気がつけばモブハンターになってた。 作:ドーモ。ギルドナイト=サン。
西の空がだんだん赤色に染まっていく。もうじき太陽が沈む頃だろうか。
俺は調査拠点アステラの正門にある天然の門構えをくぐり、何事も無く流通エリアへ帰ってくることができた。
いや、正確には道中で何度か他のハンターと鉢合わせしそうになったが、人影が見えたら木陰に隠れてやり過ごしていたので、トラブルなどは起きなかった。
そんな隠密ミッションも、もうじき終わりを迎える。
「手に入れた素材を売り払い、ようやく俺は防具を手にする資金を得るのだ……!」
変態脱却が近づいてきたな……!
テンションが高いなか、俺は意気揚々と物資補給所に向かう。
ゲームではアイテムの売却もできる場所だったし、この世界でも採取したアイテムを
他に客がいない事を確認して、俺は荷物の山の上にいる"物資補給係"に話しかけた……今度は驚かさないように。
「すいませ〜ん」
「……うぉっ!?」
あれ……最初のように荷物の上から落ちそうな程では無いが、しっかりと驚かれた。しかも目を見開いてるせいでイケメンが台無しになってるな……。
な、何か考え事でもしていたのだろう。
ここからだと夕日もよく見えるから物思いに耽るにはもってこいだし……決して俺の格好を見て驚いたわけじゃないと思いたい。
「……おぉ、すまねぇ。少し驚いちまった。
ほいほい。物資補給所はここだ。何が入り用だ?」
「?……えっと、アイテムを売却したいんですけど」
……なんか、"物資補給係"の反応が薄いな。まるで初めて会ったみたいな、そんな雰囲気を感じる。
この格好にも思う事は無さそうだし、忘れられてる?
……兄弟って言われて舞い上がってた朝の俺が恥ずかしい。ぜんぜん相手に認知されて無いじゃないか。
所詮、俺はアステラに沢山いる1人のモブハンターって事なんだろう。
「アイテムか。どいつを売るんだ?」
「モンスターの鱗と、採取した鉱石と骨です」
「おぉ……了解、了解。
じゃあこの紙をもって、鉱石と骨はそこ、モンスター素材はあの奥のところで見て貰ってくれ」
「分かりました!ありがとうございます」
「終わったらまた来てくれよ!」
"物資補給係"が何かの紙を渡し、次に行く場所を教えてくれる。
……ゲームでは、ボタン1つで何でも売れたが、ここでは何処かでアイテムを見てもらう必要があるようだ。
まずは、先に教えてくれた鉱石と骨を見てもらう場所へと向かう。
「本当にすぐに着いた……」
そこは、ゲームにもある場所だった。
逆さ船の天井を支える柱の隣にあるテントの下には、六角柱に伸びた巨大な鉱石と、腕くらいの大きな骨を入れた数々の小箱が並ぶ場所があり、その真ん中には袖なしの作業着を着た男の調査員が、手元の大きな鉱石をカンカンとハンマーで叩いて形を整えていた。
ゲームで出てきた巨大な鉱石だ…しかもあんなに沢山。
探索で無かったからてっきり存在しないのかと……。
っていうか、それなら俺が採ってきた鉱石の付いた岩ってなんなんだ。木箱の中身の鉱石とだと、大きさが天と地ほどの差があるぞ。
骨もそうだ。俺が取ってきた大骨と同じくらいの物がそこらじゅうにあるし、テントの後ろに置いてある人間くらい大きい骨なんて、どうやって運んできたんだ。
疑問と言いようのない悔しさが尽きないが……グッと堪えて、調査員に話しかけることにする。
「すいません。鉱s「……っう!?」
……あー、えっと」
俺が話しかけたら、調査員は驚いて手に持つハンマーを落としてしまった。
どう見ても作業中だったもんな…驚かせてすいません。
調査員がハンマーを拾うのを見届けてから話しかける。
「驚かせてすいません。売却のために鉱石と骨を見てもらいたいんですけど」
「……おう。あんまり驚かすんじゃねぇよ…手元狂うと傷つけちまう」
「いやほんと……すいません」
相手の睨んだ目つきが怖くてつい頭を下げてしまう。
……雰囲気が職人気質な人だな。怒らせると怖そう。
俺はアイテムポーチから採取した鉱石の着いた岩と骨を全て取り出し、両手で抱える。
「この岩についた鉱石と、3本の骨です。」
「あん? ……鉱石ったって、随分と小粒のを持ってきたなおい。
……ッチ。全部貸せ。見てやる。」
し、舌打ちされた……怖っ!
