End of war   作:貴神蒼雅

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ランディール・ヴェントル

「まもなく到着します」

 

宇宙艇の操舵主の横に座る情報通信員が、展望型の広いコックピット全体に響くほど大きな声を上げると同時、艇(ふね)は超光速航行路を抜けて、青い惑星の前に飛び出た。

 

「……思ったより小さいな」

 

俺の斜め後ろで腕を組みながら、その惑星を見てジャックが呟く。

 

「ヴェレティスが大き過ぎるだけで、これでも地球は平均的な方だ。キャプテン・ベリウス」

 

呟きに言葉を返しながら、俺は作戦総司令官としての指示を出すため、作戦指揮官を呼び寄せる。

 

「はい騎卿(リッター)ヴェントル」

 

「透過ステルスの用意だ。大気圏突入直前でステルスモードに移行しろ。それ以外は降艇(こうせん)の準備を急ぐよう伝えてくれ」

 

「了解しました(イエス・サー)」

 

ベリウスが俺の言ったことをコックピットにいる全員に聞こえるような声で復唱している間、

 

「じゃ、俺達も準備を始めよう」

 

俺はマントを翻し、コックピットを出る。ジャックはその後ろに続いた。

 

「そういや、先に着いてたダートハイドの部隊はどうしたんだ?」

 

無機質な宇宙艇の長い廊下を歩きながら、ふとジャックがそんなことを言った。

 

「……騎卿(リッター)ダートハイドの部隊はもう全滅寸前らしい」

 

「え、マジで?」

 

「今回は援助というより加勢になりそうだな。闇法師もまだ10人前後残って暴れ回っているなんて報告があった」

 

「半数も減らせてねぇのかよダートハイド……」

 

「まぁ、あの人ももう若くないからな」

 

しばらく歩いたところで『聖法騎士専用室』に辿り着いた。その扉を開け、中に入る。

 

中には、何か特殊な装置が付いたマントを、いつもの騎士装束の上から羽織るヘレナと、その横で椅子に座りながら、艇(ふね)の先端に付けられたカメラに映った映像が見られるモニターをじっと見つめるティアラがいた。

 

「そろそろ着くぞ」

 

俺が一言掛けると、ティアラが伸びをするその傍ら、そのモニターを一瞥して、

 

「そうみたいね」

 

と、ヘレナが素っ気なく返事をする。

 

「二人は、その格好で行くつもり?」

 

「まぁ……」

 

俺が曖昧に返事をすると、

 

「つーか、お前のそのマントは何?」

 

それに被せるようにして、後ろからジャックがヘレナに訊(たず)ねた。

 

「何かすげぇ色々付いてるけど」

 

「重力操作用のマントよ」

 

「……え、いやでも、重力はヴェレティスとあんまり変わらないんじゃなかったか?」

 

「ええ。でも今回はそんな悠長にやっていられないみたいだし、さっさと済ますためには、身体は軽い方がいいでしょう?」

 

「……それまだある?」

 

「これは私の私物よ」

 

ジャックとヘレナの会話を傍らで聞きながら、俺は自分の左腕に通信機をはめる。

必要最低限の装備が揃っていることを確認し、他に何か役に立ちそうなものは、と探していたら、

 

「あの、ランディール……」

 

椅子から立って、か細い声で引き留めるのは、ティアラ。

 

「ん?」

 

「私も一緒に降りた方がいい、のかな……?」

 

「あぁ……」

 

そう言えばヴェレティスを出発した時にそんなことを問われ、答えを濁していたことをすっかり忘れていた。

俺やジャック、ヘレナと同じ聖真師の一員ではあるが、それとは違って非戦闘要員のティアラは、俺達と全く同じ動きはしない。

今回も例によって救護要員ではあるが、どうするかは正直まだ考えついていなかった。

 

「……えーとじゃあ、とりあえず降りて野営ベースで待機……って感じでいいか?」

 

これと言って策があるわけでもない、その場で咄嗟(とっさ)に考えた案に、

 

「うん、わかった」

 

しかしティアラは快(こころよ)く頷き、早速準備を始めた。

 

「……ジャック」

 

未だヘレナと話し込むジャックに、たった今自分の左腕にはめた通信機と同じものを掴み、投げる。

 

「おっ、と」

 

「お前もそろそろ準備しとけ」

 

「準備って言われてもなぁ」

 

掴み取った通信機を腕にはめながら、何か装備出来そうなものを求めて辺りを見回すジャックだが、

 

「特にねぇんだよなぁ」

 

最低限しか装備していない俺が言うのもなんだが、いつもことながらどうもコイツは完璧に装備しているとは思えない。

そこで、確かめてみる。

 

「……法剣(イディア)は?」

 

「ある」

 

「通信機」

 

「今付けた」

 

「応急止血剤」

 

「この通りっ」

 

「透過装置」

 

「……………………」

 

応急止血剤をこちらに見せつけながら、動きを止めるジャック。

出発前散々言ったにも関わらず、案の定これだった。

 

「……現地人に発見されないように装備しとけとあれだけ言っただろ」

 

「……………………どこにあるんですかね」

 

「高度機器保管室だ。所属証明なきゃ貸し出してもらえないから、騎士証持って行けよ」

 

場所すら知らないとは、もう溜め息が出そうだった。

ジャックは、騎士証が要ると知らされて胸ポケットから尻ポケットまで手を突っ込んで探す。

 

やがて出てきたカード状のものは、しかし騎士証ではなく、

 

「……………………これじゃ、だめかな?」

 

真面目な顔付きのジャックがプリントされ、聖法科2年B組ジャック・スティーリブと書かれた生徒証だった。

はにかんだ笑みがイラっとくる。

 

「……学生を証明してどうすんだよ」

 

「ですよねー」

 

今度こそ本当に溜め息が出た。

 

「法剣(イディア)を証明代わりに交渉してみろ。一応、騎士の証明にはなるだろ」

 

俺の話など最後まで聞かず、一目散に部屋を出るジャック。

 

「あの緊張感の無さは、どうしたら身に付くのかしらね」

 

俺とジャックの一連のやり取りを見ていたらしく、ヘレナが皮肉を呟いた。

 

「知ったところで、ああなるのは御免だけどな」

 

と、その時。艇(せん)内放送を知らせる音が鳴った。

 

『艇(せん)内全者に連絡する。これより惑星の大気圏に突入する。突入時の揺れに備えよ。繰り返す。これより本艇(せん)は惑星の大気圏に突入する。突入時のーーーー』

 

「因(ちな)みに、地球に降り立ったことは?」

 

壁に取り付けられた滑り出し式の椅子に腰掛けて、誰となく訊ねるヘレナ。

まぁたぶん、俺になのだろうけれど。

 

「……こんな銀河の端っこまで来たのが初めてだ。ヘレナは?」

 

「私もよ。こんな長旅は、最初で最後にしたいわね」

 

俺もティアラも椅子に座ったところで、まるでこのタイミングを狙ったかのようにして艇(ふね)は揺れだし、轟炎に包まれ、大気圏へと突入した。

 


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