たかが七年   作:モラハラ

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組み分けと不気味な声

 

 

 

揺れが止まった。ずっと一本の線路を走るこの列車に途中停止という概念はない。他に走る列車もなければ信号もないからだ。

列車が止まったということは、行き先に着いたということである。

ウィルとトムは揃って窓の外を見た。だが周囲は暗く、何も見えなかった。

ラジオのような音声アナウンスがどこからか流れた。

 

『ホグワーツ魔法魔術学校に到着いたしました』

 

「着いたね」

「ン」

 

ウィルは自分が案外、疲れていないことに気がついた。これは驚くべきことだった。

半日のうち睡眠と読書を差し引いても、七時間ほど、彼と話しっぱなしだったのに。普通なら疲労を自覚して当然の時間である。

珍しいなと思ったが、理由は分かっていた。

このトム・リドルという少年が、本当に頭のいい少年であったからだ。これほど長く話したのに、会話に全くストレスが無かった。

これはウィルの人生であまりないことだった。9歳の時、たまたま話した社会の教師と少し話したのが一番ストレスなく会話ができた経験だったのだが、それが塗り替えられた。それはつまり、この少年がよっぽど頭がいいか、同じタイプの脳を持っているということである。

この経験によりウィルはトムと話すことに以降、かなり前向きになる。

 

「君ってすごく頭がいい人なんだね」

「よして」

「なぜ?」

「詳細を聞いてみたいのに時間がないから」

「ああ…ローブに着替えて降りようか」

 

二人はローブに着替えた。ウィルは元々、ジャケットの下はシャツを着ていたので黒いローブを上から羽織るだけで着替えは終わった。

重たいハードケースを持って二人は外に出る。ウィルは加えて、空の鳥籠も持っていた。

 

降りた先は田舎の駅みたいな場所だった。殺風景で、ほとんど建物らしい建物もない。続々と列車から降りてくる人間は皆同じ黒いローブ来ていて、カルト宗教の集団みたいだな、とウィルは思った。

どっちに行けばいいか分からないが、取り敢えず年長のものについて行けば間違いないか、と思って背の高い男についていこうとすると。

 

「あ、違う違う。一年生はあっち」

 

背の高い青年は向かう方と反対を指さした。

 

「あっちって…」

 

しかしその先というのは真っ暗闇だった。

思わず、背の高い男を向き直ると彼はもう先に行ってしまっていた。

だが、突然何もないと思っていた場所に明かりが灯った。

 

「は…」

 

ウィルは驚きに目を見開き、明かりのついたあたりを見渡したが、誰もいない。しかし一年生の中にいる魔法に明るい者や、親兄弟がホグワーツに通っていた者は聞いていたのか明かりのついた道へズンズン進んでいく。

 

「……」

「何してるんだ?早く行けよ、お嬢ちゃん」

 

上から低い声で話しかけられた。

ビクッとして上を見ると、大きな毛の長い灰色の猫が屋根の上にいた。

 

「……は?」

「何見てんだよ。あ、いけね。ニャーオ」

「……」

「俺は猫だよ、早く行けよ。遅れるぞ、嬢ちゃん。ニャーオ」

 

化け猫だ。

ウィルはすぐに分かった。

しかし猫は前足を舐めて毛繕いしている。これ以上は話しそうもない。

 

「ウィル」

「…トム」

「なにしてるの?行こう」

「…うん」

「あ、猫だ。猫見てたの?」

「そう」

「猫好きなの?」

「好きだったけど、たった今微妙になった」

「?そっか」

 

もう残っている者の方が少数だった。二人は明かりのついた道を少し急足で歩き始めた。

近くに寄ったことでその明かりが何なのか分かった。

木に直接灯油ランプが括り付けられているのだ。それが一本の道を示すように連なっている。

 

「きれいだね」

「うん…」

「浮かないね。どうした」

「怖いなぁ、と思ってさ」

「へ?もしかして、怖いところ嫌い?」

「いや、暗いのは別に。ただ、この数の灯油ランプだからさ。何かの拍子で火がついたら簡単に火事になるなと思って」

「…」

「それが怖いだけだよ」

「嫌なことを言う…」

 

