気がつけばモブハンターになってた。   作:ドーモ。ギルドナイト=サン。

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16話

 

 

 食事場から流通エリアまで降りてきた俺は、巨大な竜骨のアーチが特徴的な正門の手前にある広場に到着する。

 広場には朝から大勢のハンター達で賑わっており、階段を降りる時でもよく目立っていた。

 

 

「おーい、遅刻だぞー!」「なぁ聞いたか?例の推薦組、"調査班リーダー"と組んで調査するらしい」「早く手柄を上げて、同期との差をつけてやる!」「バウンティを登録してきた、まずはこれから終わらせよう」

 

 パーティメンバーを待つ者。

 物資補給所で買い物をする者。

 メルノスを呼んで空へと飛んで行く者。

 周りの人と探索のミーティングをしている者。

 様々なハンターが広場に集まり、そしてこれからフィールドへ向かおうとしているようだ。

 正門の辺りでも、ハンター達が密集しているのが見える。メルノスの順番待ちでもしているのだろうか。

 

 

 こうして見ると、モンハン世界の住人は熱気があるというか……見ているこっちもやる気になる様な活気を放っている気がするぜ。

 少なくとも、ハンター達が浮かべる表情は元いた世界の人たちと比べ物にならないくらい違う。

 

 元いた世界でも朝の出勤は混雑するのが当たり前だったが、ここにいるハンターは全員がギラギラと目を輝かせ、ハキハキと声を出し、これからの出来事に期待しているのか自然と笑みを浮かべている。

 元いた世界でよく見た出勤前の真顔とは……大違いだな!

 

 

「まだパートナーを見つけてなくてさ。一緒にどうだ?」「ヤツの痕跡を見つけるのはこの俺だ……!」「若いって良いねぇ。10年前を思い出すよ」「編纂者さんは私らがお守りしますんで、気が済むまで調査して下さい!」

 

 俺は賑わう広場の真ん中を突っ切って、正門へと向かう。

 俺が装備している新品のチェーンシリーズが太陽の光を反射して、確かな存在感を放っているに違いない。

 

 ……あわよくば、周りのハンターに声をかけてもらえないかと思っていたが、誰も俺に見向きすらしなかった。

 まぁ、実際俺は最底辺のHR1だし、装備も新品丸出しな駆け出しなので、自分から誘ってまで一緒に行動したいとは思わないんだろう。

 

 

「早く駆け出しを卒業して、あちこちから狩りに誘われる逸材ハンターになってやるぜ……!」

 

 

 心意気はある。今はこの悔しさも糧にして前に進もう。

 ゲームの知識がある分だけ、俺は周囲のハンターよりは確実に有利なはずだ。

 現在の遅れくらいなら、あっという間に取り返せる自信もある。

 焦って行動する必要は無い……と思いたい。

 

 

 正門を出ると、周囲でハンター達が勢いよく空中にスリンガーのクラッチクローを発射して、飛び立って行く。

 その光景を眺めていると、スリンガーの取り付けられていない左腕のチェーングラブに寂しさを感じてならない。

 

 いつかお前にも取り付けてやるからな……!

 俺は馬鹿な思考で左腕を撫でながら、1人で古代樹の森へと向かったのだった。

 

 

 ◆

 

 

「はっ……はっ……っ、到着、だな……!」

 

 

 正門から1人で崖上の道を走り、古代樹の森の入り口、アステラに向かう道とフィールドを隔てる門に到着した。

 相変わらず毛程の疲れも感じていないハンターの肉体に感謝しながら、軽く息を整える。

 

 

「ここからは、大型モンスターが移動することもあるし……導虫がない今は警戒しながら進もう」

 

 

 エリア4へと到着。

 昨日はまっすぐ西に進んで鉱石素材を採りに行ったが、今日は右に曲がり北側を目指す。

 エリア4の北側には古代樹の巨大な根が張っており、その根の上を進むことで古代樹の森の中へと入る事が出来る。

 

 

「今日の目的地は森の中の採取スポットだ。空が暗くなる前には森を出ないとな」

 

 

