気がつけばモブハンターになってた。 作:ドーモ。ギルドナイト=サン。
今日は特別に2話目も投稿させていただきます。
モンスターハンター。略してモンハン。
それは元いた世界で発売されたゲームの名前である。
自分たちが〈ハンター〉となり、無骨な武器を手に巨大なモンスターをハントする爽快感や、ファンタジーながらも何処か現実味がある世界を探索する高揚感、また通信プレイで友達と賑えるゲームとして売り出され、大人子供問わずめちゃくちゃ売れた作品だ。
当然俺も遊んだ。同じシリーズの作品も幾つか遊び、派生作品にも手を出してやり込んでいたからか、ここがモンハンの世界であることに気づいた。
モンハンには数々の作品があり、それぞれ舞台となる環境が大きく異なる。俺が今いる場所がどの作品のものかを知る事は、今後の判断材料に大きく貢献するだろう。
総司令が先ほど言った言葉を思い返せば、〈五期団 〉、〈新大陸〉、〈調査拠点アステラ 〉そして〈導きの青い星〉……。
その言葉のどれもが聞いた事があり、懐かしくも感じるものだった。当時の記憶が鮮明に浮かび上がってくる……ゲームをしてた頃がひどく懐かしい。また最初からゲームをプレイしたくなってくるな……。
だが、現実でゲームプレイなんてのは願い下げである。
俺は何故かは知らんがゲームの世界に来てしまった。
嬉しいかと聞かれたら、まぁ好きな作品だったこともあって嬉しい気持ちはある。
とはいえ元いた世界に戻れるなら、今すぐにでも戻りたい。
理由は……あのモンハンの世界だからだ。
恐竜時代の弱肉強食を体現したかの様な生態系に、ただの一般人を突っ込んだら……次の日には美味しくいただかれてるか、どこかでのたれ死んでいるに違いない。そんな世界にいきなりほっぽり出されてしまった訳だ。
「下手な地獄よりも厳しい環境だろ……天罰を受けるような真似はした覚えがないんだが……?」
このまま予想通りに無惨な死を迎えるのは嫌すぎる。
何が原因でこの世界に来たのかは気にはなるが、それよりも先に俺が生肉にならない為に今後の身の振り方を考える必要がありそうだ。
「……とりあえず頭の中から知識を引っ張り出して、1つ1つ状況を整理していくか」
まずは既に分かっている情報から……いま俺が立っているこの場所は、モンスターハンターの作品の一つである〈モンスターハンターワールド〉の世界にて登場する、〈調査拠点アステラ〉で間違いないだろう。
◆
〈調査拠点アステラ〉。
それはゲームにおいて、主人公たちハンターや新大陸の調査員達が住まう拠点である。
巨大な岩山とその間に流れる巨大な滝にもたれかかるように作られたこの場所は、海岸にも隣接しており海上輸送に優れた拠点だ。この地の人々は、遥か遠くからやってきた自分たちの船を資材として使う事で発展していった。
百聞は一見にしかず。アステラを見渡してみる。
拠点の端にはとてつもなく巨大な骨のアーチが並ぶ正門があり、そこから続く木製の足場と金網状の床が張り巡らされた〈流通エリア〉には、狩猟生活に必要な各ショップや研究施設があり多くの人が賑わう。その広場の頭上には逆さまになった巨大な船の骨格が固定され、間に天幕を張ることで人々を日差しや雨から守っている。
まさにファンタジー。まさにゲームの世界。
前の世界の発展した科学を使った建築物とは違う、自然に寄り添うように木製と骨によって建造されたアステラに、俺は声に出せずに感動してしまっていた。
突然だが、モンハン世界の文明は独特な技術や科学が発展している。それがまたモンハンの面白さに拍車をかけているんだが……一旦置いとくとして。
その技術の結晶の一部であろう、アステラの原始的な風景には似つかわしくないものに目を向ける。
アステラの各階層を繋ぐ巨大な〈ロープリフト〉。
元いた世界のスキーリフトをよく似た物だ。もっとも、スキーリフトとは違い立ったまま移動する物だが。
ゲームでロープリフトは、流通エリア含め至る所に移動できる便利な機能の一つだった。
高低差の激しい場所の移動に優れるロープリフトは、なんと視界の向こうにある岩山の山頂にまで続いている。そして、長いリフトの原動力となるものは、大きな滝の流れを使って回る巨大な水車によって作られている。
その水車も強度がおかしく、どうやって巨大な滝の中腹に取り付けたのかも不明であり、やはりこの文明が独特な進化をしていることが分かる。
そして山頂……ロープリフトが行き着く先には、これまた巨大な船が山の上に鎮座していた。
元いた世界の常識では、船が山頂に打ち上げられているなんてあり得ない光景であり、このアステラの景色はゲームの世界なのだと、強く俺に実感させた。
◆
「……場所については完璧に把握できてる。
次は、どの時代に訪れたのかを考えてみるか」