その時だった。空からホー、とフクロウの鳴き声が聞こえた。

 

「あ、フクロウだ」

「…あ」

「どうした?」

「ウチのだ、アイツ」

「え?」

 

ウィルは口元に指を当てると指笛を吹いた。猟師が猟犬を呼ぶようなピーッ!という鋭い音があたりに響いた。

トムはうわっ!と、大きな声をあげて体をのけぞらせた。

上から突然、バサバサとフクロウが急降下して来たのだ。非常に大きなフクロウだった。翼を広げると人ほどの大きさがある。

ウィルは腕を上げてフクロウを受け止めた。フクロウは器用に腕に留まった。

 

「び、びっくりしたぁ…」

「遅いぞお前、どこ行ってたんだ」

 

それはワシミミズクだった。世界最大級のフクロウ科である。ミミズクは特に悪びれる様子もなく「ホー」と低い声で鳴いた。

 

「仕方ないな…」

 

ウィルは特にミミズクを撫でたりすることはなく、持っていた大きな鳥籠にしまった。ワシミミズクは抵抗することなく、おとなしく鳥籠に入った。

 

「君、フクロウ持ってたんだね」

「うん。飼っていいって書いてあったから買った。売ってたし」

「そう…通りで何も入ってない鳥籠をずっと持ってると思ったよ」

「なんか出たいってうるさかったから出したんだよね」

「よく帰って来たなそれは」

「ね」

 

ウィルはフクロウにあまり関心がないようだった。しかし「重いなお前」と言いつつも、鳥籠があまり揺れないように運んでいた。その辺りに彼の人間性がある気がした。

実際、ウィルがこのフクロウを選んだのに大した理由はなかった。彼は単純に大きい生き物は家で見慣れているので、生き物を選ぶときは、なるべく大きくて頑丈そうなものを選ぶというのが当たり前の考えとしてあるのだ。

つまり、彼は大きい生き物を家で買っているようないいところの出だった。

名前や話し方から何となくそうだろうな、とトムは思っていたが案の定当たりだった。

 

「あークッソ重い。お前、後で回収するからあとで戻って来てくんない?」

「持とうか?」

「いや、しばらくどっか行かせる」

 

そう言ってウィルは鳥籠の入り口を開けた。ウィルは短く「出ろ」と言ったが、鳥は無視している。

ウィルはチッと舌打ちして鍵を閉めた。

 

「犬や馬の方がよく言うことを聞くな」

「はは…」

「猫かカエルを持って来た方が良かったか?いや、もっと言うこと聞かないか…」

 

別にウィルの対応は悪いわけではない。むしろこの時代の人間にしては動物に親切と言える。といのも、動物愛護が浸透するのはもっとずっと先の話である。

時は1930代。動物は主に労働力の時代であり、使えなくなれば殺すか売るのが当たり前の時代であった。

ウィルはこのフクロウを手紙や荷物を運ぶためのものと思っているため、別に自分のペットとは思っていない。

 

「よせよ。かわいい子じゃないか」

 

トムはそう言った。

ウィルは諦めの混じった溜め息を吐いた。

 

「名前は?」

「ニケ」

「オス?メス?」

「メス。オスは気性が荒いかなと思って」

「やさしくしてやれよ。動物はかわいいぞ」

「昔からその風潮ってあるよね。ラップドッグだっけ。なんで犬を愛玩飼育なんてするんだか。猟にでも使った方がどう考えても有意義じゃないか」

「まあまあ。でも君はきっとそのフクロウを好きになるよ」

「なんでそう思う」

「君がそのフクロウを大事にしてるから」

「?そりゃ大事にするだろ。壊れる前に物を壊すなんてナンセンスだ」

 

不思議そうに言ったウィルにトムは微笑んだ。

 

「だからだよ」

「…分からない」

「大事な物があるわけじゃない。大事にするから、大事な物になるし、愛着が湧くんだ」

「そういうもん?」

「そういうものだよ」

 

