シードアクスーーストライクを奪取してみた。   作:皐月莢

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第9話 デストロイ

「……ここのセキュリティって、マジでどうなってんだよ」

 

 オルガ・サブナックは不敵な笑みを浮かべながら、その黒い巨体を見上げていた。

 天井の高い格納庫内で、薄暗い照明が装甲を無機質に光らせている。

 重々しい稼働音を響かせるリフトが、この超大型の“空気清浄機”として搬入された兵器を完全覚醒に移行させる最終準備を進めていた。

 

「機体の制御装置も解除だ」

 

 オルガが無造作にコンソールを叩くと、ディスプレイに警告文が表示される。

 クラン・バトルの際に課せられている模擬戦用の安全装置が、容赦なく解除された。

 事故を防止するため抑制されていた威力から、軍事兵器としての本来の威力を取り戻していく。

 

「で、何をするんだっけ?」

 

 格納庫の奥から響いた声は、そんな異常事態など気にもしない間延びした声だった。

 

「目標は現プラント国防委員長、ハリ・ジャガンナートの暗殺。邪魔する連中は全員片付けて構わねーが、コロニーは壊すなよ?」

 

 オルガは状況を理解していない同僚に淡々と説明するが、その声には明らかな殺気が宿っていた。

 世界各地に未だ深い戦争の傷跡を抱える地球連合は、プラントとの停戦協定に基づいて宇宙の全拠点を放棄している。

 今も軍事力を維持しており、絶対的な制宙権を掌握しているザフトには到底太刀打ち出来ない状況だ。

 ザフトがその気になれば降下作戦による重要拠点の制圧や、小惑星を用いた無差別攻撃など、地球連合軍を蹂躙するのは容易だろう。

 プラントでは今も停戦協定を結んだ穏健派に対する反発は根強く、新議長の方針次第で再び宇宙戦争が始まるかもしれないと噂されている。

 それを抑止するために、ザラ派の中でも最も過激派であり、今も地球侵攻の野心を隠さないジャガンナートを排除する。

 今回極秘裏にヘリオポリスを訪問しているのも、次の大戦に備えて巨額の出資を引き出すためらしい。

 この均衡状態を保っている冷戦状態を維持するには、ジャガンナートを始末するのが最善手だ。

 幸いプラントは世界各地の拠点維持費に悩まされており、致命的な出生率低下問題を抱えている。

 時間さえ稼げば、プラントは必ず自滅していくのだ。

 

「敵のクランと接触したタイミングに合わせて、コロニー内部に突入する。あとは各自で判断しろ」

 

 デザートタイガーと交戦し、周囲の視線を集めた状況を利用してジャガンナートが会談を行っているビルに突撃する。

 ニュートロンジャマーが展開され、レーダーが無力化されている5分間が作戦の成否を決める。

 

「“虎”はでてこねーみたいだし、1分もあれば十分だろ」

 

 その“空気清浄機”の操縦手に抜擢されたオルガが自信たっぷりに言い放つと、少し離れた場所からクロトの声が届いた。

 

「で、あの2人はどーすんの?」

 

 シャニは気怠げに視線を向けると、面倒そうに吐き捨てた。

 

「メンドくせーから消しとく?」

 

 その無感情な声は冗談でも、ましてや脅しでもない。

 少なくともオルガの認識しているシャニ・アンドラスという人間は、顔見知りだからと排除を躊躇うような人間ではなかった。

 自分にとって邪魔だと感じれば、味方だろうと平気な顔で撃てるタイプの人間だ。

 スクリーンに表示されるカウントダウンが、無慈悲なまでに淡々と数字を刻み続けていた。

 

 

 

 

 

 舞い上がった砂埃が、機体を撫でるように通り抜けていく。

 ここはヘリオポリス内部に唯一存在する非居住区──元モルゲンレーテ支社跡地。

 この地はクルーゼ隊の攻撃で破壊された後、新たに工業施設として再建が試みられていた。

 しかしオーブ連合首長国の崩壊に伴い、計画が頓挫したことで長らく放置されていた曰く付きの場所だ。

 放棄された鉄骨と機械の残骸が散乱するその光景は、まるで巨大な墓標のようだった。

 そんな不吉な場所も、演出次第で華やかなクラン・バトルの舞台になるらしい。

 スポットライトで照らされたそのフィールドは、まるで夜の祭典が行われているようだった。

 

『それじゃ、お手並み拝見ね』

 

 運営の合図とともに、スクリーンに映し出されていた〈デザートタイガー〉の機体が動き出す。

 砂塵を巻き上げ、前方から突進するのは橙色の陸専用量産機──バルトフェルドの恋人アイシャの駆る“バクゥ”だ。

 最大の特徴である4足歩行を活かし、重力下の険しい地形に高い適応力を発揮する、獣風の見た目と合わせて猟犬のようなモビルスーツだ。

 

『アイシャ! 油断するなよ』

 

