金と権力マシマシ悪役令嬢になったから夜の街で神客になりたかっただけなのに   作:寄野遊日

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婚約破棄

 

「ルリナ・サンクトゥルス。あなたとの婚約はこの場で破棄させていただく」

 

 エリック様から踊り場から階下の私へと突き付けられた婚約破棄。

 普段物腰柔らかなエリック様の有無を言わせぬその態度に居合わせた生徒たちは息を呑み、騒めきが広がっていく。

 

 次期王に相応しき上位者の眼差し、それに射抜かれた私は蒼白となり、信じられない展開に体を震わせることしかできません。

 

「な、な──」

 

「なぜ、などとは問わないでくれ。あなたの醜聞を学院の生徒たちの前で詳らかにしたくはない」

 

「っ……!!」

 

 罪のない生徒たちの耳を汚させるな、と暗に制され、口をぱくぱくと開閉する私。

 

 ちなみに、最初は学園には私と仲の良いご令嬢たちもいますし、きちんと夜遊びの件を明言して、婚約破棄されても仕方ないことだったと納得していただいた方が禍根を残さないのでは? と提案したのですが、私が良くても公爵家の名に傷が付くからやめなさいと止められましたわ。

 

 他にももっとみっともなく喚き散らして、生徒会書記をしている騎士団長の息子さんに取り押さえられる展開とかも考えたのですが、高潔な彼は私に対してかなりの鬱憤を溜めていて怪我ではすまなくなる可能性もあるからと没にされました。

 確かにカイル様は女遊びとか一切しなさそうですものねー。

 

 そういう経緯で私のざまぁイベントは私が想定したよりも随分と紳士的で穏便な形で執り行われることとなりましたとさ。

 

「既に僕の父とあなたの父君にも承諾を得ている。後はあなたがこの書類に署名をするだけだ」

 

 私はもうひと震えした後、俯いて観念したように歩みを進め、エリック様から婚約破棄に同意する書類を受け取り、魔力による署名を行いました。

 はい、これで無事婚約破棄完了ですわね。

 

「っ……私を捨てたこと、絶対に後悔させて差し上げますわ!!」

 

 でもせっかくなのでそれっぽい捨て台詞をアドリブで残して、私に見えるようにだけ理解できない狂人を見るような目を向けるエリック様から逃げるようにその場を去りましたわ。

 サービスでその途中で無様に足をもつれさせてコケるパフォーマンスも添えておきましたわー! 

 

 

 

 そして数多くの好奇と侮蔑の目に晒されながら、自分の部屋まで戻ってきた私は、解放感からはしたなくもベッドにダイブ。

 ぼよんぼよんと何度か跳ねて喜びを表した後、着替えを済ませて昨日のうちにまとめていた荷物を持って、窓から脱走、学園のそばに待機していた馬車に乗り込みましたわ。

 

「ふぅー、昨日を休肝日にしておいたおかげでかなり鮮やかな脱出ができましたわね」

 

「そのせいで余計なアドリブを入れる余裕があったのなら、普段通り飲んでいてもらった方が良かったかもしれないね」

 

「うぉえエリック様ァ!?」

 

 先ほどの二階からの着地に十点評価を上げているところで予想外の先客に声を掛けられ、淑女らしくない声を上げてしまいましたわ。反省ですわ。

 

「どうして此処に? いえ、というか追いつくにしても速過ぎませんこと!?」

 

 エリック様の性格上、私が去った後にあの場にいた生徒たちに騒がせたことの詫びやらなにやらをして場を収めるのは間違いなく、その後で制服から商人風の変装に着替えて私に先回りしましたの? 

 パないですわね。

 

「婚約者を降り、これからあなたは特命を遂行してもらう立場になります。情報漏洩を防ぐため、僕が直接送り届けさせていただきますよ」

 

 私の質問には答えず、エリック様が指を鳴らすと魔道馬車はゆっくりと動き始めましたわ。

 イチイチ絵になる殿方ですわね。

 

「承知していますわ。これよりルリナ・サンクトゥルスは一時家名を捨て、ただのルリナとして『竜の尾』として行動いたします」

 

 第一王子直轄の、エリック様が人員を揃えた極秘諜報部隊『竜の尾』への参加。

 それが一昨日の晩、婚約破棄と共に持ち掛けられた取引でした。

 

 私は婚約破棄の後も学園を去ることなく、一旦公爵領に報告に戻った後は素知らぬ顔で学園とキャバクラに通い続けるつもりでしたが、その秘密部隊への勧誘に乗り、学園を去ることにしました。

 

 構成人数も人員も、誰にどんな任務が与えられているかも不明でその全容を把握しているのはエリック様だけという徹底ぶりの怪しい部隊ですが、きっと王族の中でも色々と跡目やら派閥争いやらがあるのでしょう。

 

 勿論、この王都を離れればシエルお姉様やマリーちゃんやミケちゃん、ステラちゃんにミントちゃん、お店の女の子たちに気軽に会えなくなってしまうのは承知していますが……それでもしかし、まだ年若い私は新規開拓の志を忘れてはならないのですわ……! 