二人がそんなことを話していると、開けた場所に出た。そこには先に行っていた人たちが集まっていた。

 

「どうしたんだろう」

「…水だ」

「え?」

「水の匂いがする」

 

トムは目を凝らして暗闇を見た。

 

「…湖か」

 

なぜそこで人が溜まっているのか二人は理解した。前方に大きな湖があるから誰もその先へ進めないのである。

どうするべきか、と思案していると湖の奥から点々と小さな光が見えた。光は段々と強く、多くなっていき、やがてそれが何艘もの小舟だと分かる。

しかし、その小舟には誰も乗っていなかった。一艘を除いて。

二人が、これが魔法か、と感嘆していると先頭の船が岸についた。

船には背の高い男が乗っていた。その男は不自然なほど細く爪の長い指をしていて、ハットで顔は見えない。男のあまりの不気味さに、一年生たちは皆固まってしまった。

男はまだひよっこですらないクリクリのこまい一年たちを一瞥すると、ガサガサの声で無愛想に一言告げた。

 

「乗って」

 

それだけ言って岸で停止した船の上でパイプを吸い始めたのだ。

この壮年の男の名前は誰も知らない。五十年前のホグワーツで一応森番という名目で城にいる男だった。愛想は全くなく、ただ気がつくといて気ままにパイプを吸ってはそのうちどこかに去って行く。

どこで何をしているのか分からない男であり、別に森番の仕事をしているわけではないため、この当時生徒たちは森に入りたい放題だった。

しかし生徒たちは成長するにつれ、この男にどこからか愛嬌を感じ始めるらしく、親しみと信頼を込めてハーミィとかカロンとか呼ばれている男である。

別に怖い人ではないのだが、パッと見の外見が子供には恐ろし過ぎた。

一年生たちは完全に萎縮してしまい、この男を警戒して誰も船に乗ろうとしなかった。正しい恐怖である。この男の船が行き着く先は、きっと城ではなく地獄か冥界であろう、と確信するのだ。

 

「大丈夫だよ」

 

ハーミィは煙を吐きながら笑った。案外高い声であった。これでも精一杯優しく話しているつもりである。

 

「地獄の船はもっと最悪な乗り心地だから」

 

ガラガラと独特な笑い声でハーミィは言った。

別にこんな新米たちにキツく当たったりはしない。大体教師でもないんだし。なんの意味もないからである。

これはハーミィなりのジョークだった。しかし当然ながら、全くウケない。

なぜなら彼は服の上からでもガリガリだと分かるのに、背は本当に高くて、立つとカカシが立っているよう見えた。顔と手以外のどこも肌を露出していなくて、大きくて長い指の一本一本に、黒いタトゥーで『premature baby(未熟児)』とか『watch your back(後ろに注意しろ)』とか書かれていた。

小さな頭に肩幅より大きなハットを被っており表情は少しも見えない。ハットとパイプを持っ手の隙間からガサガサの低い声とケムリを吐くという、子供の見る悪夢に出て来そうな男なのだ。

ちなみにこんなに不気味な男だが、六年生にもなると精神が図太くて「ねぇハーミィ、俺二階にある肖像画の人のこと本気で好きになっちゃったんだけど、どしたらいい?」「若いねェ…知らん」など、本当にどうしようもない生徒の恋愛相談に乗ったりしている。

 

が、現段階では本当に怖い。当然である。

一年坊は怖くて仕方なかったが、ここでずっと待ちぼうけするわけにはいかなかったのでおずおずと先頭のものたちから船に乗り始める。

 

4人が乗った時点で船は勝手に動き出した。この船もまた途轍もなく古いようだった。魔法で沈むことは無いのだろうが。音もなく進む船の上で誰も話さない。葬式みたいに静まり返っていた。

真っ暗な湖は当然底は少しも見えない。その下には何かが動いているような気がしてならなかった。

トムはおかしそうに唇を歪めた。

 

「面白い…」

「え?何が?」

「全部がだよ。当たり前に魔法があって、全てが魔力で動いてる…いいね。魔法で全部が思い通りになるんだな、ここは」

 

