金と権力マシマシ悪役令嬢になったから夜の街で神客になりたかっただけなのに   作:寄野遊日

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エピローグ

 

 リリムからの勧誘をキャバ嬢としての誘いなのかと勘違いして思わず即答で断り、彼女の愛らしい顔を悲しみに染める一幕があった後。

 

 早合点して不要な涙を流させてしまってまたまた猛省ですわ……。

 

 だって、さすがに任務とはいえ私がキャバ嬢になるのは、実家にバレた時がやべーですもの。

 私としても、男相手の接客はやりたくありませんし。

 

 ですがよくよく話を聞いてみれば、キャバ嬢として客を接客してほしいわけではなく、サクラ兼用心棒のように私を雇いたいとのことでしたわ。

 

 オークを瞬殺した私の暴力を買ってくれたようで、要はヤ〇ザのケツ持ちですわね。

 それに加えて、今日のように普段は店で女の子たちと好きに遊びながら、彼女たちの力を制御するための特訓相手になってほしいという内容でした。

 

 結構衝撃の事実でしたが、私がやってみせた精気の綱引きをできる者はこの街には私以外にはいないだろうと言わしめるぐらい、こっちの世界の住人には習得が難しい技術らしかったですわ。

 

 リリムが提示した条件は、店の女の子たちと好きなだけお喋りと飲み食いが出来て、薄謝とはいえお金も出すという破格の申し出でした。

 

 お金を貰いながら夜遊びし放題なんて好条件、当然私は二つ返事で引き受ける──ことはしませんでしたわ。

 

 返答は保留。

 心情だけなら彼女たちの力になりたいという気持ちは十二分にありました。

 客と店という関係を崩すのが嫌という複雑な乙女心もありますが、一番の理由は、私はまだ亜人街を知らなすぎます。

 

 この街の状況を自分の目で見て確かめるまでは、居場所を決めるのは早計ですわ。

 

 私の返答で再び表情を悲しみに歪めてしまったリリムと別れ、その日は宿へと戻りました。

 心は痛みますが、私もエリック様からの特命を帯びた責任ある立場。

 同情心だけで身の振り方を決めることはできないのです──

 

 

 

「あっ♡ ルリナちゃんいらっしゃーい♡」

 

「ポーラちゃん♡ 今夜も会いに来ちゃいましたわ~♡」

 

「……もう二度と来ぬと思っておったのに、普通に客として来るんじゃな……それもすっかり常連じゃし……どういう精神しとるんじゃおぬし……」

 

「客に対して随分失礼なオーナーですわね」

 

 そんでもって翌日から一週間。別の接待酒場含めて色々な亜人街の店をハシゴした後、〆のお店として私はリリムの『淫魔の酒場』に足繁く通っていましたわ。

 

 ジト目で私を睨むリリムはあしらってポーラちゃんに席へと案内してもらう寸前で、閉店後に話があると耳打ちしておきます。

 

 飲み歩きスケジュールぎゅうぎゅうで大忙しの一週間になりましたが、その甲斐あって最低限、この街の状況を見て回ることができました。

 

 私が『アングルボザ』にどう近づいていくのかの絵図……つまり「特命にかこつけて何好き放題しようとしてしてるんです?」というイマジナリーエリック様を説き伏せるための理論武装(言い訳)も出来上がりました。マジで大変でしたわー。

 

 そんなこんなで一仕事終えた解放感から今晩も散々飲んで騒いで閉店後。

 私はもう一度、リリムとふたりきりの店内で相対しました。

 

「まずは待たせてしまって悪かったですわね」

 

「構わぬ。おぬしがまた店に現れるまでは断るための方便だと思っておった。気は揉まされたがの……」

 

「誰かに雇われる前に、立場のない体できちんと街を見て回りたかったんですわ」

 

「そうか。それで、返答を聞かせてもらえるかの」

 

「ひとつ追加の条件を呑んでくれるのなら、私はあなたの右腕として働きますわ」

 

「……して、その条件とは」

 

 リリムが息を吞み、期待と不安に心を震わせているのが伝わってきます。

 それだけ、私という存在を重要視してくれているのでしょう。

 

