シードアクスーーストライクを奪取してみた。   作:皐月莢

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第12話 ジャスティス

 南太平洋に位置するオノゴロ島の熱気は、管理されたプラントと比較にならない。

 灼熱の陽炎が揺らめき、軍港に停泊している白い惑星強襲艦ミネルバ級2番艦──“ミレニアム”のシルエットが歪んで見える。

 タラップを降りてくる2つの影は、強烈な熱気にも涼やかな佇まいを崩さない。

 先日、オーブ駐留軍司令官に任命されてカーペンタリア基地から着任したイザーク・ジュールと、そのマヴにしてジュール隊の副官ディアッカ・エルスマンだ。

 出迎えに現れた2人の男が一礼する。

 

「さすがはジュール司令。着任早々見事なお手並みですな」

 

 愛想笑いで歓迎しているのは、オーブ連合首長国の宰相ウナト・エマ・セイラン。

 そしてその傍らで浮かれた笑みを浮かべているのは、その息子でオーブ軍総司令官代行のユウナ・ロマ・セイランだ。

 

「我が軍が苦戦していた“アンティファクティス”の連中をあっさりと……」

 

 正体不明の武装集団──“アンティファクティス”。

 主にハーフコーディネイターで構成された組織だったが、その実態はブルーコスモスの工作員に扇動され、地球連合が世論を味方に付けられるよう暗躍していた偽装テロリストだった。

 未遂に終わったとはいえ、オーブ本土への核攻撃すら企図していた過激派の武装勢力をジュール隊が壊滅させたのだ。

 イザークはユウナに嫌悪感を露わにすると、眉を寄せた。

 

「貴様、あの程度の連中に手間取っていたとは……。着任早々この俺に恥をかかせるつもりかっ!」

 

 抑えきれない苛立ちが、吐き出した罵声の端々に滲み出ている。

 

「恐れながら、司令。私の考案した作戦通りなら、あのようなテロリストごときに……」

 

 慌てて弁明を試みるユウナを、イザークのさらに鋭くなった叱責が遮った。

 

「愚か者! 貴様のくだらん作戦とやらで、部下を全滅させるつもりか!? どうやら国は貴様の玩具ではないということがわからんようだな!」

 

 どれだけジュール隊が精強とはいえ、オーブ軍の戦力がそれを下回るはずもない。

 ひとえに作戦の拙さでこれまで“アンティファクティス”に連敗し続けていたことを、ユウナは何一つ理解していないらしい。

 

「そんな、私は何も!」

 

 イザークは声を上ずらせるユウナに冷たく言い放った。

 

「もういい、さっさと失せろ。貴様はどこかに逃げたとかいう婚約者でも追い掛けているんだな」

 

 この不愉快な男の婚約者であるオーブ代表首長は、結婚式当日にお付きだった護衛に攫われてどこかに逃走したという。

 プラントと地球連合は冷戦どころか一触即発状態になりつつあるというのに、呑気な連中ばかりだ。

 心底うんざりした様子で冷笑を浮かべるイザークに、ウナトは気を取り直すように咳払いを挟んで切り出した。

 

「明日は我が国の独立記念日です。式典には是非、司令にもお立ち会い願いたいのですが──」

 

 ユニウス条約で主権を取り戻す事が決定したオーブが、プラントとの関係を改めて定義するために結んだ地位協定。

 その中には資源コロニーだったヘリオポリスの独立を認めることや、オノゴロ島における軍の駐留権など、元々中立国だったオーブにとって屈辱的な条約だが……。

 そんな完全アウェーで行われる式典に、ノコノコ顔を出すと思われているのは心外だ。

 イザークは無言のまま視線を逸らした。

 

「式典の後には、地球初の開催となりますクラン・バトルの開会宣言も……」

 

 なおも続けるウナトの言葉を黙殺すると、イザークは傍に停まっていた駐留軍の手配した車に乗り込んだ。

 

 

 

 エアコンの効いた車内に入り、しばらく走って軍港を抜けるとイザークは吐き捨てるように言った。

 

「まったく、ヤツ(アスラン)のせいでとんだ外れ籤だ!」

 

