気がつけばモブハンターになってた。 作:ドーモ。ギルドナイト=サン。
エリア3の草むらに戻ってきた俺は、再び周囲の確認をしながら、また近づいてくる危機感のない環境生物に呆れて、次のエリアへと向かう。
草むらの上をしばらく歩いていると、視界の先に洞窟が見えた。奥も少し明るく、ランタン無しでも通れそうな場所だ。
「あの洞窟に確か鉱石はないし……進めばジャグラスに遭遇する危険があるからスルーだな」
この洞窟も、恐らくゲームで来ているから何があるのかは分かっている。
あそこは壁に空いた穴から日光が洞窟内に入るのと、洞窟には〈ヒカリゴケ〉という文字通り光る苔がそこらにあるため若干は明るいため今の俺でも入れるだろうが、洞窟にあるのはせいぜい蜘蛛の巣くらいのはず。
……さっきまで採取していた場所は多分ゲームと同じ位置にあった。
採取ポイントがゲームとは違う可能性に賭けて、危険を承知で洞窟の中に鉱石があるかを確認しに行く必要は無いだろう。
「目的地は洞窟を素通りした先で……あったあった」
洞窟の入り口が見えた場所をそのまま西に進むと、草木のアーチが出来た細い道の手前にある壁に、先ほどと同じ亀裂が走っているのが見えた。
ここが次の採取ポイント。ここもゲームと同じ位置にあることにホッとする。
亀裂の中を覗き込むと、光っている物を見つけた。
早速、手にピッケルを構えて……。
「さーて、掘りますか!」
コンコンコン……!
「……おっ!新しいやつ来た!」
結果は鉄鉱石らしきものが2個と、3個目に鉄鉱石を若干青くしたような色の鉱石が付着した岩を手に入れた。
「多分〈マカライト鉱石〉だと思うが……分からん」
モンハン世界で青い鉱石といったら〈マカライト鉱石〉が一番に上がるだろうが、しかし現物を見た事がないため何かはわからない。
〈マカライト鉱石〉は、モンハン世界特有の鉱石の1つで、非常に硬いために加工が不可能と呼ばれていた鉱石だ。特別な石炭を使うことで加工できるようになり、この鉱石で作られた武具は良質な性能になるという。
鉄鉱石よりも希少で、モンハン世界の住民にとっての硬さの象徴でもある鉱石だ。
「もう光ってるのは見当たらないか……次に行こう」
採取ポイントに素材が無い事を確認したら、移動のために拾った鉱石をアイテムポーチにしまう。
何故かポーチが膨らんで、アイテムはまだ入りそうだ。伸縮生地を使っているのか……凄い収納性だな。
俺は目の前の細道を引き返して、さらに西へと進む。
……あの細道の先もジャグラス達の狩場だからな。なるべく近づきたく無い。
「ここがエリア1。広々としてのどかな雰囲気だ……!」
進んだ先には、大きく平らな地面が広がる場所……ハンター達の休憩するキャンプ地のすぐ隣にあるエリア1へとやってきた。
このエリア1は古代樹の森の組み上げた水が上流からたどり着き、緩やかに流れて海へと流れていく場所で、膨らんだヤシの木や竹のような樹木が植生している。
ここには、水分補給をしに環境生物達や、草食性などの比較的温厚な小型モンスターが訪れるため、大きな公園と似た雰囲気がある。
「んで、あれが〈アプトノス〉……実際に目で見てもノロノロしてんなぁ」
今も丁度、ブモゥと牛の様な鳴き声を上げる〈アプトノス〉達が、水場の近くで足を折りたたんで座り、ゆったりとくつろいでるのが見える。
〈アプトノス〉は、非常に温厚で臆病であり、草食竜に分類される小型モンスターだ。
見た目は元の世界のパラサウロロフスを4速歩行にしたものにそっくりであり、灰色がかった鱗で全身を覆う、後頭部に突き出た角と棘の生えた尻尾が特徴的なモンスターだ。
他のアプトノス達と身を守るため群れで生活しており、その大きさはまばらだが、雄の大きい個体は中型モンスターに匹敵するサイズを誇る。
その巨体を使った攻撃は力が強く、まともに当たれば小型モンスターすら追い払えるだろう。
「あんな立派な外見してるし、強そうな迫力はあるんだけど……でも弱いんだよな」
しかし悲しいことに、動きが遅すぎるため攻撃は基本当たらず、逆に素早い相手からの攻撃には対処が出来ないため、その体の大きさから小型モンスター以上の肉食生物にとって良い食糧としか扱われていない可哀想な生物であったりする。
ゲームを遊んでいたプレイヤーからは歩く生肉と呼ばれる事もあった。あまりにも不憫すぎるモンスターだ。
「俺みたいな駆け出しハンターにとっても、アプトノスは魅力的な狩猟対象になるんだが……」