「単なるケツ持ちではなく、私をあなたの右腕として扱ってもらいます。経営コンサルタント……要するに店の経営や淫魔たちの生活、労働、その他諸々についても口を出させてもらいますわ」

 

 私のとんでもない要求……下っ端としてではなく、いきなりこの街の淫魔たちの上司、幹部として迎え入れろという要求にリリムは難しい顔でしばし沈黙した後、ゆっくりと口を開きました。

 

「……おぬしが儂ら淫魔を対等に見てくれる人間であることはこの一週間で分かっておる。じゃが、この街の淫魔の命全てを預けることは……できぬ」

 

「承知していますわ。私はあくまで提案を行うだけ、それに従うか無視するか、決定権は変わらず淫魔のトップであるあなたにあります」

 

「……決定権がいらぬというのなら、右腕の立場である必要はないのではないか? 報酬に関する要求はないのじゃろう。いくらおぬしがこの店の娘たちに好かれているといっても、他の淫魔たち全てに受け入れられているわけではない。人間のおぬしを重用すればいらぬ軋轢が生まれる」

 

 私がこの一週間で見て回ったのは他の店だけではなく、この街の淫魔を束ねるリリムについてでした。

 

「他の子たちの不信感は右腕としての手腕でもって認めさせてみせます。わかりやすく私が求めているものを言いますわ」

 

 果たして彼女が信頼できる人物なのか、一蓮托生として私の命を預けられる人物なのか。

 

「私が欲しいのは、亜人街で定期的に開かれている代表者集会に同席する権利」

 

 その答えが出たからこそ、私は先伸ばした返答を持ってきたのです。

 

「そして亜人街に来て一週間で淫魔のトップの右腕に成り上がった女。そういうセンセーショナルな肩書ですわ」

 

「……それを手に入れておぬしは何を成すつもりじゃ。おぬしの目的はなんじゃ?」

 

「この街の蔓延る不穏分子、『アングルボザ』をぶっ潰すことですわ」

 ──とまあそんなこんなで、ルリナ・リズベールは亜人街のサキュバス・クイーン、リリムの右腕として最高幹部の地位を手に入れることに成功しましたわ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 身内になったということで話し合いの場を閉店後の店内からリリムの執務室兼私室へと移し、私たちは親睦を深めるためにお酒を酌み交わすことにしました。

 

「こうして右腕になったものの、他の子たちにはっきりと明かす必要はまだないとは思いますわ」

 

 多少は肩の力を抜きつつ、今後について話し合う場。飲みニュケーションですわね。

 

「皆の生活の質を目に見える形で向上させ、その後でそれが私の功績であり、今後も協力者として歓迎する……そんな感じでやっていければと考えてますわ」

 

「目に見える形で、のぉ……容易く言っておるが、一体何をするつもりじゃ。金は持っておるようじゃし寄付でもしてくれるのか?」

 

「出資を惜しむつもりはありませんが、初めからあまり派手なことはしませんわ。私はともかく、女の子たちが他の亜人にいらぬ目をつけられる可能性がありますもの」

 

 やはりサキュバスにとっては目に見える形で、しかし他の亜人たちの目からは分からない形での向上というのが望ましいですわ。

 そうなると店内設備の充実などに着手するのはまだ早い。急ぎたいのは山々ではありますが。

 

 次の代表者集会は約一か月後。そこがリリムの右腕である私のお披露目の場になる。

 それまでにサキュバスたちに私の存在を受け入れてもらい、可能な限りに内部に敵を生まないようにするのが目標ですわね。

 

 では、そのために何をするべきか。

 まあこれはリリムが私に期待していたことを叶えるのが一番でしょう。

 サキュバスたちのことを誰よりも考えているのなら間違いはないでしょうし、リリムの信頼を得ることにも繋がります。

 

 なので私がすべきは精気タンクというか種馬というか、ともかく女の子たちの日々の食卓に一品追加するような、ささやかだけれど大きな改善ですわ。

 

 実際、私の精気を吸収する効果は大きく、連日『トッキーゲーム』で遊んでいる店の子たちはただでさえ良い肌艶がさらに良くなり、活力に満ち、目に見えて美しくなっていっています。

 

 けれど、いくら私が魔力の扱いが器用であっても、日々生み出される魔力は人間の限界を超えてはいません。

 

