シードアクスーーストライクを奪取してみた。   作:皐月莢

11 / 13
第11話 オーブの姉弟

 宇宙戦艦“クサナギ”の作戦会議室で、壁面に映し出された戦術モニターが淡く光っている。

 艦内でも特にバージョンアップが施されたこの空間は、あのザフトが誇る惑星強襲艦ミネルバにも引けを取らないだろう。

 

「最初に言っておく」

 

 その静寂に満ちた部屋の最奥で、カガリはモニターの光に照らされながら沈黙を破った。

 

「これは私自身の問題だ。だからお前たちに協力しろと強制するつもりはない」

 

 その低く抑えた声には、カガリの強い意思が込められているようだった。

 

「私はアスハ首長家当主、カガリ・ユラ・アスハ。──今は亡きウズミ・ナラ・アスハ元代表首長の娘だ」

「代表首長……?」

 

 フレイは思わず小さく息を呑んだ。

 代表首長──建国に貢献した五代氏族の族長内から選出される、まさにオーブ連合首長国を統べる国家元首にして最高責任者だ。

 だが──。

 

「えぇと、王女は病で伏せっていると報道されていたような……?」

 

 ミーアが戸惑いながら疑問を口にすると、キサカが落ち着いた声で答えを返した。

 

「はい。表向きは」

 

 キサカは歴戦のオーブ軍人らしい冷静な表情で、フレイとミーアに視線を巡らせる。

 

「ですが真相は違うのです。カガリ様はホムラ前代表辞任後、宰相として実権を握ったセイラン家の屋敷に幽閉されていたところを我々が救出したのです」

 

 フレイは興味深そうに眉を上げる。

 

「ふーん。アスハ家のお姫様がねぇ」

 

 カガリの纏う荒々しいがどこか洗練された雰囲気は、その過程で手に入れたものだったらしい。

 

「じゃあなんでヘリオポリスに?」

 

 フレイは言葉に棘を含ませる。

 南太平洋の島国であるオーブ本土と、元領土だが辺境の宇宙コロニー。

 セイラン家の追手から身を隠すためとはいえ、あまりにも距離が離れ過ぎている。

 

「戦争終結から1年が経ちました。しかし更なる勢力拡大を目指すプラントと、復讐に燃える地球連合。どちらの陣営も次の戦争に向けた準備を水面下で進めています」

 

 キサカが手を動かすと、巨大なモニターに地球圏内の勢力図が映し出される。

 宇宙圏と地球の要所を掌握するプラントと、地球上の広範囲を支配している地球連合。

 ファウンデーション王国の独立など、ここ最近更なる弱体化が目立つ地球連合だが、それでも戦いは数だ。

 総合的な戦力では数で勝る地球連合が圧倒的に上回っている。

 

「我々がクーデターを成功させたとしても、オーブの属国化を企む両陣営の争いに巻き込まれるのは必然です」

 

 モニターが拡大され、オーブとその周辺勢力がクローズアップされる。

 

「我々は元オーブ領であり、モルゲンレーテの支社が置かれたヘリオポリスに協力を取り付けに来ました」

 

 オーブ連合首長国は南にザフトの最大拠点である“カーペンタリア基地”。

 そして西に地球連合の構成国である“東アジア共和国”、そして東は“大西洋連邦”に囲まれている。

 さらに先日再建されたマスドライバーという戦略的重要施設を持ち、技術立国としての存在感も示しているオーブは、地球圏での紛争が起これば両陣営に狙われる立場であることは前大戦の推移を見ても明白だった。

 

「情報部の調査によれば、セイラン家は先日ヘリオポリスでテロを起こした“第81独立機動群”との繋がりを噂されているそうだ。戦争が始まればセイラン家は地球連合軍と同盟を結ぶ可能性が高い」

 

 カガリはテーブルを指で軽く叩きながら言葉を続けた。

 

「もちろん、これは私の我儘かもしれない。だがオーブを、この世界を、このままにしてはおけない。──そう思うのは傲慢だろうか?」

「……私がどうこう言えることじゃないけど。……でも、今のままじゃ良くないってのは同感ね」

 

 フレイは苦い記憶を振り払うように目を細めた。

 ヘリオポリスでの戦いで失った、虚飾に満ちた平穏な日常。

 あの偽りの平和が正しいものだったとは思えない。

 だが、再び戦争が始まれば。

 家族を喪った自分やミーアのように、あるいは戦うことしか出来なかったオルガたちのように、新たな悲劇が繰り返されてしまうだろう。

 それを阻止しようと奮闘しているカガリの行為は、決して独善的なものだとは思えない。

 フレイの言葉に、カガリは小さく頷いた。

 

「ところで、弟君とは? アスハ家もサハク家のように、双子の後継者だったということですか?」

 

 ミーアが好奇心を隠さず問いかけると、キサカが説明を継いだ。

 

「今から18年前のことです。ウズミ様はとある知人の夫婦から、双子の片割れである1人の少女を引き取られました」

 

 つまりその時に引き取られたのがカガリで、もう片方が“弟君”ということだろう。

 血の繋がった親に育てられた方が幸運なのか、それとも絶対的な権力者に引き取られた方が幸運なのかは分からないが、とにかくそういう過去があったのだ。

 キサカは重い溜息を吐いた。

 

「私もカガリ様の護衛として、来るべき時が来るまで口外無用の命令を受けておりました。──ですが、思わぬ事態が起こりまして」

「“オーブ解放作戦”ですね?」

 

 カガリはミーアの言葉に眉を寄せると、鋭い口調で問いかけた。

 

「……お前。もしかしてセイラン家のスパイじゃないだろうな?」

「ご、ごめんなさい。そういうわけではないのですが」

 