彼は少しも怖がっていない子供の一人だった。それは直感的に、この船は沈まないな、と分かっていたからだ。それほど強力な魔法がかかっていることが肌で分かった。

ハーミィは確かに不気味だが、極端な話この人数の子供がいれば万が一、襲われたとしてもハーミィ一人で捕まえられるのはほんの二、三人程度である。

つまりトムには不安材料が一つもないので、従って緊張が微塵もない。彼はメリーゴーランドに乗せられた子供みたいに無邪気で楽しげだった。

ウィルは少し緊張していたが、しかしこのトムの機嫌に当てられて顔を緩ませた。

 

「ねぇ、僕たち、どっかに連れて行かれちゃうのかな」

 

内緒話をするみたいにトムはそっとウィルの耳元で言った。

彼にとって、この状況が楽しいから冗談を言ったのだ。

ウィルはこの冗談を面白いと思った。だからフッと笑った。

 

「かもね」

「困ったね、君泳げるかい?」

「無理無理。全然沈む」

「僕もだ。落ちたら終わるな、ここ水深何メートルかも分からないし」

「君、保険とか入ってる?」

「いいや?」

「俺もだよ」

 

二人は冗談を言って笑い合った。別に何もない、と確信しているからこそできるやり取りだった。

これはある程度の年齢になった子供達が、大雨を見た時、このまま世界が沈んだらどうする?と友達にふざけて聞いてみるのとまったく同じノリだった。

 

「ね、ねえ」

「ん?」

「え、なに?」

 

そうして和やかに笑っていると、ウィルとトムは知らない少女に声をかけられた。

二人は揃って振り返る。声の主は、髪を後ろで三つ編みにしている生真面目そうな子だった。半純血の出自で、トム・リドルの非人間的な美しさに当てられたが、内気なので遠目に見ることしかできず話しかけられないでいた。しかし、意を決して同じ船に乗り込み、こうして話しかけたというワケだ。

 

「この人、多分ハーミィよ」

「ハーミィ?」

「お兄ちゃんが言ってた。ホグワーツの森番だって、だから、大丈夫よ」

 

その言葉は自分に言い聞かせるようでもあり、こちらを気遣うようでもあった。

二人は同じタイミングで顔を見合わせると、ケラケラ笑った。こんな楽しそうな子供は、この集団の中で二人だけだった。

 

「あはは、はは、ありがと」

「へぇ、あの人ハーミィって言うんだ。教えてくれてありがと」

 

ふざけたような二人に少女はなによ、と言ってそっぽを向いてしまった。

別に馬鹿にしたわけではなかった。今の会話を本気で言ってると思われたらしいことが面白くて笑えたのだった。

 

しばらくすると、視界が突然一段暗くなった。

トムが不審に思って上を見ると、何か大きなものが見えた。

それは巨大な建物だった。学校というか要塞と言った方がいい。今までなぜ見えなかったのか不思議なほど存在感のあるその建物がホグワーツである。

そもそもなぜ一年生が船に乗せられるのかといえば、ホグワーツは強力な目隠しの魔法で守られており、マグルは勿論、一度城に入ったことのある人間以外は魔法使いですら城に辿り着くことはできない。しかし唯一例外的なルートが、この小舟なのである。だから一年生たちはわざわざ迂回して湖からボートで城に入るのだ。

 

ウィルは言葉を失って呆然と城を見ていた。トムも同じだった。

ギギギ、と嫌な音を立てて船が停泊した。

 

「うわ滑るな、ここ」

「気をつけてね」

 

滅多に人が通らない場所なので岸は少し滑った。

湖に落ちないように慎重に船から降りる。

ハーミィはいつの間にか船から降りていて、石の乾いたところに座って全員が降りるまでパイプを吸っていた。ヘビースモーカーなのだ。

全員が降り立つと、ハーミィは「おいで…」と言って歩き出す。一年たちは彼の後ろに続いて、長い階段を上った。

 

階段を上り切ると、大きな門が開いていた。もうその時代にはそうそう見ることはない大きさの石造りの大門であり、それはこの城の権威の象徴だった。今でも作ろうと思えば、作れるだろうが、必要がないから誰も作らない。もっと利便性が高い小さいものが作れるからだ。だからこそ、感動があった。

