踏み込むのはマナー違反ですわよ?」

 

「心配ない。僕は客として来たわけではないからね」

 

「だとしても、騎士をぞろぞろと引き連れて……その物々しさはどうにかなりませんの?」

 

「表で待っていてもらいたかったんだが、許してもらえなくてね。しかし君の言う通りだ。これ以上宴の場を乱すのは申し訳ない。だから一緒に来てもらえないかい? 場所を変えて話そう」

 

 騎士たちの鞘に刻まれた三つ首の竜の紋章。

 そして彼らを束ねる、金の髪に翠の瞳の美丈夫。

 どれもがこのアガリア王国を示す代名詞にして王家の象徴ですわ。

 

「婚約者の誘いだ。受けてもらえないだろうか?」

 

「ええ、もちろん。未来の旦那様のお誘いですもの。喜んでお受けいたしますわ」

 

 グラスをテーブルに戻し、この一瞬で冷めていった心地よい酩酊感を惜しみながら立ち上がる。

 そして、不安げに私を見つめるミケちゃんの赤茶色の三つ編みを手に取り、顔を寄せましたわ。

 

「ああ……思った通り、この優しい香りは貴女に良く似合いますわ」

 

「ル、ルリナ様……?」

 

 羞恥に染まったかわいらしい顔を見せてくれると思いましたのに、後ろに控えている騎士たちのせいで蒼白ですわ。怯えてしまって可哀そうに。

 

「ふふ、心配いりませんわよ。……さて、申し訳ありませんが今晩はこれにて失礼! 皆様、楽しい時間をありがとう! 愛していますわよー♡」

 

 騎士たちが顔を顰めますが関係ございませんわ! 

 私にとってはお店の女の子たちが何より一番ですもの! 

 少し雰囲気が和らいだところでおさらばですわ! 

 皆さんごきげんよーう! 

 

 

 

「ルリナ様、大丈夫かなー……」

「余計な詮索も心配もルリナさんは望んでいないわよ」

「それは確かにそういう人だけどー……」

 

「あの……シエルさん、ルリナ様っていったい……」

 

「そうね。一度ルリナ様に付いたことだし、教えておきましょう。あの方はルリナ・サンクトゥルス……正真正銘の貴族様で、公爵令嬢よ」

 

「こ……っ!? そ、それじゃあやっぱりお迎えに来られた方は第一……っ!?」

 

「そして、このお店のお客様。ミケ、相手が誰であろうと余計な詮索はしないこと。ここではお客様が語ったことが真実。お客様が語らないのなら、私たちは何も知らないの。研修で教えたでしょう?」

 

「……は、はい」

 

「けれどルリナ様は有名な方だから、その正体はいずれ知ることになる。ご本人もそれはわかっているから一度付いた女の子には教えて良いと言われているの。そして知らずに一度砕けた態度で接してくれたなら、変わらずにいてほしいともね」

 

「それで皆さん、ルリナ様にもあんな風に……?」

 

「ええ。あの方の素性がどうであれ、私たちにとってはひとりのお客様……それも、お店に多額のお金を落として強引なことは一切なさらない──」

 

「『神客』よ」

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

「第一王子様が歓楽街のお店を尋ねるなんて、よからぬ噂が立つのではありませんか?」

 

「騎士を引き連れて物々しい雰囲気を放っていたんだ。遊びに来たとは誰も思わないさ。その証拠にあの店に入るまで客引きは誰一人声を掛けて来なかった」

 

 第一王子、エリック様と騎士たちに連れられ、私は学園の生徒会室へとやってきましたわ。

 けれど、普段であれば学園内には立ち入らない騎士たちは今も扉の外に待機しています。

 私を逃がさない……というより誰も入らせないためでしょうね。

 

「それに婚約者が歓楽街で放蕩三昧、というよからぬ噂はとっくの昔に立っている。今更だよ」

 

「人の口に戸は立てられませんものね。ですが、それに関しては婚約の条件として最初に申し上げたはずですわよ?」

 

「僕が婚約を望むのなら受け入れる。もしも王妃になるようなことがあれば務めは果たします。ただし──」

 

「正式な婚姻近くまでは私の遊び癖には目をつぶっていただきます。もちろん逆も然り。側室もどうぞご自由に、とね」

 