俺は言われた通り、手元の素材を渡した。
受け取った調査員は、順番に素材をいろんな角度から見たり、持ったまま腕を上下に振り重さを調べている。
……最後の一つが終わると、こちらを向いてくる。
「……確認できた。紙を受け取ってるならさっさと渡せ。」
「えっと、これです」
俺はビビリながらも"物資補給所で貰った紙を渡す。
調査員はそれに何かを書き込んだあと、すぐにまた返してきた。紙には何かの数字が書かれている。
「これで終わりだ」
「っありがとうございます!
……あの、一つだけ聞いても良いですか?」
「……なんだ」
「ここって、何の施設なんですか?」
用事は終わったが、1つだけ質問させてもらう。なるべく丁寧に聞く……怖いから。
ゲームではこの鉱石と骨が並んでいる場所について、特に何も情報が無いからだ。是非とも聞いておきたい。
俺が考えていた怖いイメージとは裏腹に、調査員の男は何ともなしに教えてくれた。
「あぁん? ……ここは採取素材の精製所だ。
ハンターが採取した鉱石やら骨やらの価値を調べ、工房なんかで使えるように加工してる」
「な、なるほど……」
初耳だったが……確かに考えてみれば、持ってきた素材が全て均一な筈が無い。
鉱石に岩が付いてたり、骨の中に土が入ってたりと、不純物を取り除く作業も必要だもんな。
この調査員は、やっぱり職人だったようだ。最初も鉱石に付着した岩をハンマーで砕いてたんだろう。
「分かったら早く行け。あんたの持ってきた鉱石を取り出す作業が出来ちまったからよ」
「っはい。ありがとうございます!」
「おう。次からはこんな細かくて面倒くせぇのじゃなくて、デカくて腕の鳴りそうなやつを頼むぞ」
「えっと……頑張ります!」
俺はお礼を言ってこの場を去る。
どうやら俺が持ってきた鉱石は、面倒くさい仕事になったようだ……申し訳ない。あと俺もデカいのが良いです。
あの調査員……"厳かな精製係"とでも言おうか……は、なんだかんだ丁寧に教えてくれた。良い人だったな。
◆
次は、モンスター素材を見てもらいに、教えてもらった場所へと向かう。といっても、またすぐ近くなんだが。
ここはゲームの中で見たが何をするまでかは知らない場所だった……先ほどと同じなら、ここも素材を加工する場所なんだろうが。
この場所は流通エリアの端に位置しており、テントは珍しく張られていない。
その代わり、大量の骨が吊るされていたり、何かの皮が張り伸ばされて木の棒竿に固定され、いくつも立てて並べられていて、その周りには骨と皮の入った木箱が多く積まれている。
そして、そこでは2人の調査員が作業していた。
1人は作業着を着て真ん中で括られた皮にナイフを滑らせてなめしていて、もう1人も作業着を着て木箱に座って手に持つ骨材の形をナイフで整えていた。
この人たちも職人気質なのだろうか……?