 オーブ駐留軍総司令官の座は、元々アスラン・ザラが着任予定だったものだ。

 しかし先日ヘリオポリスで赤い“ストライク”が目撃され、その捜索・追跡任務にアスランは志願した。

 その結果、候補者の1人だったイザークにこの面倒な役目が回ってきたのだ。

 今後の出世を考える上で、間違いなくエリートコースが約束されるだろう駐留軍司令官の座。

 降って湧いたような幸運に腹を立てるのも妙な話だが、やはりアスランに譲られる形となったのは素直に腹立たしい。

 まして今後もあの不愉快な男と頻繁に顔を合わせることになることを考えると、溜息を吐くしかなかった。

 

「しっかし、クルーゼ隊長がホントに生きてるのかねぇ」

 

 イザークは軽口を叩くディアッカに、眉を寄せて切り返した。

 

「貴様まで子供のような戯言を! だったらなぜ俺達から隠れている!?」

 

 実はナチュラルだったと悪評が囁かれているらしいが、今のザフトにラウ・ル・クルーゼを超えるような軍人はいない現実に疑う余地はない。

 パイロットとしての技量はもちろん、隊を率いる立場として、あの男ほど優れた軍人は他にいなかった。

 ラウの卓越した能力と、己の命をも顧みず世界を救った偉大さを疎んで、クライン派の誰かが流した卑怯な噂に決まっているのだ。

 

「そんなこと俺に言われても知らねーよ」

 

 ディアッカは大げさに肩を竦め、気安げに笑う。

 

「それにしてもアスランの奴、腕が鈍ったみたいだな。例の事件でアイツの隊も大分やられたみてーだし」

 

 地球連合軍は今も認めていないが──弱小クランに扮していた地球連合軍の特殊部隊がヘリオポリスで起こした、ハリ・ジャガンナート暗殺未遂事件。

 敵モビルスーツ隊の対処に当たったザラ隊も、アスランを除いて半壊寸前まで追い詰められたらしい。

 最新鋭機“セカンドステージシリーズ”を複数投入しながら、たかが馬鹿で役立たずなナチュラルの連中相手に情けない限りだ。

 すると助手席で書類に目を通していたもう1人の副官シホ・ハーネンフースが、静かに口を開いた。

 

「ジュール隊長。()()()()()()()()()()()我々に命令が」

「相変わらず動きが早いな。……で、何だ?」

 

 イザークは鼻を鳴らすと、報告を切り出したシホに注意を向ける。

 昨日、奇跡の生還を果たしたハリ・ジャガンナート国防委員長を抑え、クライン派の若手議員──ギルバート・デュランダルが議長に就任した。

 どちらも立場の違いこそあれど、腹に一物抱えている人物だが、ひとまず強硬派の勢力拡大は回避出来たらしい。

 ザラ派がプラント国民全体に植え付けた不信感──友軍もろとも地球を大量破壊兵器で撃とうとした事実は、そう簡単に薄れるわけではないのだ。

 

「先日の事件を踏まえて、我々駐留軍も最終確認に同席せよと」

 

 ハリ・ジャガンナート暗殺未遂事件で投入された地球連合軍の新型らしい大型可変機は、クランバトルに必要な機材という名目で持ち込まれた。

 単なる税関職員のヒューマン・エラーとして片付けるのは簡単だが、同じような失態を二度と繰り返してはならない。

 機動兵器の知識に欠けた素人だけで確認させるよりも、専門家であるザフトから人員を手配する方が効率的だという判断らしい。

 もっともそれは表向きの理由で、世界中からオーブに運び込まれて来る新型兵器を“合法的に覗き見る”絶好の機会だとでも言いたいのだろう。

 形勢不利が囁かれる中、まんまと議長に就任した手腕といい、どうにも食えない男だ。

 

「クランバトルねぇ。バルトフェルド隊長はお忍びで出てたんだろ? 俺も一度くらい出てみたかったぜ」

 

 ディアッカが興味津々な口調で呟くと、イザークは鼻で笑った。

 

「だったら今すぐ辞表を出して、世界一のピアニストを目指すだのなんだの言って除隊した臆病者(ニコル)とでも組むんだな」

 