いくらゲームで知ってる世界でも、ゲームの時代がプレイしていた時の過去や未来であれば、持っている知識を完全には使えないだろう。
知識を活用するために、俺が今どの時代にいるのかを確認しておきたい。
現状唯一の判断材料だろう、先ほど話していた総司令の言葉を思い出してみる。
〈五期団〉。これはある程度文明が発展した現大陸から、40年前まで前人未到とされていた〈新大陸〉へと5回目に訪れる者たちの事だ。因みに五期団のほぼ全ての団員はハンターで構成されている。
〈新大陸の調査〉は、旧大陸に住まう人間にとって大きな意味を持つらしく、ここ新大陸へ10年毎に船を出して人員と物資を運んでいる。
そして、総司令の話から察するに、五期団が新大陸にたどり着いたのはたった今、遅くても数日前の事だろう。
モンハンワールドの主人公は五期団のハンターであり、ゲームの開始地点は五期団が新大陸に到着する直前だった。
それらの情報を踏まえた結論は――、
「――俺は今、物語の開始直後くらいの時期にいるのか」
ゲームのストーリーを追えるだけでも行幸だ。事前に何が起こるか分かっていれば、必要な物も準備しやすいしな。
現実の把握も問題はないだろう。
……しかし、1つ分からないことがあるな。
「俺って誰だ?明らかに主人公じゃないよな……」
〈ゲームの主人公〉は……いずれ偉業を成し遂げて、〈導きの青い星〉と呼ばれる様になる1人のハンターだ。
だがそんな輝く未来の英雄様も、今頃は古代樹の森で遭難している頃だろうか。俺はもう既にアステラに着いているし、俺がゲームの主人公って線は無さそうだ。
っていうか俺って五期団なのか?
いや、そもそもハンターなのか?
…………この身体の持ち主は、今どうしているんだ?
こんだけ鍛え上げられた身体だからハンターだとは思うが、俺の意識が芽生えたあと身体の意識はどこに行ったんだ?
頭の中に数々の疑問が溢れ出てくるが当然、答える者はいない。この体に2つの人格が……なんて事も無かった。
せめて意識が目覚める前の、この身体の持ち主の記憶を思い出せないか頭を捻るが……何も思い出せない。
右も左も己でさえもわからないこの状況への不安が、ゲームの世界に来たと、少し浮かれていた自分の楽観的思考を塗りつぶしていく。
「……っ!そうだっ!何か持ってないか俺!」
曇り出した思考の中で唐突に閃き、俺は着ている服の上を手でまさぐる。
服には多くポケットが付いているが、ほとんどは空だった。入っていても、何かのゴミのようなものばかり。
ポケットを全て確認しても身分の確認になりそうなものがない。
少し絶望しかけたその時、胸元に何かがある事に気がつく。首にかけているものが服の下に隠れていたみたいだ。
胸元から取り出した厚紙の様な物を広げる。
何か書いてあるな……どうやら、希望も見つかったようだ。
「ギルドカード……ハンターランク1!」
〈ギルドカード〉。
それはハンターの身分証とも呼べるもので、ゲーム内だとプレイヤーのプロフィールや遊んだ経歴を記載するものだ。
俺が持っていたギルドカードは厚紙みたいな物だった。
元の世界の免許証より数倍は大きいが、折りたたんでカードの形にすれば胸元にしまえるくらいの大きさになる。
「はぁぁぁ〜〜〜。良かったぁ……!」
この状況で一番欲しかったと言って良い物が見つかり、思わず安堵の息が漏れ出る。
今一度手のひらに映るギルドカードに書かれた文字を読んでいく。
ギルドカードに書かれた文字はモンハン世界の物だが、何故読めるのかは考えないでおく。分かるなら何でも良いしな。
文字を読み進めるたび、自分の精神が安定していく気がしていた。
「ふむふむ…元の身体の持ち主はハンターの養成所を出て、すぐに五期団の派遣に志願入りした駆け出しハンターぽいな。この経歴ならハンターランク1なのも納得だわ」
〈ハンターランク〉は、HRと略される事が多い。ハンターの実力や実績などを評価する値となる。1が最低であり、ゲームではストーリーが進むと共に上昇していたな。
この身体の主人もハンターランク1みたいだし、周りにいる五期段のハンターも同じなのだろうか。
……ギルドカードには過去のクエスト達成数などが記載されているが、やはり回数は少ない。名前ももちろん書かれているが、俺がゲームをプレイする時に付けた主人公の名前でも無い。見も知らぬ名前だった。
「主人公は新大陸に来る前から優秀な成績を持っていたらしいし、まず間違いなくこの体は主人公の物じゃない」
あとは、体の持ち主がゲームの世界で登場したかどうかを思い出そうとするが、記憶に引っかかるものは1つも無い。
……そして、それらが導く結論は1つ。
どうやら俺は、ゲームにすら登場しないモブハンターになってしまったようだ……。
ギルドカードの文字が読めるのは特殊能力とは関係ありません。また、モンハン世界の言語を聞き取れているのも関係ありません(つまりはご都合主義)。