先ほどの様に驚かせてしまって、最初から機嫌を損ねる真似は避けたい。
俺はドスジャグラスの落とし物で手に入れた、賊竜の鱗を手に持っておき、木箱の上で作業している調査員が手を止めたのを見計らって話しかける。
「すいません。モンs「……うぉう!!」
……急に話しかけてすいません」
今度こそ驚かせないように努めたが…今回も駄目だったみたいだ。
そうだよな、作業を止めてる時って、だいたい集中してるか、ボーっと考え事してるもんな……驚かせてすいません。
木箱に座わる調査員の声に驚いたのか、真ん中でなめし作業をしていた調査員が顔を向けずに反応する。
「なんだ?急に声を上げてどうしたよ」
「あ?いや……は?」
「驚かせてしまってすいません。モンスターの素材を見てもらいに来ました」
「あ、あぁ……おう。見せてみな」
「さっきから何をぶつぶつ言ってんだよ……用を足すなら暗くなる前に行けよー」
「うるっせぇ、黙ってろ!」
木箱に座る調査員に、賊竜の鱗を渡す。
なめし作業中の調査員は俺に気付いてないのか、もう1人と軽口を言いあってる……あんまり熱くなりすぎないでほしい。怖いから。
鱗2枚しか持ってきていないので、確認はすぐに終わったのだろう。木箱に座る調査員が顔を上げる。
「おう、紙ぃ渡してくれ」
「えっと、はい」
「状態は良かったから安心しな……ほらよ」
先ほどと同じく紙を要求されたので渡すと、何かを書き込んですぐに返して貰う。
状態が良いとは値段が高くなるってことか?
確かに落ちてる中でも綺麗な形の鱗を拾ったからな…あの判断は正解だったようだ。
……それにしても、これってなんの紙なんだろうな。この場所の確認も兼ねて聞いてみるか。
「すいません。聞きたい事があるんですけど……」
「なんでぇ。言ってみな」
「えっと、この紙についてと、この作業場について教えて下さい」
「あん?この紙は……」
「おーいなに、腹減ってんの?晩飯の献立とか気にしても、辛くなるだけだよー」
「……うるっせぇって言ってんだろ!」
なめし作業中の調査員と木箱に座る調査員がまた軽口を言い合うが……最終的にはなめし作業中の調査員は肩をすくめた後に、口を閉ざした。
改めて木箱に座る調査員が顔をこっちに向けて、説明をしてくれる。
「この紙はハンターの持ってきた素材の価値がどれくらいかを記入して、売値を出すもんでぃ」
「価値を……なるほど」
「ここはモンスター素材の精製所でぃ。皮や鱗なら余分なもんを落とし、骨なら汚れを取って干して乾かす。
そんで最後は形を整えてやって、加工屋なんかにそれを流す。そういった場所よ」
「おぉ……!とても勉強になりました。
ありがとうございます!」
「おう。ご苦労さん」
教えてくれたことにお礼を言って、精製所を去る。
やっぱりみんな優しい。モンハン世界の人ってみんなこうなのだろうか。
口調が独特な木箱に座る……"粋な精製係“とでも呼ぼうか……あの人も丁寧に教えてくれたし、なめし作業中の……"剽軽な精製係"と呼ぼう……あの人との軽口も仲の良さからなんだろうな。
それにしても、採取したアイテムを売るだけでこんなにゲームと違うとは……新鮮で面白いんだけどさ。
この紙に書いてる数字もよく分かんないし、これからもまだまだ知らないことは多いんだろうな。
……なんて考えながら歩けば、もう物資補給所へとたどり着いた。流通エリアって施設同士が近いから、必要なものがすぐに揃うしよく考えられたエリアだと思う。
俺は例の如く驚かさないよう、タイミングを見計らってから“物資補給係"に話しかける。
「すいませーん」
「……っおう、ほいほい…ようこそ物資補給所へ」
「各所に回ってきたので、紙をお返しします」
「……ん、あぁ。素材をもう見て貰ってくれてんのね。どれどれ……」
驚きは少なく済んだが、話が微妙にズレてる気がする。
……でもまぁ、伝われば何でも良いか。それよりも売値がいくらになるか気になるところだ。