 お店に一度に出勤している数は十人前後。それだけなら干からびることなく彼女たちを満足させられるだけの魔力、精気を供給できますが、リリムの下で働くサキュバスの総数はその十倍。

 全員を毎日満足させるには、私があと5人はいないと干からびてしまいますわ。

 

 そこでリリムから改めてサキュバスの生態について学び、打開策を考えましたの。

 

 まず、淫魔の力を制御できず、本来であれば必要以上に精気を吸い取り、人間を搾り殺してしまう淫魔の呪縛に捕らわれた混血のサキュバスたちを相手にしても私はある程度の人数までなら死ぬことはない。

 

 次に純血のサキュバスであるリリムは精気の扱いに長け、周囲の空間から精気を取り込むことで究極的には食事を必要としない。

 

 サキュバスの生態として、サキュバス同士では『吸精』を行うことはできない。よってリリムが周囲から吸収した精気を他のサキュバスに分配することはできない。

 

 そして、サキュバスはエロくて体液に媚薬とか絶倫とかそういう効果がある──というのは前世での偏見ですが、当たらずとも遠からず。

 純血のリリムであれば精気を吸収するだけではなく、逆に私に与えることができるということ。

 

 ですので。

 

「『最強サキュバスリリムによる私の強制絶倫化計画』ですわ!!」

 

「何を言っておるんじゃおぬし???」

 

 まるで理解しきれない宇宙の真理の一端を覗いてしまったかのような、遠い目をするリリム。

 めちゃくちゃ端的でわかりやすいと思ったのですけれど? 

 

「リリムが周囲から吸収した精気を私に送り込んで、私を通して他の子たちに精気を供給するんですわよ。サキュバス同士で精気を供給できないなら、私がフィルターになればいいんですわ」

 

 私がリリムの右腕として最初に提案する、パーフェクトな作戦ですわね!! 

 

「うーむ……」

 

「私の有能っぷりを見せつけたつもりでしたのに、なんだか煮え切れない態度……何か問題がありまして?」

 

「いや、儂の方は問題ないのじゃが……おぬしは毎晩女遊びをしているから忘れそうになるが、貴族の娘じゃろう? 人間の小娘的にどうなのかと思っての」

 

「今更じゃありませんこと? 散々唇奪ってきてますし、リリムはロリですしポーラちゃんたちとするよりも微笑ましい絵でしょう?」

 

「やはりおぬしは儂らについて妙に勘違いしておるのぉ……淫魔から逆に精気を送り込まれたら、口吸いだけでは済まぬぞ?」

 

「え、リリムってそこまで私への好感度がガチってますの?」

 

「阿呆。おぬしが発情するに決まっておろう」

 

 ……ほほーん? 

 

「いくら純血の淫魔でも、体質を完全に抑えることは出来ん。どれだけ我慢しても小一時間は色狂いになるぞ」

 

「やっぱサキュバスってドスケベですわね」

 

「そんな軽い猥談みたいなノリで返せる辺りもズレておるんじゃよなぁ……」

 

「サキュバスがそうやって猥談に嫌な顔ひとつしないから私のエロ親父化が深刻なんですのよ……私を縛り付けるか気絶でもさせておくのはどうです?」

 

「性欲を発散せねば気が狂いかねんぞ」

 

「そいつはやべーですわね」

 

 うーん…………仕方ありませんわね。

 リリムの方は気にしていないわけですし。

 

「とりあえず、膜だけ守っといてくれりゃあいいですわ。そこだけ無事ならバレっこないですしセーフですわよ」

 

「そうかの」

 

「ええ」

 

「おぬしがそれで良いのなら儂は名案じゃと思う」

 

「私が魅力的でも一線は越えないでくださいましね?」

 

「くくっ、小娘が生意気言っておる。心配せずとも一瞬で足腰立たなくさせてやるわ。発情したおぬしが間違いを犯さぬようにの」

 

 まあ、そんな感じで。

 私とリリムは体を重ねることとなったのですわ。

 

 

 

 

 

 

 ──で。

 

「なーんでサキュバスのあなたが潰れたカエルになってるんですの?」

 

「は、はひゅ……♡」

 

 転生特典のチートなんてもらった覚えはありませんけれど、まさかこれがそうだったりしませんわよね? 