 鋭い声とともに上空を舞うのは、オーブ軍の可変量産機──カガリの“ムラサメ”だ。

 前大戦で大西洋連邦軍を苦しめた“M1アストレイ”の後継機として開発された可変量産機で、空戦性能に特化したその機体はバクゥ唯一の弱点である空を支配している。

 どうやら彼女は“ストライク”といい、バルトフェルドとの繋がりといい、妙なコネクションを持っているらしい。

 フレイは敵機を視界の端に収めながら、追随するシャニの“フォビドゥンブルー”を一瞥する。

 本来は水中戦用モビルスーツだが、耐圧用装甲に搭載された力場を応用することで、敵のビーム兵器を拡散・回避出来る特殊強襲機だ。

 いつも無口で何を考えているか分からないシャニとのM.A.V.は不安だが、今はそんなことを気にしていられない。

 もしも負ければストライクを奪われ、元の無力な自分に戻ってしまうのだから。

 

「アンタ、やる気あんの!?」

「あってもなくても変わんねーよ」

 

 その投げやりな返答に、何かが引っ掛かった。

 まるで何かを隠しているかのような態度だが、余計なことを考えている余裕はない。

 アイシャのバクゥは機敏に跳躍すると、背部ターレットに搭載された無数のミサイルを発射した。

 機体を強引に切り返して回避すると、バクゥの進行方向を狙ってビームを発射する。

 

「!?」

 

 バクゥは大きく跳躍すると、建造物を蹴って加速した。

 背部のウィングスラスターと脚部の無限軌道による高速移動を融合させた、まさに機動力を活かした三次元的な動きだ。

 一気に間合いを詰めてきたバクゥにビームサーベルで斬り付けられ、強烈な衝撃が装甲の一部を切り裂いた。

 

 ──いったい何をしてるの!? 

 

 そう叫びかけた瞬間、視界の端で閃光が走った。

 強烈なフォノンメーザーが、ストライクに追撃しようとしたバクゥの動きを一撃で封じた。

 

「やるじゃない」

 

 狙いの定まらない脚部どころか、着地した側の足先を正確に狙った精密射撃。

 元赤服のヒルダと対等に戦っていたクロトと同様に、今まで無名だったのが不思議なほどの操縦技術を持つパイロットだ。

 シャニは無言のまま、上空のムラサメへと突撃した。

 バックパックに搭載された可動装甲を展開し、敵機のビームを的確に捻じ曲げながら距離を詰める。

 

「来るなよお前ッ!?」

 

 コロニー内部の戦闘だからか、ニュートロンジャマーは普段より抑えた出力で展開されているらしい。

 焦ったカガリは後退しながら牽制射撃を行うが、シャニの追撃は執拗だった。

 

 ──今だ。

 

 フレイは瞬時に反応すると、前方のバクゥを放置して急上昇した。

 フォビドゥンの動きを警戒するムラサメの側面に回り込み、ビームライフルを撃とうとする。

 

「舐めるな!」

 

 カガリは素早く迎撃態勢を取ると、容赦ないビーム攻撃を浴びせ掛けてくる。

 総合的な性能はともかく、純粋な機動力・運動性能に関してはムラサメが一歩リードしているらしい。

 だが、このまま一気に追い詰めれば──。

 

「……時間か」

 

 不明瞭な呟きが聞こえた瞬間だった。

 フォビドゥンは唐突に動きを止めると、まるでストライクを置き去りにするように反転して戦場を離脱した。

 フレイは突然の行動に、動揺を隠せない。

 

「ちょっと? どこ行くのよ!?」

 

 シャニからの通信は完全に途絶えたままだ。

 機体トラブルが発生したのか、あるいは本人に異常事態が起こったのか。

 いずれにせよクラン・バトルを放棄し、フレイとストライクを置き去りにする理由にはならないだろう。

 

「おい! いったい何のつもりだ!?」

「私にも分かんないわよ! 何が起こって──」

 

 カガリからの通信にフレイが叫び返そうとした瞬間、コロニー全体が大きく震えた。

 

「──ッ!?」

 

 爆炎とともに内壁を破壊して現れたのは、堂々たる威容のモビルスーツだった。

 その姿を表現するなら、全身に砲門を備えた漆黒の巨人だ。

 突如現れた乱入者に、駆け付けたザフト軍の迎撃機が銃撃を浴びせ掛ける。

 しかし巨大な腕部から展開した陽電子リフレクターと、漆黒のTPS装甲が全てを無慈悲に弾き返す。

 やがて背部フライトユニットに搭載された要塞砲のような兵器と、その円周上に内蔵された無数の砲門が左右に展開される。

 その巨大な砲門群を見たフレイの身体が、最悪級の予感で包まれた。

 

「危な──」

 