"物資補給係"は紙を丁寧にリストに挟んだあと、足を折ってしゃがみこちらを見る。
「確認取れたぞー。全部売却で良いんだよな?」
「全部売却でお願いします」
「了解。こちら全部で1450zだ。こいつに包んで渡すぞ」
俺は朝と同じく腕を伸ばして、
どうやら、最初に持っていた金額と同じぐらい稼げたようだ。
上手くいっているかと言われれば……まあ微妙だ。大金持ちは遠いぜ……。
「確かに渡したぞ」
「はい、ありがとうございます」
「ほいよ!またのお越しを」
お礼の言葉を口にして、物資補給所から去っていく。
次の目的地は工房なんだが……その前に寄り道でもしようかな。
◆
俺は流通エリアから離れて、ロープリフト乗り場の隣にある長い階段を登っている。
手すりの向こうに広がる、赤い絶景を目にしながら。
「夕日が海に沈んでいく……綺麗だな……」
空が赤くなり、水平線に夕陽が沈んでいく。アステラを40年前から変わらず照らす、雄大かつ幻想的な光景。
ゲームでも綺麗と思い時々見ていたが、実際に目にすると画面とは比べられないほど美しく、綺麗だった。
大きな太陽が真っ赤になった、1日の最後となる暖かな日差し。
そして沈む夕日によって海が金色に輝く、一番見どころのある時間。
「……もし明日戻ったとしても、この光景は忘れないな」
今日が終わり目が覚めて元いた世界に戻っても、この光景は胸に残り続けるだろう。だってこの夕日は、元いた世界で見たどの夕日よりも美しいと思えたから。
「…………」
美しい光景は長くは続かなかった。
アステラから夕陽の光が失われて辺りが段々と暗くなっていく。
階段の上から見下ろせば、アステラの各地で調査員達が近くのかがり火を点灯する様子が見える。ポツポツと明かりが広がり、アステラの眠らない夜が始まろうとしていた。
「……さて、いきますか」
夕陽が沈むのを見届けた俺は、この長い階段を登り始める。
この上には〈工房〉と呼ばれる、アステラの調査員達の武具を生産・加工しているドーム状の施設がある。
元いた世界では、プレイヤー達はアステラの2階の場所に工房が、3階には食事場があると認知していたが……現実になれば上下にも行ける場所が多すぎて、簡単に階層を分けることは難しそうだ。
「〈工房〉に到着っと。ここの階段長すぎるだろ……」
よくやく階段を登り切り目的地である〈工房〉に着く。
工房の外観は全体的にゴテゴテしている。外壁は鉄板をいくつも打ちつけたもので、所々が錆で変色しており、屋根も赤黒く錆た様な色をした折板屋根を使っている。屋根や壁には無数の煙突が付けられ、中からは黒い煙がいつも空へと上がっている。
入り口周りの壁には、〈加工屋〉のシンボルであるハンマーが描かれた盾や、巨大な歯車が飾られていた。
「中はどうなってんだろうな……?」
工房の外観自体は食事場から見えていたので、入り口についても感動は控えめだ。その分、今の俺の未知への期待感は工房の中に集中している。
何故なら、男はガチャガチャした物が好きで、デカくて格好良い武器が好きになる……それが男の浪漫だからだ。
「記憶の中の光景と一緒なのか……それとも違うのか。なんにせよ、めちゃくちゃ楽しみだ!」
工房の中から僅かに聞こえる、カンカンと金属がぶつかる音や、ジュッと水分が蒸発する音に胸が高まる。
俺は少年のような純粋な期待感と共に、中から灯りが漏れ出す工房の中へと脚を運ぶのだった。
恋愛要素は要りますか?(物語の結末が変化します)
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いらない
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いる
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めっちゃいる(ハーレム)