シードアクスーーストライクを奪取してみた。   作:皐月莢

3 / 13
第3話 鷹

 強襲機動特装艦アークエンジェル改め、惑星強襲揚陸艦ミネルバのCICにて。

 

「──さっきの映像見ました? ザラ隊長」

 

 短めの赤髪に、切れ長の蒼い眼。

 絹を思わせる柔らかな白肌に、月のように華やかな美貌の少女。

 エリートを示す赤い軍服の襟元を指先で弄びながら、ルナマリア・ホークは普段と変わらない様子で艦長席に腰掛けている指揮官に問いかける。

 

「その割には、興味なさそうですけど」

 

 英雄ラウ・ル・クルーゼ、ついに復活か。

 ヘリオポリス中で密かに話題になっている、ストライクとジンの交戦映像。

 ヤキン・ドゥーエの功績で特務隊に抜擢された男の意外な様子に、ルナマリアは戸惑いを隠せない。

 アスラン・ザラは端末から視線を上げないまま、端的に答えた。

 

「〈灰色の悪魔〉が、あんな連中相手に本気を出すわけがない」

 

 灰色の悪魔。

 それはラウが継戦能力を維持するため、Gシリーズ最大の特性であるフェイズシフト装甲の展開を自ら禁止し、通常装甲で戦っていたことから名付けられた異名だ。

 地球連合軍の〈エンデュミオンの鷹〉、あるいは〈アルテミスの守護神〉といった一部の強敵を除けば、どんな状況だろうと解禁することはなかった。

 たかがジンに──それも軍警相手にその禁を破ることは、どれだけブランクがあっても有り得ないだろう。

 つまりアスランにとって、ストライクのパイロットはラウを騙る偽者というわけだ。

 

「流石は元マヴですね」

 

 ルナマリアは興味深そうに呟く。

 ストライクを鹵獲したラウが編み出した攻撃戦術──〈M.A.V.〉。

 ニュートロンジャマー展開時の有視界戦闘において、常に2機1組のバディを組んで相互支援する。

 数的優位に立つことでザフト軍に対抗しようとする地球連合軍に対して、最小単位での優位性を維持する戦術だ。

 それはコーディネイターの能力と技量に依存し、未発達だったモビルスーツの基本戦術として、ザフト軍はもちろん世界中で浸透した。

 その頭文字から取られたマヴは、そんな互いの背中を預け合う相棒を示す言葉として一般化している。

 

「私たちの任務って〈灰色の悪魔〉の捜索ですよね? だったらここは現マヴの私に任せてください」

 

 左右に束ねられた赤髪に、アイシャドーで強調された碧眼。

 磨き上げられた宝石のような計算された微笑み。

 ルナマリアは甘い声で口を挟んできた少女──アグネス・ギーベンラートに心の中で舌打ちした。

 

「アンタがいつ隊長のマヴになったのよ?」

 

 呆れ気味にそう返すと、アグネスはわざとらしく肩を竦める。

 

「さぁね。そういうルナマリアこそ、いつも隊長に構って欲しそうにしてるじゃない?」

 

 反論しようとしたルナマリアよりも早く、整った容貌をした金髪の青年が冷ややかに遮った。

 

「喧嘩は後にしろ。重要なのは、目的の機体を確認出来たという事実だ」

 

 レイ・ザ・バレル。

 ルナマリアやアグネスの同期で、士官アカデミーを首席で卒業した天才だ。

 停戦協定における弱腰外交を批判され、アイリーン・カナーバ議長は退任が確定した。

 次期議長を決定する選挙戦を控えて、新ザラ派の重鎮エザリア・ジュール議員と、クライン派の急先鋒ギルバート・デュランダル議員との間で熾烈な駆け引きが繰り広げられている。

 今回のラウ、およびストライクの捜索任務がザラ隊に下ったのも、彼とその愛機を自陣営に確保したいという政治的意味合いがあるのだろう。

 いくら目撃情報を得たとはいえ、先日完成した4機の〈セカンドステージシリーズ〉を投入するなど、財政問題を抱えるプラントとしては本来ありえない行為なのだから。

 

「ヘリオポリス宙域の管制権は我々にあります。我々が介入するには、絶好の機会だと思いますが?」

 

