シードアクスーーストライクを奪取してみた。   作:皐月莢

2 / 13
第2話 赤いストライク

 窓の外を見ていた女性は振り返ると、吐き捨てるように言った。

 

「この付近で潜伏中のテロリストと、軍警の連中が交戦しているようだ」

 

 フレイは女性の言葉に、思わず足を止めた。

 

「交戦……? まさか」

 

 言葉を発するより先に、目の前の光景が現実を映し出す。

 真っ赤に燃え上がる町を逃げ惑う群衆──その上空で、3機のモビルスーツが交差していた。

 

「アレは!?」

 

 フレイは叫んだ。

 真紅の装甲を纏った正体不明の機体が、2機のジンに追い立てられながら空を舞う。

 モビルスーツを保有するテロリストを制圧しようとしているのだろう。

 だが、彼らの放った攻撃は敵を追い詰めるよりも、周囲の被害を拡大させることを望んでいるようだった。

 ジンの放った機関砲が街路を抉り、狙いを外したミサイルが家屋を直撃する。

 逃げ場を求めて路地に駆け込もうとした人影が崩落した瓦礫に押し潰され、誰かの悲鳴が聞こえてきた。

 

「どうして関係ない人まで!?」

 

 フレイの問いに、女性は溜息交じりに答える。

 

「連中にとって難民は、テロリストに協力する犯罪者だ」

 

 金髪の少年は肩を震わせるフレイを押し退け、不満げに舌打ちする。

 

「どうする、〈艦長〉?」

 

 艦長と呼ばれた女性は頷くと、三人の少年たちに指示を飛ばした。

 

「連中が来る前に、モビルスーツを地下に。見付かると厄介だ」

「止めないの?」

 

 正体不明の赤いモビルスーツ。

 難民街の人間はコーディネイターに居場所を奪われたナチュラルばかりだということを考慮すれば、元地球連合軍の軍人か何かだろう。

 プラントに頭が上がらない軍警の連中よりも、よほど正しい存在だ。

 フレイが拳を握り締めると、赤髪の少年が肩を竦める。

 

「止めてどーすんの? 相手は軍だよ?」

 

 そして隣の倉庫に収納されていた中古のモビルスーツに乗り込んだ。

 

「そんなヤツ、どーでもいいだろ」

 

 ゆらりと立ち上がった緑髪の少年がパスコードを入力すると、床の一部がスライドして地下への入口が出現した。

 この区画の地下はコロニーの外壁に繋がる広大な閉鎖空間が広がっており、事実上軍警の目も届かないセキュリティホールとなっているのだ。

 

「だからってこんなの……」

 

 屋上で様子を窺っていたミーアが、小さく声を漏らした。

 これまで難民街で暮らしていた彼女にとっては、家族や仲間が撃たれているようなものなのだろう。

 その瞬間、フレイの足は自然と動いていた。

 

「邪魔すんなよ、テメー!」

「どいて!」

 

 フレイは苛立った表情で振り向いた少年を突き飛ばし、叫ぶ少年を無視して操縦席に座った。

 機体のコクピットハッチが閉じる中、震える指がコンソールを起動する。

 重々しい機械音が響き渡り、機体が唸りを上げて目を覚ます。

 

「動きなさいよ、ポンコツ!」

 

 フレイの叫びに答えるように、鋼鉄のモビルスーツが目を覚ます。

 ダガー。

 Gシリーズ全機喪失の影響で開発が頓挫し、後にオーブ軍の技術を接収することで完成した地球連合初の量産型モビルスーツだ。

 地下格納庫の天井が開くと、機体はそのまま上空へと躍り出た。

 モニターに光が差し込み、視界が一気に広がる。

 

「何やってんのよ、あんたたちは!」

 

 眼下に広がる炎と煙に包まれた難民街の惨状を見て、フレイは強く操縦桿を握り締めながら銃口を構える。

 赤いモビルスーツは煙幕に紛れて姿を眩ましたらしい。

 あちこちを破壊しながら見失った機体を探しているジンを狙い、頭部に装備された対空機関砲を発射した。

 複数の閃光がジンの装甲を掠めるが、次の瞬間には警告音が鳴り響く。

 

「もう! なんで弾切れなのよ!」

 

 たった4人しかいない弱小クランのモビルスーツだからか、わずか数秒で全ての弾丸を撃ち切ってしまった。

 モニターに浮かんだ『残量ゼロ』の表示に、フレイは思わず舌打ちする。

 咄嗟に別の武装を確認するが、他の武器は未搭載らしい。

 整備のため武装解除した状態で格納されていたモビルスーツであることを、今更になって理解した。

 視線を切った瞬間、フレイの存在に気付いた片方のジンが接近し、容赦ない砲撃を浴びせ掛けてくる。砲弾がダガーの足下を抉り、巨大な炎が巻き上がった。

 

