長瀬との初対面を終えて、家に招き入れる。
「ほー、一人暮らしには持て余す広さでござるな」
「そうだよね、さっき見て回ったばかりなんだけど、正直僕もこの広さは持て余すと思う」
「深い意味はないでござるが、護衛上の観点からすると連絡先は交換しておいた方が良いやもしれぬ」
「あー、もしものときに連絡とれるといいかもしれませんね」
「うむうむ、それに拙者こう見えてすばしっこいのでな、連絡と位置情報さえあれば麻帆良学園内ならどこでも駆け付けることができるでござるよ」
そうして、互いに携帯電話を開き、連絡先を交換する。
「そういえば、長瀬ってその立ちふるまいや口ぶりからすると、もしかして忍者だったりして?…冗談だよ」
いたずらっぽく言う。すると、ギクッと図星を突かれたような素振りを見せると、長瀬は慌てて否定する。
「う、うむ、ゴホン!……それはどうでござろう?」
「あれ、本当に…?」
「とにかく、秘密でござる」
長瀬はそう言いながら、人差し指を立てて彼女自身の唇に当てる。
もしかしたら、本当に忍者なのかもしれない。
いや、仮に忍者だとして、訓練は受けているはずだからこんなことで取り乱すわけがない……ないな!
そういえば、長瀬は麻帆良学園のことについて詳しそうな口ぶりだった。
もし、そうなら色々と知りたいことがあるから聞いてみようかな。
「……そういえば、長瀬って、麻帆良学園について詳しい?」
「む、まぁそこらの生徒よりは詳しいと思うでござるな」
「それなら、色々と知りたいことがあるんだ。教えてくれる?」
「もちろん。拙者に教えられることなら、何でも教えるでござる」
「よかった、じゃあ……機械に詳しい人を知ってる?」
長瀬は、少し考えるそぶりを見せる。
「それなら、何人か知ってるでござるよ。今すぐ行くでござるか?」
「長瀬のこの後の予定がなければ、ぜひお願いしたいな」
「うむ、では参ろうか。今の時間だと、彼女は研究室にいるはずでござる」
そう言って、長瀬は僕を連れて玄関を出る。今の時刻は昼を回った頃だろう。
ドアの鍵を施錠して、長瀬の方を向く。
「戸締まりはしっかりできておるな。では、ついてくるでござる」
そして、他愛もない話をしながら、長瀬の横を歩く。
「機械に詳しい子って、長瀬の友達?」
「うむ、彼女はクラスメイトでな。学園でも屈指の頭脳を持つといわれているでござる。中等部にして大学のさーくるとやらに参加しておるな」
「すごいな……まさに天才ってやつか」
「うむ、拙者も少しでいいからその頭脳をわけてほしいと、たまに思うでござるよ」
ほどなくして、僕たちは学園の中心部にそびえ立つ世界樹、その近くに位置する麻帆良大学の中にある工学部へと着く。
長瀬が彼女の名前を呼ぶ。
「おーい、超ー!客人連れてきたでござるよ」
すると、広くも雑多とした部室の奥から長瀬と同じ制服の上に白衣を羽織った、チャイナ風お団子ヘアが特徴的な少女が姿を表す。
その少女ははつらつとした声で話しかける。
「おお、楓ネ!今日は何の用アルか?それにその人は……」
「紹介しよう。こちらは在間殿、拙者が護衛を務める男子生徒でござる」
チャイナ風お団子ヘアの少女は何やら意味ありげな視線で僕をくまなく見る。
「ほう、男子生徒アルか。君が話題の男子ネ!うわー、思ったより可愛いアル!」
少女は、文字通り目を輝かせながら僕に近づいてきた。
「在間クンって言うネ?ワタシは超鈴音、見ての通り天才美少女ネ!」
超鈴音さんはウィンクしながらそう言った。
こ、この人自分で美少女とかいうんだ……たしかに、すごく可愛いけど。
「よ、よろしくお願いします……あの、超さんにお聞きしたいことがあって来ました」
「この天才美少女に答えられない問題はないネ。どんな質問でも大歓迎ネ!」
思っていたよりもずっと親しみやすく、ノリのいい子だった。
「ちょっと相談があって……僕、機械に詳しい人を探してたんです」
「フム、それはどういう意味アルか?メカの修理?製作?それともハッキング系?」