 突然の追及にミーアは慌てて謝罪するが、フレイは警戒するカガリを睨み付けた。

 

「何? もしかしてアンタ、その子を疑ってるの?」

 

 無関係な人間としては少々“勘”が良過ぎるのかもしれないが、こうでなければ無力な女の子に過ぎないミーアが1人で生きていくのは不可能だったのだ。

 第一、ミーアをこの船に回収したのはカガリ自身の判断ではないか。

 

「悪い。ちょっと気が立ってたかもな」

 

 険しい空気を断ち切るようにカガリが苦笑する中、キサカは言葉を選びながら説明を続けた。

 

「ウズミ様は国民の避難完了後、当時の主要閣僚らとともに自決されました。その最期の別れの場で、カガリ様に弟君の存在を打ち明けられたのです。その情報がセイラン家の連中に伝わってしまったようで……」

 

 フレイはキサカの言葉に、椅子の背に体重を預ける。

 ──“オーブ解放作戦”。

 地球連合の最大勢力だった大西洋連邦が同盟締結を強要し、それを拒否したオーブとの間で始まった戦い。

 オーブ軍は密かに開発していた量産型モビルスーツを多数投入し、モビルスーツ開発に苦戦する大西洋連合軍に善戦した。

 だが、戦局を覆すには至らない。

 最終的にウズミの自決で幕が閉じた軍事作戦の舞台裏に、意外な真実が隠されていたらしい。

 

「血の繋がった弟って言っても、要は民間人なんでしょ? そんなヤツをわざわざ救出する必要があるの?」

「フレイ様のおっしゃる通りです」

 

 キサカは一呼吸置いて、さらに続けた。

 

「カガリ様の意思はどうあれ、彼は単なる民間人です。セイラン家も積極的に危害を加えるような真似はしないでしょう。──彼が凡人であれば、の話ですが」

「……どういうこと?」

 

 フレイが眉を寄せると、キサカはカガリに視線を向けて確認すると、改めて前を向いた。

 

「事情は分かりませんが、彼はカガリ様と異なり、コーディネイターとして生まれたそうです。戦後、モルゲンレーテ社に就職した彼は、その卓越した能力ですぐに頭角を現し始めました」

 

 氏族制でありながら、血縁よりも能力を重視する五大氏族において、ナチュラルでありながらアスハ家の後継者に選ばれたカガリ。

 そのカガリと同等の能力を有していた少年が、遺伝子操作で更なる才能を獲得したのだ。

 オーブの誇る国営企業“モルゲンレーテ社”の中でも、他を差し置いて突出した成果を上げられるくらいに。

 

「モビルスーツの新型オペレーションシステムに、新型兵器の設計・開発。彼がモルゲンレーテ社にもたらした利益はオーブの国家予算に匹敵するほどだそうです」

「……まさに天才、ってヤツね。気に食わないけど」 

 

 フレイは軽く鼻を鳴らした。

 その“弟君”は単なる民間人などではない。

 むしろ換えが利かないという意味では、代表首長であるカガリよりも価値があると考える者もいるだろう。

 

「最悪の場合、セイラン家が地球連合に人質として売り渡す可能性もある。オーブの未来を守るためにも、血の繋がった唯一の家族を守るためにも、クーデターを決行する前に身柄を確保する必要がある」

 

 金色の視線が、まっすぐにフレイへと向けられる。

 

「だが、一つ問題があってな。私たちは連中に顔が割れている」

 

 カガリは口元に笑みを浮かべた。

 現代表首長と、その側近たち。

 立場上、宰相として政治を代行する形でオーブを掌握しているセイラン家が最も警戒しているのは対抗勢力である彼らの存在だろう。

 

「そこで、お前たちの力を貸して欲しい」

 

 まさに直球勝負だった。

 プラントに追われている自分たちにとって、身の潔白を証明するためには権力を持った者の口添えが必要だ。

 セイラン家の策略に対抗し、彼女の弟とやらを確保することで、こちらも安全圏に身を置くことが出来るかもしれない。

 だが、それでも──。

 

「助けて頂いた身ですし、私でお役に立てるようなことがあれば喜んで協力させて頂きたいのですが……」

 

 ミーアは遠慮がちに言葉を継いだ。

 もしも失敗すれば、自分たちは国際指名手配のテロリストどころか、クーデターを起こして失敗した大罪人だ。

 

「……ちょっと考えさせて」

 

 フレイが静かに返すと、カガリはその真意を理解したように軽く頷いた。

 

「だが、今日中に教えてくれ。少々事情が変わって、明日の朝一番で発つことになった」

「?」

 

 月末に行われるクランバトルに乗じてオーブ本土に潜入し、どこかにいる弟を確保する。

 それ以外に、どんな事情が存在するというのだろうか。

 

「元クルーゼ隊のエースパイロットで、アスラン・ザラの好敵手と呼ばれた男。──イザーク・ジュールが、オーブ駐留軍の新司令官に任命されたらしい」

 

 オーブを映していたモニターが切り替わり、衛星カメラに映るオノゴロ島の様子が拡大される。

 南部の軍港に、どこか見覚えのある1隻の軍艦が着艦していた。

 ミネルバ級惑星強襲揚陸艦2番艦──“ミレニアム”。

 鹵獲したアークエンジェルを改修することで誕生したミネルバを元に、ザフトの新型兵器を多数搭載した最新鋭戦艦が静かに佇んでいた。

 




アスランに続き、元クルーゼ隊の登場です。
どちらもエリートコースなので、核爆発に巻き込まれたクルーゼ隊長も草葉の陰で喜んでいるでしょう。

某作品がついに復活したので、イザークパートは次回ということで急ぎ投稿してます。

キラくんの近況

【挿絵表示】
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。