「コロニーに穴が空いちゃうでしょうが!」

 

 フレイは操縦桿を強く前に倒すと、機体を一気に加速させる。

 ジンとの距離が急速に詰まる。

 勢いそのままにダガーの腕を大きく振り被った。

 

「──くっ!」

 

 素早く体勢を立て直したジンが、無防備な姿を晒したダガーに銃口を向ける。

 放たれた実体弾が脇腹の装甲を直撃し、激しい振動が操縦席を襲う。

 どこかが故障したらしく、コクピット内に警報が鳴り響いた。

 直後にもう片方のジンが発射したミサイルが手前に着弾し、コントロールを失ったダガーは崩落した大地に呑み込まれていく。

 轟音が周囲を包み込み、全てが闇に溶けていった。

 

 

 

 どれほどの時間が経ったのか。

 

「大丈夫か?」

 

 誰かの声が掛けられた。

 フレイがうっすらと目を開けると、霞んでいた輪郭が鮮明になってくる。

 すると心配そうな顔で、自分を覗き込む少女が見えた。

 煤で汚れたラフな格好だが、どこか気品のようなものを感じさせる。

 

「ここは?」

「地下の避難シェルターだ。お前、上から落ちてきたんだぞ? よく無事だったな」

 

 どうやらコクピットから放り出されたらしい。

 頭を押さえながら立ち上がって周囲を見渡すと、床には瓦礫が広がっているが、広大な空間が保たれていた。

 

「……あんた、誰?」

「私のことはどうだっていいだろ」

 

 金髪の少女は曖昧に微笑んだ。

 彼女の言葉はどこかぎこちなかったが、それ以上問い詰める気力はなかった。

 すると、遠くから再び重々しい振動が響いてきた。

 少女の顔が険しくなり、すぐに立ち上がる。

 

「まずいな……。奴等が追ってきたか」

 

 奥の薄闇に隠れた何かを気にするように、視線を向けた。

 フレイもその視線を追うと、奥に佇むモビルスーツの存在に気付いた。

 

「ストライク……?」

 

 プラントに勝利をもたらし、人類滅亡の危機を救ったモビルスーツ。

 フレイが呟きを漏らすと、金髪の少女は露骨に動揺を見せた。

 しかしすぐに視線を逸らし、平静を装うように呟いた。

 

「連中の狙いはコイツだろう」

 

 第2次ヤキン・ドゥーエ攻防戦で消息を絶った、ラウ・ル・クルーゼの愛機。

 もちろん、十中八九違法コピーか、外見を似せただけだろう。

 しかしもしも本物のストライクであれば、それはかつて始まりのコーディネイターが発見した〈宇宙鯨〉に匹敵する発見だ。

 この機体を手掛かりに、未だ生存説の根強いラウの消息が明らかになれば、コーディネイターが全てを支配する世界が来るかもしれない。

 そう信じている者は、プラントだけでなく全世界に存在する。

 

「!」

 

 次の瞬間だった。

 天井が破壊され、崩れ落ちた瓦礫の隙間からジンの姿が見える。

 

「お前はここから逃げるんだ!」

 

 少女はストライクに近付こうとするが、次々落ちる無数の瓦礫が動きを阻む。

 彼女が機体に乗り込むよりも、ジンに撃たれる方が先だろう。

 だったら──。

 

「何をする気だ!?」

 

 少女の制止も構わず、フレイはストライクの元へ一気に駆け出した。

 コクピットハッチを開き、中へと一気に滑り込む。

 操縦席には誰かの温もりが残っており、コンソールも待機状態で稼働中だ。

 起動シーケンスが展開される中、金髪の少女は叫んだ。

 

「やめろ! それはお前の機体じゃ──」

 

 ハッチが完全に閉じ、少女の声は何も聞こえなくなる。

 

「……これは……?」

 

 全天周モニターが作動し、コクピットの中が柔らかな光で満たされる。

 パワーエクステンダーから莫大な電力供給を受けた灰色の装甲が、真紅の鮮やかな色に染まる。

 ラウのストライクとは、明らかに別の機体だ。

 未知の状況に鼓動が速まるが、それは恐怖ではなかった。

 

 ──偽りだった世界が、自分に応えようとする感覚。

 