 

「亜人街で暗躍するという裏組織『アングルボザ』の調査、見事果たしてご覧に入れましょう」

 

 人間の領域の中で唯一、奴隷以外の魔族……亜人たちの出入りが許されている王国最南端の都市、バルバラ。

 そこに存在する亜人達の歓楽街の調査が私に与えられた任務でした。

 

 先王の時代、三十年ほど前に魔族との和平が成ったとはいえ、未だ魔族に対する差別意識の強い王都では良い噂は聞かない土地ですわ。

 

 そんなところに元婚約者を送り込むなんて、あわよくば帰らぬ人になってほしそうな思惑が透けて見えますが、いくつか挙げられた任務地の中で私が即決しただけですわ。

 

「婚約破棄に傷心したルリナ嬢は公爵領で暫く静養する、ということでジュリオ公爵たちとも口裏を合わせておきます。本当ならあなたには別の土地で新しい刺激を得ていただきたかったのですが」

 

「北都も西都も行ったことがないので魅力的な選択肢ではありましたが、刺激というなら亜人街以上の場所は王国内にはありませんわよ」

 

 何を隠そう、実は私の夜遊びが許されていたのは、前世の知識を基にしたまったく新しい発想の商品開発や領地運営の功績が高く評価されていたからというのが大きいのです。

 単なる公爵令嬢というだけでなく、私一個人としても一目置かれていますのよ? 

 

 婚約破棄の後で対外的に取っておくべき静養の間、私に慣れ親しんだ公爵領で悪戯に時を過ごすのではなく、他領の風俗に触れ、また新しい知恵を絞りだしてもらいたい、というのがエリック様のお願いでしたわ。

 

 ただぶっちゃけ、前世知識によるチートも割と品切れというか、後はさすがに時代を一気に進めすぎたり宗教的観念からやべーことになりそうなものぐらいしか形にできそうなものがないんですのよね。

 肉体はともかく魂は外来種みたいなものですから多少の自重は必要ですわ。

 

 それだって新技術のとっかかりを示せるぐらいで、私ひとりで再現できるような簡単なものはありませんわ。

 

 これまでの知識チートだってほとんどは私みたいな転生者を主役にした創作で出てきたものばかりですし。

 安価な石鹸の作り方とか、小さい頃に実験したような気はしても普通に前世生きてたらいつまでも覚えているなんてことありませんわよ。

 

 これ以上叩かれても大したアイデアは出なさそうなので、新技術の開発が求められる他の都市ではなく、裏組織の調査が大目標に据えられたバルバラを選んだのですわ。

 勿論、亜人の歓楽街という夢とファンタジーが詰まった響きに釣られたというのが一番ですが。

 

 そう! この取引による私のメリットは、お偉方に口裏を合わせていただき、公爵令嬢という身分と世間体に縛られず、好き勝手に夜遊びができるということですわ! そんなんやらいでかですわー! 

 

「わかっているとは思いますが、ルリナ・サンクトゥルスにはこれから領地で静養していただきます。公爵家の名で回避できる甚大な危機があったのなら正体を明かしていただいて構いませんが、あまり派手に動くようなことはしないでくださいね」

 

「心得ていますわ。王都ではすっかり名が知れ渡ってしまっていたところですもの。公爵令嬢の看板を下ろして大手を振れるのです。早々拾い直したりはしませんわ」

 

「それから、あなたにお願いしたいのは『アングルボザ』の調査。壊滅でも潜入でもありません。それも忘れないようにお願いします。相手は亜人、王都の酔っ払いを相手にするのとは状況が違うのですから」

 

「私だって好きで迷惑客相手に大立回りを演じてきたわけではありませんわよ。お店とお客の問題に別の客が口を挟むのは、私自身が迷惑客になってしまいかねない行為ですもの……」

 

 エリック様に疑わし気な視線を送られてしまいますがマジのガチの事実ですのよ。

 

 でも気の弱い女の子にこっそりアフターを強要する現場とか見てしまったら、黙ってはいられないのがこの私なのですわ……! 

 私の暴力ステータスが高いばかりに、つい手を出す選択肢が上の方に出てきてしまうのです……。

 

「んん゛っ! なにはともあれ、いざ行かん新天地へ! ですわ!」

 

 

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