中に入ると、そこは天井の高い大広間で、学内中の生徒と教師が集められていた。その数、総勢1000人はいた。その全員が黒いローブを纏っていて、当たり前ながら全員が魔法使いである。

あまりに壮観な光景だった。

トムは人の多さとは別の圧迫感を感じていた。肌に染みるようなそれは、魔力とかそういうものだ。目には見えないが、魔法の才能があるものには感じられる、確かにそこにあるエネルギーそのものだった。

この千人規模の集団の中で、魔法の素質が一等強い彼は、この空間の特異性と、安堵感を感じたのだった。

初めて来たはずの場所なのに、実家のような感覚がした。

それが、不思議だった。

 

『Welcome back, We have really missed you…』

「え?」

 

トムは妙な声を聞いた。

バッと後ろを振り返る。しかし、誰もいない。

だが、確かに聞こえた。

 

「…ウィル、君、僕におかえりなさいって言った?」

「言ってないよ。どうした」

「いや、聞こえてないならいいんだ…」

 

トムは動揺を抑えた。きっと自分にしか聞こえない声だった。バクバクなる心臓を胸の上からグッと抑える。

その様子を見たウィルは少し考えて口を開いた。

 

「トム、上見て。上」

「は?…わっ!」

 

トムが言われた通り上を見た。あっ、と驚いた。

大広間の天井には無数の蝋燭が浮かんでいた。しかし、そのさらに上、本来天井があるその場所には夜空があった。満天の星がキラキラと輝いていて、それはその時の空模様を映しているのだった。今日は晴れているので満点の星空だ。

 

「諸君。注目だ」

 

突然、前から声量のある男の声がした。

全員がパッとその方を見ると、壇上に背の高い若い男が立っていた。男はジロリ、と神経質そうな目であたりを一瞥した。

 

「よく来た。ようこそホグワーツへ。先ずは入学おめでとう、と言わせてもらおう。そこ!黙れ、私が話している」

 

一瞬で場がシン、と静まり返った。

しかし高学年はニヤニヤしながら頬杖をついて教師を見ている。恐らくこの男はいつもこの調子なのだ。ここにいるからには超一流に変わらないのだろうが。

 

「よし。それでいい。そのままお利口にしていろ。新入生!これから組み分けを行う。呼ばれたものは前へ!」

 

そう言って彼は一人一人、名前をゆっくりと読み上げた。

 

グリフィンドール。

ハッフルパフ。

レイブンクロー。

スリザリン。

 

上記四つの寮のいずれかにホグワーツに入学した生徒はまず初めに組み分けされる。

ウィルは誰がどの寮に入るかではなく、それぞれの寮の傾向を見ていた。というかそれ以外することがなかった。魔法界で育っていないこの男は、各寮の歴史も創設者も知らない。

フォウリー、グリーングラス、マクミラン、などの魔法族なら誰もが知っている名家の名前を言われても、そもそも知らないからピンと来ないのだ。

歓迎の仕方は、レイブンクローが一番静かで、グリフィンドールが一番新入生を歓迎する。そしてグリフィンドールは誰が来ても同じ熱量で歓迎するが、スリザリンは熱量になんとなく温度差がある。ハッフルパフは誰がどの寮に選ばれてもほぼ全員が拍手をする。

 

「ウィリアム・アイリーン・ウォーカー」

 

ついに自分の名前が呼ばれたので、ウィルは集団の中から顔を出す。そのまま一歩一歩壇上を上がっていく。

椅子に座ると頭に帽子が乗せられた。

 

『こりゃまた気難しい子だね』

 

脳内に声が響いた。

 

『そんなことないと思うけど』

 

と、頭の中で思うとしゃがれた笑い声が響いた。

 

『いやいや、困った子だな。どこに入れたもんか困るよ』

『どこでもいいよ。適性があれば』

『それが難しいんだよ。君はどこでもよくやるだろう』

『なぜ?』

『芯がないから』

 

