気がつけばモブハンターになってた。 作:ドーモ。ギルドナイト=サン。
向かいから走り込んでくる2人を見る。
何かに追われているのか、緊張した雰囲気を醸している。
……まずい、1本道なのに悠長に過ごしすぎたか!
「この格好を見られる訳には……っやべぇ!」
俺は咄嗟に道路から外れ、右手側の岩壁をよじ登る。
鍛え上げられたハンターの体のおかげか、どれだけ力を入れて岩を掴んでも握力に限界が来る気配はない。
「間に合え……頼むっ………!」
俺は祈りながらもどうにか岩壁を登り切り、その上に広がる大きな葉を広げた植物に入り身を隠す。
あとは息を潜めて、人が通り過ぎるのを待つだけだ。
何とか間に合ったか……?
……グォオオオオ!!!!!!
「………っ!?」
草陰に身を隠していたら唐突に、すぐ近くから巨大な咆哮が響いてくる。
獣の唸り声をさらに低くし、獣とは比べ物にならない声量で空気を揺らすようなモノ。
その正体を予想した俺は___
◆
……モンハンを遊んでいた時に良く考えたことがある。
俺だけじゃなく、周りのモンハン好きも一度は考えた事があるようなものだ。
人によっては、ふざけて語り合うこともあるだろう。
「もしモンハン世界に行ったら、俺なら――……」
俺もモンハン友達とあれをしたい、こうなりたいと、妄想を膨らませて楽しく話をしたものだ。
ゲームの主人公のように、危険な世界で困っている人を助けたり、守ったり、問題を解決したり。
あるいは、巨大なモンスターを相手に怯まず、臆さず、勇気を出して立ち向かい、勝利を収めたい。
モンハンの世界観に虜になり、モンスターの生態について研究したいと言う者もいた。
周りからは賞賛され、子供や仲間たち、偉い人なんかに凄いと言われ認められる。
誰かを救って、感謝されて、憧れを一身に受ける主人公のような存在になりたいと。
そう言われるために、モンハンの世界に行きたい。
誰も口にしないが……思ってた事は、一緒だったろう。当然俺もそうだった。
散々遊んで得た知識を活用して、最高効率で装備を揃えて、モンスターを相手に大立ち回りを演じて、爽快感に包まれながら討伐して。
そんな、大成功した人生を送りたい。
楽しく、後悔しないような日々を過ごしたい。
なんて考えていた。
何も知らないまま。
◆
……グォオオオオ!!!!!!
……〈大型モンスター〉だ。
耳が痛くなるほどの声量で咆哮している。何かに怒っているのか。
〈大型モンスター〉は名前の通り、人の何倍も大きい怪物の様な生物のことだ。イメージだと前の世界の大型恐竜みたいな存在だ。そんなやつが……。
「なんで……こんな場所にっ…………!」
ゲームではこの場所に大型モンスターが入ってこれないはずだ。モンスターからしても、狭い道がずっと続くだけで、近づくメリットがないだろう。
……もしかして、先程の人たちを追ってるのだろうか。
植物に隠れているせいか、どうなっているのか状況が見えない。
……崖の下を見て状況を知りたいが、今体を出すとこの格好が他の人に見られるかもしれない。
モンスターに……見つかるかも知れない。
もし、モンスターの前に立ったら俺は…………。
「……____っ」
目の前に浮かぶ巨大な姿を想像した瞬間、脳が思考が一気に加速し始め、そのせいで頭痛がしだす。
焦りと緊張で息がおかしくなり、全身から汗が滝のように溢れ出てくる。目の周りからも砂嵐のようなものが現れ、俺の視界を覆い被さっていく錯覚に陥る。
蹲って地面についてる体が、宙に浮いているような感触になり俺を苦しめる。
「はぁっ……!ぁあっ……!」
頭が痛い。苦しい。
……グォオウ!!グギャアゥ!!!
「……っ!?」
すぐ近くで大型モンスターの声がして、体が跳ねる。
……さっき下で見かけた人たちは無事なんだろうか。
「……見に行って、無事じゃないならどうすんだよ……」
助けに行くだろ。主人公がゲームでした事と同じ様に。
「……こんな装備の奴が行って、何になるんだよ……」
……行ったところで、お前がモンスターに殺されるのがオチだろう。
でも、助けられたら。
窮地を救ってもらったら、その人の格好なんて、悪くは思わないだろ。きっと話も聞いてくれる。
そしたら俺は、いつか想像して憧れた姿になれる筈だ。
「……なら、動けよ……」
やる事なんて単純だ。
植物をかけ分け、視界を確保して、モンスターに襲われている人がいるなら、こっちに注意が向いていないガラ空きの体に、片手剣の刃を抜き放って一撃を喰らわしてやるんだ。ゲームで主人公が何度もしていたように。
だから…………早くっ………………!