 暗くなった森で遭難するなんてのは御免だ。早速移動を始めよう。

 俺は周囲にモンスターがいない事を確認し、古代樹の根の上を登って森の中に入って行く。

 根の表面は硬いが、緑色や紫がかった色の苔が根の全域に広がっており、踏めば程よく柔らかくて歩きやすい。

 それと、凹んだ場所に溜まった土に根を張って、小さな植物もたくさん生えている。これなら雨の日でも草や土に引っかかり、滑り止め防止になりそうだ。

 

 

「よいしょっとっ……ん?……うわキモっ!!」

 

 

 道を遮るように倒れている木を飛び越えると、近くの折木の上でなにか動いた物が見えたので近いてみる。

 するとそこには、白くてブヨブヨとした生き物が蠢いていた。

 ……思わず声に出してキモいって言ってしまったが、こいつの正体はおそらくアイツだろう。

 俺は周囲を警戒しつつ、白いブヨブヨを観察してみる。

 

 

「……うへぇ、やっぱり〈スタミナライチュウ〉か」

 

 

 こいつは〈スタミナライチュウ〉という、ゲームにも登場する環境生物で、30cmくらいの白くて巨大な芋虫が丸まったような見た目が特徴的だ。

 

 枯れ木の材を主に食って生きていて、木があれば何処にでもいるのか、新大陸全土で見つける事ができる。

 こいつは芋虫特有の栄養価の高さをさらに引き伸ばした存在で、捕まえて食べるとなんとスタミナが僅かに増えて消耗も軽減されるという。

 

 

 そのため、ゲームではハンターが移動中にスタミナライチュウを見つけてはついでに食っていたり、一部の大型モンスターも地面の中に潜っているこいつを掘り出して食っていたりと、食品として大人気な芋虫だったりする。

 ……こうして実際に見てみると、見た目がキモすぎて手で触れたいとすら思えないのだが。

 

 

「キショ………でも、ハンターなら食虫文化って当たり前なんだよな。

 今後の事も考えると、俺も虫を食うのに慣れておいた方が良いんだろうか……?」

 

 

 俺はその白い体をジッと見つめ、真剣に食すかどうかを検討する。

 ……モゾモゾと動いて体を持ち上げるスタミナライチュウ。そのせいで見えてしまったのは、それぞれ別方向に動く大量の足。

 …………。

 

 

「……か、帰り道っ!帰り道にまたここを通るだろうから、その時にまだいたら、食べるか…………!」

 

 

 あまりのキモさに覚悟ができず、帰りの俺に全てを託す事にした。

 あれを見た後に口の中に入れて、吐かない自信がない。

 生きろ、スタミナライチュウ。俺が帰るまでにはそこから離れておくんだぞ……!

 俺は白いブヨブヨから目を背けて、再び古代樹の根を突き進んでいく。

 

 

「……お、この分かれ道、見たことあるぞ」

 

 

 別の場所から伸びてきた古代樹のアーチを潜り、さらに進んでいくと、細い古代樹を中心として道が左右へと分かれている。右側の景色は開けていて、遠くには緩やかな流れの大滝が、門とは角度違いで見える。

 俺が立つこの場所が何処か、ゲームでもよく見たのですぐに分かった。

 

 

「この分かれ道があるって事は……エリア11に入ったか」

 

 

 エリア11はモンスターと運悪く出会したり、とある方法で上からモンスターを落としたりしない限り、戦闘が起こることは無い比較的安全なエリアの1つだ。

 家で例えると、廊下みたいなエリアだな。

 

 

 分かれ道の右側は、古代樹の根に引っかかる様に倒れている天然の岩橋になっていて、進めば比較的大きな古代樹と巨大キノコが群生している広い空間…ゲームでのエリア5に着くだろう。

 

 そしてこのエリア5には、現状の装備では間違っても行きたくない。

 エリア5は古代樹の森の中でも屈指の魔境エリアであり、なんと古代樹の森に生きるほぼ全ての大型モンスターが立ち寄る非常に危険な場所だったりするからだ。

 

 

「ここの分かれ道にいるだけでも、エリア5から大型モンスターが移動して来て出くわす可能性があるからな……早く離れるのが賢明だな」

 

 

