気がつけばモブハンターになってた。   作:ドーモ。ギルドナイト=サン。

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14話

 

 

 工房を出て食事場の武器と山猫亭にたどり着いた俺は、自分が座る席を探して歩いていた。

 

 夕飯時だからか軽く見渡しただけでも分かる繁盛っぷりで、調理場近くに空いているテーブルが1つも無いのがその証拠だろう。当然、調理場前のカウンター席も、絶景が見える崖側のテーブル席も全て満席だ。

 

 

「おぉ……食事場が野外宴会場みたいになってるな……。

 宴会芸を披露している人もいるし、夜は相当賑やかだ」

 

 

 美味しそうな料理が並ぶテーブルを囲むのは、多くはハンターだろう。防具を付けたままだったり、インナー装備では隠しきれない屈強な肉体を持つものばかりだ。

 

 そんな人たちが大きなジョッキを片手に、歌ったり叫んだりと大はしゃぎしている。ああやって自分を曝け出してる人がいると、見てるこっちまでつられて楽しくなってくる。

 

 

「俺も混ざりたいな〜!……いや、混ざったらz(ゼニー)が無くなるか」

 

 

 ハンター同士で食卓を囲んでいる妄想をしていたが、しかしいざ会計って時に自分の懐の寒さを思い出し、現実に戻る。こんな所持金でタガを外せば、明日の朝には無一文になっているだろう。

 

 スリンガーや導虫かご、ランタンに装備の更新と、当面は出費がかさむだろうし、節約のためにあまり贅沢は出来なさそうだ。

 

 

「うぅ、ここは我慢、我慢だ……!」

 

 

 俺は楽しそうにしているテーブルを通り過ぎて、上にあるフロアに歩いて行く。

 道中、テーブルに誘われないかな……なんて淡い期待をしていたが、顔を向けられる事すらなく人気のないフロアにたどり着いた。

 

 

「……相変わらず、調理場から離れた席は人気がないのな」

 

 

 席はガラガラなので、なんとなく朝と同じテーブルへ向かう。武器やアイテムを近くに置いたあと、1人静かに座席に腰を落ち着けた。

 

 

「さて、何を食べようか!……この時期ってなんの食材が置いてあったっけ」

 

 

 メニューが置いて無いので、記憶の中にあるゲーム知識にある食材を考えるが……どれもしっくりと来ない。

 ゲームだと昼間に食べた様なモンハン飯は、狩りに行く前に食べる特別な効果があるものだった。

 だが、今の俺はこれから狩りには出ない。つまり今は、特別な効果の料理が必要では無いのだ。

 

 今後も毎食100z支払うってのも今の懐事情的に厳しいし、予算が抑えられてかつ量も味も美味い、そんなメニューがあれば良いんだが。

 ……いや、自分でもそんな都合のいいものがあるとは思えないけどさ。

 

 

「う〜ん、店員に良さげなメニューを聞いてみるか」

 

 チリリリーン!

 

 

 分からないから、店員にいい感じの料理をチョイスしてもらおう。考えがまとまったので、テーブルに置いてあるベルを降る。

 ……一応、身嗜みは大丈夫だ。新品のチェーン装備+aを着用しているからな。変態扱いはされないだろう。

 

 

「……うっ、朝の事件を思い出すと頭が……!」

 

 

 今から朝の食事場で起こった事件の被害者である、"黒毛の給仕ネコ"が現れる可能性もあるが……もし現れたら、潔く謝罪しよう。こういうのは早い方が良いと思うからな。

 あぁ、でも正直、心の準備が全くできていない。

 来るならどうか他のアイルーであってくれ……!

 

 

「……なのニャ…………?」

 

 

 来た!しかもあの姿は………どうやら、俺の望みは虚しく散ったようだ。

 調理場の裏から、俺のいるテーブルにまっすぐに、1匹のアイルーが向かって来ていた。紫のバンダナを頭に巻いた、あの艶のある美しい黒毛に、琥珀色に輝く瞳は……間違いなく、朝に話した"黒毛の給仕ネコ"その人?だろう。

 

 しかし、変だな。しばらくこちらを見ていた"黒毛の給仕ネコ"が、なぜか背中を向けて帰ろうとしている。

 まさかこっちに気がついていないのか?

 ……いや、俺の顔を見て離れようとしたのでは!?

 それはまずい。今すぐに謝らないと手遅れになる可能性がある!急いで"黒毛の給仕ネコ"を呼び止めなければ……!

 

 

「すいません!ここにいます……っ!

