シードアクスーーストライクを奪取してみた。   作:皐月莢

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第10話 明けの砂漠

 赤い機体の蹴りが迫る光景が、鮮明にフラッシュバックする。

 息が出来ない。

 圧倒的な恐怖に胸を締め付けられ、フレイは弾かれたように瞼を開いた。

 白い無機質な天井灯の光が視界を貫き、じわじわと焦点が合うにつれて全身に残る鈍い痛みが意識を鮮明にさせていった。

 身体を起こそうと腕に力を入れるが、起き上がろうとした途端に視界が揺らぐ。

 身体が動かない。

 焦燥感を押し殺しつつ視線を周囲に巡らせると、フレイは自分が見覚えのない場所にいることに気付いた。

 点滴やモニターが音を刻んでいるが、どうやら病院ではないようだった。

 部屋にベッドは複数並んでいるが他には誰もおらず、外の景色が見えないどころか窓すら存在しない。

 壁に手を当てると、微かな振動が肌に伝わった。

 飛行機、それとも船の中? 

 部屋どころか、周囲に人の気配を感じられない。

 静寂に包まれる中、自分の鼓動だけがやけに大きく響いているような気がした。

 しばらく呆けていると、誰かが唐突にドアを開けた。

 

「やっとお目覚めか。大変だったんだぞ」

 

 声の主は、バルトフェルドの屋敷で出会ったストライクの持ち主だという少女──カガリだった。

 ヘリオポリスで見たラフな格好ではなく、きっちりとした軍装のような動きやすい格好に身を包んでいる。

 

「……ここは、どこ?」

 

 フレイは眉を潜めたが、その後ろから肌の焼けた筋骨隆々の男が一歩前に進み出た。

 

「宇宙戦闘艦“クサナギ”へようこそ。姫が随分とご迷惑をお掛けしたそうで」

 

 カガリは恭しく頭を下げる男を、抗議するような目で睨んだ。

 

「迷惑を掛けられたのは私の方だ」

 

 反発するカガリに、男は柔らかな表情を崩さず再び頭を垂れた。

 

「既に自己紹介はお済みと伺っておりますが、改めてご紹介を。我ら“明けの砂漠”の主、カガリ様です。私はこの艦の副長で“レドニル・キサカ”と申します」

 

 どこかで聞いた言葉に、フレイの表情がさらに険しくなった。

 

「元々は北アフリカでザフトと戦っていたレジスタンスだったのですが、当時軍を率いていたバルトフェルド氏に敗北しまして」

「“砂漠の虎”に?」

「えぇ。その生き残りを束ねておられるのが、このカガリ様というわけです」

 

 キサカの淡々とした説明に、フレイはさらに警戒心を募らせながらも納得した。

 自分と同じナチュラルに過ぎないカガリが、ザフトの司令官であるバルトフェルドと面識があった理由としては妥当だろう。

 レジスタンスの艦だから、こんなにも人の気配が薄いことにも納得がいく。

 

「しばらくは我々のアジトに滞在していただくことになるかと思いますが、何かございましたら遠慮なくお申し付けください」

 

 キサカは丁寧に一礼すると、静かに退室した。

 後に残されたカガリは腕組みすると、フレイを威嚇するように視線を投げ付ける。

 

「そういうことだ。不便かもしれないけど勘弁しろよなっ!」

 

 フレイはそれを受け流すように視線を外すと、先程から胸の奥に沈んでいた疑問を投げかけた。

 

「……そんなことより、ヘリオポリスはどうなったの?」

 

 最悪の予感──喉の渇きが隠せない。

 

「詳しいことは知らん。だが、国防委員長を狙ったテロリストのモビルスーツ隊は全滅したと報道があった」

「全、滅」

 

 力なく繰り返したフレイに、カガリはわずかに声を潜めて続けた。

 

「あぁ。元連合軍人らしい指揮官も含めて、拘束された者はいないそうだがな」

 

 だったらナタルも、あの3人も──。

 カガリはプラント国防委員長暗殺未遂事件を起こした4人のテロリストに、抑えきれない怒りを滲ませる。

 

