金と権力マシマシ悪役令嬢になったから夜の街で神客になりたかっただけなのに   作:寄野遊日

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個人的人外に言われてみたい台詞ランキング第一位

 

「ポーラじゃ。ミノタウロスの血が混じっておる」

 

 うぉ……でっか……。

 

「わぁー人間さんだー♡」

 

 あぁ~♡ 個人的人外に言われてみたい台詞ランキング第一位の台詞~♡♡♡

 

「きゃー♡ ポーラちゃん、はじめましてルリナですわー♡ 今日はよろしくお願いしますわね♡」

 

 リリムのお店は上品さが残る王都と比べると、前世のキャバクラによく似た雰囲気の店内でした。

 まだ夜も浅い時間だからか、私以外に客はいないようですわね。

 このちょっと薄暗めの照明に立派なソファと大理石っぽい床と壁、ノスタルジー感じますわー! 

 

 残念ながらポーラちゃんの服装は安っぽさを隠しきれない、村人Aって感じの布の服でしたが、明らかにサイズが合っておらず、Jカップは下らないであろう爆乳! 

 安物であっても服に申し訳ないとは思わないのか! ってレベルで双丘が服を持ち上げてへそ丸出しのぱっつぱつ! エロい通り越してもはや下品なレベルですわね……! 勿論誉め言葉ですわ!! 

 

「さあさあ座ってくださいまし♡ たくさんお喋りしましょ♡」

 

「嬉しいですー♡ それじゃあ失礼しますね♡」

 

 L字型のソファ席で自分の隣をポンポンしましたが、ポーラちゃんが腰かけたのは私から一番距離を取れる席でしょんぼりですわ。

 こうもあからさまだとやっぱり人間だから警戒されてるのかもしれませんわね。

 でもでもここから仲良くなって隣に座ってもらっちゃいますわよー♡

 

「それと飲み物ですけれど……私、亜人街は初めてですし、ポーラちゃんの好きなものが飲んでみたいですわー♡」

 

「わたしのー? それなら、えっと……じゃあエール、かなぁ?」

 

「あー王道ですわね! じゃあとりあえずエールくださいましー!」

 

「……儂も同席しようと思っておったが、ひょっとして邪魔かの?」

 

「従業員じゃないのならそりゃお邪魔ですわよ。私が不安で監視が必要ならせめて見えないところから見ててくださいまし」

 

「本当に肝の据わった奴じゃの……なら儂は裏に引っ込んでおる。好きに飲んでくれて良いから、酒に満足したら来るがよい」

 

「ゴチになりますわー! それじゃあポーラちゃん♡ カンパーイ! ですわ♡」

 

 控えめにグラスを差し出すポーラちゃんと乾杯して、亜人街の素敵な初夜(プリマエ・ノクティス)の開始ですわー!! 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 ──店へと戻る道中、オークの男に絡まれた儂を助けたのは人間の娘じゃった。

 

 人が絡まれているのをぼけーっと見ている態度が気に食わず、八つ当たりのように助けを求めてしまったが、奴はあっさりとオークを敵に回し、一瞬で打倒してみせた。

 

 美しく透き通った金色の長髪を持つその身なり、平民ではなくそこそこ良いところの娘じゃろうに、随分と荒事に慣れているようじゃった。

 女で夜に一人歩きしているから当然と言えば当然ではあるがの。

 

 たとえ腕に覚えがあっても女一人で亜人街を歩くのは普通ではないが、この街では怪しい連中や訳あり人など大勢いる。

 

 接待酒場に慣れているというのも嘘ではないようだったので出まかせ通り、店へと案内してやった。

 人間たちの偏見にも染まっていない……というよりまるで知らない様子じゃったから、店の者を傷つけることもないと思ったからの。

 

 たとえ互いに関わらず、避けて生きようと思ってもこの亜人街で暮らす限り、まるきり人間とは関わらずにはいられない。

 積もりつつある人間全体への不満や怒り、悲しみを偏見を持たない人間との関わりで少しでも解消できれば、という下心もあった。

 

 淫魔が関わった人を搾り殺す化け物である、という的外れでもない伝承によって、儂らは人間から疎まれておる。

 

 力仕事を任せられることの多いオーク、工芸品で商売するドワーフ、淫魔と違い、歌と踊りで接待酒場を繁盛させているニンフたち精霊族。

 この街に住む亜人たちは差別を受けながらも、人間たちと上手い付き合いをして、人間の世界で居場所を作った。

 

 オークほど力に優れず、ドワーフのような技術も持たず、精霊のように受け入れられず……儂ら淫魔だけが、この街に安心できる居場所を持たぬ。

 

 同じ亜人だけを相手に細々とした店をいくつかやりながら、店で抱えきれない者たちは他の亜人の店で雑用係をしながら『現物支給』で命を繋いでいる。

 首輪こそ嵌められていないだけで、彼女らは奴隷となんら変わらない扱いじゃ。

 

 それでも亜人にすら見捨てられれば、亜人街でさえ生きていくことはできなくなる。

 魔族領で生きてはいけぬ彼女らにとって、この街が最後の砦。

 

 どれだけ惨めであっても、泥を啜りながらでも生にしがみ付いてもらうしかない。

 

 じゃがこの亜人街を一縷の希望として、魔族領からやってくる淫魔は未だ後を絶たぬ。

 

 増え続ける淫魔に対して稼ぎがまるで追いついていない。

 人間相手に商売ができぬ以上、一日でも早く亜人たちに金を落としてもらう手段を考えなくてはならぬ。

 