 あのっ、少しだけでも話をさせてくれないか!」

 

「……ニャニャっ!?」

 

 

 声をかけたら、飛び跳ねる勢いでこちらを向いて驚く"黒毛の給仕ネコ"……そのままこちらに歩いて来ているので、どうやらまだ話は聞いてくれそうだ。

 

 

「……ご、ご注文をお伺いしますなのニャ」

 

 

 どこかビクビクとした様子でテーブルに辿り着き俺の顔を覗き込む……これは、もしや俺の顔がバレているのか……?

 "黒毛の給仕ネコ"が注文を聞いてくれたが……注文を伝える前に、言うべき事を言っておこう。

 相手からすれば一刻も早く離れたいかもしれないが、ここを逃せば俺はもう謝るチャンスが無い気がするからな。

 

 

「それより前に、君に少しだけ言いたい事があるんだ……です!

 ……どうか、聞いていただけませんか……っ!!?」

 

「…………なのニャッ!!?

や、やっぱりナンパだったなのニャ……!」

 

「…………?」

 

「………ニャッ、ナンパは何回もされて来たけど……に、人間さんにされるのは初めてなのニャ。

…………どうしよう、なのニャ……!?」

 

 

 タメ口になりそうなところを敬語に直して話しかける。

 ……なにやら"黒毛の給仕ネコ"が聞き取れないくらいの小声でボソボソと話をしているが、俺の内心はそれどころでは無い。

 言えっ!言うんだ!男は度胸、よし、行くぞ……!

 

 

「――今朝は大変失礼な事をしてしまいっ、誠に申しわk「気持ちは嬉しいけど……ごっ、ごめんなさいなのニャッ!!!」でしたァァァ!!??」

 

 「………………なのニャ?」

 

 「……アッ………………」

 

 

 頭を下げて謝った途端、相手から謝罪の言葉を貰ってしまう。

 ご、ごめんなさい…………だと…………、俺を到底許す事は出来ないって事か……!?

 やばい……今朝の一件は、"黒毛の給仕ネコ"の心に深い傷を与えてしまった様だ。俺はなんて事を……。

 

 

「…………えっと、ナンパしに来た訳じゃない……なのニャ??」

 

 

 "黒毛の給仕ネコ"がなにやら問いかけてきたが…………んん??……ナンパとはどういうことだろうか。

 状況は飲み込めないが、返事はすぐに返すべきだろう。

 同じく困惑した様子の"黒毛の給仕"に返答する。

 

 

「はい?……えぇと、俺は今朝の事を謝りたくて……」

 

「?…………今朝って、なんの事なのニャ??

 そもそも、あなたとは初対面の筈なのニャ……」

 

 

 この感じは……どうやら、俺が朝に会ったアレなハンターだって気づいていないみたいだ。

 もしかして、俺は別のアイルーと勘違いしているのか?

 ……ね、念のために聞いてみるか。

 

 

「あの……調理場でウェイトレスをしているアイルーの中で、黒毛で琥珀色の瞳を持つ方って他に働いてたりしますか……?」

 

「ううん、ここで働いてるのは私だけなのニャ」

 

「……アッ…………スゥー………………」

 

 

 "黒毛の給仕ネコ"の真剣な表情に、嘘をついている様子は全く見えない。

 同じ特徴のアイルーは他には居ない。でも、本人は話した記憶が無いって事は…………やはり、俺の顔を覚える事が出来ないくらいショックだったのか。

 俺はチラリと"黒毛の給仕ネコ"を見やる。

 

 

「……ニャ?」

 

 

 ……覚えてないままの方がいい、か?

 今から無理に思い出して貰うのも、相手が辛いだろうか……分からないが、他に方法もあるだろう。

 この謝意は言葉や態度、物を渡すなりして……伝えていく事にしよう。いつか思い出したその時は、改めて心から謝罪出来るようにな。

 よし。そうと決まったら、ひとまずこの場は初対面を装っておくことにするか。

 

 

「あの……どうやら僕の勘違いだったみたいです。

 混乱させてしまい、申し訳ございませんでした……」

 

「!……もう、ビックリしちゃったなのニャ!

 じゃあ……注文、していくなのニャ?」

 

「あっ、はい。注文させて下さい」

 

 

 疑問が解消して安心したように、カラカラと笑う"黒毛の給仕ネコ"……なんとか、上手く話が着地できたのだろうか。これなら今後も自然に話ができそうだ。

 ……さて、注文は何を頼もうか?

 元々は店員にメニューを聞いてみる予定だったし、このまま"黒毛の給仕ネコ"に聞いてみる事にするか。

 

 

「ある程度で良いので、値段を抑えられるメニューって、あったりしますか?」

 

「はいなのニャ。セットでしたら、日替わり盛り合わせ皿に、バゲットとスープの3つで50zのものがありますなのニャ」

 

「じゃあ、それでお願いします!」

 

「はいなのニャ!……50zお預かりしま……なのニャ?