 そんな訳で俺は左側の、古代樹の根をそのまま進む道を選択する。

 エリア5付近よりは頻度が少ないが、この道でも大型モンスターが通る事があるため警戒は怠らずに進もう。

 

 

 ◆

 

 

 古代樹の根をどんどん上って目的地へ進んでいく。

 森の中に入れば入る程、空気がより透き通って美味しく感じる。森の木々の隙間から木漏れ日も当たって心地いい。

 

 古代樹の森の中に入ったのは今日が初めてだ。

 道中にある根の上に生えた特徴的な植物を見るのがとても楽しい。ただの移動でも、多くの未知に溢れている。

 

 

「……おっ、あれはもしかして〈アオキノコ〉か!」

 

 

 そして、その未知の世界で知っている物が見つかれば、足を止めてしまうのも仕方がないだろう。

 俺は道端で古代樹の根に群生している、片手剣の盾と同じくらいの大きさをした立派な傘を持つ、青色のキノコを見つけた。

 

 

 やはりこれは……〈アオキノコ〉だろう。

 モンハン世界に存在する菌類の一つで、様々な薬品の〈調合〉に使われる素材の一つだ。普通のキノコと同じく、湿気が多い地域に群生している。

 

 

「リアルだとデカいな……!これは採取して持って帰ろう」

 

 

 とても大きく育ったアオキノコに感動し、群生している中から特に大きな物を3つ、手でちぎってアイテムポーチへと仕舞い込む。育ち切った物を採り、小さなものには手をつけない。採取の基本だ。

 

 そんなアオキノコは、ポーチに入れただけで一気に中を圧迫してしまう大きさで……これは次にアオキノコを発見しても、採取するのは控えたほうが良さそうだ。

 俺は採取を終え、止めていた足を再び動かし先へ進む。

 

 

「……おぉ、ずいぶん高い位置まで登って来たんだな」

 

 

 古代樹の根を登っている際に、木々が開けた場所があったのでそこから森の外を眺めると、エリア4辺りの地面からは結構な高低差になっていて驚く。

 ……気がつかない間にずいぶん進んだものだ。それだけ夢中になっていたという事だろうな。

 

 

 周囲の景色にも変化があり、小さな滝がいくつも古代樹の根から現れて水が落ちている。下を見れば、透き通った川が流れているのが見える。

 ……この光景だけで、古代樹の水への耐性と、地下から汲み上げる力の凄まじさが伺えるな。

 

 

「これだけ滝が見えるって事は、そろそろ目的地が近いかもしれない……」

 

 

 俺は滑って落ちないように気をつけながら、根の道端をじりじりと歩く。

 確か目的地は、流れる川の1段上の高さにあった筈だ。

 だんだんと根の斜行が高くなるなか、草木を掴みながら進み……ようやくその場所を見つける事ができた。

 

 

「……おっ!見つけた!」

 

 

 1筋の細い滝が流れ落ちる先に、上流特有の、勢いが強く水深が深い場所。

 ……その水中には、悠々と動き回る影が見える。

 そして、川の近くには古代樹の根に囲まれた岩壁があり、表面に大きな亀裂が入っている。鉱石の採取ポイントで間違いないだろう。

 

 

「エリア11と15の境にある隠れた釣りスポット!ずっと来たかったぞ……!」

 

 

 朝から森を進んで、ようやく辿り着いた。気分が昂揚するのも仕方がないだろう。

 しかし、見つけたは良いが問題がある。

 まず、どのようにして高低差7m程もある下の水場に降りるか考えねばならない。

 次に、泳ぐ魚を刺激しないよう降りる必要がある事だ。

 

 

「……古代樹の根から生えてる木に、足をかけて降りるか?いや、その場合は一番下からは川へ突っ込むことになるか。足場が無いもんな」

 

 

 安全な降り方が思い浮かばず、立ち往生してしまう。

 ううむ、ここまで来て行き詰まるのか。

 ……ゲームの様に飛び降りるのはちょっと怖すぎるし、よしんば無事に着地しても水場からは近すぎる。

 降りた衝撃で水飛沫が飛んだりすれば、魚が警戒してしまうだろう。

 

 

「……ん、あの向かいの岩に張り付いている古代樹の根ならどうだ」

 

 

 ちらりと、鉱石の採取ポイント上にある古代樹の根を見つめる。

 ここから飛び込んで、根を掴む事ができれば、あとは根先から下の足場にゆっくり降りるだけ……これならいけるか?