 元々オーブ連合首長国の資源コロニーであり、オーブ崩壊後、プラントの占領下だったヘリオポリスは停戦協定を経て、基本的自治権が認められている。

 しかしプラントは安全保障上の問題、という名目でヘリオポリス内部の制空権を掌握している他、ストライクやラウの捜索についてもプラント側に優先権を認めさせている。

 このまま強行突入したとしても、法的には無問題だと処理されるだろう。

 

「……わかっている」

 

 アスランは艦長席の背にもたれかかると、感情を押し殺したような表情でスクリーンを見据えた。

 

「たとえ偽物だろうと、捕獲する以外の選択肢はない」

 

 ルナマリアはその言葉を聞きながら、なおも熱い視線を隠さないアグネスに溜め息を漏らす。

 アスラン・ザラ。

 父親──パトリック・ザラは旧ザラ派の中心人物で、亡くなった婚約者はパトリックと対立していたシーゲル・クラインの一人娘。

 戦争末期、ナチュラル根絶を掲げる父親とアスランは不仲だったと囁かれているが、本当のところは誰にも分からない。

 陣営を問わずアスランを信奉する者は多数存在するし、クライン派はアスランの動向を警戒しているらしい。

 ユニウスセブンで亡くなった婚約者──ラクス・クラインとは相思相愛だったとも、捜索を辞退しようとするほど冷めた関係だったとも噂されている。

 確実に言えるのは、ラウとともに人類滅亡の危機を阻止するためコロニー・メンデルに強襲し、彼だけが帰ってきたということだけだ。

 プラントの中でもトップ・オブ・エリートである彼を恋人候補として狙わない理由はないが、それでも自分はアグネスほど大胆にはなれない。

 

「進路そのまま。予定通りミネルバをヘリオポリスに着艦させる」

 

 ルナマリアはその言葉を聞きながら、自席の端末に表示された映像を拡大する。

 昨夜、炎に包まれた難民街で姿を表した赤いストライク。

 レイの言葉通り、あの機体が本物か偽物かなど本当はどうでもいい。重要なのは、それを自分たちの手で捕獲することだ。

 だが、上層部はどう考えているのだろうか。

 ストライクを、ラウを見つけて、再び戦争を始めようとしているのだろうか──。

 

 

 

 

 

 

 部屋の内側からは、食欲を誘う芳ばしい匂いが漏れ出していた。

 フレイが躊躇いながら扉を押し開けると、室内は以前と比べて明るかった。

 あちこち欠けていた照明は全て灯っており、昔どこかの料理店で嗅いだ香辛料のような香りが満ちている。

 

「あら、フレイさん」

「……あんた、なんでいるのよ?」

 

 昨日は誰も使った形跡のなかったキッチンの奥で、エプロン姿のミーアが振り返った。

 記憶の中の煤けた制服姿ではなく、どこかで調達したらしい白いブラウスに、美しい桃色の髪が映えている。

 フレイが唖然としながら奥に入ると、テーブルの上に置かれた皿が目に入った。

 焦げ目の付いたオムレツに、カラリと揚げられたフライ。焼きたてのパン。

 どの料理も、文句の付けようがない出来映えだ。

 

「へぇ。どっかの誰かさんとは大違いだ」

 

 青年たちは半信半疑でスプーンを口に運び、それぞれ反応を示す。

 

「艦長さんは料理が苦手って言うか……なんていうかさぁ」

「アレはそーいう才能だろ」

 

 想定外の状況に、脳が理解を拒んでいる気がした。

 

「フレイさんも、良かったらどうぞ」

 

 戸惑いながら示された場所に腰を下ろすと、ミーアがにこやかに皿を差し出してきた。

 

「……ありがとう」

 

 口に付けたスープは、ほんのり甘い味がした。

 

 

 

「あの後帰ったら、家が無くなってまして。途方に暮れていたら、上の部屋を貸して頂けることになったんです」

「……そう。それは良かったわね」

 