 お客様コレ、100zあるなのニャ……半分返すなのニャ!」

 

「それはチップで。お騒がせさせてしまったお詫びもかねて、受け取ってくれませんか……?」

 

「……むむぅ、分かりましたなのニャ。

 では、料理が出来るまで少々お待ちくださいなのニャ」

 

 

 メニューを聞けば、お値段がお手頃の物があるらしいので俺は即決で注文をした。

 そして、多めにz(ゼニー)を"黒毛の給仕ネコ"に渡すことも成功した。少しだけ渋った表情をしていたが、受け取ってくれて安心したぜ……。

 これからも、なるべくこうやって少しずつ謝意を込めて返していく事にしよう。

 

 

 ◆

 

 

「お待たせいたしましたなのニャ!」

 

 

 あれこれ考えていると、もう料理が届いたみたいだ。

 注文したセットは、あらかじめ作られている料理を合わせた料理だったのだろう。

 朝よりも小さめの料理プレートを持ち上げて、俺のテーブルの方へ運ぶ"黒毛の給仕ネコ"。相変わらずバランス感覚がすごい……。

 

 

「こちらがバゲットセットになりますなのニャ」

 

 

 テーブルに置かれた料理プレートからクローシュが外されて、熱気と共に彩りある料理が姿を表す。料理の香りが嗅覚を刺激し、脳がピリピリと熱くなるのを感じる。

 一度食べて耐性ができたのか、香りを嗅いだだけで体が勝手に食べ始めることは無かった。

 

 

「手前がバゲットニャ。そちらが大鍋のシチュー、最後に日替わり盛り合わせ皿となりますニャ」

 

 

 プレートの右手には、前の世界の2倍ぐらいの大きさをしたフランスパンがカットされ、丁寧に木製のカゴに並べられている……香ばしい小麦の匂いが鼻をくすぐり、俺の食欲をそそらせる。

 

 左手には具沢山のクリームシチューが、湯気を上げて深皿に並々に注がれている。ジャガイモ、海老、キノコなどの具が浮いているのが分かる……出汁がたっぷりと含まれてそうだな!

 

 そして中央には、朝に食べたサラダのようなものが大皿に山盛りになっている。見たことの無い植物の上に、ハムのスライスやよく分からない生物の切り身が盛り付けられている。朝に食べた時の記憶が飛んでて味を覚えていないんだよな。夜にもう一度食べられて良かった…!

 

 

 以上の3点のモンハン飯……もう食べなくてもうまいのが分かる!……いや食べるけども!!

 

 

「ごゆっくりどうぞなのニャ」

 

「……いただきますっ!」

 

 

俺も目の前の料理から発さられる、芳醇な香りに耐えきれなくなった俺は、弾けるように一心不乱に料理を口に運ぶ。

 

 

 うまい!うまいっ…!!うま…………はっ!?!?

 

 

 一瞬、意識が飛びかけたが戻ってくることに成功する。

 目の前の皿はほんの数瞬で半分以上の料理が無くなっていた。少しだけでも残ってて良かった。

 モンハン飯はあまりの美味しさによって記憶に残らない事は朝に経験済みだ。

 俺は全身に力を入れて意識が飛ばないように堪えながら、残りの料理を味わう。

 

 口当たりは滑らかで、コクもあるクリームシチューをスプーンで装い、口の中へ運ぶ…うん。暖かいし、素材のうまみが複雑に絡み合っていて濃厚な味を引き出している。

 

 すぐにフランスパンをちぎって口に運ぶ……噛ごたえ抜群だな。口の中に残ったシチューの旨みをパンが絡め取って、小麦の風味と交わり深い味わいを引き出している。フランスパン自体も噛むと甘く、シチューが無くなってもパン単体で十分うまい。

 

 日替わり盛り合わせは……野菜は食べたことある野菜と似ているようで似ていない、新鮮な味だった。ハムは、元いた世界の生ハムから、さらに肉の旨みが濃くなった味で、謎の切り身はブヨブヨとした食感をしていた。味は……油の乗った魚の甘い味に似ている。

 

 両方とも野菜と一緒に食べることで味や香りの強さが中和されて、後味も爽やかで悪くない。これならいくらでも食べられそうだ。料理に伸びる手が止まらない……!

 

 

「……ふぅ。ご馳走様でした」

 

「……良い食べっぷりなのニャ!これ程のものは中々見ないなのニャ」

 

 

 最後の一口を食べ終えて、席を立つ。思わぬ美味さにウンウンと首が頷いてしまう。

 どうやら、記憶は飛ばないにせよかなり早く完食してしまったようだ。やはりモンハン飯は素晴らしい。

 

 しかし……朝の定食を食べたときみたいな、力がみなぎるような感覚は感じられなかったな。

 でも、お腹がいっぱいになったのに変わりは無い。

 モンハン飯はとにかく量が多いので、今食べたバゲットセットでも、元の世界の3人前よりは確実に多かった。

 味はもちろん美味しかったし、値段も安いから金欠の俺には非常にありがたいメニューだ……また注文しよう。

 

 

「この料理、とても気に入りました!