 

 正直パルクールじみているが、少し危険を犯すくらいにはこの釣り場には価値がある。

 ハンターの肉体を信じてやるしか無い。飛ぶぞ……!

 

 

「……っ、ふっ!……っウラァ!!」

 

 

 勢いよく根の道端からジャンプ。

 向かいの岩山の根を掴んで――――良しっ!!

 少し滑ったが、ハンターの握力で無理やり掴んでやったぞ!

 

 そのままゆっくりと、根に手足を引っ掛けて降りる。少しだけ根が揺れ音が出るが、この程度なら魚を逃げはしまい。

 そうして無事に、俺は水場付近の足場へと到着したのだった。

 

 

「……ふぅ。魚は逃げてない……って、〈ナキノボリウオ〉もいるのか。間違って蹴らないよう気を付けないと」

 

 

 水場の魚が逃げてない事を確認して安心すると同時に、足元の岩場の上でくつろいでいる〈ナキノボリウオ〉に気がついた。

 

 〈ナキノボリウオ〉は、前の世界にいたクロウナギにエラのついた小さな手足を付けたような見た目をした環境生物だ。

 水陸適応をした両生類の始祖とも呼ばれている生物で、全長は1.5m近くと大きい。ゲームだと発見は比較的しやすかった。

 特徴的なものは、目の後ろにある大中小と3対の発光器官だろう。オレンジ色の光を発して、夜などの暗い水中で獲物を引き寄せるのに使っていると思われる。

 

 そして普段は岩場の上でくつろいで日光や雨に晒されているが、警戒する事があればすぐに水の中へと飛び込んで逃げ回る。水中で泳ぐそのあまりの速さに、初見時は驚いたものだ。

 

 

「で、なんでお前は逃げないんだよ。

 こちとらハンターなんだけど……怖くないの?」

 

 

 ナキノボリウオは警戒心が強いため、ハンターが近づけはすぐに水の中に飛び込んでしまう筈なんだが……。

 やっぱり、俺には威厳っぽいものが無いのだろうか。

 いや、まだ出会った環境生物が警戒心の薄い個体ってだけの可能性もあるか?

 

 

「どうであれ、今はこっちに集中しないとな……!」

 

 

 俺は魚の泳ぐ水場に、目当ての魚が泳いでいるかを確認する。

 ……見つけた。どうやら幸先は良いようだ。

 透き通った水には幾つもの影が動いているが、中でも一際の存在感を放つのは1匹の小さな魚。

 水場自体が日陰なのもあり見分け辛いが……その魚の持つ鱗は確かに、黄金色をしているのが分かる。

 

 

「〈小金魚〉……今日はお前を釣る為に、わざわざ森の中まで来たんだぜ……!」

 

 

 このエリア11の端にある滝上の釣り場では、ゲームで唯一、古代樹の森で〈小金魚〉という全身が黄金色の鱗に包まれた魚を釣る事ができる。

 この魚は黄金色に輝くとても綺麗な鱗を持っており、ゲームでそれを売れば一気に500zも稼げてしまう。

 そのため、金欠ハンターにはとても助かる魚なのだ。

 

 

「ククッ……釣りの腕には覚えがある。ここで大量に魚を釣って、集めた鱗を売り捌いて一儲けしてみせるぜ!」

 

 

 昨日、物資補給所で買った釣竿がようやく使う。

 背中から釣竿を外して、巻かれた糸をほぐして伸ばし、付属品の擬似餌と針を取り付ける。ウキもあるが、水の透明度が高いのと、そこまで水位が深くないので今回は外しておく。

 ……これで準備は完了だ。

 

 

「小金魚以外もじゃんじゃん釣るから、逃げないでくれよ、っと」

 

 

 竿の長さに気をつけながら、見えている小金魚と近すぎない場所に向かって擬似餌を……投げる。

 

 

 ボチャンっ…!