アプトノスから剥ぎ取れる生肉を俺のポーチにしまっている肉焼きセットで焼けば、スタミナ回復に持ってこいの〈こんがり肉〉が作れる。
〈こんがり肉〉は栄養豊富であり、腹が減ればすぐ満たせるため、携帯する食糧として便利なアイテムだ。
また、アプトノスからは〈竜骨【小】〉も剥ぎ取れる。
竜骨は非常に使い勝手が良く、この世界での生活や狩りには欠かせない代物となっている。
ゲームでは、序盤に必要になる事も多かった。手に入るなら是非欲しい。そうと知ってはいても…………。
「……あんなにくつろいでる、何も害のない、ただ生きてるだけの生物を俺は殺しに行くのか」
『……命は平等……殺めれば………世界に囚われる………』
「なんの依頼でもない、俺だけの判断で。
……ハンター、として」
声が少し震える。
俺はエリア1の端っこからくつろいでいるアプトノス達を眺めていて、自分が今からする事は果たして正しいことなのか疑問に思ってしまう。
ハンターとして生きていくには、当然モンスターを
だが、元の世界で生物を殺したことなんて、子供の頃にした残酷な遊びや、釣った魚を自分で捌いたことや、害がある危険な虫を退治したくらいだ。
……命を大事にしてると言えば都合はいいが、実際は生き死にについて目を背けているだけだった。
「…………」
腹を満たせる為に、生肉を手に入れる為に、竜骨【小】を手に入れるために……目の前に生きている何の害も無い生物を殺すのか? ……俺に殺せるのか?
「…っ、いや……討伐は無しにしよう。
アプトノスだって、今の俺が攻撃を受けたらひとたまりも無いからな……安全第一だ」
俺は討伐のリスクを考えて、討伐する事を止めることにした。
たとえ、俺が口にしたアプトノスの攻撃が遅すぎて、動き回っていれば避けられるような、当たる可能性が無いに等しいものだとしても。
腹が減っても、魚を釣るか我慢すればいい。竜骨【小】も、他の場所で採取が出来るから、と。
「……はぁ、自分が嫌になるな……」
覚悟の足りなさが不甲斐なく、ため息が出てくる。
今のままじゃ駄目だと理解はしているのだ。
……けれど、討伐しないと決めたら肩の力が抜けたのが分かったんだ。
安心して、しまったんだ。
「……行こう。次の採取ポイントに」
俺はアプトノス達を素通りして、エリア1の最も西にある崖沿いの道を目指して歩く。
……ただ静かに、その場から逃げる様に。
◆
アプトノス達がくつろいでいた広場から段差を上がり移動して、エリア1の最も西側にある高い岸壁沿いの道へと辿り着く。道は二手に分かれているが、左にはハンター達の〈ベースキャンプ〉があるため近づく事はしない。
〈ベースキャンプ〉はフィールドにいるハンター達の休憩地点で、キャンプの周りには支給品ボックスや、小さな食事場があり、キャンプの中ではアイテムの補充や装備の変更がゲームでは出来た。
けれど、あくまでゲームだから可能な事だろうし、装備の変更とかはこの世界だと出来ないんじゃないかな……。
ゲーム中でもハンターがポットから熱い飲み物をコップに注いで飲んでいたので、休憩や少しの仮眠なんかにはもってこいの施設として扱われているのだろう。
さて、そんな休憩をしているハンターの前に、こんな格好の男がキャンプに入ってきたらどう思われるか……結果は言うまでも無いだろう。
「つまり、俺は装備が揃うまでキャンプに近づくことすら許されないわけだ」
本音を言えば、ベースキャンプの中の様子を見てみたいが……仕方がない。
装備を揃えたら、いずれ訪れるとしよう。
そんなわけで、2手の分かれ道は右に行く。
「おおっ……風が強いな……!」
視界が開けたこの場所は断崖絶壁の上に位置しており、風除けとなる木々が無いため海の上から来た強い風が吹いている。
見渡す限りの青い海と空が視界を埋め尽くしてくる。
この崖沿いの道を進めば、目的地へと辿り着くのだが、何度か高い段差を降りる必要があり、滑って海まで落ちたら一巻の終わりという非常に危険な道となっている。
「おぉ……怖っ……でも、景色は綺麗だ」
崖沿いを進みながら左を見ると、海の上に巨大な岩の柱が何本もそびえ立っている。
海の波で削られたのか、上から下に落ちるほど柱が細くなっている……なんと言うか、特徴的な形をしている。
「この柱の削り方を見るに、何千年も前は水位がもっと上にあったのかもしれないな」