「お前もテロ共犯の容疑者として国際指名手配されたみたいだ。私がお前を回収していなければ、今ごろ捕まってたんじゃないか?」

 

 淡々と告げられた衝撃的な事実に、フレイはいつの間にか冷え切っていた両手を握り締めた。

 どうしてこんなことに──。

 

「ま、私はお前が連中の正体を知ってたとは思わん。だが、国防委員長はお前をブルーコスモスの手先だからと血眼で探させているそうだ」

 

 自分は、彼らのことを何も知らない。

 たぶん実際に話したこともないだろうカガリよりも。

 

「……あの人たちは、何だったの?」

「“第81独立機動群”──地球連合軍の特殊部隊だ。あの黒いデカブツ以外はジャンク屋組合のせいだって大統領が言い訳してたな」

 

 要するに、地球連合軍の陰謀に巻き込まれてしまったらしい。

 アルスターの名前にナタルが反応していたのは、情報漏洩の可能性を疑ったからだろう。

 茫然としているフレイの耳に、再びカガリの声が響いた。

 

「何にせよ、()()()()はプラントに追われてるってコトだ」

「……()()()()?」

 

 フレイが疑問を口にした瞬間、勢いよく扉が開いた。

 視線を向けると、鮮やかな桃色の髪が中に飛び込んできた。

 

「フレイ!」

 

 それはミーアだった。

 驚く間もなく抱き締められ、その温もりに緊張が少し和らいでしまう。

 

「なんでこの子まで!?」

 

 だが、どうして〈ドミニオン〉の事務所にいたはずの彼女がこんなところにいるのか。

 フレイが思わず声を荒げると、カガリは眉を跳ね上げた。 

 

「私に聞くな! お前を回収して逃げてる最中、ふらふら歩いてたコイツを見掛けたんだ。お前の友達みたいだったし、放っておくわけにはいかないだろ!」

 

 ミーアは頬を赤く染めると、慌てて状況を説明した。

 

「大事な用事があるからと締め出されてしまいまして。ですから現地で応援しようとしたら、あんなことに……」

「……そう。そうだったのね」

 

 たぶん、あの4人も根っからの悪人ではない。

 作戦が成功するにせよ、失敗するにせよ、わざわざミーアを外出させる理由はない。

 むしろ口封じした方が良かったはずだ。

 自分たちの陰謀に巻き込むことになってしまった彼女に対して、彼らなりの筋を通そうとしたのだろう。

 

「お前たちを助けたついでに、1つ頼みたいことがある」

 

 カガリは腕組みを解くと、折畳み式のタブレットを取り出して起動した。

 ホログラムがふわりと浮かび上がり、青い立体映像が医務室の薄闇に広がった。

 そこに映るのはCGで造られた巨大なアリーナと、4機のモビルスーツが対峙するシルエット。

 観戦者を煽るように光が走る中、仮面を付けた少女が鮮やかに塗装された機体の掌で踊りながら熱唱している。

 

「私の弟を救出するために──今月末オーブで行われる公式クラン・バトルに、私のM.A.V.として出場してくれないか」

 

 それは対峙した者に有無を言わせない、どこか威厳のある口調だった。

 

 

 

 

 潮気を含んだ生温い風が、肌にまとわり付く。

 キラ・ヤマトは昼休憩のチャイムを背に、モルゲンレーテ社員用のカフェテリアへ向かっていた。

 ここのところ連日続いている残業のせいで、全身には濃い疲労感が漂っている。

 コーディネイターだからと言って、スーパーマンでもなんでもないことは理解して貰えないらしい。

 反射的に肩を回してみたが、気休めにもならなかった。

 背後では革靴が、廊下の硬質タイルを一定のリズムで叩いている。

 オーブ代表首長代理であるセイラン家直属の近衛兵が、半歩の距離を保ったまま絶えず尾行してくる。

 自分がカトーゼミで作っていたプログラムは、なんとモビルスーツの新型オペレーション・システムだったらしい。

 その特許料はユニウス条約で主権を回復したオーブの財政危機を救い、マスドライバーの再建まで果たすほどの利益を生み出したそうだ。

 しかし監視役を付けられ、敷地外に一歩も出られなくなった自分には何の関係もない話だ。

 

