たかが七年   作:モラハラ

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真逆の人間はほぼ宇宙人と同じようなもん

 

 

 

ウィルは天井を見上げながら何か考え込んでいた。寮のソファに座った彼はボーッとその顔に魚影が映る。

 

「なんもないなぁ…」

 

ポツ、とウィルはつぶやいた。

 

「何が?」

 

そのつぶやきにトムは課題をやっていた手を止めて反応した。

 

「報復とか」

「ああ」

 

トムは納得したような声を上げた。

例の一件から二週間が経過していた。

ウィルは流石に報復というか、少なくとも何かはあるだろうなと思っていた。それくらいのことをした自覚はある。

しかし翌日になっても一週間経ってもさらに一週間たっても。一向になにも起こらなかった。実に平穏だった。

あら?と、ウィルは思った。これはどういうことだろう。

あれで懲りたのかな?と思うが、それ以外にも、これまで実はされていた小さいちょっかいも一緒に消えた。

例えば。

 

『ハロー。元気?』

『まあまあ』

『君ってどこの子?って、言わなくてもいいよ。みなしご。』

『…』

『アハハハ』

 

というような。

本当にしょうもないジョークを飛ばされることが無くなったのだ。

 

「不思議だなぁ」

「そうならないようにしている」

「なにかしたの?」

「なるべく君と一緒にいるようにしてる」

「それが?」

 

確かにトムは例の一件以来、ウィルと一緒にいることが増えた。授業も近くで受けるし、休み時間も一緒にいる。これも不思議なことだったが、深い追求はしなかった。

 

「ヤバいやつとヤバいやつが一緒にいたらそりゃ誰も声かけないだろ」

 

と言うことだ。

報復が来ない理由は、とてもシンプルなものだった。

 

トム・リドル。

この少年は、魔法族の生まれではないが飛び抜けた才能がある。彼はアルバス・ダンブルドアを除けばここ100年ないほど優秀な男であり、誰が見ても秀才で勤勉。純血を重んじる生徒や教師すら何も言えなくなるほど、彼は優秀であった。

そして、ウィリアム・アイリーン・ウォーカー。

彼も魔法族の生まれではない。しかし彼もまた、滅多に見ないほど優秀である。

トムと違い、彼はオールラウンダーではなく特定の分野でだけ才能を発揮するタイプであるが、教師から見れば彼も同様に金の卵だった。

この二人の共通点は、どちらも家柄が不明、あるいは名家ではないのにも関わらず、途轍もなく優秀ということである。つまりどこにも与していないが、非常に優秀な人間だったのだ。

そう言った場合、大抵最初の立ち位置というのは孤立か、排他である。特に学校という閉鎖的な空間では後者が選ばれやすい。魔法界では未だ貴族階級が根強いことも一因である。

そんな二人が行動を共にし始めた。実際はトムの印象操作なのだが、この効果は単純ながら絶大で、その事実は一部の生徒たちには、とびきりの異端児同士が手を組んだように写った。

よく分からないやつとよく分からないやつが組んだら普通に怖い。

あとは単純に一人より二人の方がちょっかいはかけにくいので周囲は二人にちょっかいかけるのを止めたのだった

と、このように嫌がらせが止んだのにはちゃんとした理由があるのだが、そんなことウィルは知りっこないので、トムが一緒にいる事に懐かれたのかな?としか思わない。彼はそれなりに人の心を理解していたが、集団心理となると爪が甘かった。

 

「あー…」

 

ウィルはやっとトムの意図を理解した。

確かに。

そりゃ報復もしにくいだろう。トムは最近、大抵一緒にいるが、そうかあれは故意的だったのか。

やっと気づいたらしい男に、トムは微妙な顔をした。

 

「気づいてなかった?」

「いや、君がそばにいたのは気づいてたよ。流石に」

「あっ、認識してるのそこだけか」

「え?」

「周り見てみな」

 

トムは顎で自分の背後を指した。

 

「なに?何か変?」

 

ウィルはキョトン、として何も分からなかった。普通の談話室に見える。

トムは、ハァーと溜息を吐いた。

 

「…誰も僕らの周りにいないだろ」

 

言われてウィルはあっ、とそのことに気づいた。

二人の周りは空白地帯で、人は多いが絶対に席を一つ分開ける。それは二人が周囲に避けられていると言うことを示していた。

ウィルはそれに全然気づいていなかったが、トムにとってはこの二週間ほど頭の痛い問題だった。

 

「言っておくが、君のせいだからな」

「?なんで」

「君が彼らに容赦のないことをしたから」

「あー…?」

「僕らほんとに目をつけられちゃったんだよ。見ろ。誰も近寄ってこない」

「…」

 

トムとウィルが一緒にいることで、周囲は確かに二人に簡単に手を出せなくなった。

しかしその弊害もあった。

 

「…ごめんね?」

「…いや。いい。元はと言えば僕が悪い。ごめんね」

「別に君は悪くないだろ」

「そうとも言えないさ。クソ、下手打った…話しかけられた時点で気づくべきだったんだ…」

 