 私、TS転生者ですから殿方と関係を持つのは真っ平ごめんですので十一の時に婚姻の話が持ち上がった時点ではっきりと申し上げましたとも。

 

 ええ、断っていただくためにあけすけにお伝えしましたよ。

 

「まさか、王子の学園卒業までの虫除けのためとはいえその条件で婚約が結ばれるとは思いませんでしたけれど」

 

「ふふ、父も母と婚約したのは十八の時でした。なのに私は七年も早く結婚相手について考えなくていけないのは不公平だと思いまして。あなたと同じでまだまだ遊びたい盛りなんですよ」

 

「その割には浮いた話のひとつも聞きませんけれどねぇ」

 

「いえいえ、騎士団と一緒に魔獣討伐に行ったり、生徒会のみんなで学園を盛り上げたり、随分と自由に遊ばせてもらっていますよ」

 

「あら。私だけが楽しんでいるのではと気にしておりましたので、それを聞いて安心しましたわ」

 

 はー、エリック様はプライベートでも爽やか王子様なんですのね。

 アガリア王国の未来は明るいですわー。

 

「ですが、ルリナ嬢は少々派手に遊びすぎです。これまでは上手くやってくださったおかげで噂の域を出ませんでしたが、今夜僕が直接赴いたことで噂は確信に変わるでしょう」

 

「そうですわねぇ。あのお店の子たちの口は堅いでしょうが、歓楽街中で目撃されているでしょうし」

 

「この醜聞は瞬く間に広まり、もうもみ消すことも不可能でしょう──ルリナ・サンクトゥルス。あなたの遊び癖にはもううんざりだ。あなたのような者は王妃候補に相応しくない」

 

「ということはつまり」

 

「ええ。あなたとの婚約は破棄させていただく」

 

「かれこれ四年……随分掛かりましたわね……」

 

 正直、婚約翌日には考えを改めると思っていましたのに。

 本当に今日までエリック様は私の女癖遊び癖には一切口を出してきませんでしたわ。

 ワンチャン、本気でこのまま婚姻までいくんじゃないかと気が気じゃなかったですわよ。

 

「はぁ……感慨に耽っているところすみませんが、正式な婚約破棄の場ではもう少ししっかりとお願いしますよ?」

 

「それは勿論ですわ。身勝手で最低最悪な、婚約破棄して妥当な悪役令嬢として振舞わせていただきます」

 

「そこまでしてもらう必要はありませんが……本当に変わらず僕にも王妃にも興味がないんですね」

 

「興味のなさなら今日まで好き勝手させてきたエリック様も相当でしょう?」

 

「いえいえ、ルリナ嬢の破天荒ぶりは興味深く観察していましたよ?  毎晩のように遊び歩いているにも関わらず、画期的な商品をいくつも生み出してミザリア商会の規模は拡大するばかりですから」

 

「接待酒場で遊んでいると天啓が降りてくるんですわ」

 

 接待酒場というのはキャバクラのこの世界での俗な呼び方ですわ。

 この世界では基本は全て酒場呼びで、女の子と遊べるかどうかは店の雰囲気で見極めますの。

 この世界、風営法とかないの前世ほど細かく分類されていませんのよね。

 

「ですが、まだ新年度が始まって二週間。ようやく学園が少し落ち着いてきた頃でしょう? それでもこのタイミングで業を煮やしたということは、新入生に気になる方でもいましたの?」

 

「そうですね。今年も優秀な生徒たちが大勢入学してきましたから」

 

「言う気はないと。まあ私はどなたであっても応援いたしますので、学生の内に恋愛を楽しんでくださいませ」

 

 こうして私、ルリナ・サンクトゥルス公爵令嬢とエリック・アガリア第一王子の婚姻関係はつつがなく内々では解消され、この後の正式な婚約破棄についての打ち合わせもあっさりと決定。

 その後にとある取引を持ち掛けられ、そちらも私が即答したことですんなり終了。

 

 休息日を挟んで翌々日、私は学院のエントランスで多くの学生たちの目に晒されながら、エリック王子に婚約破棄を申し渡されましたわ。

 

 あ、ちなみにエントランスを舞台に設定したのは私の案ですわ。

 衆目の面前での婚約破棄が悪役令嬢の嗜みと心得ていますので。

 

 まあ、この世界に原作があるのかどうかは知りませんが。

 前世で女性向けは守備範囲外でしたもの。

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