「えっと、僕、ライブがしたいんです。リアルタイムで撮影している映像をインターネットを通して人々に届けたいんです」
そう言うと、超さんはさきほどまでのフレンドリーな雰囲気とは打って変わって、真面目な顔をして考えるそぶりを見せる。
それもつかの間、次の瞬間には元のフレンドリーな雰囲気を纏わせて笑顔で言った。
「在間クン、君は運が良いネ!そういうことなら、今度の学園祭に向けてテストしていたものがあるからそれを貸し出すアル」
「い、いいんですか?」
「もちろん、対価は――ワタシの好奇心を満たすことネ!」
そう言って、超鈴音さんは目を細めてニヤリと笑う。その笑顔には、ただの興味本位以上のものが滲んでいた。
彼女の声色は冗談めいているのに、放たれる言葉のひとつひとつに、測り知れない知性の鋭さが混ざっている。
「好奇心……ですか?」
僕がそう聞き返すと、彼女は白衣のポケットからタブレット端末のようなものを取り出して、操作しながら言った。
2003年にタブレットってあるんだ……。
「在間クン、君なんかちょっとおかしいネ」
「え?」
不意に放たれた言葉に、ドキッとする。
「フツーの生徒なら、そういったことを考える時、生放送を思い浮かべるアル」
ギクリとした。助けを求めるように、長瀬の方を見る。
僕に見つめられた長瀬は、少し照れながら頭を傾げる。
ダメだ……。どうやって乗り切ろうかと考えていると、超さんは続けて言った。
「それについては、今度聞かせてもらうネ。それから、君の求める装置は現時点での一般的な科学技術じゃまだ作れないってことくらい、ワタシにはわかるアル」
「ま、ワタシはもう作っているけどネ。とってくるアル」
そう言って、彼女は部室の奥へと向かった。
そして、ガサゴソという音が止まったかと思えば、台車に何かを積んで戻ってきた。
「持ってきたヨ」
「えっ、これはパソコン……?すごくゴツいですね」
「見た目はネ。でも、中身はワタシの技術の結晶アルよ。CPUは独自設計、OSも自作ネ。2003年のどのパソコンと比べても圧倒的性能アル」
そう言って、超さんはパソコンの上にちょこんと乗せていた小さな球形のカメラを手に取った。
アンテナのようなものがついていて、目のようなレンズが光を反射する。
「そしてコレが、ワタシの作った"ウェブカメラ風マルチセンサーデバイス"ネ。自動で顔を追ってくれるし、ピンマイク内蔵、夜間でもバッチリ撮影できるヨ」
「スゴイッスネ」
あまりの情報量と技術に、ついカタコトで返事する。
「なんてったって、ワタシは天才だからネ!」
超さんはウィンクしながら応える。
「ライブといえば、通信速度は大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫ネ。ここ麻帆良のネットワーク網はライブ程度なら問題ないアル。それにライブ配信するなら、工事もしないといけないから、今度ネット環境も整えてあげるネ。詳しいアンドロイドを一人連れて行くアル」
「えっ、アンドロイド?」
えぐい技術出てきたな。
この麻帆良学園……とんでもない人集まってないか?
「茶々丸ネ。まだ会ったことないと思うけど……見た目はメイド。中身は超高性能アンドロイドヨ。ワタシの友達が作った機械ネ」
「それは……頼もしいですね」
彼女は、からかうような視線を向けてこう言う。
「それにしても、君は面白いネ。"インターネットを通して映像をリアルタイムで届けたい"って、なかなか考えつかないアルよ」
「そ、そんなこと……」
「フフ、冗談アル。ま、面白そうだから手を貸すネ」
超さんは、パソコンの側面をぽんと叩いて言った。
「大事に使うネ?壊したら弁償してもらうアル」
「……はい、大切に使います。ありがとうございます、超さん」
「感謝は、使いこなしてから言うネ。在間クンのライブ、楽しみにしてるアルよ」
彼女の目が、未来を見通すように細められていた――。