 どこで何をしているのか知らないが、クルーゼ隊長が消息を絶った後、アスランのマヴに選ばれたニコル・アマルフィ。

 その気になればプラント議長も目指せるような男が、無意味に才能を腐らせていることだけは分かる。

 

「冗談だって。あんま苛々してると、女の子に嫌われるぜ?」

 

 ディアッカは苦笑すると、イザークの肩を拳で軽く叩いた。

 

「貴様、まさか“カバス”にでも行く気じゃないだろうな?」

 

 その妙な笑い方に違和感を抱いたイザークが真顔で問い詰めると、ディアッカは飄々と笑って応じた。

 

「別にいいだろ。俺たちだって息抜きは必要だぜ?」

 

 停戦協定であるユニウス条約で、地球連合は地上の国境線を開戦以前へと戻され、併合されていた地球上の国々は主権を回復した。

 プラントはそうした新興国家に支援活動を行ったが、宇宙圏を含めて大幅に支配領が増え、財政難に苦しんでいたザフトが全てをカバーするのは不可能だった。

 世界最古の職業は農業と牧畜、そして売春と言われている。

 プラントが勝利し、コーディネイターの地位が向上した結果──世界各地でザフト軍人用の娼館が建設され、身寄りのないナチュラルの女性たちが働かされているという。

 これもある意味、ザフトが勝利したことで起こった“勝者の歪み”なのだろう。

 ディアッカのように喜ぶのが軍人としては普通なのかもしれないが、正直なところあまりいい気分ではないのも事実だ。

 

「……どいつもこいつも」

 

 イザークが小声で呟くと、シホは潜めた声で続けた。

 

「一つだけ、気になる報告がありまして」

「何だ、言ってみろ」

「ファウンデーション王国からの参加クランですが……」

 

 シホの淡々とした口調に、緊張感が混じっていた。

 情報部と繋がりのあるジュール隊には、他の部隊には公開されない重要機密が送られてくることがあるのだ。

 

「噂の“ブラックナイツ”かぁ。この前独立したばかりだってのに、まったく呑気な連中だぜ」

 

 ファウンデーション王国の近衛部隊──“ブラックナイツ”。

 圧倒的な戦力を誇るユーラシア連邦軍を撃破し、王国独立に大きく貢献した精鋭部隊がクランバトルに参加するのだ。

 ディアッカの軽口に、シホは静かに言葉を付け加える。

 

「彼らの機体として登録されたモビルスーツの1つが“ジャスティス”と名付けられているそうです」

「……ふん」

 

 開発局で厳重に封印されていたファーストステージシリーズの片割れ──“ジャスティス”。

 核分裂炉を搭載することで事実上無制限の稼働時間を誇る、まさに『正義』の象徴として造られたモビルスーツ。

 その禁断の力を成立させるために必要な“NJキャンセラー”を開発したニコルの父、ユーリ・アマルフィの反対で未完成に終わった最強の機体が何者かに盗まれたのだ。

 偶然新型兵器のテスト機として使用されていたため、盗難を免れた“フリーダム”は現在、バルトフェルドが保管している。

 セカンドステージシリーズと同等以上の基本性能に加えて、核エンジンが生み出す無制限のパワーを誇る“ジャスティス”が、もしもユーラシア連邦軍を圧倒するほど優れたファウンデーション王国の技術力と結び付いているのなら。

 ユーラシア連邦軍の元特殊部隊で構成された傭兵部隊『X』。

 地球連合で行われたジュニア大会の優勝チーム『ガーティ・ルー』。

 北アフリカの元レジスタンス『明けの砂漠』。

 そしてファウンデーション王国の『ブラックナイツ』。

 不穏の気配は、もう扉の向こうまで来ているような気がした。




8クランくらいは名前だけでも登場させたいのですが、良さそうな候補が浮かびません。

どうして序盤にハーケン隊を登場させたのか、コレが分からない。(再利用してもいいけど

その手があったか! みたいなクランがあれば感想欄で教えてください。

とりあえず
・X(カナード)
・ガーディ・ルー(ステラ)
・明けの砂漠(カガリ)
・ブラックナイツ(オルフェ、シュラ)
は確定です。
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