 緊急通信を発しようとした瞬間、隕石が落ちてきたような凄まじい閃光が起こる。

 たった1度の全砲門発射(フルバースト)が、周囲に展開していたモビルスーツを一息に呑み込んだ。

 通常兵器では通用しないモビルスーツが、紙屑のように吹き飛ばされて爆発する。

 地球連合軍の誇る大型可変機──“デストロイ”。

 ユーラシア連邦が開発した新型機で、現在地球連合軍の主力である大型モビルアーマーにモビルスーツ技術を融合させた戦略機動兵器だ。

 ストライクの3倍を超える体躯に、戦艦級の重火力・重装甲。そしてザフト軍の攻撃を防ぎ切る陽電子リフレクター。

 それらを搭載することでザフト製モビルスーツを凌駕する性能を獲得したこのモンスター・マシンは、まさに地球連合軍の切り札と言えるだろう。

 

 この化け物みたいな敵を察知したから──。

 

 そんなフレイの淡い期待は、一瞬にして打ち砕かれる。

 奇跡的に攻撃を掻い潜ったジンが虫を払うように破砕球で叩き潰され、足下に取り付こうとしたバクゥの胴体が大鎌で両断された。

 間違いない。

 あの黒い巨人の周りを飛び回っている2機のパイロットは、クロト・ブエルとシャニ・アンドラスだ。

 

「──何をやってんのよ、アンタたちは!!」

 

 フレイは突如現れたテロリストの正体が〈ドミニオン〉に所属するパイロットだと理解して叫んだ。

 オルガは一般兵では制御出来ない漆黒の巨獣を自由自在に操り、使い魔たちとともに悠然と殺戮行為を続けている。

 

「しっかりしろ! もう試合どころじゃないぞ!」

 

 カガリからの緊急通信も、まるで耳に入らない。

 何が起こっているのか全く分からないが、何かしないといけないことだけは分かる。

 

「止めなさいって言ってるでしょ!」

 

 ナチュラルだろうとコーディネイターだろうと、自分の前で滅茶苦茶するような連中はこの手で叩き潰してやる。

 

「止めろ! ソイツは普通じゃない!」

 

 フレイは制止の声を無視し、ストライクを急加速させる。

 砲門のいくつかがこちらに向けられるが、即座に反応して敵の右側に向かって飛んだ。

 狙いは陽電子リフレクターを展開しながら、5指の先端から強烈なビームを放ち続けている巨大な腕部だ。

 ビームが通用しないなら、直接斬り掛かってやる。

 ストライクの強烈な光刃が、ドラグーンシステムによる自律飛行を開始したデストロイの黒い“嵐の拳骨(シュトゥルムファウスト)”と真正面から激突する。

 まるで跳ね飛ばされたような衝撃。

 フレイの視界が赤く染まり、上下の区別も付かないまま吹き飛ばされて廃墟に叩き付けられる。

 PS装甲に守られていなければ、即死だったかもしれない。

 不用意に接近戦を仕掛けた判断を嘲笑われているような状況に激怒するが、視界が元に戻っても手足が上手く動かない。

 これ以上相手をしてやる価値もないとばかりに、デストロイは居住区の前に設けられた最終防衛線を狙って無差別砲撃を開始する。

 

「こ、の……」

 

 フレイは込み上げてきた血を吐き出しながら、機体を起き上がらせようとした。

 そこへ、3機のモビルスーツが目の前に現れた。

 

「──ルナマリアとアグネスは護衛の2機を。奥のヤツは俺が始末する」

 

 中央で冷静な声を響かせているのは、真紅の可変機“セイバー”を駆るアスラン・ザラだ。

 

「せいぜい私の足を引っ張らないでね、ルナマリア」

「誰に言ってんのよ、アグネス!」

 

 右側では水色の水陸両用可変機“アビス”が実体槍を構え、その反対側では赤色の換装型可変機“インパルス”が対艦刀を取り出した。

 重要拠点の守備を命じられている宇宙戦型可変機“カオス”と、バルトフェルドが保有する陸戦型可変機“ガイア”を加え、前大戦で未完成に終わった核動力機(ファーストステージシリーズ)の基本性能を再現した最新鋭機たちだ。

 

「……邪魔、しないで」

 

 フレイは必死に立ち上がろうとするが、駆動系統に深刻なダメージを受けたストライクは動くことすらままならない。

 

「一般人は黙っていろ!」

 

 セイバーの強烈な蹴りがストライクの胴体に直撃すると、フレイの意識は呆気なく闇に落ちていった。




セカンドステージシリーズのパイロットたち

①セイバー:アスラン
原作準拠で。フリーダムもいないし最強でしょ。

②インパルス:ルナマリア
セイバーと迷いましたが、原作準拠で。本編通りの展開ならザムザザー戦が鬼門。

③カオス:レイ
ドラグーン適性の関係上、妥当なところでしょう。カラーリングも若干それっぽい。

④アビス:アグネス
消去法ですが、幸いカラーリングは合ってます。

⑤ガイア:バルトフェルド
地味に原作準拠。劇場版でも出てきて欲しかった。
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