 頭上でジンがセンサーライトを照射し、瓦礫越しに銃口を向ける。

 その瞬間、フレイは機体を跳躍させた。

 メインスラスターが咆哮し、瓦礫を跳ね飛ばして宙を舞う。

 真紅の機体が天井の崩落孔を突き破り、黒煙立ち込める夜の空に躍り出た。

 その獣のような動きに、驚愕したジンは動きを止める。

 猛烈な銃火が降り注ぐ中、フレイは直感的に身体ごと機体を旋回させると、背部に装備されていたビームライフルを抜いた。

 発射。

 その正確無比な一射目が、苛立ち混じりにミサイルを発射しようとしていたジンの頭部を撃ち抜いた。

 強烈な火花が散り、装甲を貫いた光の残滓が虚空に消える。

 

「なんだ貴様はっ!?」

 

 突如僚機を失ったジンが、ストライクに機関砲を浴びせ掛けた。

 真紅の装甲に強烈な実体弾が襲い掛かるが、パワー消費と引き換えに物理的な衝撃を無効化する相転移装甲が、全てのダメージを無効化する。

 しかし1発の弾丸がビームライフルの砲身に命中し、火花を撒き散らしながら手首から滑り落ちる。

 全身の感覚が麻痺するような衝撃。

 しかし身を凍らせる恐怖よりも先に、燃えるような感情がフレイを満たした。

 

「武器は──!」

 

 どうやらビームサーベルは装備していないらしい。

 フレイは腰部両脇のアーマーホルダーに内蔵された戦闘ナイフを抜刀した。

 内蔵された超振動モーターで高周波振動した白刃を構え、 全開にしたスラスターで大地を滑るように駆ける。

 砲火が視界を遮る中、フレイは標的との距離を一気に詰めた。

 重斬刀を構え、斜めに斬り込んでくるジンの突撃を受け流すように回避すると、その反動を利用して真横に跳びながら旋回する。

 交錯した刹那、瓦礫を蹴って懐に飛び込む。

 

「!」

 

 クラン・バトルで頭部破壊が勝利条件として定められている最大の理由は、その損失が事実上の無力化を意味するからだ。

 まして実戦経験に欠けるクラン・バトラーなら、頭部を狙う可能性は高いだろう。

 

「何っ!?」

 

 そう考え、咄嗟に掲げたジンの右腕が両断される。

 相転移装甲を除く、あらゆる物質を切断する対装甲用コンバットナイフ──既存のモビルスーツを圧倒する為に造られた実刃兵器の、まさに本領発揮だ。

 

「──ッ!」

 

 残こしていた右手の刃が煌めき、首部を真一文字に断ち切った。

 特徴的なモノアイが点滅信号とともに砕け、制御を失った機体は膝を付いた。 

 その衝撃が瓦礫を震わせた後、不意に静寂が訪れる。

 呼吸の代わりに、鼓動だけが聞こえてきた。

 偽りに満ちた世界が、どこかに消え去ったような気がした。

 

 

 

 ヘリオポリスには、いつも通りの朝が訪れていた。

 人工太陽灯が街を照らし始めると、普段と何も変わらない日常が動き出す。

 それが当然だと言わんばかりに。

 フレイもまた、そんな当たり前の中にいた。

 慣れた手付きで朝食を取り、制服の襟元を整え、通い慣れた道を歩く。

 まるで悪い夢のようだった。

 燃え上がる街。破壊されるコロニー。

 夢にしてはあまりにも具体的で、生々し過ぎる記憶だったが。

 

 教室の扉を開けると、クラスメートたちは昨夜難民街で起こった〈リアル・ショー〉に夢中のようだった。

 

「ついに軍警もクラン・バトル参戦ってこと?」

「そんなワケないでしょ。でもやっぱ生きてたんじゃん、ラウ様」

 

 フレイは無言で席に着き、視線を落とす。

 興味がないかのように振る舞うが、彼らの一言一言が気になって仕方ない。

 

 ──〈赤の亡霊〉。

 

 誰が言い出したのか、無責任な称号だけが独り歩きしていた。

 

 放課後になると、フレイはすぐに席を立った。

 全てが幻だったのかもしれない。

 だが、あの引き金の感触。

 そして世界が自分を肯定するような全能感は、掌に残っている。

 フレイの足は、自宅と逆方向に進んでいた。

 目的地は──自分が本当にいなければならない場所は、既に決まっていた。

 




ついに主役機登場です。

これがヤキン・ドゥーエで人類滅亡の危機を救ったストライクの力かよ(違う
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。