「暑くないんですか、その格好」

 

 振り返らずに投げた軽口に返事はない。

 たかだか民間人を監視するだけの仕事など、彼にとっても退屈なのだろう。

 効きの悪い冷房とオーブ特有の気候が、汗ばんだキラの背にシャツを張り付かせる。

 午前中の会議が、脳裏から離れない。

 

 ──『マイティ計画』。

 

 オーブ軍の次世代フラグシップ機として、全てを分解・消失させる収束重核子ビーム砲と精神感応制御ナノ粒子の盾を搭載した万能機の開発。

 最大の問題は電力需要が想定値を大幅に超過していることと、ナノ粒子の精神感応制御アルゴリズムだ。

 こんなもので世界が平和になるとは思えないが、敵を圧倒する力があれば全てを解決出来ると信じているのだろう。

 扉を開くと、その社員用カフェテリアは昼とは思えぬ閑散ぶりだった。

 生ぬるい空調が低音を立てる中、テーブル席に腰掛けていた男が声を発した。

 

「やあ。随分とお疲れのようだ」

「アレックスさん」

 

 大型のサングラスに金の前髪を伸ばした男──アレックス・ディノがコーヒー片手に寛いでいた。

 アレックスはもう片方の手で煙草を弄びながら、近衛兵を見るなり肩を竦めた。

 

「おや? 君は先週稼がせてくれた軍人君じゃないか。次は手加減してやるから、しばらく下がっててくれよ」

 

 どうやらアレックスは兵士相手にカジノで大勝ちしたらしい。

 兵士の頬が引き攣るが、やがて不本意そうに敬礼すると出口へと姿を消した。

 上層部の命令よりも、金の方が重要というわけだ。

 

「助かりました」

 

 キラは息を吐くと、正面の椅子へ腰を落とす。

 アレックスは一息つきながら、煙草の灰を灰皿に落としてから軽く微笑んだ。

 

「せっかくの昼休みだというのに、ああいう連中がいたら気が休まらないからね」

 

 アレックスはモルゲンレーテの増築工事で出入りしている建設作業員で、同じコーディネイターのよしみで話すことが多い。

 元々はプラントの技術者だったらしく、会うたびにモルゲンレーテへの転職を勧めているが、現場仕事の方が肌に合っているらしい。

 

「しょせん人は己の知ることしか知らない」

 

 アレックスのように、プラントから別の国に移住するコーディネイターは今どき珍しい。

 だが、コーディネイターにとって理想郷のように映るプラントにも様々な問題点があるらしい。

 

「まったく、どの国も同じだな」

 

 アレックスの声には諦念と嘲笑が入り交じっているようだった。

 キラは真意を探るように視線を向けるが、サングラスの奥に隠れた瞳からは何も読み取れない。

 アレックスは煙草を灰皿で揉み消すと、作業服の内ポケットから財布を取り出した。

 

「今日は彼の奢りだ。君はもう少しゆっくりしていくといい」

 

 ギャンブルの勝ち分、ということらしい。

 キラが無言で頭を下げると、アレックスは白ヘルメットを被った集団に紛れるように去っていく。

 

「…………」

 

 キラは残された席で深く息を吐いた。

 テーブルに肘をつくと、取り出した小型端末を起動する。

 監視のためネットワークには制限を掛けられているが、こんなものの解除など楽勝だ。

 画面がすぐに切り替わり、ニュースフィードが一斉に更新される。

 その最上段の見出しに、思わず血の気が引いた。

 

GLOBAL WARRANT(指名手配犯)FREY ALSTER(フレイ・アルスター)

 

 キラが指先を滑らせると、拡大されたフレイの映像がスクリーンに表示されていた。




アレックス・ディノ……いったい何者なんだ……?

デスティニーアクスはムウがインパルス&ミネルバを強奪、フリーダムアクスはアスランがカルラ&グルウェイグを強奪することに気付いたので、有識者兄貴姉貴は一発ネタとして使ってください。
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