しかしこのままではウィルはともかく、トムは本当に困る。彼は人と関わってこそ本量を発揮できる男なので。

だが、トムはこれをウィルの責任とは思っていなかった。

元はと言えば自分が悪いし、彼に責任を求めるのは違うだろ、と大人のような考えができるのである。

 

「…君には迷惑をかけるね」

「だから気にするなって」

「君、元々僕を避けてるだろ」

「そうだね」

 

ウィルは否定しなかった。

彼は君と距離を置きたいです、とも言わないが聞かれたら別に否定しない。隠したいことではないからだ。

むしろ、この誤魔化しのない肯定がメンタルに来たのはトムの方で静かに傷ついていた。そんな気はしていたし、ほとんど確信はしていたがそれでも本人に言われたらもう気のせいにはできない。

キュッとトムの眉が中心に寄った。言いにくいことを言う人間の顔だった。

 

「無理だからもう。少なくとも当分は。一人になったらリンチにされる可能性があるんだよ、僕も君も。一人になるな。人のいるところにいろ」

「ああ」

「君は僕に関心がない、と列車で言ったね」

「言ったね」

「なら構わないだろう。どっちでも」

 

トムはそう矢継ぎ早に言った。まだ何も言っていないのに。

 

「あのさァ…」

「なに」

「別、俺君のこと嫌いなわけじゃないからね」

「え!」

 

トムはビックリした顔でウィルの方を見た。やっと、二人の目がマトモに合った。

 

「え?」

「いや一発で理解しろよ、天才。嫌ってないぜ、別に」

「…嫌いじゃないのに…僕を、避ける…?なぜだ…どうしたらそういう発想になるんだ…やっぱり人じゃないのか…?」

「はぁ…」

「だって僕と付き合って損なことなんて一つもないだろ、利益があるのに…損はさせないのに…めちゃくちゃ優秀なのに…?えっ、僕って君に使えないやつだと思われてる?」

「思ってないよ〜」

「だとしたら避けるメリットってなくないかい?」

「一緒にいるメリットもなかったんだよ」

 

トムは何を言っているんだコイツ、と言う顔でウィルを見た。

しかしよくよく考えれば確かにその通りで、トムは人といる事に無限のメリットを感じるし、メリットを自分が提供できる人間だ。例えばこの頃なら、授業で分からないところを話したり、友になって相談に乗ったり等々…親身になる事で、人に安心をあたえることができる。

だから彼の周りには人が集まるのだ。彼は楽しい、と安心、この二つを与えてくれる男だから。

そもそも人は安心を求める生き物なので、安心して寄りかかれるトムはとても魅力的に感じるのだ。

ところがウィルの場合。

彼は人と付き合うことに全くメリットを感じない。面倒は増えるし、その分意識を割かなきゃいけないし、話は合わないし。周囲にいる最低限の必要な人間だけでもう人付き合いは十分なのだ。

そのため、これらのトムと付き合うにあたるメリットが何も発生しない。そもそも人がいなくても別に不安になったりはしないし、その割にコミュニケーションは問題ないから特に支障はないし、勉強も自分でこなせる。

ウィルはこのことをめんどくさいな…と思いながらトムに全部説明した。

 

「だから、俺は君に魅力を感じないわけだ。納得した?」

「な、なるほど…」

「困る事が何もないしね。むしろ、厄介そうだなと正直思ったから

「え?でもそもそも味方っていればいるだけいいだろ?」

「は?いたら好きに動けないだろ」

「…」

「…」

 

二人は沈黙した。

お互いを本気で何言ってるんだ、という顔で見つめる。

 

「なるほどな…」

「そうか、うん…なるほど」

 

なんか根本的なところで合わないな、と思っていたら。

やっとその理由に、二人は到達した。

あまりにも他人への認識が違うのである。

トムは他人をできるなら味方にしたいし、それはいれば居るだけうれしい。

ウィルは他人がいれば居るだけ鬱陶しいなと感じて、心の底から一人でいいと思っている。

話は合っても、これは噛み合わないはずだ。これほど真逆だとは。

 

出会ってから三ヶ月と二週間。

二人はようやく、コイツは自分とは全く別の生き物だと気がついたのである。

 

「ッ、スー」

「…………」

 

この微妙な息遣いと、沈黙が二人の本心である。トムの愛想笑いと、ウィルの冷静さが出てこないほど、二人は完全にお互いに引いている。

この瞬間、二人はコイツとは分かり合えねぇ…と確信したし、お互いのことが少し分かって仲良くなれるかも、と思っていた感情に、一瞬で白線が引かれた。

それでも一緒にやっていけなければ、この先不都合だということが分かっているので完全に縁は切れない。少なくとも在学中は。

 

「まあ、なんだ…これからよろしく…」

「こちらこそ…」

 

二人は不快感を飲み込んで言った。その後は一言も話さなかった。お互いにお互いが人の形をしたエイリアンとかに見えていたので。

だが。悪いことではなかった。

むしろ11歳にしてこの二人は、人生において最も大切な、自分の価値観を他人が理解しているとも持っているとも限らない、ということに気づいたのだから。

 

 

 

【一年生編前編・終了】

 

 

 




短いけどキリいいからここまで。
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