 ミーアの住んでいた部屋は昨日の一件で破壊され、それを見かねた艦長と呼ばれている女性──ナタル・バジルールが部屋を貸してくれたらしい。

 どうやら余計な面倒事を避けるため、ナタルはこの建物全体を購入しており、誰も使っていない部屋があったようだ。

 お湯が出るので快適だと笑うミーアの言葉に、フレイは思わず顔をしかめながら空いた皿を片付け始めた。

 するとその時だった。

 鋼鉄の扉がゆっくりと開き、外出していたナタルが戻ってきた。

 

「また君か。ここは子供の遊び場じゃないんだぞ」

 

 フレイを見ると、小さく首を振る。

 その険しい表情に、事務所に流れていた弛緩した空気が僅かに引き締まった。

 

「艦長? 何かあったのかよ」

 

 金髪の青年──オルガ・サブナックが振り返ると、ナタルは溜息混じりに告げた。

 

「次の対戦相手が見付かった。今晩開催するそうだ」

「今晩……?」

 

 フレイもそれほど詳しいわけではないが、クラン・バトルのマッチメイクは胴元を担う運営が行っている。

 つまり運営が試合の場所・日時・対戦カード・試合形式を決定し、開催するというわけだ。

 実態はともかく、クラン・バトルは表向き違法行為のため、ゲリラ的に開催されている。そのため、バトルに出場する機体・パイロットの変更に制限は設けられていない。

 しかし何らかの理由で出場辞退を余儀なくされた場合は、クランに多額の違約金が課せられる。

 どんな状況で行われるか直前まで分からない以上、潤沢な資金・人材を抱えている上位クランは有利で、ドミニオンのような弱小クランは圧倒的に不利なシステムなのだ。

 

「コイツがぶっ潰したからアレしかねーじゃん。どーすんの?」

 

 緑髪の青年──シャニ・アンドラスが、気怠げな表情で視線を向ける。ドミニオンの保有しているモビルスーツは、フレイが軍警に破壊されたダガーの代わりに渡したストライクだけだ。

 

「それは問題ない。今回はシングルマッチだ」

 

 シングルマッチ。

 現在クラン・バトルでは、2対2のタッグマッチが流行している。

 しかしパイロット──バトラーの純粋な操縦技術が求められる1対1の個人戦も、それに次いで人気を博しているのだ。

 

「だったら余裕ですねぇ」

 

 赤髪の青年──クロト・ブエルは好戦的な笑みを浮かべる。

 どんな敵だろうと、一騎討ちなら負けるわけがないと言いたげだ。

 

「あぁ。私もさっきまでそう思っていた」

 

 ナタルの奥歯に物が挟まったような言い回しに、怪訝に思ったフレイが訊き返そうとした瞬間だった。

 不意に扉がノックされる。

 返事をする前に、来訪者は自ら扉を開けて踏み入ってきた。

 飄々とした雰囲気だが、鋭い眼差しをした男は猛禽類のような威圧感を漂わせている。

 

「ここが事務所かい? 活気があっていいねぇ」

「……誰?」

 

 フレイは突然現れた金髪の男を睨み付けると、硬い声で応じた。

 

「ははっ。名乗るほどの人間じゃないよ」

 

 気さくに笑う男に、ナタルは眉間に皺を寄せる。

 

「ご冗談を。モビルスーツ乗りで〈鷹〉を知らない者はいないでしょう」

「美人さんに覚えられてるとは光栄だ。だけど俺はモビルアーマー乗りだからね」

 

 気さくに応答する男に、フレイは思わず言葉を詰まらせる。

 連合・プラント大戦で活躍したエースパイロット、ムウ・ラ・フラガ。

 本来モビルスーツに対して不利なモビルアーマーに乗り、変幻自在の高機動戦闘で100機以上を撃墜したことから〈鷹〉の異名で恐れられ、ラウ・ル・クルーゼとも幾度も死闘を繰り広げた英雄だ。

 オルガは思わぬ訪問者に舌打ちする。

 

「俺らとなんか関係あんのかよ?」

 

 ムウはそれを気にも留めず、フレイを真っ直ぐに見つめた。

 

「用があるのは君だよ。──お嬢ちゃん」




クランバトル一戦目はムウさんです。

スカイグラスパーはともかくストライクには乗れないので、ほぼメビウス・ゼロで無双してたと思われます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。