金と権力マシマシ悪役令嬢になったから夜の街で神客になりたかっただけなのに 作:寄野遊日
やってしまいましたわ……神客であろうと誓っておきながら、私は迷惑客に成り下がったのですわ……。
私が開発したトッキー(ほぼまんま〇ッキーですわ)のパクリがつまみとして出てきたのを見て、本体と違って下品だと流行の兆しすら見せなかった『トッキーゲーム』を思い出して話したら、まるで都会に憧れる田舎の少女みたいな様子で「やってみたいなぁ……」なんてポーラちゃんが言うので、じゃあ私とやってくれます? とついつい提案してしまったばかりに……。
私を引き剥がしたリリムの剣幕からして、間違いなくNG行為だったのでしょう……前世でもキャバクラで好まれる行為ではありませんでしたものね……。
人の感情の機微を察知するのには自信がありますが、さすがサキュバス。さすがプロ……あれがリップサービスだとは見抜けませんでした……本気でやってみたいのだと勘違いしてしまいましたわ……。
その上、ポーラちゃんと私のトッキーゲームを見て、他の子たちが羨ましそうにしているように見えたから、調子に乗って全員と……しかも例外なく全員ゲーム失敗で唇を奪ってしまいました……。
私はとんだ勘違い迷惑ヤローですわ……。
ち、ちゃんと遊びやすいように改良したルールは説明しましたのよ? 口を離した方が負けではなく、私が止まらずに食べていって、どれだけ近くまで耐えられるか、度胸試しみたいな遊びだって。
ポーラちゃんもそういう遊びだと納得してくれましたし……。
いえ、言い訳ですわね……。
「そうか。経緯はわかったのじゃ」
女の子たちがいなくなった店内で、私はリリムに事の経緯、私の罪を一切隠すことなく白状しました。
出勤していた女の子全員の唇を奪ってしまって申し訳ありません、と何度も頭を下げましたが、リリムはまともに私の謝罪を受け取る気はないようで、難しい顔を浮かべるばかり。
これは……出禁かもしれませんわね……。
亜人街のお酒が中々強くて、気が大きくなってしまったとはいえ……だから言い訳はおやめなさい、みっともないですわよ私!!
「やはりおぬしが謝ることではない。軽率なあの娘たちと、おぬしが淫魔について知識が浅いと知りながら、危険性について説明しなかった儂が悪い」
「危険性……というのは先ほど口にしていた『吸精』の口吸い、というのと関係が?」
「うむ。淫魔は他種族の精気を食料としている種族じゃ。精気とはおおざっぱに言えば生命力、魔力、精力の三つを指す。それを搾りつくされれば人は干からびて死ぬ。戦争があった時代にそうやって殺された人間たちも少なくない。故に人間の間で淫魔は精気を搾り殺す怪物として伝わっておる」
重苦しい雰囲気の中、リリムは私に分かりやすく淫魔について説明を始めてくれましたわ。
私が読んだ書物に書かれていたのは、エロくならないように誇張したものではなく事実だったんですわね。
「けれど、それは戦場だけでの話ではないんですの?」
「その通りじゃ。だがそれは血の濃い淫魔に限っての話。この街で暮らす淫魔は儂を除いて全員が混血、淫魔の血の薄いものしかおらん。彼女たちは淫魔の力を制御できぬのじゃ」
確かにポーラちゃん以外のみんなも、自己紹介の時に何の種族の血が混ざっているか教えてくれましたわね。
「そのせいで体を重ねるどころか、口吸いをするだけで本人の意思とは無関係に腹いっぱいに精気を吸収しようとする。混血の彼女たちが必要とする精気は純血と比べれば微々たるもの。相手が亜人であればなんの問題ない……だが人間の持つ精気は亜人よりも圧倒的に少ない」
……なるほど。
それでリリムはあれだけ焦っていたわけですわね。
「純血の淫魔である儂は、人の集まる場所であればそこにいるだけで一帯に漂う精気を吸収できる。究極的には人でなくとも動植物がいればそれで良い」
……混血のサキュバスは腹上死待ったなしなのに対して、純血の方は霞を食べて生きる仙人みたいなエコっぷりなんですわね?