「……動けょぉ……おれぇ……………………」
今にも泣き出しそうな、弱々しい声が口から出る。
気がつけば俺の体は震えていて、怯えた子供のように身を丸めている。
体が動かせない……動きたくないんだ、だって!
……グォオゥ!!!グウゥゥ!!!
大型モンスターが暴れているのか、何か巨大な物を地面に押し付ける音が、耳に何度も響いてくる。
それを聞くたびに、俺の体はすくみ上がり、体が勝手に丸まって身を潜めようとする。
「…………っ」
恐怖から瞼を強く閉じ、目に涙が溜まる感覚がする。
静かに。ただ静かに耳を澄まして、この状況の終わりを待っていたら……俺の耳にモンスターのものとは違う音が聞こえてきた。
「こっちです!」「急げ!」
…………っ!
先程の人達だろうか、男女で何か叫んでいるようだ。
岩壁のすぐ下の門あたりから、若い男女の声がする。
良かった……無事でいてくれて。モンスターに襲われていなくて。
おれがいかなかったせいで、しんでしまわなくて。
「来い!!」
誰かが叫んでいる。
切羽詰まっているのか声が荒々しい……大型モンスターから逃げているのだろうか。
暴れているのか、大型モンスターの脚が地面を蹴り、重い音が何度も耳に響いてくる。
……早く無事なら逃げろよ。なんでいるんだよ。
そんな事を考えた直後に。
「そぉい!!」
ガラガラガラガァン!!!
男の掛け声と共に、巨大な物が落下した音がした。
……場所的に門に持ち上げられていた落とし格子を下げたのか。
それでもまだ、落とした格子に何かがぶつかる音がする。まだ大型モンスターが暴れているのだろう。
「おい」「大丈夫ですか?」
下から男と女の声が聞こえる。ひとまず安全を得られたのか、声色が優しくなっている。
話を聞くに誰かの安否を確認しているようだ……もう1人あの場にいたのか。
「どうかしましたか?崖上の方を向いて……」
「何かいるのか。……だが今は、ここから離れるのが先だ。行くぞ」
「はい!……さあ、急ぎましょう!」
しばらく会話したあと、急いでここから離れる足音が聞こえてくる。
あの人たちは無事アステラに辿り着けることだろう。
……あぁ、良かった。何事もなく終わって。
……グゥオウ!………ガゥゥァ!
こちらでも大型モンスターの気配が遠のいていく。
……何処かへと移動するみたいだ。
安心したからか、緊張していた心がだんだんと落ち着くのが分かる。
少しして状態が落ち着いた俺だが、しかしそこから動こうとはせず、完全に音がしなくなるまでその場で丸くなることしか出来ずにいた。
これが一番正しかった。誰も何も失っていないと。
……何度も、自分に言い聞かせながら。
◆
音が止んだ。
辺りの小動物達が鳴き始め、ようやく嵐は去ったのだと確認する。
……そろそろ動けるだろうか。
「……ふ……、ん……!」
俺は体に力を入れる。胴体を起こし、腕で支えて膝をつく。
体を動かすことすら久しく感じてしまう。
体の震えはとっくに収まってはいるが、先ほどの一瞬の出来事が俺に恐怖を植えつけて、頭の隅から離れない。
「アレが大型モンスター……どいつかは分からないが、尋常じゃない迫力だった……」
元いた世界で動物に追いかけ回されたとき、必死で走って逃げた事があるが……今回は逃げるどころか動く事も出来なかった。
ハンターとして立ち向かう事も、出来なかった。
「せめて、準備が万全ならな……防具とか。
今のこの格好だと、できる事なんて採取と小型モンスターの討伐くらい、だもんな……」
誰に言われるでもなく、一人呟く。
今の自分に出来ることは限られている。
若干言葉が詰まったが、口にする事で改めてやる事の認識が出来たのか、ようやくここから動ける気がしてきた。
目の前の大きな葉をかき分けて周囲を確認する。
見える範囲では何も動いてるものは見えない。
隠れて動かなかった俺を、知るものはいない。
……良かった。これでようやく探索に向かえる。
「居ないな……何も、誰も」
俺は隠れていた植物から抜け出して、先ほど通った道を岩壁の上から覗き込む。
……下の道にも人が来る気配は無さそうだ。
門を見てみると、やはり先ほどの人達が下げたのだろう落とし格子で入り口が閉鎖されている。ここから降りるにしても門の外側……フィールドの方にしよう。
「……よし、問題は無さそうだな」
俺は岩壁にまたしがみつき、ゆっくりと足を掛ける場所を探しながら降りていき、もう大丈夫と判断できる高さで勢いよく飛び降りる。
地面に着地した衝撃で腰のピッケルがカラカラと鳴った。