 

 気持ち良い音を立てて、擬似餌が水の中へと入っていく。

 それに反応していくつかの魚が動いて……いないな。あれ?なんでだ?

 

 元いた世界の釣り場では、人間が魚を釣りすぎて魚が警戒してしまい、こういった音1つでも敏感に反応していたんだが……この場所で釣りをする人が居ないのかも知れないな。

 

 

「……一回、戻すか」

 

 

 小金魚は非常に警戒心が強く食い付きが悪い魚だ。その難しさと、限定的な生息域と個体数の少なさから、一度も釣ったことがないというプレイヤーも少なく無い。

 

 本来は、竿を上下に振ったりすると糸をつたって擬似餌が動く事を利用して、本物の餌の様に動かす事で魚を食いつきやすくしたりするんだが……今回は小金魚に逃げられない様に戻す。

 

 

「逃げられたらお終いだからな。慎重に釣るぜ……!」

 

 

 ……しかし、その後も何度も投げては戻してを繰り返すが、一回目と同じく魚は反応する様子が無かった。

 こんなことは初めてだ。

 まさか、この世界の魚に俺の実力が追いついていないのだろうか……!?

 い、いや、そんな筈は無い。何か原因がある筈だ……。

 

 

「やっぱり、擬似餌だと駄目なんじゃないか……?それか、お腹が空いて居ないのか」

 

 

 とりあえず、試してみない事には分からない。

 幸い本物の餌なら近くにいるだろうし、それを取ってから再開しよう。

 

 

 俺は水場を挟んだ向こうの岩場まで、足を滑らせないように気を付けて歩く。

 水の中に足を入れると魚が驚いてしまうからな。

 岩場には隙間を突き破って古代樹の根が生えており、ゲームだとこの根に〈イレクイコガネ〉が止まっている筈だ。

 

 〈イレグイコガネ〉は、全身がピンク色の甲殻に覆われた顔の大きさくらいのコガネムシで、魚の大好物で、目の前に落としてやるとたちまち入れ食うという。

 ゲームでは、魚釣りでこいつを持ち込むだけで無双出来るくらいには、優れた釣り餌となっている。

 

 

「岩場には着いたが……見つからないな。他の場所を探すか……ん?」

 

 

 ゲームと同じ様な根に留まって無かったので、諦めて他の場所を探しに行こうとした矢先、ちょうど根の足元にひっくり返っているイレグイコガネの死体を見つける事ができた。

 

 

「お腹は……柔らかい。死んでからまだ時間が経ってないな。これなら釣り餌に使えそうだ!」

 

 

 俺は意気揚々と、イレグイコガネのお腹を引きちぎり釣り竿の針に通す。腹の感触は気持ち悪かったが、釣れない方が気になっていて何も感じなかった。

 

 ……完璧だ。これは魚にとってご馳走にしか見えまい。

 この虫特有の匂いなら、腹が減っていない魚も思わず食いついてしまうこと間違いなしだろう。

 ありがとう、イレグイコガネ。お前の死体は無駄にはしないぜ。

 

 

「それじゃあ、リベンジだ小金魚!……っほい」

 

 ポチャンっ…!

 

 

 見えている小金魚の付近へ、投げる……が、何も反応は無い。

 何故だ、餌に気付いてないのか……?

 こうなったら、逃げられるのを承知で餌を小刻みに動かしてみるしかないか……。

 

 

「…………」

 

 

 ちょんちょんと動かして食い付きを誘っても、小金魚どころか周りの魚すら餌に見向きもしない。

 今も目の前では、魚達が何事も無いかの様に泳ぎ続けている。

 

 小さな水場をダンスフロアかの如く。

 色とりどりの魚が、踊るように泳ぐ。

 優雅に、汚らわしい餌には目もくれず。

 

 

「……いや、なんでだよ…………」

『……あなたは……完全には……存在していない………』

 

 その後も、思いつく限り工夫を凝らしてみたが、全て成果に繋がらず……ただ時間だけが過ぎていくのだった。

 えっ、まさかの坊主?

 

 

 

恋愛要素は要りますか?(物語の結末が変化します)

  • いらない
  • いる
  • めっちゃいる(ハーレム)
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