帽子は手心なくそう言った。ここで普通の子供は多少なりとも不愉快に思うものだがウィルはそうではなかった。むしろ帽子を本気で信頼した。

その通りだった。譲れないものなどないし、信念もない。ウィルは頑固さとかプライドとかそう言うものとは無縁な子供で、もしかしたら信条くらいは死ぬ10年前には持てるのかもしれないが、少なくとも10代のうちは平々凡々と生きるのだろうなと思っていた。だが、ひとつだけ確信していることはあった。

 

『俺は天才にはなれない。でもそう言うものになってみたい』

『んー…………そうかい。君はそう思うのか、そうか。じゃあ、君はどこがいい?』

『どうか、一番予想外なことが起こるところに』

 

帽子は不自然なくらい無言になったあと、ウィルの意思を聞いてきた。

ウィルの答えは、決まっていた。やりたいことはなくとも自分の性質はよく分かっている。協調性がなくて、野心もない。自由に色々できない環境が一番メンタルにくる。しかも自分が上に立ちたくはないが、あれこれ指図もされたくない。

そういうことができる立場でいるためには、何よりも実力が必要だということを彼はよく分かっていた。早い話が天才になりたかった。

そういう人間には、普通の環境ではなれない。

だからこそ、一番不都合な場に身を置こうと思った。ウィルが欲しいのは、最も努力しなければやっていけないようなそういう場所だ。

凡人が、天才になるためには自分の想定を超える環境に身を置かなければならない。一番過酷で慣れ親しみがないからこそ、成長できるところに行こうと思った。

 

『そうか。じゃあ』

 

帽子はウィルの答えを聞き、彼をどの寮に入れるか決めた。

 

「スリザリン!!!」

 

組み分け帽子は声高らかに宣言した。ワッと拍手が起こる。

帽子が教師の手によって取り上げられる刹那の間に一人と帽子は会話をした。

 

『それじゃあね、小さな君。幸福であることを祈っているよ』

『ありがとう』

『でも、別に君そんなに苦労しないと思うよ』

『は?』

 

歓声の声と拍手で、ウィルの意識は一瞬で現実に戻った。

 

「は?」

 

教師に促され、ウィルは緑の蛇の旗下に歩き出したがどうにも釈然としなかった。

途中まで良かったんだが、なんだか最後に釈然としないことを言われた。ウィルは帽子の方を見たが、帽子は「頑張って」と、無責任に言うだけだった。

 

ゆっくりと石の階段を降りたウィルは、一年の座るテーブルの一番奥に座った。座るなりウィルは明るい髪色の二年生に話しかけられた。

 

「君、随分悩まれたんだよ!あやうくハット・ストールになるところだった」

「ハット・ストール?」

「5分以上組分け帽子が悩むこと!ところで君はどこの家の子?」

「ウォーカー」

「ああ、マグル生まれか…でも大丈夫だよ!スリザリンならみんな大歓迎だから!」

 

スリザリン二年生の少年はなんの邪気もなく、そう言った。

なるほど、とウィルは帽子の意図したことを理解した。スリザリンという寮は相当、貴族意識が高いらしい。きっと仲間意識も強く、それ以外には排他的だろう。

これは確かに苦労しそうだ、とウィルは帽子の判断を認めて、あとは適当に話しながら目当ての人物が名を呼ばれるのを待った。

 

「トム・マールヴォロ・リドル」

 

やっと知っている名前が呼ばれた。ウィルは顔を上げて壇上に注目する。

トムは、ゆっくりと壇上を上がっていく。その足取りにはほんのわずかな惑いすらない。

トム・リドルへ帽子はほとんど間を置かず宣言した。

 

「スリザリン!!!」

 

 

 




続きました。
60000文字くらいはストックがかるので一旦、キリいいとこまで出そうと思います。一話目だけだとお話ししてるだけでなんもハリポタ感ないので。
あとハーミィは私のオリキャラです。ハグリッドの前はこういう、どヘビースモーカー不気味すぎおじさんが森番だと非常に助かります。私が。
読んでくれてありがとうございました。
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