 教えてくれてありがとうございます」

 

「それは良かったなのニャ〜。

 進めた甲斐があったなのニャ」

 

「はい……また食べに来ます!」

 

「なのニャ」

 

 

 食器を片付けてくれている"黒毛の給仕ネコ"に挨拶をして、席を立つ。

 俺は確かな満足感に浸りながら、食事場を離れたのだった。

 

 

 ◆

 

 

 食事場から階段を降りて流通エリアにやってきた俺は、そのまま地下へ降りてしばらく歩く。

 道中……特に流通エリア地下は暗かったが、どうやら迷う事なく、今朝"ルームサービス"に案内してもらった船の甲板までたどり着けたみたいだ。

 

 

「船の中は…誰もいないのか」

 

 

 甲板から船の中へ入り、人の気配が無い廊下を進む。

 他のハンターが見当たらないが、まだ寝るには早い時間だったりするのだろうか。

 ゲームでは夜にフィールドへ向かうこともあるし、ハンターって昼も夜も関係なく仕事しているのかもな。

 

 

「そもそも、アステラにいる調査員はみんな同じか」

 

 

 先ほど通った流通エリアでも夜に働く人は大勢いたし、調査員全体が昼と夜で仕事の時間を分けたりはしないんだろうな。

 モンスターの活発化、拠点の防衛、人員の救助…何かあればすぐに対処できるように、交代制などで仕事を回しているんだろう。

 

 

「さて、寝室に着いたが……」

 

 なんて事を考えていればすぐに寝室の前にたどり着く。

 ……中から人の気配がする。同期のハンター達だろうか?

 俺の寝室でもあるが、一応ノックをしてから扉を開けよう。

 

 

「………うげっ!」

 

 

 扉を開けて見えた光景に、俺は思わず引いてしまう。

 壁にあるランタンの光によって、かろうじて見える寝室は、一言で言えば酷いものだった。

 

 

 敷布団を雑多に引いて寝転がるインナー姿の野郎ども……いやいや、ハンターだな。うん。

 インナー姿のハンターが、部屋のあちこちで横たわって、いびきをかいて寝ていた。

 だらしなく腹を掻いていたり、大の字に体を広げていたりと、まるでギャグ漫画のおっさんのような寝相の悪さだ。

 

 なぜハンターなのか分かったかというと、全員が敷布団の近くに自分の装備を纏めているのが見えたから……でも、ハンターと同じ部屋で嬉しいなんて気持ちは微塵も浮かばなかったが。

 

 

「うへぇ……とりあえず、寝る準備をしよう」

 

 

 俺は寝室の中に入り、敷布団を一枚持って空いているスペースに広げる。

 時間をかけて、買ったばかりの防具を外して、他の人と同じように近くに纏めて置いておく。

 

 

「アイテムポーチも外して……準備は終わり」

 

 

 寝る準備は整った。あとは敷布団の上に横になるだけ……なんだけど、正直眠れる気がしない。

 布団は固く、上から羽織るものはない。

 四方から耳に優しく無いハーモニーが奏でられてるうえに、部屋自体も男だらけでむさ苦しい。

 

 

「今からこの中で寝るのか……早めに眠気が来ることを祈ろう」

 

 

 仕方がないから体を横に倒して眼を瞑るが、硬い床に体が押し返される感覚がする。

 こうしてみると、元いた世界の睡眠環境がいかに整っていたかが良くわかる。

 ありがたみって失わないと気が付かないんだな。元いた世界のベットが恋しい。

 

 

「起きたら全て、夢だったりするのかな……」

 

 

 ふと、このまま眠ればどうなるのか考えてしまう。

 この世界にとって、俺は異質な存在である事は間違いない。

 なら、目が覚めたら元の世界に戻っている可能性があるかも知れない。

 

 

 ……もしも、前の世界で目覚めたら、もう一度モンハンワールドを初めてみようかな。

 それで……この世界で見た事と答え合わせでも…………してみようか………………。

 

 

 意識がだんだん遠のいていく。

 眠気による微睡みのなかで、案外無理やり眠れるもんだなんて。

 少し自分に感心しながら、俺の意識は途切れた。

 

 

 

 

恋愛要素は要りますか?(物語の結末が変化します)

  • いらない
  • いる
  • めっちゃいる(ハーレム)
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