門の外側……俺が足をつけているここは、ゲームで何度も来ることになる、大型モンスターが蔓延るフィールドだ。
この先でも、人とモンスターには見つからないよう注意しながら進もう。
「さあ、探索を初めるか…………ん?」
俺は歩き始めてすぐ、地面に何か光るものが落ちていることに気がつく。
思わず近づいて見れば、落とし物のその大きさに、そして拾い上げると今度は軽さに驚くことになる。
「これってまさか……〈ドスジャグラス〉の〈落とし物〉か?」
大きさの割に薄く軽い、黄色とも緑色とも捉えられる不思議な色をしたそれは、このフィールドに生息する中型モンスター、ドスジャグラスの鱗だろうと推測する。
〈ドスジャグラス〉は賊竜とも呼ばれる、全長10m、体高3m程の太ったトカゲのようなモンスターで、巨大な口とドレッドヘアーのようなたてがみが特徴的だ。
全身が今拾った黄色と緑色がかった鱗に覆われていて、発達した口や前足にある、鋭い尖った牙と爪で攻撃してきたり、その体格を生かしての体当たりをしてくる。
また、群れを形勢する生物でもあり、〈ジャグラス〉という小型モンスターを周囲に引き連れていたりする。
こいつを狩ろうとすれば、ドスジャグラスと複数体のジャグラスを同時に相手取る必要がある。
だがそんなドスジャグラスは、ゲームでは最弱のレッテルを貼られており、モンハンワールドで一番プレイヤーに倒されたモンスターでもあった。
「そんな最弱相手に、俺はあのザマか……」
この辺りに素材が落ちているという事は、先ほどまで暴れていたのはドスジャグラスだったのだろう。
俺が息を呑んで隠れる羽目になった相手が、ゲームで散々みくびっていたモンスター、それも大型モンスターですらない中型モンスターだったと知り……落ち込む。
「さっきの人たちも、こいつに追われてたんだろうな」
ドスジャグラスは、空腹になると獰猛化し、あたり構わず襲って空腹を満たそうとする。それは自身の強力な消化効果を持つ胃酸に、自分の胃が溶かされないようにするためだとか。
先ほどの人たちは、空腹になったドスジャグラスに遭遇してしつこく追われていたんだろうと推測する。
「結構周りに落ちてるな。ドスジャグラスの〈落とし物〉……もしかして、さっきの人たちは戦って抵抗していたのか」
辺りには俺が拾ったものほど綺麗ではないが、黄色と緑色をした鱗の破片がばらけて落ちていた。
モンスターを攻撃して傷つけたり、大きな衝撃を与えたりすれば、自らの体の一部を近くに〈落とし物〉として落とす事がある。
ただ追うだけでは自身の体が傷つけられる事は無いだろうし、もしかしたら先ほどの人たちはハンターで、戦ったのかもしれない。
ドスジャグラス相手に戦って、鱗を削って善戦したものの、あえなく撤退を余儀なくされた……とか。
「案外、この世界のドスジャグラスはハンターにとっても強い扱いなのかもな」
弱い自分に言い聞かせるように、そうつぶやく。
……あれだけの咆哮と振動音だし、あながち間違いじゃ無いだろうとも、思う。
この世界はまだまだ未知で溢れている。
今後もハンターとして活動して行けば、先ほどのように思わぬアクシデントも発生するかもしれない。
「その時が来ても、今のままの俺じゃ絶対に太刀打ちできない」
俺はゲームの知識があれど、今はただの駆け出しハンターだ。装備も無い状態でモンスターを相手になんて出来るわけがない。
「――俺は、思っていたよりもずっと臆病だったんだな」
それが分かっただけでも十分だ…………。
素材を集めて、お金を稼いで、装備を作る。
段階を一つ一つ踏んで、準備をして挑んで、石橋を叩きながら経験を積んでいこう。
臆病だとしても、ハンターとして成り上がる為に。
「そのためにも……とりあえず、使えそうな落とし物が無いかもう少し周りを見ておくか」
俺は綺麗な状態の落とし物がまだ無いか、がめつく地面を見ながら歩くことにした。
少し進んだ先で、もう一つ見つける事ができた。
……やったぜ。
恋愛要素は要りますか?(物語の結末が変化します)
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いらない
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いる
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めっちゃいる(ハーレム)