岩の柱を見てカクテルグラスにも似ているなんて考える…が、あの柱は大型モンスターが飛び跳ねて移動する道でもあったと思い出し、脆い細い印象は持てなくなる。
地震が起きたらポッキリ折れそうな見た目してるのに……自然の力って凄いよな。
「んで、そんな凄い自然と同等の力を持つ生物が生きてるのがモンハン世界ってわけだ」
俺は進みながら岩の柱の向こうに見えている、海沿いから勢いよく煙を上げる異様な場所に目を向ける。
そこには、周りの灰色や淡い緑色の岩とは大きく異なる、巨大で炭のように黒い、所々が赤く燃え上がっている岩場が広がっている。
その光景はまるで、海沿いの海岸に突然として煙の少ない活火山が現れたようであり、見る者にとてつもなく不自然な印象を抱かせる事だろう。
そんな現象を起こせる存在の答えを、当然俺は知っている。
「やっぱお前も、新大陸に来てるんだな。〈ゾラ・マグダラオス〉……」
熔山龍〈ゾラ・マグダラオス〉。
全長250m、体高200mを超える、火山を背負うとまで言わしめる巨大な龍。
ここから見えるあの岩場は、かの龍が突撃してできたもので、龍が持つ膨大な熱量によってあたり一帯の自然を焦土へと変貌させてしまったのだ。
そしてその燃える岩場は、龍が過ぎ去った今でも煙をあげて燃え続けており、このような不自然な現象は原因たるモンスターが存在した痕跡となるだろう。
……本来、痕跡とはモンスターの足跡や鱗の破片、捕食の形跡などを指すが、古龍最大の大きさを持つとされるゾラ・マグダラオスの痕跡ともなれば、文字通りスケールが違う。
この世界にはこんな化け物がいくつも存在しており、そしてそんな化け物達を調査する事こそが、俺たちアステラにいるハンターたちの使命でもある。
「主人公も……来てるのかね」
俺はふと、そんなゾラ・マグダラオスの頭から飛び降りたが故に"空から来た五期団"と呼ばれる事になる主人公も、ゲームと同じくすでに新大陸に来ているのか考える。
……混乱するかもしれないので補足しておくと、"青い星"の呼び名はストーリーが大分進んだ後に変わる。
俺のようなに実際にゲームで遊んだ身からすれば、"青い星"の方が馴染み深い呼び名だったりする。
今の時期に主人公に会っても"青い星"と呼ばないように、気をつけないとな。
「……もし会えたら、どんな面か拝んでみたいな」
もしかしたら俺がゲームで作った顔と同じだったりしてな……あ、複数あるからどのデータになるんだろうな。
……なんて、馬鹿な事を考えながら俺は崖沿いの道を歩くのだった。
◆
崖道の終わりにある高い段差を飛び降りた先には、古代樹の上から流れる何段もの滝と、その水が溜まった膝下ぐらいの深さがある透き通った池、そして池の上には岩と砂利で荒れた急勾配の坂が広がっていた。
そして坂を登った先は、先程の崖道から眺めていたゾラ・マグダラオスの岩場から出る煙がもくもくと上がっている。ここまで近くだと、空気に煙の匂いも混じっているのか、鼻に違和感を感じる。
ここは間違い無くエリア9だろう。ゲームで見た光景より大分広いが、記憶にある景色と似ていて安心する。
大型モンスターも……どうやらいないみたいだ。
「でもやっぱり、〈ガライーバ〉はいるよな」
俺は池の中を悠々と泳ぐ2匹の巨大な魚を見る。
外見は1mを軽く超える太ったナマズの様な姿で、くすんだ黄色の体色をしている。
こいつらは咬魚〈ガライーバ〉、開けた水場や泥沼に生息する小型モンスターの一種だ。
非常に好戦的な性格で、水辺に近づく生き物に対して、鋭い牙を構えて突撃してくる。
また、陸地でもある程度は動けるため、水場から飛び出て追ってくる事も珍しくはない。
「勿論そんな奴らには近寄りたくない訳で……」
俺が今いる場所から池の水辺まで降りた先には、なんと〈骨塚〉があるのだ。武具などに使われる骨素材は、基本的に各フィールドの〈骨塚〉から入手でき、珍しいものを売れば金策に非常に役立ってくれるため是非とも採取に行きたい。
行きたいのだが……池の中にはガライーバが泳いでいる。こんな装備で肉食魚との戦いは遠慮したい。
ゲームの通りなら、水の中に入って近寄らないと敵対することはなかったが……確かめてみるか、
「ガライーバの動きを確認しながら骨塚に近づいて、こっちに気付いたなら離れよう」
俺は、警戒しながらそろりと進む。
……ガライーバがこちらに気づく様子は無い。どうやら無事に骨塚に到着する事ができたらしい。
良かった。これなら採取が出来る。