 

 サキュバスの力で発情した私が正気を取り戻したのは早朝のこと。

 最中の記憶はぼんやりと覚えていますが、念のために膜の無事を確認して、とりあえずほっと一息。

 

 サキュバスすらも腰砕けにする性技チートでも備わっていたのかと疑いましたが、こうして落ち着いて思い返してみるとあれですわね。

 

 この世界のサキュバスはドスケベの原石ではありますが、磨き上げられた宝石とは言えないということが分かりましたわ。

 

 こう、やりかたが原始的(プリミティヴ)というか……本能と才能だけで、確かに強い快感を与えてきますが、技術と努力が感じられないんですのよね。

 

 ありていに言えばムード作りとか前戯とか、そういう技術が一切ないんですのよ。

 

 サキュバスにとって性交は食事で、その食文化が発展していないと言うんでしょうか。

 肉の丸焼きが食べらればそれで満足で、美味しく食べようという発想がそもそもないんですわ。

 

 それに対して私は現代日本、エロがエンタメとして成立している世界で美食を味わい尽くしてきていて、かつ男の体も女の体も両方経験しているわけで。

 

 知らず知らず磨かれた技は、天賦の才だけでは越えられない域に達していたようですわね。

 

「リリムー、朝ですわよー」

 

「んみゅ……」

 

「あらかわいい」

 

 互いに全裸で同じベッドの上で休んでいたリリムに声を掛けると、見た目相応の子どもらしい態度で私のおっぱいに顔を押し付けてきましたわ。

 

 夜の間はとんでもなく性的に見えていたその肢体も、今となっては微笑ましさしか感じません。

 発情は完全に収まったようで安心しましたわ。

 

「今日から私も加わって忙しくなるんですから、起きてくださいな」

 

「ん、むぅ…………ふぁぁ……はぁ……ああ、ルリナか……おはよう……」

 

 寝ぼけ眼を擦っているリリムでしたが、伸びをひとつすればしゃっきりと目が覚めたらしく、普段通りの見た目に似合わない落ち着いた表情に戻りました。

 

「いやぁ……しかし昨晩はビビったのぉ……すごいのぉ、人間」

 

「私もサキュバスの力には驚かされましたわ。聞いていた予定とは違いましたけど、まあサキュバスに抱かれるのもサキュバスを抱くのも、どっちも夢だったには違いありませんし」

 

 私の体をジロジロと見ますが、その視線にいやらしさも熱っぽさも感じず、単に感心しているだけみたいですわね。

 

 変に態度を変えられたり……言ってしまえば彼女面みたいな感じをされたらどうしようかと思ってましたので、健康的に不健全な関係に収まれそうで良かったですわ。

 

「言ってくれるのぉ。まあ良い、すっかり元の調子を取り戻しておるようじゃし、安心したわ。発情期の犬のままだったらどうしたものかと思っておったからの」

 

「実験は成功しましたし、女の子たちが私を通して吸精できるように早めに食事兼訓練のスケジュールを組まないといけませんわね。そのためにも、昼間の内にリリムが一手に引き受けていた事務作業を手伝いながら、経理やらなにやらの内情の把握に努めますわ」

 

「うむ。そっちの方も期待しておるぞ」

 

 こんな調子で、私とリリムの距離は縮まって、友人……いえ、相棒もしくは相方ですかね。そんな感じの関係に落ち着くことになりそうですわ。

 

 最初は異世界で金と権力マシマシの悪役令嬢になって、『神客』になりたかっただけですのに……本当、人生って何があるかわかりませんわねぇ。

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 一週間前。アガリア魔法学園の寮の一室にて。

 ひとりの女生徒がベッドの片隅で声を震わせていた。

 

「いったい……どうして……?」

 

 新入生であることを示す赤いリボンタイ。

 クリームブロンドの髪色を持つ少女の名はクロエと言った。

 

 彼女は数年にひとり程度の割合で見つかる、平民でありながら学園に入学する魔法の才を持つ少女。

 

 そして。

 

「なんで入学して一ヵ月も経ってないのにルリナとエリックの婚約破棄イベントが起きてるの……?」

 

 この世界の主人公として生を受けた、前世の記憶を持つ転生者だった。

 




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