前作プレイヤーがファンタジールを生きるだけ。 作:チョウネクタイ
記憶。
夢を見ている。遥かな遠く、ぽっかり浮かんだ欠けた月――マーズを眺めている記憶が揺蕩う意識の中にぼんやりと浮かんでは消えている。見慣れていたはずの、まん丸なお月さまが記憶から遠ざかって、代わりに欠けた月が優しく俺を照らしている気がした。
「……てください」
薄ら、何かが聞こえた気がする。
この世界に生まれ落ちて、どうしようもなく空を眺めていたときにも声を掛けられた気がする。
「…きてくださいっ」
土を掘るか。鉄を打つか。木を伐るか。料理をつくるか。布を縫うか。家を建てるか。
それとも……
魚を釣るか。動物を狩るか。剣を抜くか。精霊を呼ぶか。素材を混ぜるか。民を守るか。
それだけだった気がする。それともに続きはなくて、後頭部に鈍痛を覚えながらファンタジールの朝が来て、そうして、俺は金色に輝くチョウネクタイを――
「起きてくださいっ! リンくん!」
目が覚めた。
「……おはよう、レム。今日はずいぶんと早いね……ふわぁ」
ゆっくりと目を開けると、今となっては見慣れてしまった薄く翡翠のような白髪が視界に広がった。翡翠色の、時の色をした瞳は微かに焦りを覚えているように見える。
はて、今日は何かあっただろうか?
寝起きのあまり回転していない頭の中で考えてみるも答えは出ない。
「たたた、大変なんです! ぐーちゃんが、ぐーちゃんが!」
「ぐーちゃんがどしたの」
「ぐーちゃんが喧嘩してるんです!」
緊迫した顔から何を言い出されるのかと身構えていたら、何と彼女のペット――家族のグーちゃんと名付けられたドラゴンの子供が喧嘩しているという内容だった。思わず脱力して、起き上がった身体をバタンと再び自分で作ったデクのベッドの上に放り出す。
「珍しいけどないわけじゃないでしょうに。後でドラゴナッツでもあげてご機嫌取りかな。黄金リンゴでパイを作ってもいいな~」
「そ、それがですね! 喧嘩している相手がピンクのつぼみのようなドラゴンの子供なんですっ! 見たことないドラゴンなんですよ! きっとこの辺りでは生息してない生き物で」
――ピンクのつぼみのような、ドラゴンの子供、?
「……! リンくん、大丈夫ですか? 体調が優れないようですが……」
記憶の蓋が開きかけて、身体の奥底から、魂からライフの力が溢れそうになるのを必死に抑える。走った頭痛に、思わず眼窩に手を伸ばすと、心配したレムが顔を覗き込んできた。
ハッピーだ。ハッピーが貯まって、バックパックを解放した後に俺はピンクのドラゴンを家族に迎えて、ダルスモルスの自宅で話しかけていて、宇宙りんごを不思議そうに眺めるベリ子の頭を撫でて――
そして死んだ。燃やされた。凍った。溶けた。感電した。窒息した。折れた。斬られた。もがれた。ひしゃげた。断たれた。精霊に遊ばれるように何度も何度も何度も何度も殺されて殺されて殺されて、最後に水晶の龍に何百回も――――
違う。これは俺の記憶じゃない。混ざるな。混ぜるな。アレは俺じゃない。
俺じゃないんだ。だから大丈夫。
幻肢痛のようなものに奥歯をぎりっと、砕けそうになるまで噛み締めて耐える。
「……大丈夫。いつものアレだよ。あと、そのピンクのドラゴンは多分俺の家族だ。案内してくれる?」
「家族、ですか!? この島に流れ着く前の!? 凄いです! 海を越えるくらいリンくんのことが大好きなんですね。異界英雄ものがたりでも同じような展開がありました! 早速案内しますね!」
起き上がり、服を着替えてからレムの案内に従う。
自宅を出れば爽やかな風が打ち付けて、潮の匂いが鼻をくすぐった。太陽が燦燦と恩恵を振りまき、精霊の楽し気な声が微かに耳朶を叩く。村の方から人々の生活している音が聞こえてきて、自然と口元が緩んだ。
ファンタジールの朝が来た。
採掘師が鉱石を掘り、鍛冶師が鉄を打ち、木こりが木を伐り、料理人が料理を作り、裁縫師が服を縫い、大工が家具を作り、釣り師が魚を釣り、狩人が動物を狩り、傭兵が剣を抜き、魔法使いが精霊と対話し、錬金術師がポーションを作り、王国兵士が民を守り。
この世界の人々は、皆
そして、視界の隅に野菜を収穫している農家の姿が目に入った。
意識し、ライフの力を感じようとすると、農家の人から俺の中にないライフの力が感じ取れる。女神様が与えたとされる、人が生きるための力。
知ってるようで、知っていない。似ているようで、どこか違う。ここはファンタジーライフの世界。それはわかる。感じ取れる。
もう、終わってしまっているのか。それとも、これから始まるのか。そもそも違う世界なのか。世界線が違うのかな。
それとも、ずっと出してこなかった新作の世界か。俺は遊んでいなかったからわからないだけで、ソシャゲのファンタジーライフのストーリーにこの世界があるのかもしれない。やっておけばよかった。
この島にドクロ石が降ってこなさそうなのはわかるけど。
はじまりの島級の、特に光の試練級の敵が現れたら、今の俺では対抗できない。そうなってしまえばレムも死ぬだろう。そんなことは絶対にさせない。
光に反射し、俺の指に光った、星のリングと太陽のリングと月のリング。手には神業グローブ。首には女神のくちづけ。懐には伝説のお守りと各種12種の極意。足元はハッピーのくつ。
SP自動回復速度上昇。
HP自動回復。
テンションゲージアップ効率上昇。
ノックバック無効。
味方蘇生時完全回復。
そせいやくを用いて復活した際、完全回復。
あらゆる経験値2倍。
特定のライフの熟練度経験値2倍×12個。
転生特典がステータスと課金アイテムだけとか、もうちょい欲張っても良かったよ、神様。
久しぶりにやるファンタジーライフ面白すぎだろ!
でも熟練度システムの廃止とか
セーブデータたくさん持てないの辛い!
でもおもろい!