骨塚を見る……前世で触った鹿の骨なんかより、よっぽど硬くて大きい骨ばかり。それもそのはず、この場にあるのは竜の骨塚だからだ。
この世界の生物である竜は、基本的に元の世界の動物よりも大きい。
そんな竜達の生きた証である骨は非常に使い勝手が良く、武具の作成から建材としての利用まで幅広い用途に適している。
「あればあるだけ活用出来るし、取れるだけ取りたいわけだ」
膝をついて、両手で骨塚を漁る。やはり長い年月が過ぎたからか、ほとんどはボロボロであり、綺麗な形で残っている物は少なかった。
結局俺が手にしたのは、自分の肘くらいの大きさをした骨と、腕くらいの大きさに骨密度の高さを伺える重さをした大骨のみだった。
「う〜ん。骨って事以外は、何のアイテムかは分からないな」
それでも、何も持って帰らないよりはマシだろう。
俺は小さい2本の骨をポーチに、大きい骨は釣竿と一緒にベルトに挟んで立ち上がる。
「次は……この上に、鉱石の採取ポイントがあるはず」
俺はガライーバに見つかって無い事を確認して、地面の荒れた坂を登る。急勾配すぎて足が滑らないか不安だったが、何とか水辺からは離れられた。
……ここには他の小型モンスターはいないので、安心して採取が出来る。
坂の中腹には洞窟があり、その入り口付近の岩壁に鉱石の採取ポイントだろう大きな亀裂が入っていた。
「中に光っているものは……おっ、あるな」
亀裂の中に光を反射する鉱石が見える……幸先はいい方だろう。
俺は腰のピッケルを手に構え、光が見えた近くに向かって大きく振る。
コン! コン! バキィ!
「ふん!……はぁ!……よっ……と?」
ああ……やっちまった。
以前と同じ要領で叩いて岩が2個地面に落ちたが、ついに2本目のピッケルの持ち手が折れて逝ってしまう……さよなら160z。
今度は先端は岩に刺さらなかったが、代わりにツルの部分が完全に曲がっていた。
流石に再利用は厳しいかもと考えつつも、勿体無い精神によってアイテムポーチへとしまう。
俺はついに最後となったピッケルを腰から抜き取り、亀裂の中で光る部分へと振り下ろす。
コン!……ボロッ。
「……ふぅん!」
叩いた時の気持ちいい音と、岩が落ちる音が聞こえる。亀裂の中に光る場所は……もう無いか。
ピッケルを腰にしまい、俺は転がり落ちた岩を拾い上げて鉱石がついてるか確認をする……おっ!
成果はマカライト鉱石らしきものが3つだった。そろそろ溢れそうなアイテムポーチへと上手いように仕舞う。
「ふぅ〜、これでマカライトっぽいのは4つ目か」
よし。運はいい方だろう。
採取にひと段落がつき、俺は空にある太陽の傾き具合をみる。
ここエリア9からは太陽と海がよく見える……っと、どうやら日の入りまでそう長くは無いようだ。
今日はこれ以上、森深くに入ってアイテム採取に行く事は出来なさそうだ。
「初めての探索って理由もあるが、なにより移動時間が思ったよりかかったな」
ランタンが無い現状ではこの辺りが限界だろう。
俺は来た道の方へ振り返り、アステラへと帰る門へと移動しておく事にする。
本当は釣竿で魚を釣ろうとしたり、小型モンスターを討伐したかったが……。
前者はこの装備で目当ての釣り場に行こうとすると、森の中なので最悪迷って夜になり詰むため中止に。
後者は俺の装備と技量に自信がないから中止に。
結果的に見れば、物資補給所で買ったアイテムの大半が無駄になってしまった。アクシデントもあったし、世の中思うようにはいかないもんだ。
……でも、釣りはちょっとくらいはしたかったなぁ。
この世界で初めての探索は、インナー装備に武器だけで、小型モンスターは狩らずに採取だけ。
本来考えていた出世プランとは程遠いスタートとなってしまったが、それでも今回の成果は悪くないと思う。
「帰ったら何をしようかね。アイテムを売って、防具を買って……」
成果があれば次回に繋げられる。なら次回はもっと稼ぐ事が目標だ。
俺は集めたアイテムがどれだけの金額になるかを想像しながら、拠点であるアステラを目指して歩き始めた。
〜今回の探索の成果!〜
賊竜の鱗×2
鉄鉱石(小さい)×5
マカライト鉱石(小さい)×4
竜骨【小】×2
太古の大骨×1
ピッケル-2
現在の所持金 140z
今後もこの作品をよろしくお願いします。
恋愛要素は要りますか?(物語の結末が変化します)
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めっちゃいる(ハーレム)