「だが彼女たちが人と唇を重ねれば、間違いなく干からびた死体が出来上がる……と、そう思っておった」
「私は平気な顔でお店の女の子全員と『トッキーゲーム』をやってのけ、その全員の唇を奪っていた、と」
「うむ……まさかそんなことができる人間がいるとは想像もしておらんかった。淫魔の『吸生』に抗える人間は、英雄などと呼ばれるような武人にしか出来ぬものだと」
事情は呑み込めました……が、英雄なんてそんな大層なものではなく、ただの転生チート……というより弊害に近いものですわね。
「私は精気の内、生命力と精力とやらははっきりと感じたことはありませんが、魔力に関してだけは人一倍敏感なんですわ。女の子たちと唇を重ねた時、魔力が勢いよく吸われるのを感じて、吸われないように綱引きのイメージで踏ん張っただけですわ」
前世と違ってこの世界は魔力が満ちていて、生き物は皆、魔力を宿し、体の表面を覆っている。
そのため、私以外の人間は魔力のない空間というのを経験したことがない。空気と同じ、そこにあって当たり前のもの。
魔力のない空間を知っている私だからこそ、当たり前のはずのそれをはっきりとした違和感を持って認識できたわけです。
そういうわけでこの感覚はチートというよりは前世持ちの弊害に近いわけです。
ただ、この感覚があるから私は一定距離なら360度死角なく状況を把握できますし、魔力を体の一部に集中して身体強化することも得意ですわ。
この魔力に対する違和感というのは常に感じているとそれが当たり前になり、体が違和感を違和感と認識しなくなります。
常に聞こえてくる環境音や雑音などに耳が慣れて気にならなくなるのと同じ感じですわね。
だから私は定期的に体の表面を覆う魔力を完全に体内に押し込めて、生身の状態を作り、魔力という違和感に慣れないようにしているんですわ。
魔力のおかげでこっちの生き物は人間含めて前世より頑丈で、全員が頑丈だから普段はその恩恵を感じることはほとんどありませんが、魔力を押し込めた状態はこの世界では相対的に豆腐みたいな耐久と化しますわ。
その危険を冒してでも、全方位センサーになるこの弊害が便利だから保っているわけですが。
魔法の才能がない分、この感覚はなくしちゃいけないと思いましたわ。
それにそのおかげで干からびることなく女の子たちとちゅっちゅっできたわけですしね!!
「感じ取れるのが魔力だけであっても、おぬしのそれが天賦の才であることに変わりはない。おぬしが才を持っていたおかげで、あの娘たちは人殺しにならずに済んだ」
「ですが、夢を持たせるようなことをしてしまったかもしれません」
謝罪は無用と言われても、やっぱりそこは反省点ですわ。
「……そこまで考えてくれておったか」
「きっと、あの子たちはリリムに言われ、人との触れ合いを禁忌の如く避け、人もまた同様だったのでしょう。そしてあなたの判断は正しいですわ。制御できないまま人と関われば、絶対に過ちが起きたはずです」
「……うむ」
「なのに、私という初めて触れ合った人間が禁忌を破って生き残った。私が大丈夫だったのだから他の人間でも大丈夫、そんな考えが過ぎる瞬間が来てしまうかもしれませんわ」
「……そうじゃろうな。おぬしが亜人でもいないほどの良客……あの子たちに禁忌を破らせるほどの『神客』であったばかりに、人間という種族全体に夢を見てしまう者が出てくるかもしれぬ」
「私のような馬鹿女が『神客』であるものですか」
私がしたのは淫魔と人間の架け橋、なんて綺麗なものではありません。
このままでは、悲劇の導火線に火をつけるような愚行で終わってしまうでしょう。
「あの子たち自身を口汚く罵るのと、あの子たちの前であなたを罵るの、どちらが悲劇を防げる確率が高いと思います?」
「どちらも慣れておる。誰か刺し殺すぐらいはせんといかんじゃろうな」
「それはしたくありませんわね……私、演技には結構自信がありますし、頑張れば口だけでどうにかできません?」
昨日まで悪役令嬢的な立場をしていた女ですし……普通の悪役令嬢からはズレてますけれど。
「ルリナよ、会ったばかりじゃがおぬしを『神客』と見込んで頼みがある」
「だから『神客』じゃありませんわよ。なんですの?」
「おぬし──儂の店で働いてはくれぬか?」