 だが、どれだけ考えても他の種族にはなく、淫魔だけの強みを生かした仕事など思い付きはせん。

 

 そして、そんな現状故に今の時代であっても給料の『現物支給』などという時代錯誤な支払いを受け入れねばならず、いくら淫魔たちが他所で働いても生活が豊かになることはない。

 

 八方塞がりのまま、この街で数年が過ぎた。

 もうこのまま緩やかに死んでいくしかないのか……。

 

「いかんいかん。儂が諦めてしまえば未来はもうない。儂がしっかりせねば……」

 

 頭を振って悪い考えを振り払う。

 ここ最近はいくら事務仕事で忙しくしていてもふとした時に悪い考えが頭を過ってしまうのぉ……。

 

「……そういえば、もう二時間は経つというのにあの娘が尋ねてこんの」

 

 遊び慣れているようじゃったが、酔い潰れでもしたか。

 あるいは何かの拍子で気を悪くして帰ったか。

 

 誰も報告に来ない以上、後者でないと思いたいが……ポーラたちが落ち込んで言いに来れないだけかもしれぬ。

 

 ちょうど仕事もひと段落したところじゃ。

 邪魔者として退散したが、様子を見に行くとするかの。

 

「む……?」

 

 表に向かう道中で休憩室を覗くが、店の者は誰一人そこにはおらんかった。

 物怖じしない人間の物珍しさに見物にでも言っておるのか……? 

 

『きゃああああっ♡♡♡』

 

「……随分盛り上がっておるな?」

 

 表の店内から聞こえてきた、複数人の楽し気な悲鳴。

 席につけたのはポーラだけじゃが、まあ楽しくやっておるのなら良いじゃろう。

 どうせ他の客など滅多に来んしの。

 

「どれ、一体何をしておるのか──」

 

「それじゃあ『トッキーゲーム』八回戦! 最後のお相手はカンナちゃんですわよー!」

 

「イエーイ!!」

 

「よ、よろしくね……?」

 

 ルリナの席を見えてくると、その手には王都で開発されたという細い棒状の菓子『トッキー』……そのパクリを持っていると分かる。

 

 それで何をするのかと思えば、おもむろにルリナはトッキーの端を口に咥え、唇を突き出して反対側を隣に座るカンナへと近づける。

 そしてカンナは恐る恐るそれを咥えた途端、ルリナがトッキーを食べ進め始め──

 

「ッ──馬鹿者! 貴様らは一体何をしておるのじゃ!!」

 

「おっげぇ!?」

 

 一切止まることなく、唇がカンナに触れる寸前でルリナの頭を掴み、力を加減する余裕もなく強引に引きはがす。

 

 ソファに背中を打ち付けたルリナが苦悶の声を上げるが、それどころではない! 

 

「人間と唇を合わせるなど……貴様らは人間を殺す気か!?」

 

 儂の剣幕に、盛り上がっていた店内がしーんと静まり返る。

 やはり店の者はルリナを見に表に出てきておった。

 

「これだけの人数がいながら、誰も止めんとはどういうつもりじゃ! 貴様らは一体何をしているのじゃ!!」

 

「り、リリム様……それは……」

 

「あいたたた……お、怒らないであげてくださいまし、リリム……私が提案したことですわ……『トッキーゲーム』の話をしたら、やってみたいと言ってくれたものですから……演技とも思えなかったので、つい調子に乗ってしまいましたわ……」

 

「関係ない。それを誰も止めなかったことが問題なのじゃ!」

 

「リリム様! わ、わたしがいけないんです! わたしが最初にやってみたいと言ってしまって──」

 

「今は黙っておれポーラ! ルリナ、体に異常はないか?」

 

「異常ですか? 今打った背中がちょっと痛いぐらいですけれど」

 

「そうか……どうやら最悪の事態は避けられたようじゃな……」

 

 自分が命の危険に晒されたことが分かっていないのか、ルリナは訝し気な顔をするだけじゃ。

 

 対策を知っているが故の物怖じのなさだと思っていたが、まさかここまで淫魔に対する知識がないとは思ってはおらんかった。

 いや、それも言い訳じゃ……。

 

 儂がここで働く娘たちならば、理性を持って働いてくれると信じていた。身内だからと儂が甘く考えておったのじゃ。

 

「おぬしらは一度裏に引っ込んでおれ。儂が話す」

 

 儂の失望と怒りが伝わり、顔を青くしているポーラたちに裏へと引っ込むように伝えたところでルリナが口にしたのは、信じられないことじゃった。

 

「ひょっとして魔力の吸収について心配してくれましたの? それならちょっと危ないと思ったので持っていかれないようにしましたから心配いりませんわ。……だからその、この子たちを叱らないであげてほしいですわ」

 

「なんじゃと……? 淫魔の、『吸精』の口吸いじゃぞ……?」

 

「本気で吸い殺す気で来られたら危ないかもしれませんけれど、ちょっと吸っちゃった♡ ぐらいの力ならまったく問題ありませんわよ……?」

 

 困惑気味の表情は嘘を言っておるようには見えん。

 

 本気でこの娘は、力の加減が出来ぬ未熟な淫魔である彼女らの口吸いを脅威とは捉えておらんのじゃ。

 

「あの……やっぱり同意を得たとはいえ、『トッキーゲーム』は迷惑客でしたわよね……でもトッキー開発したのに王都じゃゲームは流行らず……流行をまだ諦めきれなかったのですわ……」

 

 淫魔の希望がこの街にやってきた……かもしれぬ。

 

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