気がつけばモブハンターになってた。 作:ドーモ。ギルドナイト=サン。
1話
暗くぼやけた視界の中で意識が微睡む。
俺っていつから眠っていたんだっけ。思い出せないくらい疲れていたのか。
――。――、――――。
……ゆっくりと思考が動き出すと同時に、閉じている瞼の向こうからほのかに光を感じる。もう朝になったのか。
いや、部屋の窓は西向きだったか?だとすればもう昼時だろうか。
――!―――――!
………何か聞こえる。随分と楽しそうな声だ。近所で子供達が遊んでいるのだろうか。それに何処からか物音も聞こえる。車のドアを閉める音よりもずっと鈍い音。
――――。―――――、――!
…………あたたかい。太陽の光が全身を照らしている。
ほんのりと温まった体に、ときおり吹く風が当たり気持ちいい。
――ぅ!ょぅ――、――――!
待て。風が吹いている?そもそも布団の感覚がない。
俺は一体どうなって…………っ!?
鼻が磯の香りを感じて、一気に意識が浮上し始める。
不安に駆られたまらず瞳を開けた俺は、目にした光景に――いや、目にした"世界"に唖然とするしかなかった。
静寂が弾けた。
◇◇◇◆◇◇◇
気が付けば"そこ"に俺は立っていた。
騒がしい声と気配に囲まれ、肌をなぞる涼しい風と磯の匂いが五感を刺激しており、無意識的に夢ではないと確信する。
「やっと着いたか新大陸!」「一時はどうなることかと思ったよ」「ようやく船酔いから解放される……空気がうまい!」
周囲には、話しながら俺を追い越して先に進む人達。
動き続ける光景が、時間が流れていることを理解させる。
『……あなたは………誰…………?」
……何が起こった?ここはどこだ。
意識が覚醒した俺は、しかし思考に浮かび上がる疑問の数々によって、一歩も動けずその場に立ち尽くす。
周りを見渡そうとして――視界の端に映る自分の姿をみて驚く。
「……なっ!?」
驚いた拍子に動いた自分の腕は、記憶にある馴染み深いものとは違い、筋肉質で随分と大きくなっていた。
体を見れば着た記憶のない服を着て、胸も脚も筋肉ムキムキで、日焼けもしているのか肌が若干黒い。
自分の物のように動く、この肉体に困惑する。唐突に体が変わったのだから。
夢ではないのか。
しつこく自分に問いかけても、目に見えるもの全てが、ここが紛れもなく現実であると知らしめてくる。
上を見れば眩い太陽と、どこまでも広がる美しい青空に薄い雲が浮かんでいて。背後に振り返れば大海原が日の光を反射し輝いており、その上には木製の巨大船が浮かんでいる。甲板には渡り橋が取り付けられ、人が忙しなく船から降りている。
そして、顔を正面へと向ければ、灰色のコンクリートや派手な電工看板といった現代的なものが一切ない、本来あるべき世界の美しさとも感じられる、原始的な文明が広がっていた。
「船から降りたら先にここに来い!ギルドカードを確認するから、終わったら自由にしやがれ!」「ようこそ五期団!入荷したてのアイテムならここにあるぞ!見ていきな!」「あ〜?マイハウスは向こうの居住区だよ。あ〜、礼ならうちで皮砥を使ってくれ」
……そこには大勢の人々が賑わっていた。そしてどれも見覚えのないものばかりだ。木製の箱を抱えて運ぶ者。指で何処かを刺して指示を出す者。一段高い場所から声を上げる者。それらを囲む大勢の人々。
その人々はとても活発的な表情で、恥ずかしげもなく大声を上げている。全員が元の世界の化学繊維で作られたものとは違う、硬そうな生地で作られた服を着ていて、その下には例外なく鍛え上げられた肉体が見える。
「よろしくな五期団の坊主共!荷運びはアイルーに手伝ってもらえ!」「おい、人員の把握をいそげ!まだ見つかっていないハンターがいるぞ!」「怪我してるやつはこっちに運べ!担架が欲しいやつも来い!」
周りの景色も新鮮だ。人々の集まる広場は屋外であるのに木製の床が敷き詰められており、博物館でしか見たことのないほどの大きさを持つ骨が柱となり、テントが作られている。さらに上には巨大な船の骨格が逆さまになり天井と化していて、その間に天幕を貼ることで強い日差しを遮る日陰を生み出しているようだ。
「おい、あれって…」「一旦手を止めろ!作戦会議所の下に集まれ!」「あれが新大陸に初めて足をかけた、生ける英雄か…」
……ん?なんだか少し静かになったな。
俺は眺めていた景色から視線を戻し、大勢の人が移動していく広間を見ると、1人の白髪の男が目についた。
初老を少し過ぎたくらいの歳だろうか。その男は防具のようなものを身につけており、集まってくる若い人々を数段高い場所で腕を組んで見下ろしている。
広間では、皆口を閉ざして顔をその人に向けていた。
どうやら、今からその男が話をするようだ。
……あの男の姿をどこかで見た気がする。腕を組む姿もだ。
何より、その格好。独特な皮鎧らしきもの。よく見れば腕に無骨な機械が取り付けられている。用途は不明だ。
肘当ては金属製のものが使われていて、腰にも独特な形をした大きな腰袋と何か光るものが釣るされている。
どの歴史の教科書でも見たことがない格好だが、やはりどこかで俺は見たことがある気がするのだ。
うまく思い出せずにいた俺は、その男の話をとりあえず聞いてみることにした。
……そして、この靄がかかったような気持ちは、その男が発した言葉によって吹き飛ばされることになる。
「まずは五期団諸君。長きにわたる船旅の末、よくぞ無事にたどり着いた!私がここ、新大陸の調査拠点アステラにおける総司令だ!よろしく頼む」
「諸君らはこれからいくつもの未知と困難に遭遇するだろう。だが新進気鋭のハンターである諸君らが己が力で道を切り開き、長年続く新大陸での調査における追い風となることを期待している!
諸君らの今度の活躍に、導きの青い星が輝かんことを!」
総司令と名乗った男の挨拶が終わった瞬間に―――。
「「「「うおおおぉぉ!!!!」」」」
大歓声が湧きあがる。これから起こる事への期待が爆発でもしたのか。
総司令がそれを見て満足げにしながらどこかに移動した後も、歓声は近くの者との会話へと変わりなかなか静寂は訪れる気配がない。
「………………まじかよ」
それを遠くから眺めている俺は、思わず声が出てしまった。なにせ、総司令が放った言葉の殆どが"理解"できてしまったからだ。
ようやく思考が纏まってきた頭が既視感の正体と、自分の置かれた状況に結論を出す。
ここ、モンスターハンターの世界だ、と。
この作品は元々、去年の1月にモンハン新作であるワイルズの発表祝いと、モンハンワールドの人口増加の祝いに書かせていただいた物でした。
しかし、設定が煮詰まるにつれ最初から描き直したいと強く思う様になり、このような形でまた投稿させていただく事になりました。
粗末な文章ですが、今後ともお付き合いしていただければ幸いです。